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第十三話 ダンジョンを案内しようⅠ

 雲一つない青空。

 道の両脇には青々とした草が生い茂っている。


 元々は獣道程度しかなかったそれは、今では馬車がすれ違うことが出来る程度の道幅を有していた。

 モンスター達の努力の成果だ。

 毎日日が暮れてから誰にも気付かれないようにこっそりと道を拡張したらしい。


 その道を今、六頭立ての馬車がゆっくりとこちらに向かって走ってくる。

 陽の光を受けて金と赤に輝くそれが近づくにつれ心拍数が高まる。



 ダンジョン前に馬車が止まり、従者が馬車の扉を開くと颯爽と閣下が地面に降り立った。

 う~ん、偉い人というのは何をしても迫力があるなぁ。

 そんなことを思いながら俺達は歓迎の言葉を口にする。


「ようこそいらっしゃいました」

「出迎え感謝します。……、ここが君が運営する予定のダンジョンですか?」

「ええ」

「もっと粗末なものを想像していましたが……。いや失礼。ふむ、これなら貴族が運営しているといっても問題ない出来でしょう」

「ありがとうございます。取り急ぎ最低限必要なものだけは揃えたつもりですので、そう言っていただけると助かります」

「家の助けなしで、自分達だけでここまで出来れば十分すぎますよ」


 閣下はニヤリと笑うと首肯した。

 事前に両親の協力は一切なかったことは伝わっていたらしい。

 まぁダンジョンに来る前に屋敷に寄ってるし、当然か。


「建物を通らないと出入りできないようになっています。万が一にでも死傷者を出したくありませんから」

「ふむ、このカウンターで復活の首飾りを借りて中に入るわけですか」


 その後復活地点やドロップアイテムの取り扱いについて説明を行ったが、どれも及第点以上はとることが出来たようで閣下からは特段指摘はなかった。


「そしてこれがレベル判定機と適正クラス診断装置です」

「レベル? そして適正クラスですか?」

「そうですね」

「それはどういったものなのですか?」

「え?」


 あ、そうか。

 普通の人にはメニューが開けないからレベルとかわからないのか。

 しまったな。

 なんて説明するか……。


「モンスターからの友誼の証としてプレゼントさせていただいたものですよ」

「竜牙殿、こちらは貴殿が?」


 竜牙さんナイスフォロー!

 流石うちのボスだぜ。


「ええ、冒険者の大まかな強さと向いているクラス、職業が分かるのですよ」

「ほう、この様なものがあるとは、初めて聞きましたね」

「非常に珍しいものですからね、あまり出回るものでもないでしょう」


 閣下が顎に手を当てて何か考えている仕草をする。

 レベル測定器も適正クラス診断装置も便利だもんな。

 客観的に個人の能力をはっきり教えてくれる存在というのは。


「そういうものですか……。参考までに我々も測定させていただいてもよろしいですか?」

「もちろんですとも。どうぞご利用ください」


 俺はにこやかに了承した。

 しかし内心冷や冷やである。

 閣下、レベルはそんなに高くないだろうし……。

 これでレベル一とか出たら恥をかかせてしまう。


「ありがとうございます。クルス、リッファー計ってみなさい」


 だがそんな心配は閣下の一言で振り払われた。

 ほっ。

 そりゃそうか。

 貴族がレベル測定して何になるって話だしな。


「ハハッ!」

「承りました!」


 護衛の騎士達が一歩前に出てくる。

 ふむ、なんか強そうだし結構レベルあるんじゃないかな。

 なんといっても伯爵家当主の護衛を任されるくらいだし。


「ではこちらのカードを受け取ってください。測定にはこの冒険者カードを使用します」


 俺は二枚のトランプくらいの大きさのカードを取り出すと二人に渡す。


「ふむふむ」

「まずはレベル測定から行いますね。冒険者カードを樽の下の方にある大きいスリットに差し込んでください」

「こうですね」

「はい、そうしたら次はこの小さい剣を樽にある小さいスリットに差し込んでいくだけです」

「それだけですか?」

「はい、やってみればすぐわかりますよ」

「わかりました」


 二人は恐る恐ると言った雰囲気で剣を樽に刺していく。


「あれ、剣が刺さらないですね。ん、青の剣なら刺さる……うわっ!?」

「クルス? どうした?」

「い、いえ、急に樽の真ん中にあった人形が飛び出してきたので驚いただけです」

「なんだ、そんなことですか。っと。私のも飛び出しましたね」


 ……、あれ~……?

 ちょっと予想外なんですけど。

 少し驚いた者の顔に出すわけにはいかないので何とか平静を装い説明を続ける。


「はい、ありがとうございました。後は飛び出した時に刺さっていた剣の数と色をそれぞれ教えてください」

「はい。私のはえーっと、黄色が二本、青色が二本ですね」

「クルスはたった四本ですか? 私は黄色一本に青色が六本も刺さりましたよ」


 少し自慢げに数を申告するリッファーさん。

 あーうん、数はそうなんだけどな。

 ちょっと説明しづらい。

 恐らく気まずい思いをするだろうし。

 ……、まぁいいか。


「クルスさんが黄色が二本、青色が二本。リッファーさんが黄色が一本と青色が六本ですね」

「はい」

「そうです」


 頷く二人に説明を続ける。


「この剣、赤色が一本レベル十、黄色がレベル五、青色がレベル一をそれぞれ表しています。クルスさんは黄色が二本、青色が二本なのでレベル十二。リッファーさんが黄色が一本に青色が六本なのでレベル十一となります。測定結果は冒険者カードに記載されるので見てみてください」

