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私と佐藤さんのニンゲン計画  作者: 花井花子
私は佐藤さんの忠犬である
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002

 とりあえず背の低い弱そうな茶髪から殺ることにする。


 床を蹴り飛ばして、一気に懐まで距離を詰めた。私の突然の行動にたじろぐのを見逃さず、露出している右腕に狙いを定める。

 両手でしっかりと茶髪の右腕を鷲掴み、小さく息を吸い込んで歯を突き立てた。


「痛っ、あぁあああっぁああっ!!!!」


「お、おい、亮介……!!!?」


 必死に左腕で私の頭を殴りつけるリョースケ(激まず)くん。残念、君が必死の力で殴れば殴るほど、私は痛くないんだよね。君の攻撃はただの衝撃でしかないよ。


 全神経を顎に集中させる。しっかりと骨を噛み砕くつもりで噛み付いていたが、ぬるっとズレてしまい皮膚だけを噛む形となる。仕方が無いので皮膚を噛みちぎる事にした。下顎に力を入れた瞬間、ブツッと皮膚の表面を貫通した音が聞こえた。どろりと鉄の味が口内に入り込む。

 それと同時に彼は糸が切れたように倒れてしまった。


「死、死ん……死、死!!!!」


「亮介!!おい、返事しろ亮介!!!!」


「あー、騒ぐな騒ぐな。リョースケくんは気を失ってるだけだよ。全く、噛みちぎられてもないのに、痛みで気絶するとか日本男児は軟弱だねぇ」


 口の中に溜まった血を吐き出す私を、馬鹿面で立ち尽くしながら怯える三人(馬鹿)。


 ニンゲン風情が何も対策無しに、ゾンビに勝てると思ってたんですかね。


「まぁ、なんて言うか。死ぬ気でかかって来なよ」


 そして、私は近くあった野球部のバットケースから金属バットを取り出す。


「――私は殺す気でかかってくから」


 戦意を失い怯えたように震え出すニンゲン。

 今更、遅いんだよねぇ。


「えー、四番ピッチャーでたらめ子。サヨナラ殺害ホームラン打ちまーす」


 金属バットを両手で持ち、上半身を捻って、下半身でその力をしっかり溜める。理想は松井秀樹、イチローでもいいや、あとは中田翔か、あるいは王貞治。


 いっせーのっ


 溜めた力を一気に解放。

 踏ん張る足に力を目一杯乗せて、フルスイング。


「カキーンッ!!」


「がっ……!!!!」


 震えながら棒立ちしていた一番背の高い面長くんの腹を真芯で捉えた。「カキーンッ」と効果音を叫んだ割には、ずんっと鈍く低い音。柔らかい感触だった。


 防御をする事も出来ずにクリーンヒットを打たれた面長くんは白目を剥いて、びちゃっと吐瀉物を床に撒き散らしながら崩れ落ちる。


「汚いなぁ。後でちゃんと拭きなよ? あ、昼ご飯は唐揚げだったの? いいなー」


 幸い佐藤さんにも私にも付かなかった吐瀉物。

 うげぇ、酷い臭いだ。


「お、おま、頭おかしいんじゃねーの!?」


 汚い金髪の、おや、君は絨毯くんじゃないか。

 相変わらず不細工で似合わない髪色だね。禿げるよ?


 その絨毯くんは今更なことに気付く。

 顔も悪けりゃ頭も悪いんだね、参ったねこりゃ。

 目を白黒させながら恐怖する様子はとてもじゃないが見れるようなもんじゃない。


「そうだよ」


 今更、気付いても遅いんだよねぇ。


「じゃあ、えーと次は絨毯くん逝っちゃう?」


「ま、待て!!」


「どうしたの?」


「もう、何も、何もしないから、出てくから、やめてくれ、下さい、お願いします!! 」


 必死に目に涙を浮かべて懇願する絨毯くん。

 まぁ、これ以上は可哀想だしね。


「うーん、じゃあさ、面長くんの吐いた唐揚げ。食べたら許してあげてもいいかなぁ。佐藤さんに手を出そうとしたんだから、それくらいは出来るよね?」


 にこっと微笑んであげる。バットを軽く素振りしながら。多分、彼には私が聖母か長島一雄に見えているに違いないだろう。セコムしてますか?


