煎餅かクッキーか、それが問題だ
お待たせしました!!
青柳とウキウキウォッチング(違)です。
「うーん……」
あの後、毛玉先生からカウンセリングの詳細を聞きたがっていた青柳を引き連れ、病院を後にした。馬車内で終始不機嫌だったが、無視してやった。私のプライバシーに関わるんだから、先生が言わないのは当然だろうが。
そして現在。最近出来た百貨店の贈答品を扱うフロアーで、私は悩んでいた。
何を悩んでいるのかと言うと、笹森ファミリーへの御礼の品である。
消えものである食べ物系にするのは決まっているが、問題は何にするべきかだ。
何せ笹森ファミリーは年齢層が広い。ターゲットが絞れないのだ。
この世界の平民には珍しいクッキーなどの洋菓子にすれば、子どもたちには好評かもしれないが、甘いものが苦手だったり、馴染みがない洋菓子に抵抗がある大人たちもいそうだ。
馴染み深い煎餅にすれば、大人子どもも喜んでくれそうだけど、高齢である笹森君の曾祖父母には硬いかなぁ……間取って大福とか饅頭とか柔らかいものにすると、賞味期限が……うーん。
「何を悩んでるのですか」
小一時間程うんうん唸っていたので、青柳が呆れて声を掛けてきた。
「煎餅かクッキーか、それが問題だ」
「何、阿呆な事を言ってるんですか」
超有名な台詞を阿呆みたいに捩った私に冷静に突っ込む青柳。……お前、益々私に遠慮なくなってきたな。
ふと、ほんの少しの興味もあり、青柳に尋ねてみた。
「青柳は、ほぼ初対面の人間から御礼の品に何を貰ったら嬉しい?」
私の質問に怪訝そうな顔をしていたが、私が真顔でいたので少しは考えてくれる気になったのか、顎に手をやって辺りを見渡す。
「私は……あんな物を頂けたら嬉しいですね」
「へぇ~どれど……」
やけにキッパリと言い切ったので、完全に素のままで青柳の目線の先に目を遣った。
そこには、巨大な肉の塊があった。
「ほぼ初対面の貴族の令嬢から、あんな肉の塊貰ったらビビるわ」
青柳よ……見た目に反して肉食系男子だったのか。あの肉の塊、五キロはありそうだぞ?思わずツッコミを入れてしまった。
「そうですか?私だったら変に小洒落た菓子折りを貰うより、こっちの方が嬉しいのですが」
「いやいや、確かに肉の塊は喜ばれるよ?体力勝負な鍛冶職人の家だし、男性が多いしね。……でもね、何かこう……分かんないかなぁ?女の子としては肉の塊はちょっと……」
「ステーキだけでなく、煮込み料理にも使えますし、料理の幅を狭める事はないと思いますが」
「だからそう言う事じゃないんだってば!!分かれよ!!」
青柳お前どんだけ肉の塊プッシュだよ!?天然なのか?
私にだって女の子としての恥じらいがあるわ!!肉の塊ドーン!!って……ちょっと恥ずかしいじゃないか!!
やっぱり女の子としては、見た目が可愛いモノを贈りたいじゃないか。……まぁ、独り善がりだけどさ。そりゃ肉の塊や漬け物セットが喜ばれるよ。分かってるよ!!だけどね、私、女の子なのよ!!
ブツブツ言いながら青柳の案を却下したら、今度は鶏の丸焼きを推薦して来やがった!!肉食系が!!
「だったらお嬢様、これはいかがですか?」
それから約一時間、青柳の謎の肉プッシュを躱していたら、埒が明かないと青柳が薦めてきたのが、煎茶のセットだった。
煎茶と茶筒とお菓子の詰め合わせで、お菓子もザラメの付いたものや食紅で色付けされた鮮やかな薄焼き煎餅で、見た目にも綺麗。
そして茶筒も、綺麗な柄の和紙に可愛らしいタッチで描かれたウサギが跳び跳ねており、長く使えそうなシンプルさがあった。
「うーん……可愛らしくていいけど、お茶は子どもたちには喜ばれないかなぁ」
色とりどりの薄焼き煎餅は綺麗だけど、食べ盛りの男の子を満足させるのには量が足りない。
やっぱり肉の塊かぁ……と、青柳の肉プッシュに屈しそうになっていた私に、青柳は呆れたように言う。
「別にお子様に合わせなくてもいいのではないですか?お嬢様の話を聞く限り、お世話になった方は笹森様とお母様が主だったのでしょう。ならば、その方々が喜ぶもの……こういう時は女性が喜ぶものの方がいいでしょう、対象を絞って考えた方がよろしいと思います」
良い煎茶やお菓子は、お客様にも出せますしね……と、淡々と説明をした青柳に、成程と思う。
笹森君のひいおばあさんが言ってた事を思い出す。商いをしてる所為か笹森家は来客が多いらしい。ご近所付き合いもあるみたいだし、お菓子とかは沢山頂いてそうだ。
ならば、自分では買わないちょっと良いものを渡した方が喜ばれるかもしれない。
ひいおばあさん……お茶をよく飲んでるみたいだしなぁ……。
「……どうしても気になるのなら、もう一つ菓子折りを買えばよろしいと思いますが」
「いやだって、高価だったり大量にだと、却って迷惑にならない?そんな事の為に助けた訳じゃないのに、相手の善意を無駄にするような気がするし」
「お嬢様は気を遣い過ぎだと思いますよ。助けてもらって嬉しかったから、皆様に御礼をしたくて量が多くなったのだとしたら、相手の方も解るでしょう」
えぇぇ~……そういうものなの?
