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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
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職人の町 3

前半笹森家、後半花園家です。

ちょっと長めになってます。


 

 笹森君の家は、一般家庭でもかなり広く感じていたが、成程大家族だったからだ。


 曾祖父母に祖父母、両親に兄、そして弟三人……笹森君は四人兄弟ではなく、男ばかりの五人兄弟だったのだ。四世代十一人家族。圧巻だ。

 お茶の間にいたニコニコのお婆ちゃんは、笹森君のひいお祖母さんだったらしく、お祖母さんはもっと若かった。

 ……そう言えば、大正時代くらいをベースにはしてるみたいだから、結婚年齢が前世よりも低いんだった。大体女性は十六~二十二歳くらいが適齢期だ。


 何故か私も一家団欒の夕食にお相伴させてもらっていた。

 しかし、よく食べるなぁ……。

 カレーは飲み物って、前世の有名な芸人リポーターが言ってたけど、それを思わせるくらいの速度で平らげてゆく。

 かなり大きな鉄鍋に並々とあったカレーは、みんなが満足するくらいになった頃には、空っぽになっていた。

 ジーサス、二日目のカレーの美味しさを知らないのか、この家族は……。

 流石と言うべきか、食べ終わった後は皆さんテキパキと後片付けをする。末っ子の5歳の子どもですら、食べ終わったお皿を流しに持って行く。

 笹森君のお母さん&お祖母さんは食器を洗い片付けて、お父さんは小さな弟ズをお風呂に入れる為の準備をしている。

 ひいお祖父さん&お祖父さんは、残りの作業をする為に作業場に戻り、お兄さんは店側で帳簿付けをするらしい。ひいお祖母さんは私にお茶を煎れてくれた。


「すみません。お夕飯まで御馳走になって……」


「子どもが遠慮しなさんな。なぁに、毎回誰かがお客を連れてくるんだ、偶々(たまたま)今日がお嬢ちゃんだっただけの事だよ」


 ふぇっふぇっ、と笑ったひいお祖母さんは、小さな手で湯呑みを持ち口に運ぶ。ひいお祖母さんのお茶を啜る音に、台所では水を流す音に紛れた食器がぶつかる音、何処もかしこも人の気配がする。

 広い屋敷の片隅でひっそり暮らす自分では、考えられないくらいの家族の団欒(だんらん)

 原作でも、百合子嬢は父と兄と使用人に囲まれ、笑顔で食事をしているシーンが描かれているが、母と私が居た描写は一切無く、現実でも私は、無表情な使用人の運んで来た若干冷めた食事を自室で摂っている。……当初は百合子嬢を案じて、毒でも混じっているのかと思ってたけど、父にとって私は殺す程の脅威も感心も無いのだなと理解し、今は普通に出された食事は頂いている。

 ……だから、私にとって『食事』は静寂の中で淡々とこなす『作業』であるので、笹森君の家のように会話が飛び交うモノでは無い。


 ……明日から、食事の時は寂しさを感じそうだ。


 ふ、と苦笑が漏れたのが伝わったのか、ひいお祖母さんは顔を上げて小さな目で此方を見つめて来た。


「子どもがそんな大人びた顔をするなんてねぇ……お嬢ちゃんの親は何してんだか。アタシら庶民じゃ分からない苦労もあるんだろうよ。ちょいとでも息抜きになるなら、いつでも遊びに来なさいな」


「……あり、がとうございます。また、改めて御礼に伺います」


 そう言ってくれるひいお祖母さんの優しさに、私は不覚にも涙が出そうになった。

 初対面の貴族の娘を、何も言わずに受け入れてくれた笹森君の家の人たち。普通に考えればかなり無用心なのだが、今はその無用心な優しさが有り難かった。


「馬車が来たよ。……本当に連絡しなくて良かったの?」


 流石に襲われた後に電車で帰る訳にもいかず、大通りにまで行って馬車を呼んでくれた笹森君が帰って来た。

 笹森君の家に来た時から、頻りに家に連絡入れた方がいいと言ってくれていたが、父や兄に弱味を見せるのが嫌だった私は、頑として連絡をしなかった。……まぁ、連絡しても無反応だっただろうけど。


「ええ、大丈夫です。……大事にはしたくないので」


 何せあの父と母の事、私を心配する事などないだろう。寧ろ迷惑を掛けるなとか言われそうだ。安定の毒親っぷりである。


 女性陣三人に挨拶をして、私は笹森君の家を出た。本当はお父さん達にも挨拶をしたかったのだけど、女人禁制の仕事場やお風呂にいる人達には流石に無理だった。


「笹森君、色々とありがとうございます。また改めて御礼させて頂きますね」


「まぁ、変質者については殆どフーキが処理したし、僕も変わったお嬢様と話せて楽しかったよ。……今は平気かもしれないけどさ、こう言う事って後々後遺症が出てくる事もあるから、ちゃんと親に報告した方が良いよ」


「……帰ってから報告します」


 嘘だけどな!!


