炎の中の述懐
熱い。
私が最後に感じたのはただそれだけでした。
私の身を焦がす炎を見ながら嘲笑う者達の顔を今でも覚えています。
祖国のために民を率いて戦い、捕まってしまった私に待っていたのは祖国の裏切りでした。
主の名の許にと私は、謂れの無い罪を着せられ独房に入れられました。
私は文字が読めなかったので、恐らく私が署名した文書のどれかが偽物だったのでしょう。
独房に入れられた私はそこで祖国の兵士に汚されました。
私はただ深い悲しみに襲われました。
聖女と言われても所詮は片田舎の農夫の娘です。
もし神託が無かったら素敵な殿方と結ばれ、幸せな家庭が築きたいと思ったことだってあります。
それがこんな風に散らされるとは思っても居ませんでした。
私はふと己の身に感じている熱が外からの物ではなく、内側から燃え上がっているモノだと気づきました。
いえ、気付いてしまったと言ってもいいかもしれません。
激しく炎上する地獄の業火が如き、漆黒に染まった薄暗い憎悪に満ちた炎が私の中で渦巻いていました。
私は絶望しました。
命を懸けて守っていた者達の裏切りに。
虚偽の罪を着せ私を捌いた司教達に。
そしてその者達に己の身を焦がさんとする憤怒を抱く自分自身に。
嗚呼。せめて、この悪夢が終わってくれたら。
次に目が覚めたら。
私の魂が、憎悪を保つことを忘れていてくれたら。
そう思いながら私は紅く染まる視界の中、そっと目を伏せました。
さようなら、愛しくも憎き故郷よ。
もう二度と、私は戻ることは無いでしょう。
お互いに禍根を残すわけには行きません。
戦争はまだ終わってないのですから。
せめて我が愛しき故国に勝利を。
私を取り巻く炎が一層激しく燃え上がった感覚の後、私の人生は幕を下ろしました。
次の幕が上がることも知らずに。