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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第一章:出逢い編
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御披露目パーティー 3-1★

三話続けて百合子サイドです。

 

 室内の照明が、辺りを昼のように暖かく照らしている。

 開け放たれた庭に続くガラスのドアから、春にしては少し冷たい風と、淡い紅色の花弁を室内に運んでくる。

 その僅かな風が、私の着ている桜の花びらを思わせる、何枚も薄布を重ねた桜色のドレスの裾を、フワリと揺らした。


 私がこの花園家に来てからもう二年経つ。


 私は八歳までは、普通の平民よりは少し裕福な暮らしをしていた。

 十分な広さの家に、家政婦さんが一人通いで来てて、生活に不自由した事はなかった。

 ただ、お父さんがたまにしか家にいない事が寂しかった。

 お父さんはほぼ毎日家には来てくれるが、朝まで居ることはほとんどなく、どうしてなのかとお母さんに聞いても曖昧に笑うだけで答えてくれなかった。

 お父さんの愛情を疑った事はない。誕生日もクリスマスも沢山プレゼントをくれたし、お休みの日は遊園地や動物園にも連れて行ってくれた。


 大きくなるにつれて、お父さんには私とお母さんの他にも家族がいることを知った。

 私はお父さんに裏切られたと思い、お父さんを庇うお母さんも同じだと、二人と口を訊かないようになった。

 二人は何とか私と話そうとしてくれたけど、どうしても許せずに二人を無視し続けていた。


 そんな私の頑なな態度に、家政婦さんがこっそりと事情を教えてくれた。

 家政婦さんが言うには、お父さんは本当はお母さんと私と居たいのだけど、お父さんのもう一人の奥さんと娘さんがそれを邪魔しているらしいのだ。

 だから、お父さんとお母さんを恨んではいけないよと、優しく諭してくれたが、結局その日も二人を避けてしまった。


 ……だからかな?罰が当たったのは。


 その日は、季節の変わり目の所為か朝から大雨が降っていた。

 お母さんは、どうしても出掛けなければいけない用事があり、朝ごはんを食べると慌ただしく出掛けて行った。

 困ったように微笑んで言った『行ってきます』に私は返事をしなかった。

 ……その言葉は、お母さんの最期の言葉になるとは知らずに。



 お母さんは山沿いの道を馬車で走っている途中、土砂崩れに巻き込まれて亡くなった。

 気付いたら泣き叫びながら、力強くお父さんに抱き締められていた。お父さんも沢山涙を流しながら、暴れる私を胸に抱き、ずっと謝っていた。後から聞いた話だと、お母さんの死を聞かされた私は、半狂乱になりながら外に出ようてした所を、慌てて私の所に来たお父さんに抱き止められたらしい。


 それからあんまり覚えてないけど、気付いたらお母さんは小さな壺に入るくらいになっていた。


「百合子……お前は嫌かもしれないが、これからはお父さんと一緒に暮らそう。決してお前を傷付ける事はしない。お母さんの分までお父さんがお前を守るよ」


 泣きながらお父さんはそう言ってくれた。お母さんが死んで私にはもうお父さんしかいない。寂しさに潰れそうになりながら、私はお父さんに抱き付いた。



 次の日、簡単に荷物を纏めた私を、お父さんは立派な馬車に乗せてくれた。

 馬車の中はいつも乗るものよりも広く、フワフワのクッションが敷き詰められていた。そのお蔭で移動中にお尻が痛くなる事もなく、無事これから暮らすお屋敷に着く事が出来た。


 お父さんのお屋敷はとても大きく綺麗で、私は驚いた。


「さぁ百合子、今日から此処がお前の家だよ」


 優しく背中を押してくれるお父さんと一緒にお屋敷に入ると、沢山の人たちが並んで頭を下げていた。一番前に居たお父さんとあまり年の変わらない男の人が、ニッコリと笑い掛けてくれた。


「ようこそお越し下さいました、百合子お嬢様。今この時より貴女様に誠心誠意お仕えさせて頂きます。……やっとお迎えする事が出来て、使用人一同心からお喜び申し上げます」


 男の人のその言葉に、並んでいた人たちに目を向けると、皆ニコニコ笑ってくれていた。

 突然来た私を嫌がらず受け入れてくれた事に、私はとても嬉しかった。


「百合子、彼は執事の青柳(あおやぎ)と言う。私が居ない時はこの青柳を頼りなさい。そして菜月(なつき)梨沙(りさ)


 お父さんが呼び掛けると、青柳さんの後ろから女の人が二人出てきた。どちらも優しそうな人で、年齢はお母さんよりは若い人たちだった。


「この二人が、今日から百合子の身の回りの世話をしてくれるから、何でも聞きなさい」


「身の回りの事くらい自分で出来るわ。お父さん、私八歳になったのよ?」


 まるで何も出来ない小さい子どものように扱うお父さんを睨むと、お父さんは困ったように笑った。そして私の前にしゃがみ両手を握られる。


「百合子が何でも出来るお利口さんな事は、お父さん知っているよ。……だけどね、これからはそれでは駄目なんだ」


「どうして?私、何でもできるわ。何故してはいけないの?」


「百合子は今日から貴族の一員になったからね、貴族はね、身の回りの事は使用人にさせるのが普通でね……」


「父さん、八歳の女の子にその説明は分からないと思うよ」


 お父さんの話にちんぷんかんぷんになっていたら、優しい声が聞こえた。その声の方向を見ると、玄関の真ん中にある大きな階段から、私より少し歳上の男の子が降りてきた。


 その男の子は、とてもお父さんに似ていてびっくりした。思わず二人を交互に見比べると、男の子が吹き出した。


「百合子は僕の事を知らないから仕方ないか……初めまして百合子。僕はきみの異母兄(あに)だよ」


 宜しくね、と頭を撫でられてまたびっくりした。


「私と同じ歳の女の子じゃないの?」


 私がそう言うと、今まで暖かかった空気が、急に張り詰めて冷たくなった。お父さんが見たこともないくらい怖い顔をしていて、さっきまで優しく笑っていたお兄さんや青柳さんたちも同様に、嫌なものを聞いたような顔していた。


「ご、ごめんなさ……私、いけない事を聞いたのね」


 凍ってしまった空気が怖くて、泣いてしまった。

 そんな私を見て、お父さんはとても辛そうな顔をした。


「百合子が悪いんじゃないよ。……そうだね、一度は見ておいた方がいいかもな」


「……っ!?父さん!!百合子をあの人たちに会わすのか!?」


 お父さんが呟くように言った言葉に、お兄さんが怒ったように大きな声を出す。青柳さんたちも辛そうな顔をしている。


「遅かれ早かれ、どうせ気付かれる。……ならば、早目に釘を刺しておけばいいだろう。……青柳、悪いがアレらを応接間に呼んでくれ」


 くしゃくしゃと私の頭を撫でたお父さんは、立ち上がると青柳さんにお願いをしていた。青柳さんは何も言わずに頭を下げると、お屋敷の中に入って行った。


「さてと、百合子は自分の部屋に行って着替えておいで。菜月、梨沙頼んだよ」


 そう言ってお父さんはお兄さんと一緒に奥に入って行く。

 私は、菜月さんと梨沙さんに連れられ、あの大きな階段を登って行った。






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