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第十二話 ダンジョンへ帰ろう

「ほんじゃ帰るとするかー」


 俺達は朝食を取った後、馬車に荷物を積み込んだ。

 サンプルとするため武器や防具、それにアクセサリーをそれなりに買い込んだので積み込みも大変だ。


「はぁ……、また僕は御者席なんだよね……」


 アルが遠い目をしているが俺も同じような気持ちだ。

 もっと出店回りたかったなぁ……。

 え? 同じ気持ちじゃないって?

 まぁ細かいことは気にするな。


 尤も、出店だけでなくもっといろいろ見て回りたかったは本当だ。

 しかし、あまりダンジョンを空にするわけにもいかない。

 主戦力がここにいる以上、ダンジョンの防衛力は下がっているのだから。


「まってやー!」


 最後の荷物を積み込んでいると遠くから駆けて来る茶色い髪の毛の少女が目に入った。


「うちも一緒に行かせてーや!」

「うん? ダンジョンまでか?」

「当り前やんっ!」


 唇を尖らせて不満を口にするベルは、しかし断られるとは微塵も思っていないようだった。

 それにしてもてっきりヒザヤ閣下と一緒に来るものだと思っていたけど、いいのだろうか。


「それにほれ、うちを追い抜いた秘密も教えてもらっとらんしな?」


 ベルはツリ目を怪しげに光らせてにやりと笑う。

 うん、似合ってないからやめとけ。


「あ、それだったら御者席がお勧めだよ!」

「そうなん? でも二人しか座れへんなぁ」

「僕が代ってあげるから!」

「おいこら」


 必死なアルに思わず呆れてしまう。

 というか、貴族のご令嬢に御者席に座らせるとかダメだろ。

 常識はどこに行った。


「だって……」

「え? なんなん? 気になるやん」

「まぁ、走りだせばわかる」

「そうなん?」

「とても乗り心地がいいのがヒントです!」


 訝しげに首をかしげるベルにシンディーがどや顔で答える。


「んーんー。気になるやんかー?」

「まぁまぁ、あまり時間もありませんし、走りだせばわかることですよ」

「後のお愉しみってこっちゃね。ほないこかー!」


 ベルの号令で五人を乗せた馬車は、ゆっくりと走り出すのだった。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

「おおお!?」


 アルの悲鳴とベルの歓声を置き去りにして馬車は街道をひた走る。

 ……、走るでいいんだよな、これ。


「すごいなぁ! まったく揺れへんし、めっちゃ速いやん!」

「竜牙さんの魔法らしいよ」

「え? ダンジョンの外でも魔法使えるん?」

「竜牙さんはマナを貯めておくことが出来るんだってさ」

「そんなことできたんやねぇ?」


 神魔大戦以降、ダンジョンの外では魔法が使えないのが常識だった。

 竜牙さんみたいにダンジョンの外でも魔法を使うことが出来るモンスターも居るというのは誰も知らなかったのだ。


「まぁ私は特別ですから。普通のモンスターにはできませんよ」


 そう言って竜牙さんは苦笑いするが、そうじゃないんだ。

 『マナを貯め込んで』と竜牙さんは言っていた。

 つまりマナは基本的に地下に封印されているが、何らかの手段でマナをダンジョンの外へ持ち出すことも出来るということだ。

 例えばマナを結界で覆ってとか、宝石に封じてとか。

 あ、なんかできる気がしてきた。

 帰ったらやってみよう。


「それで、ベルの方の話も聞かせてもらえるか?」

「んー、別に騙してたわけやないんやで? なんか言い出すタイミングが……」


 彼女らしくない歯切れの悪さだ。

 別にやましいことがあるわけでもなかろうに。


「信じてない訳やないんやで? やけど、もしうちの実家のこと知って態度変えられたら嫌やなって……」


 ああ、そういうことか。

 モブキャラクター家は神魔大戦時に勇者や英雄と常に供にあった人物が創った家らしく、貴族としての格も他の伯爵家と一線を画すものだ。

 そんな家の者と知られれば態度を変える奴もいるだろう。


「まぁ俺には関係ないが」

「ひゃにほすりゅ~!!」


 おっと、思わず両頬を抓ってしまった。


「どこの家の者だろうがベルはベルだ。そう言いたかったんだ」

「それで、うちのほっぺを抓った理由は?」

「そこにほっぺがあったからや!」

「まねすんなっ!」


 スパンッ!!


