あのひとはミステリアス
お待たせしました!!
初オトモダチをゲットして、意気揚々と玄関のドアを開けた。
……青柳さんが居ました。
「うわぁっ!!めっちゃカッコいい人~。あっ、でも私はショータの方が……」
私の後ろにいた朱音さんがヤツをべた褒めした。……ルックスはいいけど、ソイツ性格悪いよ。
しかし、イケメンを見た後でも笹森君への愛は揺るがない所、すごく好感が持てる!!朱音さんとも友達になりたいけど……今は無理か。
私に殺人光線を浴びせる朱音さんに、少々しょっぱい気持ちになる。笹森君は尊敬出来る人だけど、恋愛感情はまた別だからなぁ。
青柳は朱音さんに向けて、私が見たこともないくらいの優しい微笑みを浮かべた。ちょっ、まさか、アンタのストライクゾーンって……え?ロリコ……
「違いますよ。悍ましい勘違いしないで下さいますか?」
こっ怖ぇ~……、神狗って読心術使えるの?
私の心を読んだかのように、ズバッとツッコミを入れてきた青柳は、朱音さんと彼女の後ろにいた笹森君に頭を下げた。
……他所行きの青柳さんモード全開である。
「笹森様、ご挨拶が遅れてしまいまして申し訳ありません。私、花園家で執事をしております、青柳と申します。先日は梅子お嬢様を助けて頂きありがとうございました。本来ならお嬢様のお父上である伯爵がお伺いするべきなのですが、生憎多忙な身の為、執事である私が名代として御礼を申し上げに参りました」
「え?そんな大層な事はしていませんのでお気になさらないで下さい。殆ど別の人間が対処しましたので、御礼はそちらに言って下さい」
「いえ、傷の手当てをして頂いただけでなく、夕食もご馳走になったとか。十二分によくして頂きました」
……何か青柳が優しいのが怖いんですけど。相変わらず私には慇懃無礼な態度を崩さないのに、笹森君たちには好青年モードが発動している……いや、好青年モード見たこともないけどな。
ドン引きで青柳を見ていた私の背中を叩いたのは朱音さんだ。青柳と笹森君に聞こえないようにコソコソと話し掛けてきた。
「何々!?あんた本当にお嬢様なの?ショータに近付きたい為に、お嬢様ぶってるとかではないのよね?」
「何そのまだるっこしいアプローチの仕方!?」
ジーサス!!私、そんなに電波っぽい雰囲気を醸し出していたのか……!!地味にショックだ。いや、原作通りなら梅子はかなり電波キャラだ。
「一応伯爵家の者です……一応」
「……何で“一応”を念押しするのよ」
「……まぁ、色々とあるもので」
「ふーん……まぁ、どうでもいいけど。あんたがどれだけショータの気を引こうとも、私は絶っっっ対負けないもんね!!」
自信満々なその態度、羨ましい。アシスタントさんが愛情込めて描いたキャラと、作者が悪意を込めまくったブサイクキャラでは、愛され具合は雲泥の差だろう。
……と、言うか、平民街ってバラエティー豊か過ぎじゃない?モブ顔に小汚ないに毛玉に超有名なキャラのパクリ擬きに……、周りは猫も杓子も皆美形な貴族社会より、余程画力がなきゃ表現できないぞ。
原作者はストーリーはクソだったけど、画力はピカイチだったからね。少女漫画家にありがちなキャラの顔が判子絵じゃなかったし。だから梅子のブサイク顔が描けたんだと思う。何でストーリーがここまでクソなのか……悔やまれてならない。
私の考えがどんどん脱線していくのは何時もの事だが、笹森君と青柳が此処まで話し込むのは予想外だった。……笹森君が基本誰にでも礼儀を忘れない人なのは、短い付き合いでも良く分かっていたけど、青柳のこの態度は無駄に長い付き合いの私にも驚きだった。……ちょっと待てよ、青柳お前、まさかショタコ……
「伯爵令嬢ともあろう人が、そんな下劣な事を考えるなど……お嬢様は、余程私を怒らせたいのですね」
怖っっっえぇぇーーー!!!!もう怒ってんじゃん!?
