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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第一章:出逢い編
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御披露目パーティー 3-3★

百合子サイド③

 

 お父さんをお父様、桜哉お兄さんを桜哉お兄様と呼ぶようになってから暫くして、今まで会わなかった奥様が私の所へやって来た。

 丁度お父様もお兄様も留守で、私は一人で奥様と対峙していた。


 奥様は私の亡くなったお母様とは正反対の方で、化粧は濃くてゴテゴテと着飾っていた。

 ビックリして固まる私を、まるで汚い物を見るような目で見る奥様。


「あらあら、臭い臭いと思っていたら……薄汚い泥棒猫の子どもが居たのね……お前、いつまで此処にいるつもり?」


 お母様を馬鹿にされて、私は力一杯奥様を睨む。その私の行動が不愉快だったのか、手に持っていた扇を広げて口許を隠した奥様は、細い眉毛を顰めた。


「何です?その顔は……流石平民の薄汚い泥棒猫の子どもだわ。躾がなっていない……」


「お母様のことを悪く言わないで下さい!!お父様とお兄様は私は此処にいてもいいって言って下さいました!!」


 言い切った瞬間、頬に熱い衝撃があり、私は倒れ込んだ。

 奥様が持っていた扇で、私の頬を叩いたのだ。

 後ろに控えていた菜月と梨沙が慌てて寄ってくる。


「お嬢様!!」


「奥様!!このように小さいお嬢様に、あまりの仕打ちです」


 頬を押さえて奥様を見上げた私は、恐怖に固まった。

 奥様は、手の中の扇を折らんばかりに握り締め、身体を震わせて私をきつく睨み付けていた。


「お前ような薄汚い娘が……私から愛しいあのひとを奪ったあの泥棒猫の娘が……、あのひとを父と呼ぶでない!!私の可愛い息子の桜哉を兄だとと……間違っても呼ぶでない!!」


 その剣幕に、私は恐怖と悔しさに淑女らしくなく、ワンワンと声を上げて泣いた。まだ私を叩こうとする奥様を、奥様付きの使用人の人が引き摺って行っても、帰ってきたお父様に抱き締められても、お兄様に頭を撫でてもらっても、涙は止まらなかった。



 その日から私は奥様を見返す為に、今まで以上に勉学に取り組んだ。私が誰よりも令嬢として相応しくあれば、お母様を貶めた言葉を取り消して貰えると思っていたから。




 必死に努力していたら、いつの間にか私は十歳になっていた。令嬢としての所作も大分板について、家庭教師の先生方からも合格点を貰っていた。


「百合子、そろそろ私の親族や友人たちに、お前が家族になったことを報告する意味合いのパーティーを開こうかと思うんだが……どうかな?」


 三人揃って晩御飯を食べていた時、お父様がそう切り出してきた。私はあまりに突然だった為、目を瞬かせることしか出来なかったけど、お兄様はその言葉に笑顔になる。


「それは良い!!百合子、是非僕の友人にも会ってくれ。自慢の妹を紹介したくて堪らなかったんだ!!……父さん、僕の友人も招待してもいいですよね?」


「勿論。なるべく多くの人たちに知って貰おう。桜哉の友人なら妹がいれば百合子の友人になるかもしれないな」


 沢山の人に会うことになる不安と、もしかしたら友達が出来る期待に、私はぎこちなく頷いた。

 それを見たお父様は、新しいドレスを作ろうと言って、数日内にお針子さんを屋敷に呼ぶように青柳に言っていた。


 色んな事が目まぐるしく過ぎて行く内に、私の御披露目パーティーが開催された。



 パーティー開始前に、奥様が乗り込んで来たらしいが、お父様が直ぐに追い返した為、私は会うことにならなくて安心した。奥様のあの剣幕を思い出すと、まだ怖かったので会わずにいられるのは有り難かった。


