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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
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薔薇と梅と 3

後半戦だよ!!


 

 部屋に入る前に投げられた賽は、出た目を見ることもなく踏み潰した。

 ……カッコつけて“賽は投げられた”なんて言ってみたけど、マジ帰りたい。


 現在の悪役令嬢な梅子さんの状況は、ピンチ&ピンチだ。頭悪い表現ですまん。

 全然出来てない、作成しよっかなぁ~と思っていた程度の、不確かな切り札を切ったら、ラスボスなお父様の周りの温度が氷点下になったでござる。ざまぁみろと溜飲を下げたのも束の間、段々恐怖が湧いてきました。当たり前だよね!!ラスボスだもん!!

 父親の視線も痛いが、『コイツ、冗談はそのブサイクな顔だけにしろや』な視線を投げ付ける青柳さんの表情も居たたまれない。私の心臓のドラマーが、ドラムセットごと大回転してる……ちょ、荒ぶらないで!!

 私が心臓のドラマーと格闘していると、周りの温度を氷点下に下げた父親が、口を開いた。


「ほう……何の後ろ楯のないお前が、貴族籍を返上してどうする?平民の暮らしは貴族よりも厳しいぞ」


 はい、図星です。私は家族には恵まれなかったけど、その分金はめちゃめちゃ使わしてもらった。貴族令嬢としてはそんなに使ってないだろうが、平民の娘としてなら数年分を一度に使っているはずだ。はっきり言って金銭感覚は馬鹿になっている。

 貴族籍を返上となれば、当然実家である花園家や母方の糸敷家の後ろ楯もなくなる。そんな中、社会経験もない金銭感覚が馬鹿なブサイクが、生きていけるはずがない。普通に考えれば、甘い考えだと分かる。

 だけど、折れるワケにはいかない。


「た、確かにお父様のおっしゃる通り、平民の暮らしは私には厳しいと思います。ですが、私が貴族で在り続けるにも厳しいものがあります。私はこんな容姿ですし、結婚は出来ないと思います。そんな私が花園家に何ら利益を生むこともないですし、却って醜聞が立つに決まっています。ですから、早いうちに自立したいと考えているのです」


 長期戦で臨むつもりだったので、まだ誰にも言っていないプランだ。これだけは譲れない。

 梅子が母方の実家の陰謀に巻き込まれ、獄中死するエンディングだけは避けたい。それに、父親の元で飼い殺しな人生も嫌だ。ならば、早々に自立するプランを立て、貴族の世界から遠退いておいた方がいいと思った。

 本当は中等部進学の際に言おうと思ったのだが、まさか父親が百合子嬢との接触を認めるとは考えていなかった。


 私の話を静かに聞いていた父は、再びソファーの背に凭れて溜め息を吐いた。……めっちゃ呆れたようにだ。


「確かに、道理にかなった理由だろう。……だが、どうするつもりだ?学校で商業を勉強したくらいで就職出来る程、女性の雇用比率は高くないぞ」


「はい。ですから、今から少しずつ平民の生活を学んで行きたいと思っています。なので、私が電車通学する事や職人街などの平民居住区に出入りする事をお許し下さい。勿論、遅くなりそうでしたら馬車を呼びますし、危険な場所には立ち入らないようにします」


 私は我が儘にも、笹森君の家族の人たちとの繋がりを一度きりにしたくなかった。

 家族に見向きもされなかった私に、何の見返りもなく手を差し伸べてくれた優しい人たちとの繋がりを大事にしたかったのだ。

 私が唯一原作に縛られない場所。……そこに私は居たいのだ。


「これは私の我が儘です。平民と交流することは、これから貴族として生きていく百合子さんには必要のない事です。だから、私は百合子さんと一緒には通学したくないのです」


「……」


 代替え案とは言えないけど、理由としてはそこまでおかしくない……と思う。貴族から平民になるなら、下調べとして、暮らしぶりや文化なんかに触れる方が馴染みやすいはずだ。

 ……出来れば笹森君とは友達になりたい。短時間でも理性的で優しい人だと分かったし、貴族の令嬢だからと言って変に(へりくだ)る事もなかったのが嬉しかった。


「……そこまで言い訳を並べて、百合子と通学したくないのは解った。だが、平民の居住区への出入りを許可するわけにはいかない」


「な、何でですか!!」


「昨日の事を忘れたか?今回は変質者だったが、平民の中には貴族というだけで嫌う者もいる。貴族の娘だからと言って騙して金をせびる者もいる。十歳の娘がおよそ理解出来ないくらいの悪辣な輩を、果たしてお前は見抜けるのか?」


 正論だけど、お前が言うな!!最大のブーメランだよ!!

