梅子、同年代の女の子に恐れを抱く
笹森君の家へレッツゴー!!編です。
新キャラ登場です。
翌日。土曜日なので、学校は休みだ。
……舞台は大正時代くらいに設定してるのに、週休二日制なのか。ゆとり世代なのか。
しかし、昨日は濃い一日だった。百合子嬢とランチ、父親との一戦、毛玉のカウンセリング、青柳とショッピング……何だこの乙女ゲー並のイベントの数々。
今日も濃い一日になりそうだけど、昨日みたいな精神的なプレッシャーは感じないはずだ。
パジャマからモスグリーンのワンピースに着替える。初夏ならもっと明るい色や淡い色がいいかもしれないけど、ぶっちゃけ似合わないし持っていない。嫌いじゃないんだけどね。アクの強いブサイク顔には似合わないのだよ。
モスグリーンのワンピースは、十歳にしては少し大人っぽいデザインで、Aラインではなく身体のラインに沿った造りになっている。
……梅子って、こんなスタイル良かったのか。
姿見に映る自分の身体を見て唸ってしまう。首から下は完璧な女性の体型だ。スラリと長い手足と、柔らかな曲線を描く肢体。
原作の梅子はガリガリで女性の魅力とは程遠い体型をしていた。実際八歳までは、毒の影響で原作通りのガリガリだった。これは元のポテンシャルが高いと言うことだな!!
首から上の顔立ちも、青白く隈がくっきり浮かんでいた死人のような感じから、つるつる美肌のブサイクへランクアップした。……ランクアップ……なのかどうかは分からないが。少なくとも明るい雰囲気になったのはプラスだろう。ソバカスも薄くなったし、中学校からは化粧をしてみてもいいかもしれない。流石に小学生からメイクするのは、エステティシャンのお姉さんに禁止されたが。
「しかし、癖毛はどうにもならんなぁ……」
アイロンドライヤーなんて便利な物がないので、うねる髪の毛はどうしようもない。ブサイクな所だけ母親から受け継いで、あのサラサラなストレートヘアーは受け継がなかった。このうねり具合は父親側の特徴だ。嫌すぎる。
いつもはきっちりおさげにしているのだが、今日は下ろしたままにしておく。服と相まって大人っぽい感じになった。
いつもと違う髪型の私を、青柳は怪訝そうに見ていたが何も言わなかった。オイ、そこはお世辞でも『お似合いですね』くらい言えや。
今日は平民の暮らす街まで送ってもらう。本当は一人で行きたかったのだけど、父親の命令なのか許可が下りなかった。クソッ!!
既に瘡蓋になりつつある膝の怪我は、もう痛みもないのでガーゼは付けていない。ワンピースの裾で膝は隠れるので、人には見えないから大丈夫だろう。
馬車の窓から見える景色は、休日を楽しむ人たちでいっぱいだった。家族、友達、恋人……みんな笑顔だ。
そう言えば、私は休日に出掛ける事はあんまりない。出掛ける時は習い事の時くらいなものだ。勿論友達からのお誘いなどないし、パーティーにも行ったことはない。……行った所で、物凄くディスられるか、または一部の人間に媚びを売られるか……どっちにしろ愉快なものではないだろう。
今までもそしてこれからも縁のない世界だ。勝手にやってくれ。私は平民の街で交友関係を広げるんだ。
馬車が笹森君の家がある職人の町に差し掛かった所で停めてもらう。お礼の品の入った紙袋を持って一人で降りた。青柳は付いて行くと言ったが、私が頑として譲らなかった。この町では原作キャラとは居たくない。
町に並ぶ家からは、相変わらずもうもうと白い煙が上がっている。職人の人たちは基本決まった休みはないらしい。注文の品が出来上がるまでは休めないみたいだ。
笹森君の鍛冶屋を見付けて、迷ったが正面から入る事にした。
「ごめんください」
「はーい。いらっしゃいませ~」
……んん?
家の奥から女の子の声がした。“女性”ではなく、“女の子”の声だ。
確か笹森君は兄弟は全員男だったし、もしかしたら親戚の女の子が来てるのかな?