 そう言ってベルはどこからか取り出したハリセンで俺の頭をひっぱたたいたのだった。

 いや、どこから出したし。


「乙女の秘密や」


 乙女の秘密がハリセン。

 意味わからんな。


「……、ありがとな」


 彼女がうつむいてつぶやいた言葉は、風の音に紛れて俺の耳には届かなかった。



「僕は風になる……」


 それから半日後、俺達は再びダンジョンに戻ってきた。

 片道一日だとあまり旅行したって気にならないな。

 今度はもうちょっと遠くまで行ってみたいものだ。


「お兄様! おかえりなさいませっ!」

「ただいま、ミルフィー。変わりなかったかい?」

「はいっ! 私、お兄様のお役に立てるようにいっぱい勉強しましたのよっ!」

「そうか、ありがとうな。俺達がいなくてさみしくなかったか?」


 俺が礼を言いながらミルフィーの頭をなでる。


「っ! あまり子ども扱いしないでください……」


 頬を染めてミルフィーがうつむく。


「おっと、すまんすまん」


 まぁミルフィーももういい歳だしな。

 ちょっと扱いを変えてやらないといけないか。

 そう思いながら彼女の頭から手を除けようとすると謎の圧力を感じた。


「……、別に撫でるなとは言っておりませんわ」


 いや、ミルフィーはまだ子供だな。うん。



 さて、今後の方針だがとりあえず基本武装の武器と防具は揃えて貸し出せるようにしとかないとな。

 前衛職用のロングソードや鎧、盾だけでなく魔法職用のスタッフとかも必要だろう。

 地上では魔法は全く使えないがダンジョンでは魔法が使えるからね。


 それにレベル判定機と適正クラス診断装置も準備しておいた方がいいだろうな。

 見た目がなんか微妙だが便利だし。


「武器はとりあえずモンスター達に作ってもらうとするか」


 ダンジョンに帰ってきた俺達は町で得た情報をもとに開店準備を進める。


「お釣りの準備も大変です……」

「シンディー、銅貨入れるのはそっちやないで?」

「このポーションはいくらにするんですの?」

「それは銀貨一枚と銅貨五十枚だね」

「値段表作っとこうか」

「それがいいな」


 小規模ながら雑貨屋も併設するので大忙しだ。

 しかし、こう何かを始める準備というのはワクワクするな。


 そして同時並行でヒザヤ閣下の歓迎の支度を行った。

 と言っても、ダンジョンの清掃をしたりモンスターの装備の点検をしたり程度だが。

 なんせまだ誰も来ていないからな。

 歓待のメインとなるのは実家の屋敷だし、あまり手をかける必要もあるまい。


 ゆっくり休みながら来るだろうから到着はおおよそ一週間後くらいか。

 それくらいまでには充分な支度が出来るだろう。


◆◆◆

◆◆


「父上、そういうわけでヒザヤ閣下が来週当家を訪問する予定となります」

「……」

「それと、ベルとの婚約の件なのですが……」

「……」

「今は話せそうにありませんね……」


 屋敷の談話室でソファーに座る父上に話しかけるが、返事がない。ただのミイラの様だ。

 違った、父上は顔に包帯をぐるぐる巻きにされており、まともに動けないようだった。

 その横には母が付いているが……。

 付いているというより憑いているといった方がいいのではないだろうか、これは。


「レオとベルちゃんの婚約はね、2人が生まれたときから。いえ、生まれる前から決まっていたのよ。成人したら教えようと思っていたのだけれど」

「お母様もご存じだったのですね」

「それはそうよ、だって私はあなたのお母さんなのよ?」

「なのよって、そうじゃなくて、何故本人達に教えてくれなかったのですか?」

「あら、その方が発表があった時に驚くでしょ?」


 ふふっと母上は笑顔をほころばせるが……。

 いや、うん、確かに驚いたよ?