 お父様とお兄様の友人は皆様揃ってきらびやかで素敵で、緊張して上手く話せない私にとても優しくしてくれた。

 途中でお父様が私の側を離れたので、お兄様と二人でジュースを飲んでいたら、入り口に目を向けていたお兄様が、呆れたような声を出した。


「まったく……早く来過ぎて一端帰ったら、今度は遅刻か?」


「悪い……少し手間取ってな」


 どうやら遅刻してきたお兄様の友人が来られたようだ。私もお兄様と同じ方向に目を向けた。

 その方の姿を見た瞬間、世界が一斉に色付いたような気がした。

 一目で高貴な生まれだと解る佇まいに、端正な顔立ち。どちらかと言えば甘い顔立ちのお兄様とは反対の、凛とした涼し気な姿に、私は心を奪われてしまった。


「百合子。この遅刻してきた間抜けな男は、一条蓮司と言う。こんなんでも三ノ宮家の皇族だから、一応敬っておけよ」


「……こんなんとは何だ」


 皇族にかなり砕けた態度を取るお兄様と、それを咎めない一条様は身分を越えた友人なのだろう。

 今のところ友達のいない私には、とても羨ましい関係だ。

 お兄様に拗ねた表情を見せていた一条様は、私に向き直ると、大輪の白百合の花を一輪差し出してきた。


「初めまして、百合子嬢。君の兄の友人の一条蓮司だ。……これは君に」


「百合の花?……まだ開花には早い時期なのに……」


 瑞々しい花弁の美しい花を受け取り、おずおずと一条様を見上げる。百合の開花はまだ一月以上先だ。現に庭園の百合はまだ咲いてはいない。


「家の温室で育てていたから、開花が早かったんだ。君と同じ名前の花だ。歓迎の気持ちとしては相応しいだろう」


 そう言って微笑む一条様に、私はポーとなってしまった。心臓がドキドキして、全身が熱い。


「お前がこんな洒落た事をするなんてな……もう一つの袋はなんだ?」


 お兄様に言われた一条様は、辺りを見渡して誰かを探すように目を眇めている。


「桜哉、奥方様と梅子嬢は何処だ?」


 一条様の言葉に、私とお兄様の動きが止まる。私は青褪めて一条様に貰った百合を抱き締め、お兄様は嫌悪に顔を歪めた。


「……蓮司、お前分かっているだろう。あんな奴らを此処に来させる訳がないだろう」


「奥方様の気性は理解してるが、こうもあからさまな態度は、反感を買うぞ」


「今まで僕の事情に突っ込んで来た事ないだろ……どうしたんだよ」


 訝しげに言うお兄様を、静かに見返す一条様は、ちらりと私の方を見た。


「同じ花園家令嬢なのに、こうも待遇に差を付けるのはあまり気分が良くない」


「……?もしかして、アレに会ったのか?」


 お兄様と一条様の話に付いていけなくて、黙って聞いていると、お兄様の顔色が変わった。


「梅子嬢か?昼に会って話をしたぞ。……中々興味深い娘だった」


 その時を思い出したのか、穏やかに笑う一条様の姿に、私の胸はキュウッと絞られるような痛みを感じる。


「一心不乱に木刀で丸太を打ち据えていたかと思えば、突然大声で笑い出したり……まるで行動が読めなくて、見ていて飽きない」


「アレがそんな事を……」


「……そのくせ、話すと急に大人びる……まるで歳上と話しているような気分だった」


 憂いを滲ませて伏せた瞳は、私やお兄様を見てはいない。あの、私を置物のように見ていたあの子を見ているのだ。


「彼女が言っていた。父親にとって子どもは桜哉と百合子嬢だけだと」


 ヒュッと、お兄様が息を飲む音がした。私も、その言葉に驚きを隠せなかった。

 私がお父様やお兄様と過ごしているとき、梅子さんは何処にいたのだろう。

 ううん。もっと前、お母様が生きてた頃、休みの度に何処かに連れて行って貰っていた私。梅子さんはお父様にいつ遊んで貰っていたのか……。


「お、おい……蓮司、何処に行く?」


 私がグルグル考えている間に、一条様は歩き出していた。


「花を贈ると約束した。……此処にはいないのなら、直接渡しに行こうかと」


 そう言ってから、一度も振り返らず一条様は行ってしまった。

 胸に抱いた百合の薫りがただ哀しく思えた。


幼女キラー・レンレン(笑)

ちょっとずつ原作と変わっていきます。

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