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第十話 貴族への挨拶

「えっと、ここでいいのかな」


 次の日の朝。

 俺はアルとシンディー、それに竜牙さんを引き連れてこの地を治める貴族の屋敷の門前に来ていた。

 もちろん、馬車に乗ってだ。

 本当は歩いてきたかったのだが、皆に止められたのだった。


「相手への失礼にもなりますしね」

「そうだよ。逆に適当な格好で行くと『お前ごときはこの程度で十分だ』なんて意味合いに取られちゃうよ」


 自分はこれだけの支度をしてあなたのところを訪れたのだ。

 と、アピールする意味合いもあるらしい。


 やれやれ、貴族って奴は本当にめんどくさい。

 無駄が多すぎると思うのだが。

 その無駄が経済を回していると思えば一概に悪いわけでもないのかね?


「ごめんくださいです!」

「ミューゼル家の方ですね? 話は伺っております。中へどうぞ」


 シンディーが衛兵に来訪を告げると中に入るように誘導される。

 馬車に乗ったまま門をくぐり、屋敷の入り口へ向かった。


 それにしても大きな屋敷だ。

 ベルの実家みたいだし、多少は融通を利かしてくれるとありがたいのだが。


◆◆◆

◆◆


 応接室に通される。

 テーブルをはさんでフカフカのソファーが並んでいる。

 採光用の窓からは青空が広がって見えた。


「間もなく主が参りますので今しばらくお待ちください」


 メイドからお茶の給仕を受けながら俺達はソファーに座って待つことに……。


「あれ? 皆座らないの?」

「……侍女や従者が主の横に座るとかないです」

「ああ、そういうこと……」


 本当にめんどくさい。

 早くうちに帰りたい……。



「初めまして。ミューゼル準男爵家の長男、レオポルド・フォン・ミューゼルと申します。私のことはレオとでもお呼びください」

「こちらこそ初めまして。モブキャラクター伯爵家の当主、ヒザヤ・フォン・モブキャラクターです。うちの娘がお世話になっているようで」


 五分後、面談が開始された。

 伯爵家当主ということでもう少し迫力があると勝手に思い込んでいたが、まったく逆の柔和な印象を与えてくる。


「いえ、閣下の娘様には逆に私の方がいろいろと助けられておりますので」

「それはよかった。それで本日は挨拶に来られたとか?」

「ええ。近々ミューゼル家ではダンジョンの運営を始めようと考えておりまして」

「娘から多少話は聞いておりますが、何も知らないという前提で話を伺わせていただきましょうか」

「はい」


 この後、軽くダンジョンについて説明を行った。


「ふむ……」

「なにかありますか?」

「ダンジョンの運営は非常に難しいのはご存知ですか?」

「ええ、なかなか収益が上がらないとか」

「当家でも過去、ダンジョンを運営しようと試みたことがありますが恥ずかしながら失敗しております」

「……」

「雇用対策に良いと思ったのですが、リスクが高すぎたようで冒険者になる者が少なかったのです」

「なるほど」

「貴殿はダンジョンを運営するにあたり上手くいく自信があるようですが、正直に申しましてかなり難しいと思うのですが……」


 確かに普通に運営するだけでは厳しいだろう。

 だが、俺の場合通常の売り上げの他にDPとマナによる収入がある。

 しかしこれは説明できない話だからなぁ。


「こちらのアイテムをご覧ください」


 そう言って俺はテーブルの上に首飾りを置いた。

 鈍く光る銀色のそれが俺の切り札だ。


「これは?」

「復活の首飾りです」

「復活の首飾り? 聞いたことのないアイテムですね」

「当家のダンジョンから大量に出土したアイテムです。この首飾りを着用していればダンジョン内で死んでも外で復活できるのです」

「な!?」


 ヒザヤ閣下の顔が驚愕に染まる。

 それはそうだろう、多くのダンジョン運営が失敗する原因となっている冒険者のリスクの高さ。

 それがなくなるのだから。


「もちろんペナルティーはありますが、死ぬほどのものではありません。ちょっと疲れる程度です。アイテムをロストすることもありません」

「それはすごい……。しかしそれだとすぐダンジョンを踏破することができるのでは?」


 ダンジョンコアを破壊して恩恵を受けた方がいい。

 そう言った思惑が閣下の顔から見て取れる。


「実はこの首飾り、ダンジョンのモンスターから提供を受けたのですよ」

「それは……」

「それを裏切るようなまねはできません」

「なるほど。レオポルド殿はモンスターと友好的な関係を築けていると?」

「はい、本日も護衛としてついてきてもらっています」

「は?」


 ヒザヤ閣下は何を言っているかわからないといった表情をしている。

 まぁとりあえず紹介を先にするか。


「竜牙さん」

「ここに」


 そう言って後ろに立っていた竜牙さんが一歩前に出る。


「閣下、紹介いたします。こちらがダンジョンのボスモンスターの竜牙の騎士です」

「お初にお目にかかります。ご紹介に与かりました、竜牙の騎士と申します。御恥ずかしながらボスモンスターを拝命させていただいております」

「なっ! ……、ごほん。ヒザヤ・フォン・モブキャラクター伯爵です。それでこの首飾りは貴殿が提供されたと?」

「はい。我々モンスターとレオポルド殿の友好の証です」

「なるほど……。しかし貴殿を前にしてこういうことを言うのは気が引けるのですが……。大丈夫、なのですか?」

「ええ、レオポルド殿のギフト、モンスターの支配者の影響下に居りますれば」

「ふむ……」


 そう言ってヒザヤ閣下はおもむろにティーカップに手を伸ばし。


「ふんっ!」


 ガシャン!

 ティーカップが竜牙さんの兜に当たり紅茶をまき散らす。


「な!?」


 バンッ!

