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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第一章:出逢い編
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梅子、レボリューション計画

 

 花園家は、貴族階級は中位の伯爵だが、資産は高位の侯爵・公爵よりも莫大であった。

 ……それは、百合子嬢の主人公補正が掛かってるお蔭なのだが、これが有り難かった。

 父と兄には虫みたいな扱いを受けてる私が、金を湯水のように使おうと、我が家の財政は揺るがないのだ!!


 ありがとう。ありがとう主人公様々。


 まず、私の頬に散らばるソバカスを除去する為にエステに通う事にした。

 ソバカスが可愛いなんて、顔が可愛い子限定である。ブスにしてみれば、ただのシミである。

 ついでに全身エステをすることにした。美肌を手に入れる為だ。思春期に入って体毛が濃くなったら、全身脱毛もしようと思う。

 エステと並行して、美ボディを手に入れる為に日本舞踊や空手や剣道・柔道……果ては古武術なんかも習った。

 エステはあるのに、エクササイズやジムは無いという謎設定だったので、舞踊と武道を習い、しなやかな筋肉を付ける努力をする。


 そのお蔭か、常に顔色が悪く荒れ放題だった私の肌が、規則正しい生活と栄養バランスの取れた食事とで、みるみる明るく綺麗になってきた。

 最初に鏡を見た時は、破滅的な不細工だったけど、肌を綺麗にするだけで、何か清潔感も出てきて可愛くなった気がする。小さな黒い目が、小動物っぽい気がする。……あくまでビフォー梅子に比べてだが、未だに百合子嬢とは月とスッポンくらいの差はあるし。


 そうして私が自分磨きをしている間に、百合子嬢の為に花園家と縁のある貴族たちに御披露目と言う意味合いのパーティーを開かれる事になる。勿論あの父や兄が、私と母を招待するはずがない。

 因みに、私は誕生日はおろかクリスマスや年末年始のパーティーすら開いて貰ったことは無い。可哀想過ぎである。

 ……こんな明らかな差別をしといて、恨むな妬むななんて無理な話である。梅子の人格形成に問題が生じたのは、明らかに家族の所為だと思う。


 粉砕した鏡を入れ替えた鏡台に座り、映り込む自分を見つめた。

 くすんでいた肌は明るくなり、ソバカスも薄くなってきた。ガリガリだった身体も、僅かにだけど筋肉が付いてきて、前ほどには貧相に見えない。

 あの不細工な梅子こそ、家族の写し鏡だったのかもしれない。

 あの作者が梅子にそんな設定を盛ってた事はないだろうけど、『梅子』として暮らしている私には、そう感じてならない。


 ……笑いかけて貰えないから、笑えなくなった。

 ……話掛けても無視されるから、話せなくなった。

 ……誰にも気にかけてもらえないから、自分が嫌いで堪らなくなった。


 漫画をネタとして読んでた時に感じてた嫌悪感は、梅子のこう言った生い立ちの酷さを棚にあげて、彼女を断罪していた漫画のメインキャラクターたちの薄ら寒い正義感を見ていたからだった。

 漫画の梅子は、最期まで誰にも愛されることなく、惨めに死んでいく。

 冗談じゃない。しぶとく生きて大往生してやる。


 ……心配すんなよ、梅子。誰にも愛されないけど、私はちゃんと愛するからな。

 ちょっと綺麗になったし、後は礼儀作法を身に付ければ、一万人に一人くらいは、好いてくれる人が絶対いるよ。


 心なしかしょんぼりしている鏡越しの自分に話掛ける。


 だから、あの百合子嬢マンセーなクソ親父とクソ兄貴から、金を搾り取ってやろうぜ!!(ラブ)をくれないんなら(マネー)を寄越して貰おう!!


 小さく(わだかま)る不安を飲み込み、自分を鼓舞した。




 百合子嬢には、伯爵令嬢として必要不可欠な礼儀作法やダンスや勉強の為の教師や、ドレスを大量に作る為にお針子さんやデザイナーや、パーティーで付ける装飾品を扱う宝石商などが沢山呼ばれていたが、当然、私には一切ないので自力で探す。

 礼儀作法の教師は招くと手間が掛かるので、マナー教室に通う。

 学校には通っているので、解らない問題をそのままにしておかず、すぐに教師に聞くようにした。

 予習復習の意味で塾にも通う。

 お蔭で、地を這っていた成績がぐんぐん上がった。


 服装は、現代より大正時代の西洋文化が入り始めたくらいの洋装が主で、前世のようなTシャツやジーンズなんかはない。

 パニエで膨らませたモコモコなドレスや、肩や鎖骨丸出しなセクシーなカクテルドレスは着る気がせず、そんなパーティードレスを着る機会もない為、既製品の動きやすいワンピースを主に着ている。


 こうしてひっそりと金を大量に使いつつ私が成長していく間に、百合子嬢の御披露目パーティーが開催された。

 私と百合子嬢が十歳の時である。




 実は八歳から十歳の間、私と百合子嬢は同じ屋敷にいながら滅多に会うこともなく、言葉を交わしたこともない。

 それは、徹底して父が私に会わせようとせずに、屋敷の離れに私たち母子を隔離したからだ。

 だから、時折楽しそうな百合子嬢と父と兄の姿は見たが、窓越しであったので、三人は私に気付く事も無かった為、話す事も無かった。


 ぼんやりと窓越しの幸せそうな三人を見て、百合子嬢が辛い目に遭ってるようには見えない。

 確かに母親を亡くして、身寄りが父親しかいない上に、母親が貴族の妾の立場で本妻や異母姉に疎まれるのは、彼女の所為ではないし理不尽な事だと思う。


 だけど、優しい父親と母親は違うが優しく接してくれる兄がいて、学校に通ったら親身になってくれる男性がいる。

 そして、無口で無愛想だけど、優しくてちょっと天然入ってる宮家の御曹司に愛を請われる存在って……


「むしろ幸運過ぎだろ。どんだけ前世で徳を積んだら、そんなに人生イージーモードになれるんだよ!!」


 ああ、やっぱり私、百合子嬢が大嫌いだ。羨ましいし妬ましいし、憎らしい。

 だってあの子がニッコリ笑っただけで手に入るものを、私はどんなにお金を使っても、どんなに努力しても手に入らない。


「ストーリーはフワッフワのスッカスカで、ご都合展開。主人公を害する存在は徹底して許さない……どんだけクソ漫画だよ」


 一人きりだから、昔のようなお嬢様言葉で話すことも無くなった。どんどん口が悪くなってるな。

 幸せな家族の姿がある窓越しの景色から、無理矢理視線を外し、塾の課題のプリントを黙々と解いていった。






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