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出会い(前編)

 俺こと一ッ葉真治がこの世界に来てからどれくらいたったのだろうか。

 長いこと時計という物を見ていないせいで今一、時間間隔がおかしくなってしまっている。現代っ子の悲しき性だ。


 こっちに来る前は大学生活をエンジョイしていた。主に趣味的な意味で。

 日々妄想もとい想像にふけ、趣味の合う友人と語り合ったりもしていた。

 ゲームもよくするしアニメやラノベも良く見る。

 暇つぶしがてら作品の題材となった神話や事件を調べたりしたりもしていたことがある。

 そんな俺が河原にある石から手ごろなものを見つけて一か所に集め、それを別に集めた薪を囲む様に組み合わせて、簡易的な竈を作っているかと言うと少し説明が要る。


 その日は晴れていたから日課の散歩をしていた時だった。

 街行きすれ違う人達を観察するのも楽しみだった。美人が通りかかるものならそれをながめる。友人は、嫁は二次元だけだと公言していたが、俺は三次元だろうが二次元だろうが美人は美人と決めている。

 そんな事をしていると、視界外から何かが猛烈な勢いで突っ込んでくることに気付くのが遅かった。


 恐らく、跡形もなく潰れたのだと思う。

 痛みどころか死の恐怖さえも感じる暇なく死んでしまった。

 そう思っていた。

 しかし、次に目を覚ましたら体は何ともなかった。見事に五体満足だった。

 あ、いや。これでは語弊があるな。

 正確には異常はあった。


 俺の身体は既に人間の能力とはかけ離れた者へと変わってしまっていた。

 というか既に人ですらなくなっていた。

 額からは角が一本生え、短髪に切り揃えていた髪の毛はライオンの鬣の様に広がり腰のあたりにまで伸び、歯は猛獣の牙みたいに鋭く尖っている。

 元々、あまりに平均的だった肉体も見事に細く引き締まった筋肉質に変わっていた。

つまるところ昔話とかでよく出てくる鬼とか仏教の夜叉と呼ばれるものに近い姿に変わっていた。


 おまけにこの世界には魔法が概念として存在しているようで、俺の身体には魔力が宿っていた。

 なので普段は人間の姿になれる魔法を使用して元の姿で生活している。

 色々と鬼の身体では問題があるからな。

 ともかく俺はいとも容易く行われる何とかみたいな感じで異世界へと飛ばされたのだった。


 当然、飛ばされた当初は困惑した。

 そりゃあ、死んだと思って目を覚ましたら鬼になってた、なんて驚かない筈もない。

 誰だってそーなる。俺もそーなったし。

 ついでに言うとこの世界にはゲームとかの敵キャラでよくある魔物が闊歩している世界でもある。

 しかし、とある人物との出会いによって今の俺はこの世界でも何とかやっていけていた。


 現在の俺は紆余曲折あって3人の仲間と共にある目的のために旅を続けている。


 竈が丁度出来上がったタイミングで奥の草むらから誰かが出てくる。

「よー大将!活きの良い兎と野鳥が手に入ったぜ!!」

「お、うまそうじゃん!流石だギース!」

 俺は草むらから出て来てウサギと野鳥を掲げる男、ギースに向かってサムズアップする。

 見た目はライムグリーンの髪をボサボサにしてオリーブ色の外套を纏う好青年といった感じである。男の俺から言うのも何だが、かなりの美形男子である。ヘラヘラとしてはいるが。


 しかし、この男もいわゆる人間と違う点がある。


 最大の特徴は先端に向けて尖るように細くなっている耳だった。

 そう、この男はエルフである。ファンタジーを題材にした作品とかで出てくるメジャーな種族である。

 ギースは周りをキョロキョロと見渡しながら俺に問い掛けてくる。

「あら?メリアとライファのおっさんは?」

「あいつ等なら街に買い出しに行ってるよ。丁度料理に使う香辛料が足りなくなってきたところだ」

「あー、しばらく補給してないからなー。そういや街の近くを通った事なんて何時ぶりだったか」

「最後は確か、北のエルムストを出たあたりからだな」

 俺はギースから受け取ったウサギと野鳥を捌きながら答える。

 血抜きする作業をしつつ皮を剥いでいく。

 するとそこで鈴の音がしたのでその方向を見る。

 旅の仲間が帰ってきた。


「おーい!たっだいま~~!!」

 猫耳と尻尾を生やした踊り子の衣装を身に纏った少女がピョンピョンと跳ねてこちらへと走ってくる。

 その後ろには買い物袋を抱えた壮年の厳つい男性が歩いてくる。

「お帰りメリア。お疲れさんライファ」

「ハッハッハ、何のこれしきの量、まだまだ運べますぞ」

 ミリアに抱き着かれながらライファを労う、とライファは朗らかに笑いながら、手に持っていた買い物袋の中から香辛料の瓶を取り出す。

 ミリアはともかくこの老人も人と変わらぬ見た目をしているが、中身がまるで違う。

 俺はそれを受け取り、蓋を開けて中から漂う香りをかぐ。


「うし。頼んだ通りの奴だ」

 こっちの世界では香辛料とされるものは数多くあり、その中でも俺がお気に入りなのがソルトペッパーという塩味の付いた胡椒といったものだった。

「やったー!真治の料理が食べられるー!!」

「はいはい。判ったからいい加減離れなさい」

 嬉しさのあまり尻尾をふりふりとさせるリミアを引き剥がす。

 リミアは不服そうにしながらも渋々と離れる。

 が、すぐに何かを思い出した様に笑顔になる。

「あっ!ねえねえ!そう言えば町で何か事件があったみたいだよ!」


「事件?」

 ギースが薪に手際よく火を熾した、竈から視線をリミアに移しながら聞き返す。

 ギースも一応魔法は使えるが、炎属性の物は苦手としているらしいし、一々魔法を使うのも便利であるが問題は体力を使うことにある。

 俺はライファから受け取った香辛料を血抜きをして食べられる部分に捌いたウサギと野鳥の肉に振りかける。

 ライファがリミアの後を引き継いでそのことを説明する。

「ええ。私達が買い物を済ませた後に何やら衛兵が慌ただしくすれ違って行きましてな。近くに居た住民に話を聞いてみたら、何でも街の一角で結構な火事があったようで」

「火事だぁ?」


「うん!振り返ってみたらおっきな黒い煙が上がってたよ!!」

「どっかの馬鹿が魔法を暴発させたんじゃないっすか?」

 ギースが水を汲みながら話すとリミアが首を横に振る。

「うーん、多分違うと思うよ。誰かが魔法を使ったなら私が判る筈だし」

 気になるな。

 俺はリミアに火事のあった場所を聞く。


「それは何処であったんだ?」

「街の南門の近くですな。今は恐らく鎮火してるでしょうが」

「判った。ちょっと見てくる」

 俺がそういうとギースがおよ?と驚いた顔をする。

「大将が行くのかい?」

「ちょいと気になったからな」

「えー!!ご飯はどうするの!?」

 耳元でリミアが叫んだせいでキーンとする耳を抑える。

 猫人族(ケット・シー)の声は甲高いから余計にダメージがでかい。


「ちょっと見て来るだけだ。仕込みもしたし、馴染んだくらいで帰ってくるって」

 俺はそういうとその場から駆け出した。

 後ろでリミアが何か文句を言っているがライファが宥めてくれている。

 その直後に鈍い打撃音が聞こえたが無視をした。

 多分そこら辺に煩いギースが居たのだろう。


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