まさかの少女は聖女様
「ひゃい!?」
「うお!?どうした大将!?」
「ぎにゃあ!?」
「な、何事ですかな!?」
「ジャンヌ・ダルク!?ジャンヌ・ダルクってあのジャンヌ・ダルク!?オルレアンの乙女の!?100年戦争で活躍した!?」
「は、はいそのジャンヌです?」
何てことだ。まさかの超有名人物が時代と世界を超えて俺の前に現れるとは。
って、いやいや落ち着け俺。まだ本人と決まったわけじゃねえ。
「えーと、ちょっと聞きたいけどいいか?あんたの生まれは何年?」
「え?1412年の1月6日ですけど……」
俺は表情が引きつりそうになるのをこらえてさらに聞く。
「両親は?」
「ジャック・ダルクとイザベル・ロメです」
「兄弟は?」
「ジャクマン、ジャン、ピエール、カトリーヌです」
「放棄されていたサン・ジャン・ル・ブラン要塞を占拠したのは?」
「5月5日だった筈です」
ピッタリビンゴじゃねえか!!
何てこった。まさかのご本人登場!?
予想だにしていなかった人物の登場に俺は眩暈を覚えそうになる。
そんな俺を困惑した目でジャンヌが尋ねてくる。
「あ、あの貴方達は一体?それにあの小さい生き物は?」
「あ?あ、あー、うん。どこから説明するかな」
困ったな。正直困ったぞ。
取り合えず自己紹介から始める方がいいか。
「俺は一ッ葉真治だ。今は人間だけど本当は鬼……あー、ヨーロッパ風にいうとオーガって奴かな」
自己紹介した後、他の三人にアイコンタクトで合図すると三人とも了承した様子でジャンヌに挨拶する。
「私はリミアだよ!種族は見ての通り猫人族!職業は呪踏士やってまーす!」
「俺はギース=アルバートだ。エルフの一流狩人をやってるぜ!」
「ライファイゼン・E・シュルツです。種族は人狼族、以後お見知りおきを麗しきレディ」
「んでもってあそこで山になって気絶してるのがゴブリンだ」
「え?え!え?え!?オーガにケット・シーにエルフにルー・ガルーにゴブリン!?い、一体どういうことですか!?」
俺達の自己紹介が終わり、それを聞いてグルグルと目を回して困惑する聖女様。
うん、まあ俺も最初そんな感じだったし。これは仕方ない。
「あー、それは追々説明するわ。んでついでに言うと俺はあんたが生まれから600年後くらいの人間だ」
「600ですって!?」
あ、ヤバい。処理負荷が相当掛かってるパソコンみたいになってる。
オーバーヒートしそうな感じで頭から煙出てる。
「取り敢えず落ち着け!とにかくだ、俺はあんたより後の時代の人間だ。あんたが処刑された後、百年戦争はフランス側の勝利で終わったよ」
「フランスが……!」
おや、あんまり嬉しくなさそうだな。ってそりゃそうか。
護るべき故郷でもあり自分を殺した国が勝ったって言われても複雑か。
「良かった……私の犠牲は……無駄にならなかったのですね……」
「え?」
あれ?予想と違う。
もっとこう、フランスこの野郎!よくも裏切って火炙りしてくれたな!シャルル何で見殺しにしたし!コーションお前は絶対に許さん!!
みたいな感じで怒るもんだと思っていたが。
まあ、あれはイングランド側の思惑が大分入っているから一概にフランスに非があるとは言い切れないが。限りなく黒に近いグレーと言ったところか。
なおもジャンヌはただ泣き崩れてる。
さり気なく両腕で顔を覆っている辺り、もう普通に動かせるらしい。
「す、すみませんでした……取り乱してしまって」
「いや気にすんな。スッキリしたんならいいさ」
ひとしきり泣いてからジャンヌは落ち着いたようで瞼を赤くしながらこちらに謝ってくる。
正直、俺も配慮が足りなかったか。
「と、ところで先程の話ですけど、貴方達は人間ではないということですか?」
「あー、俺以外はな」
チラリと後ろを見ながら話す。
「俺はさっき言ったようにあっちからこっちに来た人間で今は鬼になってる」
「ですが見た感じ普通の人と同じでは?」
「こういうこった」
そう言って俺は自分に掛けていた変身魔法、“化生”を解く。
「きゃあ!」
やっぱりな。思った通りの反応だと俺は苦笑した。
魔法を解いた俺の姿を見てジャンヌが悲鳴と驚きが混ざった声を上げた。
「俺も聞いた話なんだが、この世界に転移されてきちまった人間は殆どがこうなっちまうんだと。ヨーロッパで馴染みがある奴で言えば、吸血鬼にケンタウロス、人型以外だとヒポグリフとか、兎に角化け物じみた身体になっちまうのが普通らしい」
「で、でも私は普通の身体ですが」
「ああ。俺もそれが気になってた。けどその話じゃ極々稀に人間の姿のままこの世界に飛ばされてくるのも例外としているらしい。あんたはあっちじゃかなり有名な聖女様だからなそれも一因したんだろう」
「聖女……」
ジャンヌが俺の言葉に苦し気な表情をしたため俺はしまったと思った。
これもNGワードの一つらしい。
「す、すまん!悪気があって言ったわけじゃない!癇に障ったなら謝る!!」
「い、いえ!貴方は無関係な人ですから大丈夫です!」
それって無関係じゃなかったら丸焦げにされてたってことか?
俺がそんなこと思ってるとジャンヌが後ろで山積みになって倒れているゴブリンを見る。
「ところであのゴブリン達は?」
「ん?ああ。あれは魔物の種類の一つさ。さっきみたいに人里近くに現れては襲ってくるんだ。ま、強さで言ったらそこまで危険ではないが」
「そうなんですか……でもあの子達って気絶してるだけですよね?目が覚めたらまた襲ってくるのでは?」
敵であるゴブリンを心配する素振りを見せる辺り聖女様だなと俺は思いながらも、俺はニヤリと笑う。
「そうだ。ちょっとこの後で手伝ってもらうことがあるからな」
「手伝ってもらうこと?」
「ああ。ゴブリンってのはちょっと生き汚い種族でな。一旦力関係を判らせちまうとそいつに従う習性があるんだ。知性も持った個体もいるし一概に有害な魔物って訳じゃないんだ」
「そ、そうなのですか……」
ジャンヌが興味深そうに見つめる中、俺は山積みにされたゴブリンの中から一匹を掴みだす。