 笹森君と別れて馬車に乗り込むと、急に寂しくなる。

 いけない、いけない。これが普通なのに。

 ガラガラと回る車輪の音と馬の蹄の音が、 ランプが照らす頼りない暗闇の道に響く。

 疲れた。早くお風呂に入って寝たい。

 舗装されていると言っても、アスファルトではない凹凸のある道を行く馬車の中で、静かに目を閉じた。




 屋敷に到着してからすぐに離れに向かおうとしていたら、本館の玄関の前に人が立っていた。

 艶のある黒髪を撫で付け額を露にし、銀縁の眼鏡を掛けているスラリと長身の男は、花園家の執事である青柳だ。

 禁欲的な色気のある執事の正装に身を包み、冷たい灰色の切れ長の瞳を苛立たしげに細める。

 ……おおぅ。面倒なヤツに見付かってしまった。


「お帰りなさいませ、梅子お嬢様。今日はまた随分とお早いお帰りで」


「……友人の家で夕飯を御馳走になったの。なぁに?何時もは私の事など気にもしないのに」


 密かに鬼畜執事と呼んでいる青柳は、立場上無視は出来ないから挨拶はするが、普段は用がない限り私に話し掛けてこない。だから、こんなに嫌味を込められた挨拶は初めてだったので、内心困惑している。


「私は花園家の執事です。主人の娘である貴女の素行に口を出す事はおかしくはないでしょう」


 眼鏡をキラリと光らせて平然と言う姿に、私は顔を顰めた。


 ネタバレをすると、この青柳と言う男は花園家に忠実な執事ではない。あくまでそれは表の顔に過ぎない。

 裏の顔……と言うか真の姿は、神狗(しんこう)と呼ばれる神皇の忠実なる(しもべ)である。設定が中二病そのもので小物臭いのだが、中々侮れない男なのだ。

 原作では彼が梅子と母親を監視する為に花園家に潜入し、二人と言うか侯爵家の悪事を暴き、結果レンレン無双なクーデターの阻止並びに、反乱分子の粛清が速やかに行われたのだ。

 彼の正体はストーリーの後半で判明するので、序盤の梅子は知らないのだが。


「膝を怪我されてますね……一体どのようなご友人と過ごされたのですか?」


 くっ……、何なんだ!?今日はやけに絡んでくるな、鬼畜執事。


「これは道で転んだのよ。手当ては友人の家でしたわ。御礼は後日私からするから、貴方は気にしないで」


 訳:ほっとけ。だ。青柳の今までにない追及に苛立ちが隠せなくなった。


「……道で転倒して、何故咄嗟に手を突かないのです?貴族のご令嬢が額に傷を作るとは、一体どういう状況だったんです?」


 ギックーッ!!!!

 そりゃそうだ。人間誰しも転んだら咄嗟に手を突いて顔を守る。条件反射と言うやつだ。額を怪我してると言う事は、『咄嗟に手を突けない』状況だったとバラしてるようなもんだ。


「……私が鈍臭い事、知ってるでしょう?……もういいかしら?私、疲れているの」


 本当面倒臭い。今から陰険鬼畜執事と呼ぼう。……長くなって言いにくくなったな。

 しかし、どうした陰険鬼畜執事よ。今まで主人同様私を虫みたいに見ていたのに。今日は本当にえらく絡んでくるな。


「……警察から連絡がありました」


「――――っ!!」


 チキショー!!フーキさんか!!

 名乗ったのが間違いだった!!いや、フーキさんは当たり前の事をしたんだが。

 ……まぁ、予想してたけど、連絡あってもスルーなのね、マイファミリーは。

 色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざり、消化しきれなくなってしまう。


「ですから、お嬢様は旦那様の所へ……」


 青柳がそう言って私の肩に触れてこようとして、激しく嫌悪感が沸き上がった。

 今まで、笹森君や彼の家族が触れても何も感じなかったのに、今は触れられたくはない。


「触らないでくれる?」


 予想外に冷たい声音になってしまい、青柳は驚いたのか目を見開いている。まさか私がこんな態度に出るとは思ってなかったようだ。


 嗚呼、頭がぐちゃぐちゃだ。色んな感情混ざりに混ざって、どす黒く塗り潰されていく。


「お父様に会ってなんになるの?どうせ、虫けらのように見るか、迷惑を掛けるなと言われるだけよ。……貴方はお父様とお兄様と百合子さんの心配だけしてればいいのよ!!」


 違う。こんなに感情的になりたい訳じゃない。

 なるべく穏便に、誰からも気に止められないように。

 なのに、小さな子どものように感情がコントロール出来ない。

 いや、梅子はまだ十歳の小さな子どもだ。

 私は、梅子は、私は――――――――何?


「お嬢様!!」


 視界が暗転して行く最中、聞いたこともない慌てたような青柳の声が聞こえた。

次から梅子の過去に触れます。

残酷描写のタグが保険じゃなくなりそうです。


流血や暴力の描写はないんですが、精神的にキツい描写が出てきます。

描写が出てくる話の前書きに、注意を書かせてもらいますので、無理と判断されたら読むのを控えて下さい。その話を読まなくても、話が繋がるようにはします 。

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