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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第二章:種蒔き編
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梅子、学校生活を考える

学園編、突入です。

 

「ごきげんよう。梅子さん」


「ごきげんよう。杏子(きょうこ)さん、苺花(まいか)さん」


 小学五年生が『ごきげんよう』と挨拶する世界……付いていけないわ~。


 花園家では、居ないものとして扱われているが、学校ではそこそこ地位があるのが私だ。

 父親は最低限の教養として、私を三歳から幼稚舎に通わせていた。本当、最低限な扱われようなのだが。

 此処、聖樫(ひじりかし)学園は、幼稚舎から大学院まである良家の子女たちの通う学校である。

 この世界では、身分に応じて行く学校が決められている。それは、身分差によって生まれる差異で、余計な軋轢を生まない為であった。ただし、平民の通う学校だからと言って学力に差がある訳ではない。特色として平民の学校は普通科目の他に、初等部の内から商業系や工業系の科目を習う事が出来るのだ。私としては、貴族のマナー教室やダンスレッスンよりそっちの方が習いたい。

 まぁ、貴族の学校でも高等部から商業系の科目が選択出来るので、高等部に上がったら商業系を選択するつもりだ。


 私は、前世を思い出した時、漫画の世界観や登場人物をまとめるのとは他に、進路について考えた。

 行く行くは家を出て、自力で生活していきたいと考えている。出来れば事務系に進みたい。

 しかし、前世より随分女性の社会進出が遅れているこの世界では、容易なことではない。

 色々調べてはいるのだが、やはり十歳と言う年齢では限界がある。長期戦と考えた方がいいだろう。


 話を戻そう。

 先程『ザ☆お嬢様』な挨拶をしてくれた二人―――間宮(まみや)杏子と谷崎(たにざき)苺花は、私の所謂『取り巻き』である。

 勿論、主人公である百合子嬢をイジメまくる梅子の取り巻きなので、容姿はよろしくない。ぶっちゃけブサイクである。


 杏子は、黒い背中までのロングヘアーで前髪パッツン、私と同じそばかすが頬に散らばり眼鏡を掛けた、一昔前のガリ勉女子のような姿をしていて、苺花は、名前との落差が激しすぎるくらい太ましい体型をしていて、目鼻立ちは肉に埋もれて判別出来ないくらいだ。

 二人とも、子爵家のご令嬢で幼稚舎から聖樫に通っている。


 今日の授業は終了し後は帰るだけなのだが、二人は私の前でまごまごして、中々要件を話さない。これから習い事があるから早く帰りたいのだが……。


「二人とも、私何か用でもあるのかしら?」


 全然可愛くないけど、首を傾げてみる。今日の習い事の日本舞踊の先生は、滅茶苦茶厳しい人だ。遅刻なんかしたら……恐ろし過ぎて考えたくない。

 内心振り切って帰りたいが、数少ない話し掛けてくれるクラスメイトである。大事にしなければ。


「お前ら三人集まって何してんだよ。……また良からぬ事でも考えてるのか?」


 そこへ私たちの会話に割り込む声がする。その声に、私はげんなり、二人はきゃあっと歓声を上げる。


「……ごきげんよう。葛城(かつらぎ)様」


 葛城藤真(とうま)は、三ノ宮家に次ぐ公爵の地位にある貴族の嫡男である。葛城家と言えば、昔神皇の娘が降嫁したり、三ノ宮家へ娘を嫁がせたり……何かと皇族に縁のある家である為、貴族の筆頭に当たる。

