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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
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薔薇と梅と 2

みんな~!!大嫌いなお父様の出番だよ~!!


例によって不快になられる方が沢山いらっしゃると思いますが、あまりキツいコメントはご遠慮願いまする(*-ω人)

…私の気持ちが折れて執筆に影響するので(豆腐メンタルすいません)、出来ればお父様サイドが終わってからでお願いします。

 

 多分前世で有名だったゲームのものだろう、先程から脳内でオドロオドロしいBGMが絶えず流れている。まるで何処かのダンジョンへ行くかのようだ。

 この飴色よりまだ濃い色の扉を開けると、BGMは変わって緊迫感溢れるものになるに違いない。


 現実逃避したいくらい怖い。だって扉の中にはラスボスがいるのだ。レベル1の村人以下な戦闘力皆無の悪役令嬢が敵うもんか。ガンガンと警鐘が鳴っているんだよ!!

 ……逆ギレしても仕方ないのだが、そろそろ青柳の不審な者を見るような視線が痛い。


 すぅ……っと、息を吸い込んで緩く吐く。心臓は熱いビートを刻んでいるし、背中は冷や汗が伝っている。

 ―――父親の執務室に行くのは、あの日以来だ。

 梅子さん渾身の魂のシャウト事件以来だ。……ネーミングセンス無くて緊張感足りない。

 小さな子どもの慟哭にも心動かされなかった父親。結構トラウマになっているっぽい。いよいよソロパートに入ったドラマーが、此れ見よがしにドラムを打ち付けてきた。待って、私の心臓のドラマー!!死んじゃう!!梅子死んじゃう!!


「お嬢様?」


「ごめんなさい。大丈夫よ」


 大丈夫じゃねーよ!!

 中々入ろうとしない私を怪訝そうに見る青柳。お前見てただろうが!!私がラスボスに刃物を叩き付けてた所!!気まずいだろうが!!

 心の準備も考えの整理も全く出来ていない状態で、扉は叩かれた。


「旦那様。梅子お嬢様が来られました」


「……通せ」


 低く滑らかな声が扉越しに聞こえた。心臓のドラマーはラストスパートを掛けてきた。吐きそうだ。

 ……声を聞くのは久し振りだ。同じ敷地で暮らしているのに、何とも滑稽な父娘関係だ。

 唇が歪みそうになるのを堪えて、青柳が開いた扉の中に入る。

 ―――さぁ、賽は投げられた。




 最後に入った時とあまり変わらない室内だった。

 壁一面に整然と並ぶ本棚には、私には解らない難しげな本がびっしりと並べられている。

 窓を背にして置かれた重厚な執務机は、年季が入っているのか扉の色よりもまだ濃い茶色で、その上には書類の束が積み重なっている。

 部屋の主は、机に向かい俯いて書類にペンを走らせていた。長めの癖のある前髪が表情を隠していて、どんな顔をしているのか分からない。百合子嬢よりも色味が濃い茶色が、窓からの光を浴びて艶やかな光を放っていた。

 静かな室内には、本とインクの匂いとペン先が立てる掻くような音だけが広がっていた。


「私に会いに来るくらいだ。何か言いたい事があるんだろう」


 ペン先の動きが止まると同時に、低く落ち着いた声が響く。

 完成したのであろう書類を、束になっているものの一番上に放りながら、この部屋の主は顔を上げた。

 濃い茶色の髪に、琥珀色の瞳。

 三十代半ばを迎えただろうが、年齢より若く見える玲瓏とした美貌は、兄によく似ていた。甘く蕩けるような鼈甲飴のような兄の瞳とは違い、温度のない冷たい宝玉の瞳が私を捕らえると、すぅ……と細められた。

 ベージュ色の仕立ての良い三つ揃いのスーツのジャケットを脱ぎ、ベスト姿になっているが、品の良さは失われていない。優男に見える彼が経済界を牛耳っているとは誰も思わないだろう。……眼光の鋭さを見なければの話だが。

 ……この男が自分の父親なのだ。


 コクリ、と唾を飲み込み、息を整える。


「昨日はご迷惑お掛けしました。今後このような事がないようにします」


 会話の取っ掛かりとして、昨日の失態を謝罪した。そもそもこれがなければ、父親も百合子嬢との通学を命じなかっただろう。

 提案に異を唱えるなら、代替え案を用意する。それが出来ないなら父親は説得することは無理だ。


「……一度全てを放棄したものを、何故今頃になって取り戻そうとしているのか、敢えては聞かずにおこう。お前の行動を把握していなかったのは、保護者である私の責任だ」


 保護者……ねぇ。飽くまで“父親”と言いたくないのだろうな。

 胸の痛みと、喉元に迫り上がった怒りに気付かない振りをして、私は話を進めた。


「お父様の事ですから、私が何を言いたくて此方に来ているかはご存知でしょう。週明けからの通学についての件です」


「……ふん。話を聞こう。掛けなさい」


『社長椅子』と、この緊迫感がなかったら言っていたであろう、立派な造りの椅子から腰を上げた父は、自分の執務机の前に誂えているソファーセットを指して言った。

 様々な企業の代表をしてる関係か、父は出社している日よりもこの部屋で仕事をしてる方が多い。一社にだけ留まり仕事をするより、此処を拠点として複数の企業の仕事をした方が効率が良いのだろう。このソファーセットは主な使い道は、部下との打ち合わせと想像出来る。来客用のもの程華美ではなかったからだ。