 生まれ落ちてから今日まで、散々あんたの悪意に晒されて来たよ!!

 ……確かに私は暴力には無力なお子様だが、悪意を見抜く目はそこらの貴族の令嬢より持っている。


「それもまた勉強の一つです。平民になろうとしているのですから、理不尽な差別や悪意を逃れられない事は覚悟しております。……貴方へ泣き付く事はありませんのでご安心下さい」


「お嬢様!!」


 うっせぇ!!青柳。段々ムカムカして来た。

 何で私ばっかビクビク遠慮しなきゃなんないんだ?

 兄も百合子嬢も伸び伸びと暮らしているのに、何で私だけ父に押さえ付けられないといけないんだよ!!


「私は貴方からの愛情や信頼や期待……子どもとして与えてもらえるもの全て諦めました。少しでも罪悪感があるなら、自分の将来を選択できる権利くらい下さいませ。」


 本当全然似ていない、美しい顔を睨み付けながら言った。

 この人と私は父娘なんだろうけど、決して交わることのない線同士なのだ。改めて思い知らされた。


「お嬢様、落ち着いて下さい。それは些か早計です。よく考えて下さい」


 今まで成り行きを静観してきた青柳が割って入る。父親と私は微動だにせず対峙している。


「よく考える?考えて考えた末の結論よ。誰にも必要とされないなら、居る意味ないじゃない。だから私はこの家から出たいのよ」


 よく言うよ。あんたら使用人も散々蔑ろにしてた癖に。


「……平民の居住区こそが、お前の居場所なのか?」


 今まで黙っていた父が、口を開く。相変わらず何を考えているか解らない表情だ。琥珀の瞳が私を映す。


「……それは解りません。お父様の言う通り生きにくい場所です。もしかしたら、別の……それこそ外国にあるのかもしれませんし、何処にもないのかもしれません。私は、ただ鬱々と人生を終えたくありません。私の存在を厭う人がいても、私の所為じゃないし、蔑ろにされたままでいたくないです。……私は、自分の可能性を知りたい」


 言葉にした途端、胸につかえていた蟠りが晴れたような気がした。

 そうだ。私は、漫画の登場人物、主人公の引き立て役じゃない。

 “花園梅子”と言う、生きている人間だ。

 ずっと、漫画のストーリーに沿った考えで、死亡フラグを回避しようと四苦八苦してきたけど、ストーリーなんて考えなくてもいいんだ。

 私は、自由に生きる権利があるんだ。





 ……あれ?お父様が見たこともない顔をしてらっしゃる。

 何か一人で勝手に一皮剥けた感じになっていたけど、お父様の反応がないのに驚いてたら、お父様も驚いていた。

 うっわ……レア過ぎて怖ぇ。


「旦那様、私に任せて頂けないでしょうか?」


 沈黙している父に、青柳が話し掛ける。……見事な手の平返しデスネー。


「お嬢様が平民の居住区に滞在中は、護衛を付ける事にしてはどうでしょう?私の知り合いにそういった事を生業にしている者がおります。その者に掛け合ってみますので、暫くはお嬢様のお好きなようにさせてあげたらいかがでしょうか?」


 ……な、何企んでるんだ?陰険鬼畜執事。怖いよ……。


「……好きにしろ」


「ありがとうございます。では、早速連絡させて頂きます。……お嬢様」


「あ、はい」


 え?え?これはどういう事?

 結果的には、百合子嬢とラブラブ通学阻止あーんど私の平民居住区見学の許可が出たって事??

 何だかよく解らないまま、青柳に促されて席を立つ。

 青柳に続いて執務室から出ようとしていた時だった。


「梅子」


 不意に、名前を呼ばれて固まってしまった。


「……知り合いのカウンセラーに話をしてある。この後すぐに病院に行きなさい」


 こちらを振り返りもしない。暖かみのない平坦な声なのに。


「…………はい」


 声が震えてしまった。





 名前を呼ぶな。

 …………優しく、するな。

 どうしたらいいか、解らなくなるから。

vsお父様編、取り敢えず終了です。

超展開&消化不良な所もありますが、ご容赦下さいませ。

お父様との対決はこれで終わりじゃありません。

年齢を重ねるにつれ、また対決する事となります。ここで消化不良だった点も、徐々に補填していくつもりです。



因みに梅子さんの心臓のドラマーのイメージはL○NA SEAの真○氏です。

更に激しくなると、X J○PANのYOS○IKI氏に変貌します。

熱いビート云々は、友人が元ネタです(笑)


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