スタートライン
ちょっと短めです。
取り敢えず玄関先でもなんだから……と言うことで、笹森君にお家に上げてもらった。朱音さんの殺人光線(視線)が痛いのだが……。そんなに媚を売ってるように見えるのかなぁ?
前回は勝手口から入ったので、台所を通り抜けたのだが、今回はダイレクトに居間に入る事が出来た。……今考えれば、初対面の人の家の台所に入るって、失礼だったな。
居間の卓袱台の前には、この前と変わらず笹森君のひいお祖母さんが、にこにこと笑顔で座っている。すごく和んでしまう光景だ。
仕事なのか、他の大人の人たちは見掛けず、弟さんたちもいない。
……代わりに自分と歳の変わらない男の子が二人いた。
一人は坊主頭に半袖短パンの如何にもな“漫画に出てくる少年”で、坊主頭があの日曜夕方に放送されている、国民的海鮮アニメの長男を思い出させる。眼鏡の刈り上げヘアーの友人が野球するのを誘いに来るのだろうか。
もう一人は、如何にもなガキ大将な少年だ。またか……、ルックスが、あの国民的ネコ型ロボットアニメに出てくる、音痴なガキ大将だ。映画になるといい奴になるアイツにそっくりだ。
ちょっ、アシスタントさん!!めちゃめちゃパクってますがな!!
モブを描くの面倒だったのかと、ツッコミを入れたくなるくらいのそっくりさだ。著作権侵害で訴えられないのか!!
……あ、でも原作では平民街は出て来ないからセーフか。
しかし、原作の外である平民街の人物たちは、完全にオリジナルなのだと思っていたが、偶然にしても前世にある既存のキャラに似た人物がいるのは……やっぱり原作に関係あるんだろうか。
「花園さんごめん。今友達が来てて……」
私が黙り込んでしまった所為で、笹森君が気を使ってしまった。
私が連絡もなしに勝手に来たので、謝る道理は全くないのに……優しいなぁ。
あっ、勿論恋愛感情ナシですよ!!だから朱音さん睨まないで!!
「謝らないで下さい。こちらが連絡もせずに来たのが悪いんですから。お友達が来ているのに上がり込んでしまってごめんなさい。直ぐにお暇させてもらいますね」
流石に図太い私でも、友達同士で楽しく遊んでいる所に居座る程、空気読めない事はない。しかも、二人は怪訝そうに私を見ている。……どう見ても好意的ではない。
これが百合子嬢だったら、モブ男子なんてあっという間にオトしそうだ。美少女はお得だよな、こういう時は。
「あ、これ、お茶とお菓子の詰め合わせなんだけど、良かったら皆さんで召し上がって下さい」
「え?そんな気を使わなくていいのに……こんなに沢山、貰えないよ」
……やっぱり多かったか。でも、青柳のイチオシの肉の塊よりはいいと思う。
笹森君と私で押し問答みたいになりかけていたら、にこにことしていたひいお祖母さんが口を開いた。
「翔太、貰ってやりなさい。貰い過ぎたと思ったなら、その分ゆっくり返して行きなさい。縁が生まれて、これで終わりと言うことでもないのだから」
おばーちゃあああんっ!!
叫び出さないようにするのに苦労したよ!!
前回からそれとなく優しい言葉を掛けてくれる、ひいお祖母さん。
……私の様子から、何となく家庭環境解ってるんだろうな。
嬉しいけれど、申し訳ない。恥ずかしい。情けない。
色んな感情が鬩ぎ合う。他意の無い優しさに慣れてないので、どう反応していいか分からない。
……こう言った感情、私が子どもらしくないからだろうか。それとも、あの家庭環境の所為なのだろうか。
にこにこと笑うひいお祖母さんを見つめる。私には祖父母と呼べる人が一人しかいない。母方の祖父……諸悪の根源である糸敷侯爵だけが存命であり、侯爵夫人であった祖母は母が小さい頃に亡くなり、後妻である現在の夫人とは面識はない。父方の祖父母も私が小さい頃に亡くなっている。
……朧気に祖父母たちには可愛がってもらっていた気がする。私の名前も父方の祖父が付けてくれたし。侯爵も昔はよく屋敷に来てくれたみたいだけど、父方の祖父母が事故死してからはめっきり来なくなった。噂では、後妻との間に子どもが生まれたからだとか何とか……。それがなくとも、父との折り合いも悪いだろうから、いずれ疎遠になっているだろうな。
「……うん。そうだね。ひいばあの言う通りだね」
少し照れたように笑う笹森君は、頑なに受け取ろうとしなかった紙袋を、私の手からそっと受け取る。私は咄嗟に反応出来ずに、呆然と笹森君を見つめた。
「花園さん丁寧にありがとう。もし良かったらまた遊びに来てよ」
社交辞令ではない心からの言葉に、過去に消えてしまった孤独な梅子が泣いているような気がした。
恐らく私が歩む道は平坦ではない。生まれからして望まれていなかったのだから。
だけど、不思議と心が穏やかだ。誰からも疎まれた挙げ句に、あっさり死んでしまうよりは絶望はない。
……此処からなんだ。やっとスタートラインに立った。
花園梅子、十歳。
伯爵家の第二子であり、侯爵家の孫でもある。
見目は宜しくないし、学業はどうあっても凡庸。運動神経に至っては最悪である。
長年人と距離を置いていた所為で人脈はゼロで、友人と呼べる人も信頼できる人すらいない。
家庭環境は最悪中の最悪で、存在を疎む父親と無いものとしている母親、父親を倣って邪険にする兄、全てから愛されている何もかも違う異母妹。
これが、『現在の私』である。
此処から原作に抗い、道を切り開いて行くのだ。
まずは、一つ。
友人になれるかもしれない、優しい少年の厚意に甘えてみよう。
「そう言って頂けると嬉しいです。是非とも私と友達になって下さい」
口角を上げて、笑う。
例え不細工でも笑顔は大切である。
……あの、友人以上の関係になるつもりはないんで、その殺し屋のような目付き止めてくれませんかね、朱音さん。
やっと此処まで来た!!
今回は空気だったんですが、パクりキャラ的な笹森君の友達はまた登場します。
梅子は今まで人付き合いと呼べる程の事をしてきていないので(杏子&苺花は祖父関係なんで、純粋な付き合いではないです。)、非常に不器用に展開して行きますが、暖かく見守ってやって頂けると嬉しいです。
次回は小汚ないヒーロー・フーキさんのターンです。
またまた新キャラ登場しますよ!!