 ガキンッ!


 そして同時に天井から何かが落ちてきて、いつの間にか手を挙げていた竜牙さんに捕まれる。

 よくよく見るとそれは兵士のようだった。


「なにを!?」

「レオポルド様、落ち着いてください」


 そう言いながら彼は捕まえた兵士を床に降ろした。


 ポタッ……。


 竜牙の騎士の兜から紅茶が滴る。

 一体何のつもりだ?

 特に無礼を働いたわけでもないだろうに。


「ふむ、失礼。確かに問題はない様ですね」


 え、なに、もしかして試されたの?


「なるほどなるほど、彼は大丈夫なようです」

「閣下、お戯れは……」

「くくく……、いやすみません、いかんせんすぐに信じられるような内容ではなかったもので」

「はは、確かにモンスター、それもボス級のモンスターが人間に大人しく従うというのは信じ辛いでしょう」


 竜牙さんがそういうと張り詰めていた空気が弛緩する。


「竜牙の騎士殿。失礼した。すぐに風呂の準備をさせますので」

「いえ、お構いなく。『浄化』の魔法が使えますから」

「魔法、ですか?」

「ええ。通常地下空間でしか使えないのですがね。私は体内にマナを多少保存できるので外部でもわずかではありますが魔法が使えるのですよ」

「ほお……」

「これでもボスですので」


 再び若干の緊張が走った。

 地下以外でも魔法が使える。

 この事実に。


「……、マナを貯める方法を研究するのもいいかもしれませんね……」


 結構やばい方向に話が進みそうだが……。

 まぁいいや。


「さて、それでは話の続きをしても?」

「ああ、失礼。それで、貴殿の切り札はその首飾りとモンスターとの友好ということですかね?」

「ええ」

「ふむ……。いいでしょう、我がモブキャラクター家も協力させていただきます」

「あ、はい、ありがとうございます」


 もう少し難航するかと思ったが思ったよりあっさりいったな。

 これでこの町でダンジョンを宣伝しても大丈夫だろう。


「それでは視察はいつにしましょうか」

「視察、ですか?」

「ええ。どれくらいの人材を派遣すればいいか確認したいので」


 はい?

 人材派遣?

 いや、そこまで求めてないんですが。

 ちょっと商業ギルドとかを紹介してもらえればなーくらいで。


「こんなおいしい話、ほっとくわけにはいきませんからね。レオポルド君、ありがとうございます」

「え、えっと……」

「もちろん流通ルートも当家の物を使用してかまいませんよ。当家の御用商人にも声をかけておいてあげます」


 やばい、のっとられる!?

 いや、大丈夫か。

 復活の首飾り、そしてモンスターとの友好は俺の手の中だ。

 そしてこれらは誰にもとられる恐れがない。

 復活の首飾りはDPで購入しているだけだし、モンスターも竜牙さんは裏切る様な人じゃない。

 それに俺のギフトもあるしな。


 しかし貴族ってのは本当に厄介だ。

 利益となると分かったとたんにこれか。

 切り札を隠しといてよかったぜ。


「それではよろしくお願いしますね。ああ、あと宿泊所の斡旋と定期的に乗合馬車の運行をお願いしたいのですが」

「……、冒険者の宿と彼らを運ぶ足が必要ということですね。良いでしょう」

「ありがとうございます」

「いえいえ、これからよろしくお願いしますね?」

「ええ、末永く」


 そう言って俺とヒザヤ閣下は握手を交わす。

 テーブルの下では足を踏みあっている気がしないでもないが、少なくとも表面上の協力関係にはなれたと思う。


「それでは視察へは二日後に出発します」

「わかりました。それでは先に現地に赴き歓迎の支度をさせていただきます」

「はは、期待しております。それと、本日は当家でパーティーを予定しておりますのでよろしければご参加下さい。ではまた」


 そう言ってヒザヤ閣下は離籍した。

 ふぅ、緊張したぜ……。

 というか、シンディーもアルもなんでずっと黙ってんだよ。

 存在感消してたけど、苦労を分かち合おうよ。

 せめて半分くらいはさ。

 シンディーとアルで半分ずつ受け持ってくれれば最高だ。


 あ、従者だからですか、そうですか。

 ちくしょうっ!


◆◆◆

◆◆


 貴族の屋敷を後にした俺達は、パーティーまで時間があったので再び町の視察を行った。

 残念ながら出店は回れなかったが、アイテムの相場をある程度把握することが出来た。


 ポーション類は最下級の物で銅貨二十枚。

 スクロール類も似たような感じだ。

 五枚セットで銀貨一枚、割引は無い様だ。


 串焼き肉二本で銅貨一枚だから、大体銅貨一枚百円くらいの価値かな?

 そう考えるとポーション一本二千円か。

 結構高いなぁ。


 そして武器だが、これがとんでもなく高いものだったのだ。

 刃の部分は全て金属だから仕方ない部分はあるのだろうが、中古の質の悪いのロングソードが一本銀貨十枚とは……。

 四人家族が二月は食べていける金額だ。


 補助武器のショートソードですら銀貨一枚だぞ?


 そして防具もこれまた高い。

 古い皮の胸当て、小手、脛当ての三点セットで銀貨二十枚……。


 そして冒険者になるための装備をすべて整えるとなるとどんなに節約しても銀貨五十枚は必要だ。

 ランタンや食料、食器そしてそれを収納するバッグ。


 理想を言うなら武器に銀貨五十枚、その他装備に同じく銀貨五十枚で合計金貨一枚分の資金は欲しいところだ。

 しかしそれだけの資金を貯めれるような人間は冒険者にならないと。


 う~ん、装備の貸し出しも行うかね?

 手ぶらでOKを売りにするのもありかもしれない。

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