助け出した少女
「おい大将、何だそいつ?」
ギースが珍しいものを見る目で俺が抱きかかえる少女を見る。
俺はライファが引いてくれた毛布の上に乗せながら返す。
「拾ってきた」
「んな捨て猫みたいな」
俺の返答にギースが呆れかえるとリミアが横たわっている少女を覗き見る。
「ん~結構ひどい傷だけど、何かおかしいな~」
「判るかリミア」
「何となくだけどね。この火傷、結構な魔力を帯びてるみたい。完全に治すのは無理かも」
少女の火傷に慎重に触りながら調べるリミアの言葉に俺は首を傾げる。
魔力を帯びているのにあの時使っていたのは魔法じゃない?
正直、わけわからん。
「まあ、取り敢えず治療を頼むわ。お前の治癒魔法ならお手のもんだろ?」
「うん!まっかせてー!!」
元気に返事するリミアに頷きながら俺は仕込んでいた肉の調理に取り掛かる。
リミアは呪踏士と呼ばれる主に回復や補助の魔法を中心に扱う魔術師の一人だった。
「キュア!」
緑色の優しい光が少女の傷跡を治していく。
その最中、ライファが俺にこっそりと耳打ちする。
肉用のナイフでウサギと野鳥をカットしていく。
「真治殿、あの少女どうやらかなりの訳アリのようですな」
「かもな。恐らく、俺と同一だ」
適当な大きさに切った肉を熱した網の上で焼き始める
そういうとライファがスッと目を細める。
「では……」
「ん、まずは飯食ってからにしようぜ。あいつが起きないと話にならないしな」
俺がそういうとライファは、それ以上何も言わずに引き下がる。
丁度香ばしい肉汁が辺りに漂い始めていた。
最初に感じたのは食欲をそそる鼻孔を擽る香りでした。
これは……焼け焦げた匂いではなく、何かの香辛料と肉汁の香りが混ざったものでしょうか?
次に聞こえてくるのは誰かが誰かと喧嘩している声。
けど何処か楽しそう。
私は二度と開かれないと思った瞼を開けました。
空は雲一つない快晴で、一羽の小鳥が青空を渡っていくのが見えました。
それとは裏腹に身体が酷く重苦しく感じました。
腕を上げようとすると鉛のような重さに感じられ、途轍もない気だるさが感じられました。
ふと、私の視界に何かが横切りました。
あれは……猫の尻尾?
尻尾を追う様に首を何とか動かしてみました。
「あ!気が付いた!?」
「っ!?」
悲鳴を上げようにも口がうまく動かず詰まった音が出ただけです。
女の子?私より年下でしょうか。こちらを覗き込む様に見つめてきています。
「大丈夫?」
口がうまく動かないので私は小さく頷くと、女の子はにこりと笑う。
というか、頭に猫の耳?が付いています。
ピコピコ動いている辺り生えているのでしょうか?
次から次へと驚きを隠せません。
「痛みは無いと思うけど、疲労は取れないからしばらくは安静にしてないとだめだよ!火傷もあんまり治せなかったけど」
女の子の言うとおり、私の身体が思う様に動かないので横になっていると、ライムグリーンの髪の男の人が来ました。
やだ、この人凄い綺麗な方です。
「よっ!調子はどうだい?まあ、いいわけないか。全くうちの大将も物好きなこったねぇ」
「うるせぇ!」
何かを食べていた青年がライムグリーンの髪の青年の冷やかしに怒鳴り返しています。
次に壮年の男性が女の子に問い掛けていました。
「リミア殿。彼女が目覚めたのならば、水を汲んできた方がよいですかな?」
「うん!それとスープも少し冷まして持ってきて!」
「畏まりました」
男性はそういうと私の視界から消えて歩いていきます。
そう言えば川のせせらぎが聞こえてきます。
ここは一体何処なのでしょうか?
フランスでもこのような人たちは見たことありませんし、そもそも私は処刑された筈では?
そう考えていた時、男性がコップと木の器を持ってきました。
「リミア殿、水とお食事お持ちしました」
「ありがとライファ!」
女の子がそれを受け取ると私の身体を起こそうとする。
「はい!ちょっと起こすからねー、真治ー!手伝ってー!!」
「へいへい」
真治と呼ばれた男の人が私の肩を持って体を起こすと、そのまま支えてもらい女の子がコップを差し出してきました。
手が動かないのでそっと唇に触れ傾けてもらうと、冷たい水が口の中に入って来ました。
不意に私は涙が流れました。
あれほど火刑に処されている最中に欲した水がやっと。
「え!?どうしたの!?どこか痛いの!?」
あ、しまった。私が涙を流してしまったから女の子が勘違いしたようです。
「ちょっと真治!この子に何したの!?」
「何もしてねえよ!!確かに気絶してもらうために首にチョップ入れたけど!!」
チョップ?何のことでしょうか?
そう言えば首の後ろ側が少し痛いような?
「うわー、大将こんな火傷している女子甚振るとかないわー」
「だからしてねえって言ってんだろが!!ああでもしねぇと俺がこんがり焼かれてたっての!!」
焼く?むしろ焼かれてたのは私の方なんですが?
どうしましょう。ますます訳が分からないです。
と、取り敢えず首を振って誤解を否定することにしましょう。
あの真治って言う人にも悪いですし。
「え?違うの?じゃあ何で?」
女の子が首を傾げるので事情を説明しようとしましたが、やはり口がうまく動きません。
「今は話せないんだろ?もう少し回復してからゆっくり聞きゃいいじゃねえか」
「それもそうだね。じゃ、横にするね」
二人の手でまた寝かせられた私はジッと真治さんを見ます。
何でしょうこの方?
他の三人の方達より特に親近感がわいてきました。
私にはそれが今一よくわかりませんでした。
その直後、私の聞いたことのない鳴き声が辺りに響き渡りました。