邯鄲の枕
「将来の夢は何だ?」
生前、叔父さんの口癖はいつもそうだった。
突然の入院から葬儀まで、叔父さんとの別れは瞬く間に終わり、思い出すのは口癖ばかりだった。流れるように至った命日は、しめやかに最期を見送った。
大学を卒業後、夢もなく地元を離れて就いた職。気が付けば、俺は三十代も半ばを過ぎていた。毎日の憂いと呼吸だけの人生に生気はなくて、葛藤に背を向け続けたそんなある日のこと。伯父さんの入院を知った。
十数年振りに見る伯父さんの姿は床に伏しており、面影残る青年の頃の俺にうわごとを言っていた。
「俺には太陽が二つ見える。お前はどうだ? 見えるか?」
叔父さんの黒眼が睨む。今の生き様を見透かされた気がした。
葬儀から四十九日を過ぎた日。両親と共に伯父さんの家へと訪れた。
遺品整理のためだったが、葬儀後の始末もあってか、手を付けられるものは限られていた。家中は密やかだった。
書斎に寄り、年季の入った机に俺が触れるのを見て、両親が言う。
「夢に生きた人だった」
近所付き合いの仲でも、伯父さんは親戚以上に好くしてくれた。そんな記憶と共にあの口癖が甦る。
「将来の夢は何だ?」
ふと、机上に書きかけの小説を見つけた。そうか、伯父さんの夢は――
それから、俺は寝る間を惜しむほどの夢を見つけた。それは、朝も昼も夜も関係ない。太陽が二つあるかのような毎日だった。