 心臓が止まるかと思ったくらいに。


「それに、お互いそういった柵が無い方が仲良くなれるかなと思ったの」


 急にまじめな雰囲気を纏い、母上はそういった。

 う~ん、言われてみればそうかもしれない。

 婚約者だと知っていれば今みたいな自然な関係は作れただろうか。

 微妙なところではあるなぁ。


「そうだったのですか。それでは最後に一点だけ質問させてもらっても?」

「ええ、私にこたえられることならなんでも答えるわ」

「そもそもベルとの出会いは村で偶然会ったことからなのですが、これも仕組まれていたことなのですか?」

「……それには答えられないわね」

「ええー……」


 視線を逸らす母に俺の不信感は募る。


「じー……」

「うう……」


 俺が見つめると母の額から汗がこぼれる。

 うん、これ冷や汗って奴なんじゃないかな?


「母上、教えてください」

「……、べ、別にベルちゃんにレオを持っていかれるなんて思っていないわよ? 婚約者なんだから当たり前ですし、それで紹介しなかったとかもないわ!」


 語るに落ちるとはこのことか。

 しかしベルが活発な子で外で遊んでいたから出会えたが、そうじゃなければ先日挨拶行ったときに初対面になる可能性もあったのでは……。


「たまたま、そう、たまたま都合が悪くてね? なかなか紹介できなかったのよ」

「なるほど、偶然に偶然が重なって、ベルは当家の領内に五年以上前から住んでいたのに紹介できなかったんですね?」

「ソ、ソウヨ……」

「……、はぁ、わかりました。そういうことにしておきましょう」

「信じてくれてうれしいわっ!」


 信じちゃいないが、認めるつもりなさそうだし仕方ないか。

 まぁ別に何が困るわけでもないし。


「ただ、もう隠し事は無しにしてもらいたいですね」

「え、ええ。努力するわ」


 ……、まだ何かある気がするなぁ……。

 もういいや。


 ベルは俺の許嫁ってこと、知ってたのかね。

 ちょっと気になるところではあるな。


◆◆◆

◆◆


「それで、ベルは知ってたのか?」

「うん? レオの許嫁のこと?」


 翌日、事務所で帳簿付けの練習をしているベルに聞いてみた。


「そらなー、一応ミューゼル家の長男とこに嫁に行くっちゅー話は聞いとったで?」


 知らなかったのは俺だけだったのか……。

 シンディー達も知ってるんだろうなぁ。

 俺だけ仲間外れとか、少し寂しい。


「そもそも、ミューゼル家領内に滞在してるんも顔合わせのためっちゅー話やったしな」

「そうだったのか」

「それが何年たってもなんだかんだ理由つけて顔合わせさせてくれんかったから、なんでやろなとは思っとったんよ」

「それは……、すまん」

「ええって、ええって。こうして無事に会えたしな?」


 ベルはカラカラと笑うが、割とマジで失礼ないことをしていたと思う。

 というか準男爵家ごときが伯爵家にケンカを売るとか正気の沙汰じゃないよね。


「俺とベルが出会ったのって6年前だっけ」

「せやな。でもレオがミューゼル家の長男やって知ったのは割と最近なんよ?」

「そうか……」

「だから安心し?」

「っ! うるさい……」

「おー、照れとる照れ取る、ぷくく!」


 でもそっか、今までの思い出は嘘や作り物じゃなかったんだな。

 少しだけ、ほっとした。


「まぁこれからよろしく頼む」

「こっちらこそなー」


 俺はベルと握手をして笑いあった。

 その手の柔らかさを思わず意識してしまったのは俺だけの秘密だ。

お読みいただきありがとうございます。

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