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愛憎の華(笑)  作者: 雨鴉
第一章:出逢い編
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御披露目パーティー 4★

レンレンサイドです。

 

 俺には十歳上の兄がいる。


 兄は何事も卒なく熟す大変優秀な人物だった。

 勉学も武道も政治も社交も……兄ほど全てにおいて秀でてる人は居なかった。


 一方俺はと言うと、子どもの頃から一つの事に集中したら他が目に入らない、例えば庭で蟻の巣から出たり入ったりする蟻や池を泳ぐ鯉の模様を、朝から晩までずっと見ていられる……といった変わった子どもだったのだ。

 周りの大人たちは、当然奇妙な行動を取りあまり言葉を発さない俺を、眉を顰めて遠巻きに見てるだけだった。


 だが、兄だけは俺の奇妙な行動を咎めはせず、横で一緒になって見てくれていた。


 ……兄のような人間になりたかった。


 どうしたら成れるのか聞いてみたら、大声で笑われてしまった。

 やはり自分など兄のような人格者には成れないのか……と、落胆した。その俺の姿に、また兄は笑う。


『蓮、俺はお前が思っているような聖人君子じゃねぇぞ?……八方美人で腹黒く、策略を巡らすのを好む……政治をするには持ってこいな性格だ』


 そう言って俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き回した。


『だからな、お前は俺みたいになるんじゃねぇ……変わった性格でもいい、俺みたいに汚れるな』


 いつも笑っていた兄の怖いくらいの真剣な表情。


 それから二年後、先帝が崩御する。その後、若干二十歳の若さで兄が神皇に即位した。

 傍若無人の先帝の死は、皇国の歴史の中でも一際血に塗れたものだった。

 (まつりごと)を私物化して、国民から不当に税を巻き上げていた先帝は、一条家の者だった。

 だから、兄が殺した。

 玉座にふんぞり返る愚帝の首を兄は切り落としたのだ。




 月明かりしかない、心許ない道を歩く。

 華やかな会場から離れた場所にある、離れと言うより別館といった方がいい程、立派な二階建ての建物が姿を現した。

 二階の陽当たりの良い角部屋は、明かりが煌々と灯っており、そこがこの屋敷の奥方の部屋である事が解る。

 妾の娘が正式に貴族の娘になり、彼女の心中は穏やかではないのは明白だ。

 あまり友人の家庭環境に口を出すべきではないが、花園伯爵も、格上の侯爵家の奥方にもう少し気を使えないのだろうか。


 先程までいた会場から見える見事な庭園と違い、此処は随分寂しい所だ。

 木々が数本植えているだけの殺風景な庭。最低限は庭師が手入れしてるだろうが、伯爵夫人と令嬢が住まう別館の庭にしては貧相な出来映えだ。


 此処へ来た目的である手元の袋の中身は、白梅の若木だ。

 この木の花と同じ名前を持つ、昼間出会った令嬢に贈る為に、一条の所有する土地の一つである梅林から持って来たものだ。


 昼間、時間を間違え早くにこの屋敷を訪れた時、友人はパーティーの準備で手が空かないようだった。

 時間を持て余した俺は、友人の許可を得て一人屋敷を散策する事にした。

 ぶらぶらと目的もなく歩いていると、何かを打ち付けている音が聞こえ、興味が湧いた俺はその方向へ足を向けた。


 そこには、小さな少女が一心不乱に丸太に木刀を打ち据えている後ろ姿があった。何度か声を掛けたが、聞こえてないらしく夢中で打ち据えている。

 木刀を振り上げる度、少女は何事かを叫ぶ。怒りや憎しみめいた事を叫んだかと思えば、いきなり笑い出す。

 俺の予想が正しければ、少女はこの屋敷の令嬢……友人の妹である梅子のはずだ。しかし、友人から聞いていた彼女の性格とは余りにもかけ離れていて驚いた。

 子ども特有の甲高い声が言葉を紡ぐ様は、見ていて面白かったので、暫く傍観していたら、此方を振り返った梅子嬢と目が合った。

 すると、梅子嬢は過剰なまでに飛び退き、此方を凝視しながら呟いた。……レンレンとは何だろう。


 梅子嬢は不思議な少女だった。

 俺が嬉々として木刀を振るって丸太を大破させたら、唖然として固まったかと思えば、俺が証拠隠滅を謀っていたら、呆れたように見ていた。

 かと思えば、家族の話となると急に寂しそうな顔をする。

 だかららしくもなく、女性に花を贈るなどと約束してしまったのだが。

 ――無表情で根暗で薄気味悪い……そう妹を評していた友人に見せてやりたいくらい、彼女は興味深い娘だった。




 別館の一階にも光が灯っている。二階の昼間のような眩しい光ではなく、光源が落とされたひっそりとした明かりだ。


 何故か彼女を見ていると、兄といた頃の自分を思い出す。

 変わり者と遠巻きにされていた自分と、家族から見放されている彼女。

 あの時、兄は俺を否定しなかった。そのままで良いと笑っていた。


 兄のようになりたかった。

 だが、兄は自分のようにはなるなと言った。

 その言葉を胸に刻み、自分らしい努力をして、現在の俺に成った。


 今は、

 ――あの頃の自分のような少女を見守る、あの頃の兄になりたいと思っている。


 ひっそりとした明かりに浮かぶ部屋の中、机に向かい必死に勉学に励む姿を見つけて、

 無作法だが、窓を軽く叩いた。

冒頭のレンレンの兄のクーデターについては、後々詳しく書く予定なので、ツッコミ所満載でもご容赦下さい。


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