 ……お気付きかもしれないが、『愛憎の華』の主要キャラクターの一人で、物語が動き出す十六歳の時には、ちょい不良(ワル)系のイケメンに成長している筈だ。


 赤みの強い茶色の髪の毛と、翠色の猫のような瞳。この頃から既にガキ大将的な性格が出ていて、何かに付けて私に絡んで来る。

 ぶっちゃけウザいのだが、何せ格上の公爵家のお坊っちゃま。あからさまな態度で不興を買うのは止めた方が身の為だろう。


 私が反応をしたのを見た藤真は、得意気にニンマリと笑う。その表情が機嫌の良い猫みたいで、大層可愛らしい。

 現に、杏子と苺花は顔を赤らめキャッキャッとはしゃいでいる。……いや、コイツ私らにイチャモン付けてるんですが。

 ああ、イケメンは何しても許されるのね。


「来週からお前の妹が来るらしいな。お前みたいな女じゃない事を祈ってるぜ」


 ふふん、と鼻で笑う藤真をジト目で見る私を許してほしい。

 ……こんな事言ってるが、奴は百合子嬢を一目見た瞬間からフォーリンラブ状態になる、滅茶苦茶チョロい奴なのだ。


「……ご安心下さい。妹は私に似ず、大変可愛らしい子なので仲良くしてやって下さいませ」


 ニッコリと笑って言ってやると、私から思った反応を出せなかったのか、不機嫌な猫の表情になっている。その様は大変可愛らしいのに、何故数年後には、あんな噛ませ犬みたいな残念な俺様キャラになるのだろう。


 しかし、奴のお陰で杏子と苺花が私に話し掛けて来た理由が解った。来週に控えた百合子嬢の学園デビューについてだろう。

 先日、社交界に華々しくデビューした百合子嬢は、父の親戚友人だけでなく、貴族の面々に広く知られるようになった。

 ……え?私?勿論呼ばれてないですけど。

 百合子嬢の評価は真っ二つに割れ、白百合の姫と賛辞を贈る者もいれば、平民の妾の娘と蔑む者もいた。後者は百合子嬢だけでなく、花園家にもあまりいい感情を持ってない……まぁ、私の母の生家である糸敷(いとしき)侯爵家とその信奉者なのだが。


 杏子と苺花の家が侯爵家の信奉者な為、百合子嬢の編入に関して家の方から何か言われて来たのだろう。

 ……ぶっちゃけ私は何もする気はないのだが、二人は私が何かをするのではと思い、指示を仰ぎに来たのだろう。原作では度々見られたシーンだ。


「では、私、習い事がありますので、失礼させてもらいますわ」


 ゲッ!?本格的にヤバイ!!

 時計を見ると、かなり時間が経過していたので、三人に失礼を承知で慌てて教室を出た。





 基本的に貴族の子女は、専用の車か馬車で送り迎えしてもらうものだが、私は初等部からは路面電車を利用している。

 そう!!路面電車だ!!

 この世界は車がとても高級で、上級の貴族ぐらいしか所有出来なくて、貴族でも馬車を使うのが主流だったりする。

 その馬車も、平民にすれば高価な乗り物だ。そんな平民の交通手段は専らこの路面電車だ。

 道路の真ん中をレトロな列車が走る風景……正しく浪漫である。

 運賃は一律なので、街中を飛び回る営業職の人とかは助かるだろうな。


 列車に乗ると乗客からジロジロと見られる。断じて私がブサイクだからではない。見られる理由は、私の着ている制服だ。

 臙脂色のセーラー服は聖樫の証。

 それくらい有名なのだ。

 臙脂色のセーラー服に少等部は白色のセーラータイ。因みに中等部が紺色、高等部は深緑色である。黒のショートブーツ……美少女な百合子嬢が着れば可愛いのだが、ブサイクにはキツい制服である。


 最初は肩身が狭い思いをしたが、五年生にでもなれば慣れっこである。

 リンリンと涼やかなベルの音が響くと、列車はゆっくりと動き出す。

 ドアの前に立ち、ゆっくりと移り変わる景色を眺める。

 街を行く人々は洋装と和装が半々で、また町並みも煉瓦造りや石造りの建物が立ち並んでいるが、路地に入ると伝統的な日本家屋が並んでいたりする。

 前世を思い出した時、この町並みを見たら『随分遠くに来たものだ』と呆然としてしまった。

 あの見慣れたビルや、夜空を眩しく照らす電飾もない。

 次の駅を告げる車掌の声を聞きながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺め続けた。

※捕捉:時系列


三月下旬・御披露目パーティー(梅子四年生)

四月・百合子社交界デビュー(梅子五年生に進級)

五月・百合子編入←今ココ

……何故に四月進級時にしなかったのか(笑)

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