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出会い(後編)

 商業都市街イリュシャン


 各地の貿易の拠点の一つとされているここは盗賊や魔物から街を護る堅牢な壁に囲まれており、出入りするには南北2か所の門からしかできない。そして門には衛兵が2名、門の両脇に立っていた。


 俺は南の門から行商人の行列に紛れながら街の中へと入り込む。

 言っては何だが意外と警備がザルだな。

 など考えていると、すぐに目的の現場が見つかる。

 町の中は中世のヨーロッパ風の建物が立ち並んでおり、その一角が完全に焼失してしまっている。

 かろうじて残っている柱の残骸が、そこに家があったことを物語っていた。


 ん?なにやら衛兵が誰かを囲っているみたいだな。遠巻きに人だかりもできている。

 俺は人垣をかき分けて前へ進むと、衛兵が倒れている人を介抱しているところだった。

 火事で運よく生き残ったのだろうか?服は焼け焦げ、肌は所々がひどい火傷が出来てしまっている。

 よく見ると中々の美少女だ。整った顔立ちだが若干のあどけなさを残している。

 髪の色は茶色掛かった金髪だ。見た目20歳行ってるか行ってないかくらいだな。

 衛兵は担架で少女を運んでいった。俺は衛兵の話を盗み聞きする。


「よくこんな火事で生き残っていたな」

「ああ。運が良かったのか悪かったのか。あの火傷じゃ今後大変だ」

「そうだな。ところで治療は何処でするんだ?病院は今、病に罹った行商人と何処かの小隊が魔物に襲われたせいで貸し切り状態だろ?」

「詰所ですることになったらしい。医者に来てもらって治療するとさ」

 詰所だな。情報提供サンキュー。

 それだけわかると充分だ。

 俺はそそくさと人混みから抜け出すと、衛兵が多い方へ歩いていく。

 

 そしてすぐに詰所と思しき建物が見つかった。

 入り口は衛兵が交代で見張っているらしくガードが堅いな。

 仕方ない。通りから路地に入って建物の内部に進入できそうな場所を探す。

 いい感じに開いている窓を見つけた。三階くらいの高さだがこれくらいなら問題ないか。

 

 俺は軽くジャンプすると余裕綽々と窓辺に捕まり中の様子を探る。

 こっちの世界に来てからというもの、すっかり俺の身体は変わってしまった。

 このように高跳び金メダリスト涙目の高さまでジャンプするなど朝飯前である。

 幸いに出払っているのか部屋の中に人影は見えなかった。


「さーてと、あの子は何処かなーと」

 部屋を見渡してみると一つだけあるドアに素早く近づく。

 耳を当てると外ではせわしく行きかう足音が聞こえてくる。

 直後、下から凄まじい轟音と衝撃が伝わる。


「おわ!?」

 何だ何だ!?魔法が暴発したのか!?

 しかし、その気配はなかった。

 魔法が発動した時、魔力が辺りに漂う感覚がある筈だがそれは全くなかった。

 ふと、俺は床が熱を持って燃え始めているのに気づく。

 外の衛兵がバタバタと下へ降りていく音が聞こえる。

 再度爆発が起き、通りから悲鳴が聞こえてくる。

 おいおい、こりゃ相当なことが起きてるな。

 急いで廊下に飛び出し階段に向かって走る。


「って何じゃこりゃ!?」

 階段から下がきれいさっぱり吹き飛んじまってる!

 崩れた壁からは野次馬が集まっており、それを守るように衛兵が何かを睨み付けている。

 俺はすぐさま衛兵の視線の先を辿る。

 そしてもう一度驚く。

 爆発の影響が残る瓦礫の中心に、先程担架で運ばれていた少女が佇んでいた。

 巻かれた包帯が解けかかっており、その隙間から虚ろな目で民衆と衛兵を見つめている。


「おいそこのお前!これはお前の仕業か!?」

 衛兵の一人が少女に問いかける。

 装備が周りの衛兵より揃っているため恐らく部隊長だろう。

 何も喋らない少女に部隊長は尚も問い詰める。

「何とか言ったらどうだ!それとも黙認するつもりか!この魔女め!!」

 その瞬間、少女がピクリと反応する。

 

何かヤバくないか?