こういう御礼の品とか渡すの初めてだから分からない。多分前世でも、友達同士ではあったかもしれないけど、知り合いではない人には渡した事はないはずだ。
……それに、あのパッパラパーな原作者を見ていれば、前世の常識がこの世界の常識とは限らない。
「じゃあこうしましょう。こちらが『昨日はありがとうございました』で、こちらが『これからもよろしくお願いいたします』にしましょう」
そう言って、青柳は先程選んだ煎茶のセットと、和菓子と洋菓子のセットを指差した。ウジウジ悩み続ける私に埒が明かないのだろう。
煎餅とクッキー、どっちとも入ったアソート。これの選択肢忘れてたわ。
結局、笹森ファミリーへの御礼の品は煎餅とクッキーのアソートと、全く選択肢に無かった煎茶と紅茶のアソートとなった。……青柳すまん。
笹森ファミリーとは別にもう一人、フーキさんへの御礼の品はどうしよう。
大人の男性にお菓子類やお茶は何か違うし。お酒とか考えたけど、下戸かもしれないし……また私はウジウジ悩んでしまう。
フーキさんは、笹森君以上にデータが少ない。
長身!!激強!!小汚ない!!以上!!……こんな時こそ青柳プッシュの肉の塊とか……、いや、女子力養わなくては……。
石鹸とかにしたら怒られそうだな。薔薇の香り石鹸を手に取りながらニヤ付いていると、青柳に不審者を見るような目をされた。ブサイクがニヤニヤしてたらキモいか、そうか。
ふと目に止まったのは、血のように緋い生地に黒檀のような黒色の花が描かれている着物。その派手な色使いや婀娜っぽい柄からして女物かと思いきや男物だ。現在の神皇が好んで着てたモノが、今流行っているらしい。
……前世の知識を持ってる身としては、この緋色の着物は遊女を思わせる。そりゃ成人式の振り袖でも赤色はあるけど、それとは全然雰囲気が違うんだもの……この着物。
しかし、一見したら女物だと思わせる着物を好んでいたなんて……神皇は随分と傾奇者なんだな。
私の視線につられるように、青柳もこの緋色の着物を見る。その視線は静かだが、何処と無く冷たく硬いような気がする。
本来の主人だもんな……何も思わない訳ないか。
原作の神皇は終盤にチョロッと出るだけのキャラだ。まぁ、レンレン以上のチートキャラっぽいから、レンレンの都合上そんなに出番作れなかったんだろう。
顔……どんなんだったか。レンレンの実兄だからイケメンなんだろうけど……思い出せない。
「お嬢様、流石にこれを御礼の品には出来ませんよ」
着物を見ながらウンウン唸っていたから、私がフーキさんにこの着物を贈ろうと悩んでるように取られた。それくらい分かってるよ!!
ああもう!!また脱線した。いい加減この癖直さないとな。
今は神皇の顔よりフーキさんへの御礼の品だ。
「お嬢様、これは如何ですか?すっきりとした飲み口で今人気らしいですよ」
そう言って青柳が差し出して来たのは、瑠璃色の切子硝子の瓶に入った清酒だった。
美しい細工の瓶は光を取り込み、キラキラと輝いている。成程、贈り物としてはとても良い品だと思う。
「でも下戸だったらお酒は迷惑じゃない?」
データ不足でフーキさんがお酒がイケるクチなのかも分からない。お酒好きの友達にでもあげてもらってもいいけど、フーキさんへの御礼だからなぁ~。
そんな私の心配を無駄だと言わんばかりに青柳は言う。
「その辺りの心配は無用ですよ。蟒蛇のように呑む奴ですから」
…………んん?
青柳、お前フーキさんと知り合い?
親しくない人への御礼の品って困るよね~編終了です。
私もよく悩むので、結局お菓子の詰め合わせにします。……一番無難ですもんね。
次回は翌日になり笹森君の家へ向かいます。……やっとここまできました。




