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第十六話 商店出店とその裏側

 モンスターたちと協力してダンジョン内に新設した倉庫へ棚を搬入し一息をついた。

 大きめの部屋に棚を並べれただけではあるものの、十分使えるだろう。

 ダンジョンの機能のお陰で一年中一定の室温と湿度を保つことができることを含めれば普通の倉庫よりも上等なのではなかろうか。


「ふぅ、なんとか間に合ったかな」


 もうすぐ商人達がやってくる。

 それまでに準備しきっておかないと信用を失いかねないと忙しい中少しずつ作成を進めていたのだが予想外に時間がかかっていた。


 出入り口をダンジョン本体とは別にして事務所の裏手に通路を作り商店の建設予定地まで直通としているので動線は冒険者達と被らない。

 これならきっと商人たちも満足してくれるだろう。


「レオー。お客さんきよったでー」

「おぅ、すぐ行く」


 本当にギリギリだったな。

 俺はそう思いながら汗を拭うと待ち人の元へ赴くのだった。



 ダンジョンの運営を開始してから三ヶ月が経とうかという日。

 漸く商人のゼニ・ゲバーさんがダンジョンにやってきた。


 これまでもダンジョンで算出したアイテムの引き取りと様子見を兼ねて、週に一度は商隊が来てはいた。

 しかし細かい調整や準備ができておらず、店を開くまでは至っていなかった。

 尤も、ダンジョンに併設している雑貨屋で最低限の食事は提供できるので冒険者達は自分でテントを張ってそこで寝泊まりしていたわけだが。


「粗茶ですが」

「態々すみません。おや? これは……?」

「わかりますか」

「ええ、なかなかに素晴らしい。レオポルド殿はいいセンスをしておりますな」


 以前商会を訪問した際にお茶にこだわっているようだったので家の伝で良いお茶を取り寄せておいたのだ。

 緩んだ頬を見る限り、その選択は過ちではないだろう。


「それにしても、なかなかの賑わいですな」

「ええ、おかげさまで」


 事務所の窓から外を眺めるとそこには冒険者達のテントがたくさん並んでいる。

 五十組はあるだろうか?

 専門の冒険者として稼いでる連中だけで百人以上。

 今日は平日なのでこの程度だが週末になると半農、半冒険者として活動している者達が押し寄せてくる。

 ざっと三百人程度だろうか?

 週末冒険者の彼らは週に一二度ダンジョンに潜っては小遣いを稼いで帰ってくのだ。


 これまではほとんど全て持って帰られていたが、これからは商店や酒屋で落としていってもらうぞ。

 そんなことを考えながらお茶を飲み干した俺はゲバーさんに商店建設予定地を案内する。


「この区画を割り当てますのでこちらにお願い致します」

「ほぅ、なかなかいい場所ですな。ありがたく」


 事務所のすぐ横、ダンジョンの入口まで歩いて一分以内の好立地。

 一番いい場所を用意した。

 ……、まぁ事務所以外なにもないから好立地も何もないわけだが物は言いようだ。


「倉庫はあちらになります」

「ふむ、本当にダンジョンの中にあるのですね……」

「ええ。まぁダンジョンと言ってもモンスターは出ませんし入り口と通路は別に用意したので冒険者達と動線がかぶることもありませんよ」

「それは助かります。まぁ警備の手は私の方で用意しましたので。ついでに治安維持の真似事もするように指示しておきますよ」

「ありがとうございます。酒場も開くとなるとどうしても必要でしょうしね」


 倉庫に対する反応はいまいちだったがダンジョン内は温度と湿度が一定であることを伝えると目を軽く見開いて驚いてた。

 そりゃそうだよね。

 夏だろうが冬だろうが温度が変わらないと言うのは大きい。


「……、低い温度で維持させることもできるのですか?」

「……、聞いておきます」


 盲点だった。

 そうか、冷凍庫を作ることも可能じゃないか。

 そうなれば夏にアイスを食べることも……、じゅるりっ、っといかんいかん。


「さて、冒険者も増加傾向にありますので早めに営業を開始していただけると助かります」

「もちろんですよ。大工も連れてきておりますし、木材以外の建材も間もなく到着します。早ければ来月にでも営業を開始ししますよ」


 冒険者達からの不満の声が少しずつ上ってきていたところではあるしね。

 それなりに稼いでいるがそれを使う場所がなかったのだ。

 最初は儲かっているだけで幸せそうな顔をしていたのに、人間の欲望というのは限りを知らないからなぁ。


「先立って商店と酒場は仮設のテントで明日にでも営業を開始したいのですが」

「もちろん許可しますよ。冒険者達も喜ぶことでしょう」

「……、それにしても本当によろしかったのですか?」

「ええ、もちろんですよ。私達の仲間としてこれから一緒にダンジョンを盛り上げていきましょう。仲間の絆で繋がった私達の未来は明るいでしょう」

「絆ですか。私には鎖に見える気がするのは気のせいですかね?」

「はは、ご冗談を」


 苦い顔をするゲバーさんと俺は笑い合う。

 だが、俺はこの人を信用すると決めたのだ。


◆◆◆

◆◆


 ヒザヤ閣下からは御用商人の紹介を受けるという話だったのだが、話を持っていったところ商業ギルドを通してくれと言われてしまった。

 御用商人とはいえ、ギルドの一員。

 大口の取引を独り占めしてしまうと後々厄介なことになりかねないということらしい。

 結局商業ギルドを訪れた後、幾つかの商会を回って商談をすることになったのだった。


 だが、どの商人も足元をみてきたのだ。



「ボッタクル商会ではダンジョン周辺での優先権を主張させていただきたい。また、この契約は一年間変更できないものとし、やむを得ない事情で契約が不履行となる場合はミューゼル准男爵家は我々の商会に違約金として残りの契約期間に金貨十枚を乗じたものを支払っていただく。これが最低限の条件ですな」