「え……」

「なんですと……」


 予想通り気まずい空気が流れる。

 さっきまでリッファーさんはクルスさんのことを小馬鹿にしていたが、実はクルスさんの方がレベルは上でしたとか。

 俺だったら死にたくなるな。

 しかし所詮は他人事、気にせず進めよう。


「先ほどクルスさんが赤の剣を刺そうとして刺さらなかったのは自分のレベルを超えて刺そうとしたからです」

「なるほど、分かりやすいですね」

「……」


 まぁそんなへこむなよリッファーさんや。

 気持ちはわからんでもないがね。


「それでは次に適正クラス診断ですね。今度はこちらのワニの人形の下にある箱のスリットに冒険者カードを差し込んでからこのペンチで人形の歯を抜いていってください。人形は全部で四つあるのでそのつもりで」

「……、なんか薄気味悪いですね」

「すみません、仕様なもので」

「まぁしかたないですか……。こうですね」


 ブチッブチッとリッファーさんが人形から歯を抜いていく。


「うわ!?」


 リッファーさんの叫び声と同時に人形の口が閉じて彼の手にかみついた。


「な、なにこれ……」

「仕様ですから」

「そ、そうですか……。それでこれで何が分かるんですか?」

「はい、今歯を抜いてもらった人形はファイター適正を見るための人形です」

「ファイター適正か。近接戦の適正ってことでいいんですかね?」

「そうなりますね。六つ目の歯で口が閉じたのでリッファーさんのファイター適正はAとなります」

「それはどれくらいのものなんです?」

「そうですね、大体百人に一人程度の才能でしょうか」

「ふむぅ、まぁそれなりに良いってことでしょうか」


 リッファーさんは首肯しながら次の人形を手に取る。


「これは何の適性を見るんですか?」

「ペンギンの人形はアーチャーの適正です。遠距離武器ですね。ネズミの人形がシーフ、トカゲの人形がウィザードにそれぞれ対応しています」

「……、ペンギンって歯ありましたっけ?」

「仕様ですから」

「そうですか……」


 首をかしげながらもペンチで人形から歯を抜いていくリッファーさんの姿は少しシュールだった。


「ふむ、つまり私の適正はファイターA、アーチャーC、シーフD、ウィザードCとなるわけですね」

「はい。騎士としては理想的な適正かと」


 上機嫌のリッファーさんと対照的に少し落ち込んでいるのはクルスさんだ。


「私はファイターB、アーチャーB、シーフB、ウィザードDでした……」


 いや、Bが三つもあるってのは結構すごいっぽいんだけど。

 まぁいいや。


「あくまで冒険者としての適正がそうであるというだけなのであまり気にしない方が良いかと」

「まぁ私は騎士ですしね」

「そういうことです。それにこの四つはあくまで基本となるクラスなのでそれ以外に関しては各自で判断するしかありませんし」


 同じファイターでもアタッカーとタンクがあるわけだが、この人形はそこまで判別してくれないんだよね。

 あくまで前衛、後衛、斥候、魔法の適正がそれぞれあるかどうか見てるだけだし。

 大体ステータス見ればわかるけど。

 あ、メニューが使えない普通の人にはわからないか。


 ちなみに俺の適正はファイターE、アーチャーE、シーフD、ウィザードEXだったりする、そしてレベルは五十を少し超えたところ。

 流石マナの支配者のギフトを持っているだけはある。

 魔法無双できるな、これ。

 ……、ダンジョン内限定だけどな!


◆◆◆

◆◆


「なるほどなるほど、よくできている。これなら問題ないでしょう」

「ちょっとした雑貨屋と食堂も併設していますから」

「宿屋や酒場は用意しなかったのですか?」


 まったく、分かり切った質問をしてくれる。

 貴族の習性なのかね。


「すべて自分達で賄いきるのは難しいですしね。ヒザヤ閣下にぜひともご協力していただきたく」


 利益を供与することで仲間を増やないと、いったいどこから妨害が入るかわからない。

 特にモブキャラクター家の庇護はダンジョンを安定して運営していくためには絶対に必要だ。

 そのためなら多少の融通は利かすさ。

 別に俺はお金が欲しいわけじゃないしね。


「ふふ、賢い子は好きですよ」

「ありがとうございます。さ、ダンジョンの中も見ていきましょうか」

「ええ、お願いします」


 入り口の案内を終えて今度はダンジョンの中へと案内する。

 もちろん、念のために復活の首飾りを着用してからだ。


「ふむ、案外明るいものですね」

「はい、ヒカリゴケが生えているので全体的に少し薄暗い程度となります」

「しかしなんというか、プレッシャーの様なものを感じます」

「ああ、おそらくそれはマナによるものかと」


 慣れていない人には結構きついかもしれないな。

 ウィザード適性が高ければそうでもないんだけどね。


「これが、なるほど。おや、あれは?」

「モンスターのコボルドですね。上層ではポピュラーなモンスターですよ」


 ヒザヤ閣下が指をさす方には三匹のコボルドが立っていた。

 ぺこりとお辞儀をするとコボルド達は立ち去っていく。


「襲っては……、来ないのですね」

「今日は襲わないように言い含めていますから」

「ふむぅ……」

「何でしたら戦闘させますか?」

「試しに戦ってもらいましょうか。リッファー、クルス」

「はいっ」

「わかりました」


 護衛の二人が前に出る。

 さってと。


「それじゃ竜牙さん、適当なモンスターを呼んでもらっていいですか?」

「お任せください。お二人はレベル10を少し超えたくらいでしたね」

「ええ、私共はヒザヤ伯爵家の所有する騎士団の中でも精鋭ですから、多少強いモンスターでも構いませんよ」

「ふむ、それでしたらトロールくらいがちょうどいい相手になりますか」


 そういうと竜牙さんは黒い箱を取り出す。

 そして真ん中の赤いボタンを押した。

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