「は、無、無理に決まってるだろ!!」


「じゃあ、一回 死んでみよっか?」


「は、はっ、は……」

 

 腰を抜かして後ずさりする絨毯くん。

 にじりと私が一歩歩み寄る。


「まぁ、逃げれるもんなら逃げてもいいよ。背骨か頭蓋骨は割れちゃうと思うけど」


「わ、わかった、わかった食べる、食べるから」


 私の予告殺人ホームランが脅しではないと理解している賢い絨毯くんは、目から大粒の涙を零して唐揚げだったものを必死の様子で手で掴む。


「ほらほら、はやく食べなきゃ死んじゃうよーん」


 ぶんっと金属バットをもう一度振る。


「食べる、食べるから……ひっ……はっ、うっ、おぷっ、おぇっ、うっ、ぐ、ぐぐぐ、おぷっうっ」


「わはは、すげぇ。ほんとに食べたんだ」


 青い顔をしながら、嘔吐の波を堪えて、絨毯くんは私を見上げる。私を見上げるだけでも精一杯といった様子。


「こ、これで許、許して、も……もっ」


「おっけー、じゃあ立って」


「立っ……!? な、な」


「ほら、立って立って」


 喋るのも一苦労なんだろう彼は、よろよろと腰を抜かしながらも一生懸命立ち上がる。

 私は彼のお腹に目掛けて――


「突きぃっ! おわ、あっぶな!」


 金属バットを勢いよく突き出した。それと同時に彼も限界を迎えて吐き出す。吐き出すと思って殺さない程度には手加減してあげたのに、私に向かって吐瀉ブレスを仕掛けてきやがった。なんとか間一髪でそれを避ける。


「な、なん、許してくれるって……!?」


「え、そんなこと私言ったっけ?」


 佐藤さんの方を振り向くと、ガスマスクから小さく笑い声を漏らしながら首を横に振った。


「ほら、言ってないって。でたらめも大概にした方がいいよ? 精神科紹介してあげようか?」


「ひっ、ひぃぃい

!!!!」


「あらら、逃げられちゃった。わははっ、ゴキブリみたい」


 床に這いつくばりながらも、せかせかと脚を動かし逃げていくゴキブリに思わず吹き出す。惨めだなぁ。


「ごめんね、佐藤さん。逃げられちゃった」


 振り返り、床に座っている佐藤さん。


「大丈夫だよ」


「佐藤さんは優しいなぁ。じゃあ、もう一匹は……ありゃ?」


 泡を吹いて倒れている。なんもしてないのに。

 うーん、どうしようか。一人だけ何もされないのは不公平だしなー。仲良し馬鹿四人組一人だけ仲間外れは良くないと思うの。


「よし、軽く掃除しよう」


 もじゃもじゃのゴミみたいな髪の毛を掴んで、吐瀉溜まりまで引きずる。うう、面長くん邪魔だなぁ。

 面長くんの頭を蹴飛ばし、位置をずらす。


 吐瀉溜まりにゴミパーマくんを捨てた。

 ゴンっと床に頭が落ちた音が教室に響き渡る。

 吸水性よさそうだから、しっかり全部吐瀉物を吸って欲しいものだね。足でゴミパーマを押して、何度か吐瀉物を往復させた。


 ぱんっぱんっと手を払って、はい、おしまい。


「佐藤さん、お待たせ! ご褒美くださいな!」


「ふふ、飴子ちゃん犬みたいで可愛い」


「わんわん!」


 佐藤さんの為なら犬にもなりますわん。

 むしろ飼って、養って下さい。


「おいで、わんちゃん」


「わーん」


 両腕を広げる佐藤さんに飛び込む。

 鼻から彼女の匂いを思いっきり吸い込んだ。


 はぁぁ、やべぇぇ、気持ちぃぃ。


 でたらめ犬、誕生の瞬間であった。

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