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私と佐藤さんのニンゲン計画  作者: 花井花子
私は佐藤さんの忠犬である
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001

 ぱぁ、娑婆の空気は美味いですな。

 女の子を襲って懲役三年、お務めご苦労様でした私。わっはっはっ、さーて次はどんな可愛い子ちゃんを襲おうかな。げへげへ。


「いかんいかん、テンションが上がりすぎている」


 昼下がりの暑い通学路、蝉の美声をBGMに私は気を引き締める。

 どうして今日は浮かれ気分かと言うと、今日のマドンナ先生はとても優しかったからだ。行ってらっしゃいのちゅーまでしてくれた。天変地異が起きますね、これは。滅べ、人類。


 あ、滅ぶ前に佐藤さんにきちんと謝っておこう。


 昨日の記憶はひっじょーに曖昧だ。

 確か佐藤さんのいる病室に行って……それから、なんかテキトーに謝って、それから……


 常にでたらめを考えているから、もしかしたらこの記憶もでたらめによる捏造かもしれない。

 あ、『でたらめ子』って名乗った気がする。……夢だったかな。


 夢と言えば、私の左腕。

 何か知らないけど、綺麗な包帯が巻いてある。

 マドンナ先生曰く、昨日寝ぼけて噛んだらしい。

 そろそろ寝ぼけて人を殺す日も近いかもしれない。

 全然笑えません。


「……それにしても、暑い」


 じりじりと肌を焦がす太陽が恨めしい。

 もしかすると、太陽も人類が恨めしいのかもしれない。

 コンクリートに照り付ける熱気が反射して、スカートの中に篭っていく感じが非常にいやらしい。

 許される事なら全裸で生活してみたさはある。


 全裸。佐藤さんの全裸。

 想像しただけで美しい。あの、真っ白な身体はクラスのニンゲン達も触れた事はないだろう。


 私はある。


 謎の優越感に浸りながら、校門までたどり着く。

 校舎の時計はちょうど昼休みの終わりに差し掛かったところに針を示していた。


 そして今日も午後一番目の授業は体育。ちょうどいい、佐藤さんが一人きりになる。きちんと謝罪して、ぺろりと舐めさせてもらおう。 はやく教室に行こう。


「あっ、薬飲んどこうかな」


 また興奮して佐藤さんを襲ったら困る。

 うーん、でも会話にならないかもしれない。

 興奮したら飲もう。


 昨日の夜、何があったのか知りたいし。


 マドンナ先生は何も無かったと言うけれど、嘘をつく時の癖が出ていた。あの人は嘘をつく時、タートルネックの襟を左手で直す仕草がある。

 バレてないと思ってるマドンナ先生まじぺろぺろ。


 結婚しないのかな。


 少し怖い顔してるけど美人さんだし、まぁ、年齢はもうすぐ三十路なるけど?

 おっぱいも大きいし、良い匂いするし、宿題教えてくれるし、料理も美味しいし、薬も頼めばたくさんくれるし、ちゅーしてくれるし、何より美味しいし。


 やべぇ、私が結婚したい。


 マドンナ先生みたい人間が溢れかえれば、きっと世界は超ウルトラネガティブハッピーになれるはず。

 でも現実はニンゲンがゴミのように蔓延ってるからねぇ。


 三階にある私のゴミ箱(別称教室)の扉に手をかけて、そろそろと開く。やっほー佐藤さん、レイプ魔がきたよーん。


「……ありゃ?」


 しかし、予想に反して教室は多くのニンゲンがいた。男が四人。みんな驚いた顔でこちらを見ている。そして、その中心にある机に座ってるのがガスマスクをつけた少女、佐藤さんである。


「なんだ、お前かよ」


「うわぁ、教師かと思ったよ俺」


「嘯木さん、邪魔だからどっか行ってくれる?」


 あれ、めちゃくちゃアウェーだ。


「いやぁ、私も佐藤さんに用があるんだよねー」


「キモッ、どっかいけよブス」


「こっち来んな、豚」


 おま、豚とはなんだ豚とは!

 説教してやらんといけんな!


「ぶひぶひ」


 あ、やべ豚語出ちゃったよ。わはは。


「はぁ、マジきめーんだけど」


「お前らって嘯木につめてーよな」


「だってこいつ『ゾンビ』だぜ? 俺、小学生から一緒だけど、コイツまじやべーからね」


「あー、ゾンビね。うちの小学校にも噂流れてきてたわ」


「え、私ってめちゃくちゃ有名人?」


 サインとか書いてあげた方がいいのかな?


