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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
22/41

百合と梅と1

 

 今日の予定丸々潰れてしまった。

 あれから数時間後、私は一人部屋の机に向かいノートを見つめていた。


 物覚えの悪い私が休むと、あっという間に授業に付いて行けなくなるのは痛手だ。

 それに、下校中に笹森君の家に寄って御礼が言いたかったのだが、父親から自宅療養を言い渡された事で駄目になった。

 まぁ、昨日の今日で一人で彷徨(うろつ)くのは馬鹿だと思うし、幸い明日は土曜で休みなので、日中に馬車を呼んでちょっとだけ行くようにしたらいいかと考えた。


 ……笹森君に聞いたらフーキさんの居場所、分かるかなぁ。

 笹森君とそのご家族は、主にアフターケアでお世話になったが、あのブス専の変質者を物理的にやっつけたのはフーキさんだ。

 少女漫画には似合わない、小汚ないルックスの正義の味方。

 ……ちょいエロな青年漫画の主人公にいそうなタイプだ。


「うへへ……巨乳なツンデレヒロインといい感じなのかなぁ~」


 フーキさんを主人公とした物語を妄想してみると、結構面白い内容になってきた。

 ……て、いかんいかん!!私が思いを馳せないといけないのは、来週からだ。


 遂に百合子嬢が学園に編入してくるのだ。

 原作では、梅子とは別のクラスに編入なので学園に居る間は接点がほぼない。

 問題は行き帰りの馬車だ。何故か父親から二人一緒に登下校しろとのお達しがきた。いや本当何でだ?

 原作では二人は別々に登下校してたはず。百合子嬢は有力な貴族の御曹司(イケメン)たちと逆ハーな登下校をしていた。

 うーん。どういう事か此処でも原作と食い違いが起きている。

 もしかして、私が過剰に百合子嬢を敵視してない所為か?

 それとも、私が父親に内緒で一人楽しく電車通学した挙げ句、変質者にロックオンされてしまった所為か?

 ……どっちもか。

 だってさぁ~私が前世に住んでいた地域って、路面電車なんて無かったから乗りたくなっても仕方ないじゃん!?

 その上、都市部の地下鉄並に便利だし。馬車(タクシー)より安価なのも魅力……って、貴族のお嬢様が考える事じゃないか。


「小学生時代はサラッと描かれてるだけだから、色々細かな設定とかは元々無かったのかな?」


『愛憎の華』は恋愛メインの少女漫画だ。百合子嬢がレンレンや他のイケメン達とラブストーリーを繰り広げるメインの舞台は、十六歳。高校一年の時だ。

 それまでは、メインキャラとの出会いや小さなラブハプニング、後は梅子や梅子ママの陰湿ないやがらせが繰り返されるくらいだ。……嫌なテンプレだな。

 小学生時代の大きな山場は、先日の御披露目パーティーでレンレンとの出会いとこの学園編入くらいだと思う。

 百合子嬢とレンレンの恋愛を彩る……当て馬ゲフンゲフン!!基、恋敵(ライバル)達は中学生にならないと本格的に関わってこない……はず。殆どが学年が違うし。


 中学生編はキャラクターが一気に増え、恋愛色も強くなる上、レンレンの登場回数が格段に増える。この段階で百合子嬢はレンレンへの思いを恋だと自覚するのだ。

 しかもしかも!!百合子嬢の恋のライバルが初登場するのも此処だ!!……え?梅子?当て馬にすらなりませんよ、ただのストーカーです。

 この百合子嬢のライバルキャラ、音無(おとなし)芙蓉(ふよう)は、男オタク断トツの人気を誇るキャラクターなのだ。

 何故か百合子嬢のライバルなのに、容姿は抜群に良い。その上、『愛憎の華』キャラ中最もおっぱいの大きいセクシーダイナマイトボディなのに童顔と言う、萌え系アニメに影響されまくりな容姿をしている。

 ……不公平さを感じる。何でだ。

 その上、レンレンとは同じ軍学校に通う同級生。百合子嬢とは正反対の勝ち気で気の強い性格をしているので、ヒーローなのにのんびりとした性格のレンレンとは、よく口ゲンカ(主に芙蓉が一方的に喚いてるだけ)をしている。だけど実はレンレンが気になって仕方がないので、よく近くにいる百合子嬢に嫉妬心むきだしで突っ掛かるのだが、空回りしまくる愛すべき不憫さ……ラノベで有りがちなツンデレ枠のヒロインだ。


 レンレンと同じく、彼女もお気に入りのキャラクターなので、実物に会ってみたい気持ちがある。

 ……が、まずは来週の事だ。


「今更だけど、私、百合子嬢と話したこと無いや。二年同じ家で過ごしてて、流石にこれはヤバくないか?」


 今まで、色んな所が原作と違って来てるし、百合子嬢の性格も原作通りだとは限らない。どうしよう……悪役令嬢転生に有りがちなめっちゃパンチ効いた性格だったら。


「初対面……どうだったかなぁ……うーん、父親の虫を見る目と母親のヒステリックな悲鳴しか思い出せん」


 主人公様なのに、こんなに印象薄くて大丈夫かよ百合子嬢。……まぁ、周りのキャラが濃過ぎなんだけどね。


 原作の百合子嬢は梅子の事、どう思っていたのか。

 物語が進むにつれて、命を狙われるので段々恐怖の対象となっていったのは解るのだが、初対面、百合子嬢が梅子に抱いた印象はどうだったのか……思い出せない。

 梅子がきつく百合子嬢を睨んでいたコマがあったのは覚えているが、百合子嬢は主人公なのに、そこにはモノローグが無かったような気がする。かなり重要なシーンなのに、そこを疎かにするだろうか……?


「ネットカフェで読んだだけで、読み込んでた訳じゃないし……色々忘れてるんだろうな」


 さて、色々考えていたらお腹が空いてきた。時計を見ると正午近い。


 朝は青柳が何故か持ってきたサンドイッチと紅茶で済ませ、女性の使用人に膝の手当てをしてもらった。それからずっとノートとにらめっこしながら、グルグル考えていたので余計空腹を感じている。やはり頭を使うとお腹が空くんだな。


 椅子の背もたれに寄り掛かり、限界まで仰け反っていたら身体からバキバキ音がした。うん。凝り固まっていたんだな。

 ご飯食べたら、庭に出てちょっと運動しよう。ストレス発散したいし。

 つらつらと取り止めのない事を考えていたら、ドアをノックされた。


「ちょっと早いけど、昼御飯かな?はいはーい、今開けますよっと」


 メニューは何かな?とワクワクしながら開けたら、主人公様の麗しい(かんばせ)


「……ちょっとお話よろしいですか?……梅子さん」


 緊張した顔も、上擦ったか細い声も可愛らしい百合子嬢が、私の部屋にやって来た。

 私はブサイクな顔を呆けた表情に固めたまま、あんぐりと口を開いておく事しか出来ない程に、驚いたのだった。

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