 少女が漂わせている雰囲気が尋常じゃない。

 俺はそれを感じとり冷や汗掻くが、部隊長はお構いなしとばかりに指示を飛ばす。

「あの魔女を捉えろ!」

 部隊長の命令に従い、周りの衛兵が一歩ずつ前へ詰め寄る。

「馬鹿が!」

 思わず呟きながら階段から飛び降りる。

 既に少女が何かを呟いているのが見えたからだ。

 刹那、周りに突如として爆発が発生し周りに居た兵士が爆風に煽られる。

「うわぁぁぁぁ!!」


「ちぃ!!」

 俺はすぐさまある呪文を頭の中に思い浮かべる。

 すぐに呪文が発揮され、俺自身の動く速さが加速される。

 得意とする対象に速さを付加する魔法、エンハンスと分類させる付加魔法を自分に掛けた。

 掛けたのは俺自身の速度を早くする“疾風(はやて)”だ。

 鬼が魔法を使うというのもおかしと言うか妙な話のため、せめて名称は日本語にしようと思ったのでこう名付けている。別に妖術と呼称しても良かったが。

 爆風よりも早く壁に叩きつけられそうな兵士を回収すると、近くの地面に置く。

 残った爆風で転がるが、壁に激突するよりはマシだろう。

 そのまま少女の前に立ちふさがる。


 後ろで部隊長らしき人物の声が聞こえるが無視をする。

 どうせ何者だとか危険だとか言ってるんだろうが、この状況じゃ関係ない。

 目の前にいる少女から発せられるオーラが問題だ。

 俺と同じかと思ったら大分事情が違う様だ。

 しかし、あの少女どこかで見たような気がする。

 考え込もうとする俺を邪魔するように少女がスッと手を伸ばす。

 と、同時にとんでもない物が少女の背後に浮かび上がっていた。

 多分、俗にいうドラゴン的な影が俺の眼には映った。

「っ!?」

 ここに居たらマズイ。

 そう思ったのと飛び退くのが同時だったのが救いだった。

 俺が居た場所に爆発が起きる。


「長期戦はマズイか」

 すぐにケリを付けなければ滅茶苦茶になりそうだ。

 俺は姿勢を低くすると一気に駆け出す。

 相変わらず無表情でこちらに腕を伸ばすが、もう遅かった。

 すれ違いざまにうなじへ向けて手刀を当てる。

 少女は気を失ったようでかくんと膝から倒れる。

 やれやれ、とんでもない能力を引っ提げて来たな。


「おいそこのお前!動くな!!」

 げ、しまった。こいつらのこと忘れてた。

 俺と少女を囲む様に衛兵たちが道を塞いでいる。

「その者には魔女の疑いが掛けられている。その者は大人しくこちらに渡してもらおう」

 悪いが大人しく聞いてやれる義理は無い。

「ヤなこった」

 俺はそれだけ言うと少女を抱きかかえる。

 部隊長が衛兵に指示を出すが遅すぎる。

「へっ!?」

 誰かが間抜けな声を出した。

 衛兵の頭上を軽々と飛び越えて包囲を脱出した俺はすぐさま逃走を開始する。

 

「はっ!?逃がすな!追え追え!!」

 部隊長が我に返り衛兵が次々と追いかけてくる。

 通りで会うたびに後ろから追ってくる衛兵が伝えるせいで追手が増える増える。

 気付けば数十人くらいに後ろから追われていた。

 だがもう少しすれば門がすぐそこにある。最後の角を曲がると、門は今にも閉じられそうになっている。

 しかもいつの間にかバリケードまで敷かれている始末。

 どうやら伝令が先回りして門の警護に伝えたらしい。

 仕方ないから予定を変更する。

 

 俺は方向転換すると壁の方へと直進する。

 彼女を抱きかかえたまま俺は壁に付けられていた点検用の足場をヒョイヒョイと蹴って上に登っていく。

 壁の天辺にある通路に辿り着くと、そこを警備していた兵士が現れた俺に驚いていた。

「警備疲れ様です!」


 そう言い残すと地面を蹴り、壁の外側へ向けてジャンプする。

 後ろで悲鳴めいた声が聞こえてくる。

 壁の外側に生えている樹木の幹を蹴ってクッション代わりにすると地面におり、みんなが待っている河原へと急いで戻った。


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