此方を見て微笑みを浮かべる青柳。目ェ笑ってないよ!!
私、あんたの主人の娘だよね!!何故こんなに蔑ろにすんだよっ!!パパに言い付けるぞ!!……多分鼻で笑われるだけだろうけどな!!
「……?あんた、執事より立場弱いの?」
頭に疑問符を浮かべながら、スパッと真実を言った朱音さん。はい、その通りでございます……。
「フーキなら、多分おじじの所に居るんじゃないかな?と言っても、アイツ根なし草みたいなヤツだから、何時も居る訳じゃないけど……」
「フーキさんって、此方にお住まいではないのですか?」
てっきり此処に住んでいるのかと思った。
私の言葉に、笹森君も朱音さんも首を振る。
「僕らが生まれるちょっと前くらいから、フラッと現れるようになったらしいんだけど……お父やお母も素性はよく知らないみたい。おじじの知り合いだから、変な人間じゃないのは解ってるんだけどね」
「色んな噂が流れているんだけどね~どれも信憑性に欠けるんだよねぇ」
何そのミステリアスさ!!モブに必要な設定じゃないでしょ!?
チラリと青柳を見る。コイツと知り合いって……まさか神狗だったりしないよな……。青柳に神狗仲間がいるなんて設定なかったはずだし……いや、結構設定外の事も起きてるし……うーん。
「お嬢様、何を唸っているのですか?これ以上は迷惑になりますので、早く行きますよ」
何か百貨店辺りから、益々遠慮がなくなって来てるんだけど。
私を雑に扱い、笹森君たちには丁寧に礼を述べる。いや、友達にきちんと接してくれるのは嬉しいけど。
腑に落ちない気分で、玄関を出て来てまで見送ってくれた笹森君に別れを告げて、フーキさんが居るとされる“おじじ”と呼ばれる人が住まう家へ向かった。
…………青柳さんよ、あんた付いてくるんだね。
職人が多く住まう長屋街を抜けると、先程までの喧騒が嘘のように静かな世界が広がる。
水を使う職人が多い為に、街中に張り巡らされた水路を流れる水音が聞こえるくらいだ。
私が住んでいるのは、帝都と呼ばれる所である。前世で言う所の東京で、言わばこの国の首都であり、他の地方都市に比べかなり発展しているのだが、緑も豊かな地域である。
町外れには畑が広がり、夏に実を付けるだろう作物の花が蕾を膨らませている。
そんな長閑な道を青柳と二人で歩いているのは、何だか変な気分だ。
笹森君から道を聞いていた青柳が前を歩き、私は後ろから続く。
遮るものがないので、初夏の爽やかな風が渡ってくる。歩いて少し汗ばむ陽気なので、とても心地好い。
青柳はもう解り切ってるけど、フーキさんが敵になるのは……辛いなぁ。
確実に青柳とは面識があるっぽいし、聞いてもはぐらかされたし、私には知られたくない関係なのかな……え?もしかして……いやいや、そういう嗜好の方がいるのは知ってるし、いや、あの、身近にいるのはちょっと驚く……。
「いい加減にその腐った考えを止めてくれませんかね、お嬢様」
えぇぇ……。背中に目があるの?『愛憎の華』って超能力系の漫画だっけ?
「全部声に出てるんですよ」
え、マジで?
因みに、前世や神狗なんかの事は聞こえていないと言うご都合展開(笑)
梅子以外がこの世界が少女漫画だと知ると、本筋から脱線するしややこしくなるので、知る人はこれからも出てきませんので、悪しからず。
……と言うか、梅子は自分が思っている以上に顔に出るタイプなんで、解りやすいってのもあります。
『愛憎の華(笑)』は超能力系の話ではありませんので、ご安心下さい。




