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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
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砕け散った、その先は

◆『硝子の華』を読んでない方へ、簡単なあらすじ


倒れた梅子は、過去を見た。

それは幼い子どもが体験するには余りにも辛い出来事だった。

幼い梅子には、父母の愛は貰えなかったが、乳母の菊乃からは沢山の愛を貰っていた。だがそれは彼女の理想を叶える為の、酷く独善的な愛だった。

その愛は梅子の命を脅かし、彼女を次第に歪めて行った。

菊乃を自分から離した父親を憎悪し、真実に目を背けた梅子は、菊乃に会いに行く。しかし、梅子と再会した菊乃は、酷く精神を病んでいた。

絶対的な愛を与えてくれた菊乃に拒絶された梅子は、次第に絵空事に逃避するようになり、そんな中百合子に会うこととなった―――。

 

「何か違う」


 八歳までの梅子の壮絶な過去を知って尚、私は第三者のような視点で分析してしまった。


 目を開くと、見慣れた天井。……成程、お嬢様の部屋にしては随分簡素だなと思っていたが、隔離部屋だったのか。

 むくりと起き上がり、大きく伸びをする。カーテンから漏れる光の弱さから、時間は明け方くらいか。


 ベッドから降りて、机の引出しに入れていたノートを取り出しながら、椅子に座る。パラパラとノートを捲り、私が書き貯めておいた『愛憎の華』のキャラクターやストーリー等を眺めた。


「……うーん。やっぱり違うんだよなぁ……」


 梅子の過去は原作とかなりの齟齬がある。

 まず、梅子の生い立ちからして違う。

 原作の梅子は、両親や兄に強く愛情を求めていた。だから百合子が父や兄に愛されて、激しく嫉妬するのだ。

 しかし、()()梅子は、乳母に愛情を求めて、家族を憎悪をしていた上に、百合子を見ても何も感じていなかった。

 ……普通に考えて、梅子が百合子に嫉妬するのだろうか。


「それに、父親にあんなに攻撃的なんて、全然違うし。確か原作は父親に対しては凄く卑屈だった気が……」


 あんなに邪険にされて毒親っぷりを発揮してるのに、梅子は父親を慕っていたのだ。私も含めネット民は『梅子洗脳されてんじゃね?』と思ったくらいだ。


「……ん?あ、ああ!!此処で繋がるのか!!」


 洗脳されてたんだ。乳母の菊乃によって。

『無条件に、父親と母親は子どもを愛してるもの』―――物心付くくらいから呪いのように言われてたのだ。菊乃大好きな梅子が、それを信じていてもおかしくはない。

 あの過去を見て、どう考えても菊乃>>>家族だった。寧ろ家族と仲良くするように努力していたのも、菊乃を喜ばす為だったみたいだし。


「原作は洗脳されたまま話が始まった?……ううん。何かやっぱり釈然としない」


「何が釈然としないのですか?」


「ぎょ、えっ!?」


 無駄にスタッカートが効いた叫びになってしまった。恥ずかしいと思いながらも、突然の侵入者に目を白黒させた。


「あ、青柳……何で居るの?」


「ノックを何度もしたのですが、返事が無いので眠っているかと思いまして、静かに入って来たのですか……」


 チラリと机の上に広げたノートへ目線が行きそうになったので、その前にノートを閉じた。あっぶねぇ……。


「し、宿題で、解らない所があったのよ。青柳こそ私に何か用?」


 内心心臓バクバクだったのだが、私はお嬢様。所作は優雅にしましたよ!!最初の奇声は忘れてくれ。

 そんな私の完璧な優雅さに、青柳は失礼な事に胡散臭そうに私を見る。オイコラ陰険鬼畜執事の仮面取れてるぜ!!


「お嬢様は昨日気を失ったんですよ?様子を見に来るのは当たり前でしょう」


 呆れたように言う青柳に、そういやそうだったと思い出す。思い出した過去が衝撃的だったから、すっかり頭から抜け落ちていた。

 そこまで考えて、気を失う寸前に感じていた苛立ちが、落ち着いている事に気付いた。あんなにイライラしてたのに、何でだ?

 また一人思考の海にどっぷり浸かりそうになっていたら、青柳が驚くような事を言って来た。


「お嬢様が倒れられてこの部屋に運ばれた時、桜哉様が来られましたよ」


 ……何ですと!?


「な、何でお兄様が……」


「さぁ?私には何とも……私が医師に連絡を取る為に席を外している間に、ご自分の部屋に戻られたみたいですが……」


 私を毛嫌いしている兄が何故、態々離れまで来るのか。

 原作でも今生でも、兄は私にとって遠い存在である。兄が嫌っているのもあるけど、私が兄に近付かない所為でもある。

 なのに何故……妹の無様な姿を嘲笑いに来たのか?いやいや、あの兄だったら、伯爵家の品位を下げるような行動を取れば、益々私との接触を避ける筈だ。兄は父以上にそういう所に潔癖だ。だから、過去の梅子の行動が許せないのだろう。


 うーん。ちぐはぐで何ともすっきりしない。

 原作で謎だった所が繋がったと思えば、全く違った過去があったりする。……まるで設定が穴だらけな原作の補填をしているようだ。

 ……いやいや、そんな、まさか。


「お嬢様?」


 おっと!!陰険鬼畜執事が居た事忘れかけてた。今日はどうも思考の海にダイブしがちだ。あんだけの情報(かこ)が一遍に流れ込んで来たのだ。考えてない方がおかしい。


「何?」


 努めてポーカーフェイスをしてみたが、やはり怪訝そうにされる。お前、昨日からどうしたよ!?


「……いえ、医師の診断によりますと、倒れられたのは心身の極度の緊張状態から来るものだと。……私が触れようとした事が、お嬢様に負担になったようで申し訳ありません」


 謝ったよ。しかも、最上礼で。

 私に向かって深々と頭を下げる年上の男を、ぽかんとして見下ろした。

 暴漢に襲われた私に、あんな嫌味を投げつけて、あまつさえ触れようとしたのは単に嫌がらせかと思ったが、どうやら他意は無かったらしい。……ちょっと考えてみれば、異性に対して敏感になるくらい想像出来るのに、ポンコツだな。


 呆れた気分で見下ろしていたが、元来あまり頭を下げられる立場では無いので居心地が悪くなる。


「……顔を上げて頂戴。貴方に他意が無かったのは分かったわ。でも、これからは考えて欲しい」


 多分、まだ触れられるのは嫌だと思うし、出来れば関わりたくないし。青柳は梅子にとって鬼門なのだ。

 ひょっとして、この一連の行動は彼なりに探っているんじゃないか?梅子が一人で行動しているのも、裏があるとか思われてそうだ。単に路面電車が好きなだけなんだが……。


「……肝に命じておきます。あと……」


 まだ何かあんのかよ!?


「旦那様から、今日は学校を休み養生するように……との事です」


「……分かったわ」


 珍しい。父が私に伝言を残すとは。

 まぁ、普通ならそうするわな。父はそんなに人でなしでは無かったらしい。


「それから……」


 まだ何かあんのかよ!?(二回目)


「来週から百合子お嬢様が、お嬢様と同じ学園に通い出します。それにあたり、通学の際はご一緒の馬車で送迎するようにと、旦那様から命令がありました」


 ……何ですと!?

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