「え……、その内容では他の商会の店をダンジョンに進出させることは……?」

「当然控えていただきます。ああ、ダンジョン側で行っている飲食物やアイテムの提供も同じですね」

「なっ!?」

「当然でしょう? 我々としても利益が出るかどうかわからない博打なのですよ? これくらいの融通は利かしてもらわないと、とてもとても……」

「そ、そんなのありえないです!!」

「そうだよ! せめて契約は一年更新で優先権無しじゃないと!」


シンディーとアルが食ってかかるが商人は鼻で笑い、手を降った。


「まぁ我々は別に進出しなくてもかまわないんですよ? どうしてもと言うのであればというだけですし」

「くっ……」



「当サイマー商会の希望としましては運営資金はミューゼル准男爵家から出していただき、利益の一割を収めさせていただくという形を取りたく」

「結構いい条件です?」

「ああ、もちろん貴殿らの出資という扱いになりますので無税ということでよろしいですよね?」

「は?」

「話にならないです!!」

「それは残念。まぁ気が変わりましたらおいでください」

「……ありがとうございました」



 本当に商人というやつは……。

 いや、自分たちが悪いのだろう。

 彼らが言っていることは辛辣ではあるものの正しいといえる。

 リスクが有るのだからそのリスクに見合うだけのリターンの提示を求めるのは当たり前だ。

 閣下からの紹介だし、どうにかなると思っていたが甘えだったな……。


「ナリキン商会のゼニ・ゲバーです。よろしくお願いしますね」

「はい……」

「おや、お元気がないですな?」


 っと、少し気が落ち込んでしまっていたか。

 気を入れ替えていこう。

 テーブルの上に置かれた紅茶を手に取り口に含む。

 なかなか良い茶葉が使われているようだ。

 ふぅ……、少し落ち着いた。


「いえ、なんでもありません。それでは商談に移りましょう」

「そうですな。当商会では優先権の主張及び契約期間一年でその間の内容の変更は認めないとし、やむを得ない理由で契約が反故となる際は残った契約日数に金貨十枚を乗じたものを支払う。また、ダンジョン側への支払いは利益の一割とさせていただきたく」

「また無茶な……」

「ふむ、まぁ無茶な条件だとは思いますがリスクのある話ですしね?」

「それにしてもひどすぎるです!」


 シンディーが激高するもゲバーさんは涼しい顔をしてこちらを見つめてくる。

 その目はこちらを見通すような目で、少し居心地が悪い。


「あー、シンディーと言ったかね? 君は少し勘違いをしているようだ」

「勘違い、です?」

「ああ、そうさ。君達と我々の立場が平等だと思ってはいないかい?」

「そ、そんなの当たり前です!」

「はは、なるほどなるほど」

「何がおかしいです!」

「いや失礼。ごほん。君達はなんとかして商店をダンジョンに設置しなければならない。しかし我々は態々リスクを犯してまで店舗を設置しなくてもいいのだよ」

「それは……」

「行商人に任せても良ければ近くの街の店舗を拡充しても良い。そんな状況でまともに交渉ができると思っているのかね?」

「くっ……」


 何も言い返せずうつむき、手を震わせるシンディーとアル。

 役者が違いすぎる、これでは勝負にならないな……。


「……、レオポルド殿。一つだけ老婆心からご忠告を」

「何でしょうか?」

「頭となる者がコソコソと他人の影に隠れるものではありませんよ」

「っ!」

「そして自らの持つ武器に貴方は気づくべきだ」

「レオ! 行くよ!」

「です!」

「ふぅ、他の商会でも似たようなものだと思いますがね。まぁ気が向いたら来てくださいな」

「結構ですっ!」


 アルに促されて退室したものの、ゲバーさんの言葉が俺の頭の中では繰り返されるのだった。



「どいつもこいつも……」

「ひどいです……」


 その日の午後、俺達はベンチで項垂れていた。

 その後幾つかの商会を周ったものの、どこも似たような反応だったのだ。

 まず優先権はどこの商会も求めてくる。

 そして契約期間も似たようなものだ。

 若干の違いはあるものの大差はない。


「これは、無理かな……」

「最初に行った大きい商会に頼むのが一番マシです……?」


 そうなると一番大きい商会に頼むのがベターな選択なのだろうが……。

 しかし商会を回る中で一度試したいことが俺にはできたのだった。


「それかもういっそ自分達で商店を設置するか?」

「その方がいい気がしてきたです……」


 たしかにそれも一つの手なのだろうが、俺達には商品管理のノウハウも物流ルートもないからなぁ。

 高くかわされた挙句に商品をダメにしてしまう未来が見えてしまう。

 餅は餅屋、可能であるならプロに任した方がいいと思うのだ。


「いや、ゼニ・ゲバーさんともう一度話がしてみたい」

「あの嫌味ったらしい奴です?」

「あそこは中規模だし、特にこれといったものはないと思うんだけど?」


 二人は反対のようだが今回は譲れない。

 申し訳ないが押し通させてもらう。

 これでダメなら諦めるけど、せめて確認はしたいのだ。


「少し気になることがあるんだよ。それと交渉は俺に任してくれ」

「まぁいいけど、大丈夫かい?」

「どうせダメもとさ」


 そう言うと俺は立ち上がり顔を軽く叩く。

 気合を入れると俺達は再びナリキン商会へと向かった。

お読みいただきありがとうございます。

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