ゴブリンゲットだぜ!
『おい、俺の言葉が判るか?』
『ひ、ひい!!』
掴まれたゴブリンは宙ぶらりんの状態のまま気が付き、肉食獣に怯える草食動物の様にビビりまくってる。
魔物同士の会話なので独特の声が発せられる。
『この群れのリーダーは誰だ?』
『わ、私です』
ビクビクと震えながらおずおずと手を上げる。
『名前は?』
『け、ケリーと申します!』
『よし。念の為聞いておくが、お前らが襲ってきた目的は何だ?』
『た、食べ物です。最近ここら辺の私達が主食にする果実が風土病に掛かってしまいまして……』
『風土病?植物に感染する病気だと?』
この世界のゴブリンの食性は意外や意外、ベジタリアン気質らしく木の実などを主食にしているらしい。
まあ、あくまでも主食なので肉も勿論いけるらしく今回の様に人間や別の動物を襲うことも珍しくない。
行商隊や食料倉庫から盗みを働く者もいるらしい。
特に木の実などが不作の年にはよく見られる光景だそうだ。
最近のクマかお前らは。
それが今回のケースが風土病によるものとは。
俺はちょっと興味が湧いた。
こいつ等には悪いが、こちらとしては恩を売れるチャンスのためもっと事情を聞いてみることにする。
『風土病ってことは最近ここに持ち込まれた物か?』
『はい。どうやらここを行きかう人間達が持ち込んだようで。罹った植物は皆、葉っぱが焼け付いた様に赤くなって木の実が実らなくなるんです。人間達の話を聞いたらそれは南の方で流行っている病気らしくて“実枯らし病”というものだとか』
そういやジャンヌが発見された現場の衛兵の会話で、病気に罹った行商人が居たって言ってたな。
『そいつは植物のみに罹るのか?』
『いえ、どうやら人間の方にも影響があるらしくて。罹ると暫く高熱に魘されるようです。ざまあみろって感じですが……って!そんな怖い目で見ないでください!!』
おっと、ついうっかり鬼の姿になっていたのを忘れてた。まだ元人間という事実には慣れないな。
ケリーが小馬鹿にしたような態度を取ったので鋭く睨んでしまった。人間舐めんなよ?
それはさて置き、必要以上に恐怖を与えるのも逆効果だ。
これから働いてもらうのに今から脅しても意味がない。
『あ、あの私達はこれからどうなるのでしょうか?』
『知りたいか?』
『ひい!知りたいです!是非教えてくださいぃぃぃ!!』
ギラリと敢えて牙を剥く様に笑うと、キーキーと悲鳴を上げて手足をバタバタさせると首が千切れそうな速度で首を振る。
何だか、凄まじい小物臭と言うよりもヘタレ臭が感じられる。
お前ホントに群れのリーダーか?
物凄く頼りないが。
『じゃあ俺達の荷物持ちをやってもらおうか。俺達も旅の途中でな。まだ目的地には付いてないんだ。お前たちもこの場から離れた方が新しい土地で食料を確保できるし、一石二鳥だろ?』
『そ、それはそうですけど……』
『文句が?』
『喜んでやらせていただきます!!』
解放してやるとケリーは、仲間達を素早くたたき起こし荷物を持つように指示を出す。
気が付いたゴブリン達は俺達の姿を見てビビり上がり、リーダーの指示に大人しくしたがって素早く荷物を持つ。
『よしよし。ちなみに一応釘を刺しとくが、もし逃げようとしたら』
『逃げません!絶対に!ゴブリンは貴方が主様と認めます!!』
俺が文字通り鬼の顔で凶悪な笑みを浮かべると、ゴブリン達はケリーの発した言葉に全力で首を縦に振って頷いている。
この光景も中々シュールなもんだな。
「よし!昼飯も食ったし、労働力も確保できたし、目的地に急ぐぞ!」
「いえーい!!後もう少しだー!!」
「かー、神秘の樹海から遠いとこに来ちまったなー。こんなんエルフ史上初じゃない?」
「エルフ族は外界との接触を拒む傾向にありますからな。ギース殿のような方達が少ないでしょう」
「あ、あの」
「あんたは俺が背負ってくよ。まだ歩くのはしんどいだろ?」
「え、あ、いや、そうじゃなくてってきゃあ!」
有無を言わせずに俺はジャンヌを背中に背負う。
何気に凄いことをしている気がしないでもないが気にしない。
「お、下してください!自分で歩けますから!」
「ちょ、暴れんな!危ないっての!大体あんた病み上がりというか一応重傷者だろうが!大人しく俺に背負われてた方が安全だっつの!道中にゴブリン以上の魔物が出てくるかもしれないんだからな!」
と言うかあんたに足をバタバタされるとめっちゃ脇腹に当たって痛いんだよ!
『あの恐縮ですが私達を引き合いに出すのをやめて欲しいのですが……』
横から申し訳なさそうにゴブリンが申し出てくるが、暴れるジャンヌを宥めるために無視する。
「大丈夫だっての。鬼の筋力ならいくら体重が重くても気にしな痛い!!」
急にリミアから持っていた杖の殴打を鼻先に食らう。
「何すんだ!」
「女性に体重の話は禁止!いくら重くても!!真治はデリカシーなさすぎ!」
ああそういうことか。俺は鼻先を抑えながら理解する。
にしても鬼と言え真っ先に鼻先を叩きに来るか普通?
と言うかお前も何気に失礼な事言ってないか?
あれ?そう言えば急に大人しくなったな?
気になった俺はチラリと後ろを振り返ると、真っ赤になった顔を抑えながらジャンヌが押し黙っている。
どうやら図星だったらしい。
「……何と言うか、すんません」
「いえ……もういいですので……行きましょう」
消え入りそうな声で呟くジャンヌ。
俺は申し訳なさで一杯になりながらも先陣を切って歩き出した。
その後ろをギースとリミア、ライファと荷物持ちゴブリン達が付いてくる。