「へらへらしてんじゃねーよ、ブス」


 おっと、不細工が怒り始めた。


「まぁまぁ、落ち着いてよ。邪魔しないから、私も仲間にいてくれない?」


「はぁ!?」


 いや、佐藤さんと遊ぶなら仲間に入れて欲しいじゃんか。仲間外れにしないでよー、ブス同士仲良くしようよー。


「まぁ、いいんじゃね? こいつ力だけ強いから佐藤のこと抑えてもらおうよ」


「……まじで邪魔すんなよ?」


「しないしない! なんなら皆さんの言う事聞くし。忠実な犬になりますよ、わはは」


 こそこそと相談しあってるニンゲン達。

 うわぁ、すげぇ醜い。見てられないよママー!!


 どうしてニンゲンは自分の考えで行動出来ないんだろう。同調性重視って楽しいのかな。まぁ、非常食の考えなんてあんまり分からない。

 そういえば、こいつら揃いも揃って不味そうな匂いしてるなぁ。非常食にもならない。


「……じゃあ、佐藤の事抑えろよ」


「俺達が何しても絶対に抑えとけよ」


「先生にチクッたら殺すからな」


「お前も共犯だからな」


 ……いっぺんに言われても分かんないですよ。

 まぁ、いいっか!


「おっけー!」


 佐藤さんに触れるぜ、うへへ。

 私はニンゲン達の中心で机に座った佐藤さんに抱き着く。うへぇ、めちゃくちゃ良い匂い。


「そこじゃなくて、こう、床に座らせて羽交い締めにしろ」


「へいへーい。佐藤さん、床に座れる?」


 無言で佐藤さんは床に座る。

 私は優しく佐藤さんを後ろから羽交い締めた。

 ってか、何するんだここから。プロレスごっこ?


「じゃ、脱がしちゃおうぜ」


 は?


「よっしゃ」


 そう言って、一人のニンゲンが佐藤さんのスカートへ手を伸ばし――


「は? 嘯木、お前なにやってんの」


 手を伸ばそうとした所で、私はそいつの腕を掴んだ。


「私の佐藤さんに触んな」


「はぁ? お前殺すぞ」


「お前、邪魔しねーって言ったじゃん」


「言ってない」


「は、はぁ!?」


「お、おま、俺らの言う事聞くって」


「言ってない」


「お前、頭おかしいんじゃねーの!?」


 ……ちょっと何言ってんだ、この人達は。

 でたらめばかり言いまくって、精神科に言ってきた方がいいと思う。


「でたらめ子さん、ちょっときて」


「うぇっ!?」


 不意にくいっと袖を掴まれて、佐藤さんの胸元に頭を抱き寄せられた。

 なんぞ、なんぞこれ!!


「昨日の病院のこと、覚えてる?」


「……謝ったこと?」


「その後の事」


「い、いや、ちょっと記憶なくて……」


「やっぱり、そうだと思った。行動が変だから」


 くすくすと佐藤さんが笑う。


「で、でへへ」


 私も笑ってみた。

 瞬間、佐藤さんは私の顔を自分の首元へと押し付ける。

 佐藤さんの匂いが肺を満たして、脳に衝撃的な甘ったるくて、中毒的な快楽が襲ってきて――――――


「思い出した、かな……?」


 ――鮮明に、昨日の夜を思い出した。


「うん」


「お帰り、飴子ちゃん」


「ただいま、佐藤さん」


 佐藤さん、私だけの佐藤さん。


「ねぇ、飴子ちゃん。二人きりになりたくない?」


「なりたい」


「じゃあ、そこにいるニンゲン達って邪魔だよね?」


「うん」


「お願いできる?」


「任せて……」


「後で舐めさせてあげるからね、ふふっ」


 その言葉を聞いて、私はようやく目を覚ました。

 ニンゲン達は私を恐れるように、目を見開いていた。


「あー、お前ら。そう、お前ら四人。邪魔だからどっか行け」


「は、はぁ!?」


「おい、嘯木もヤッちまおうぜ!」


「お、おう」


 あーあ、頭の悪いニンゲンだ。

 私は心の中の化け物を解き放つ。


 いただき、マス。


 ガブッ




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