パタパタと軽い足音がして、磨り硝子の引き戸が開き、同じ年頃の女の子が出てきた。
「はーい。もしかして注文ですか?でしたらこちらにどうぞ~」
ボブカットの小麦色の肌をした女の子は、ニコニコと愛想の良い笑顔で話してきた。百合子嬢のような全ての人を魅了する美貌の持ち主ではないが、猫のようにくるんとした瞳は、十分な愛らしさがあった。
「いえっ、注文ではなくて……あの、笹森翔太君はご在宅ですか?」
取り敢えず、笹森ファミリーで一番お世話になった笹森君を呼んでもらおうと、猫目の女の子に言った。
「……ハァ?あんたショータのなんなの?」
「へぇええ~~!!!!」
すると、先程まで笑顔だった女の子が、ギロリと睨み付けながらドスの効いた声に豹変した。
そのあまりにもな豹変っぷりに、またしても変な声が出た。
「見たことない顔ね……あんたどこの学校?ショータとはどんな関係?まさか付きまといじゃないわよね!!」
ジロジロ見られながら、謂れのない罪を問われてしまう。何この子怖い……。
私が恐怖に震えているのに構わず、女の子はベラベラと喋り続ける。
「確かにショータって一見地味で目立たないけど、頭いいし運動神経もいいし、それに優しいし……だけどね、あんただけに優しいんじゃないわよ!!誰にでも優しいの!!勘違いしないでよね!!」
「ハイ……存じております」
「分かってるんなら何で家まで押し掛けるの?本当迷惑よ!!とっとと帰んなさいよ!!」
何かすごい誤解されているんだけど、訂正を入れようものならまた何か言われそう……。別に笹森君のストーカーじゃないのに。
「朱音何騒いでるのさ……って、花園さん?怪我はもういいの?」
天の助け!!家の奥から笹森君が出てきて、私を見てびっくりしていた。……驚きながらも怪我を気遣うなんて、貴方は聖人ですか。
「笹森君、先日のお礼に伺ったんですけど……フグッ!?」
「やだぁ~ショータの知り合いだったの?ゴメンねぇ~」
口を物凄い力で塞がれながら、目の奥が笑っていない女の子は、私にだけ聞こえる声で『私が言った事、ショータにバラしたらコロス』とドスの効いた声で言われた。笹森君にはきゅるんとした可愛い声で喋っていたのに怖い……。
「そんな良かったのに……朱音、何やってんの?」
「いやぁ~ショータに女の子の知り合いがいたって知らなかった~紹介してよ」
痛い痛い!!ギリギリと力を込められる。笹森君よ、怪訝そうに見てないで助けて下さい。
「知り合いって程じゃないけど、一昨日怪我をして困っていたから手を貸しただけだよ。……てか、そろそろ手を放してあげなよ。何でそんな事してるのさ?」
ガチムチなオッサンに襲われた事には触れないでいてくれてありがとう。だけど、今の体勢についてはもうちょっと早く言って欲しかったよ。
涙目でコクコク頷く私に、流石に不審に思った笹森君が女の子に言うと、直ぐさま手を放してくれた。……鼻を塞がれてなかったけど、顎が砕けそうなくらいの力だったから、苦しかった。
「そうなんだぁ~誤解してゴメンね~」
この子、どうやら笹森君が好きみたいだけど、スゴい変わりようだ。恋する乙女って怖い。
絶対ヤンキー入ってるよ、この子。ドスの効いた声に年季を感じるもん。
「朱音がごめんね。こいつ、幼馴染みで兄弟みたいに育ったから、よく家に遊びに来るんだ。男と一緒にいるから力加減が分からないみたいで……大丈夫だった?」
笹森君んんっ!?優しくしてくれてありがとう!!でもその優しさ、今は凄く要らない!!貴方の幼馴染みがすっごい顔で見てくるんで!!
―――後に大親友となる松原朱音とは、こうして出会ったのだった。
学校の休日について少し調べた所、明治・大正時代は土曜昼から日曜終日までが休みだったみたいです。完全な週休二日制になったのはここ十数年くらい前なんで、それまではこの休みの体制が続いていたんですね。
さて、新キャラの朱音ちゃん。梅子や百合子とはちょっと違ったタイプの女の子です。これからちょくちょく登場しますんで、よろしくお願いします(^^)