 私と向かい合って座った父は、青柳にお茶を持ってくるように指示をして、私に視線を合わせた。

 ……父娘、と言うよりも上司部下のような気分だ。

 長い脚を組んで背凭れに身を預けた父は、私を観察するように見ていた。


「で、通学の件で何が不満だ」


「……百合子さんとは一緒に通学したくありません」


「理由を聞こう」


 あんた忘れたのかよ!!百合子嬢との御対面の時に言った事!!

 凭れていた背を離してから組んだ膝の上に肘を乗せ、掌に顎を乗せたスタイリッシュな考える人のようなポーズで、また目を細めた。……感情が読めない。


「お父様、百合子さんと初めてお会いした時に、私とお母様に仰いましたよね?『百合子に近付くな』と。何故それを撤回して、私と百合子さんを一緒に通学させようとするのですか?」


「理由は私が百合子に近付くなと言ったから……で良いのか?まずそのよう事を言った理由は、あの頃のお前は不安定で、何を仕出かすか分からなく、百合子に危害を加える可能性が高かったからだ。……それから二年、特に問題を起こす訳でもなく、寧ろ勉学に真剣に取り組み、生活態度も改め出した……しかしその矢先、一人で電車通学をしていた挙げ句に、暴行未遂事件の被害者となった……それと同じ時期に百合子が転入する事が決まった。馬車通学を薦めるのは当然の流れだと思うが?」


「私が生活態度を改めた所で、百合子さんに悪印象を抱いていないとは限らないでしょう。彼女は私とは全く違う考えの持ち主です。……私は彼女とは相容れない存在です。そんな私がいつ、貴方の大事な百合子さんに牙を剥くか……心配ではないのですか!!」


 嫌味をブチ込んで言い放った。私の生活態度を意外と把握していたのには驚いたが、それだけで何故大丈夫と判断したのか……父は阿呆なのだろうか?


 視線を逸らさないまま膠着状態となっていた所に、青柳が紅茶を持ってくる。本とインクの匂いが遠くなり、紅茶の香りが室内に広がる。

 長い指でティーカップを持ち上げ、伏し目がちに優雅に紅茶を飲む仕草は、きちんと躾けられた百合子嬢のそれよりも美しく、目を奪われるようだった。

 音もなくカップを置いてから、父は口を開く。どんな言葉で切りつけられるのか、唇を噛み締めて衝撃に備えた。


「今のお前は、悪戯に周りに当たり散らし、感情のまま振る舞うような愚かな真似をするようには見えないが?現に喚き散らす事なく、こうして私に伺いを立てに来ているではないか」


「それは……そうですけど」


 うへぇ……めちゃめちゃ理不尽な事言われてるぞ!!要するに、それくらいの気概があるなら、多少苦手な人物にも当たり障りない対応くらいしろ……と言う事なんだろう。

 十歳の小娘に、同い年の異母妹に大人な対応をしろってか!!


 原作者よ……よくこんな男をモブ扱い出来たな。原作の黒幕連中より、数倍自分勝手な暴君じゃないか!!

 琥珀色の瞳が濡れたように輝いている……コイツ、私をいたぶって楽しんでやがるのか!?大人げないな!!

 ……クソッ、正論を言っても力ずくで捩じ伏せられそうだ。経験値が足りなさ過ぎる。

 米神がドクドクいってる。私の平均値な頭脳をフル回転させるが、やはりこの手しかないような気がする。


 本当はもう少し土台が出来てから言うつもりだったけど、私の輝かしい未来の為に作成途中の切り札(カード)を使う事にする。

 そっちがその気なら、私だって暴論で捩じ伏せてやる!!


「……確かにお父様の仰る通り、貴族たる者は常に矜持を持ち、他者に本心を読まれる事が無いようにするものだと思います。特に女であれば嫁ぎ先でも不利益な事には口を噤み、夫の敵となりそうな者の妻と、腹の探り合いをしながら社交界を生き抜かなければならないと思います」


「ですが、私は死ぬまで貴族であろうとは思いません。高校を卒業しましたら、貴族の身分を返上しまして、平民として生きて行こうと考えております」


 父の周りに漂う空気の温度が下がった。ケッ、ざまーみろ!!

 此処からは梅子様のターンだぜ!!

後半に続く!!(キートン○田風に)


因みにどうでもいいのですが、お父様がベージュのスーツを着ているのは、ちょうど執筆中に月曜から夜ふかしを観ていたからです(笑)





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