6話
今までで一番多い字数になったので、誤字、脱字も沢山含まれていると思われます。
「それでウィルは一人で旅に出たのですか?」
「ああ、セリス達と出会うまでは一人旅だったな」
「私だったら絶対一人で旅何かできません。ウィルは凄いですね」
そんな尊敬された眼差しで見られても困るな。実際、一人で旅してたの半日程度だし……
俺が馬車に乗らせて貰って二日目。つまり、セリスと友達同士になってから一日しか経っていないのだが、会話の中で多彩な表情を見せてくれる様になったのと、俺の事をウィルと呼んでくれる様になったのでかなり打ち解けてくれたのだと思う。
今、先日俺が倒したゴブリンロードの事や、俺の生まれた村の事など色々と聞かれ話していたのだが、日の傾きを見る限りではどうやら一時間くらいずっと話し続けていたみたいだな。
少し喉が渇いてきたし、話し的にも区切りがいいから少し休憩するか。
「セリス、少し休憩しよう。隣に座っても良いか?」
「は、はい」
妙に緊張している様子のセリスの隣に座り、魔力を使用する。
「ウィル?」
魔力を感じ取ったのかセリスは怪訝な表情をしていた。
「ちょっと待ってくれ」
目の前の何も無い空間に歪みが生じ、今朝作ったばかりの異空間に繋がった。
良し、上手くいったか。
空間魔法は、物を取り出す際に魔力を込めすぎると中に入れたものが偶に凄い勢いで飛び出してくるからな。いきなり飛び出してきて、セリスに当たってはいけないと思い席を移ったが杞憂だったか。
異空間の中に魔力を纏った手を伸ばし、ルフの村で買った果汁の多い果物を取り出していく。
「セリス、食べてくれ」
取り出した果物をセリスに手渡した後、先程まで座っていた位置に戻り果物を食べ始める。
果汁が咽喉を潤してくれて、何とも言えない爽快感に満たされる。買って正解だったな。
取り出した果物を半分程食べ終え、もう少し取り出そうか思案している中、ふと見るとセリスは果物に全く手を付けていなかった。それどころか不思議な表情をして手渡された果物と俺の方を交互に見ていた。そして目が合ったと思ったら良く意味の分からない質問をされた。
「ウィル、魔道具は一体どこに身につけているのですか? 服の中ですか?」
俺が今持っている魔道具といえば、空間袋くらいしかないな。
果物を食べ終えた俺は服の内側に入れている空間袋を取り出してセリスに見せる。
「これの事か?」
「いえ、物入り袋の事ではなく今、空間魔法を発動させた魔道具の事です。もしかして、そのペンダントですか?」
セリスは、俺の首から下げてある母の形見であるペンダントに目を配ってきた。
どうやら、このペンダントが気になるらしい。ペンダントを首から外し、セリスに見せてやる事にした。
「いや、これは魔道具じゃない筈だぞ。それと今の空間魔法は俺が発動させ……」
「本当ですか!?」
まだ、話の途中だったのに間髪入れずの返答だった。先程までと違い少し興奮してる様に見える。一体どうしたのだろうか?
「本当だが……」
「もう一度見せて頂いてもよろしいですか?」
流石に、そんな期待をされた目を向けられて断る程俺も捻くれてはいない。セリスの目の前で先程出した果物をもう一度取り出していく。
「これでいいか?」
俺の一挙一動を見逃すまいとしていたセリスは、改めて俺が果物を取り出すのを見て凄い勢いで褒めちぎってきた。
「凄いです!! ウィルは凄いです!! 無系統の四等級に相当する、空間魔法を魔道具無しで完璧に使いこなすなんて凄いです」
それ口火にして、賛辞の言葉をかなり貰ったのだが、無系統? 四等級? と言った初めて聞く様な言葉が出てきてセリスの言っていることは殆ど理解出来なかった。なので、その無属性やランクの話を聞きたかったのだが嬉しそうにしているセリスを見ていたらもう少しこのままで良いかと思い、セリスからの賛辞を聞き続けることにした。
「あー、そのセリス良いか?」
「な、何でしょうか?」
一応話が終わったので声を掛けたのだが、先程興奮していたのを恥じたのか少し顔をが赤くなっている。
「さっき言っていた無属性や四等級っての初めて聞いたから是非詳しく聞きたいと思って。良かったら教えてくれないか?」
「えっ、知らないのですか?」
驚いた表情を一瞬浮かべた後、何故か魔力を右手の指輪に流し込みはじめた。どうやら右手に嵌めている指輪は何らかの魔道具らしい。魔力を流し続けて十秒程経過した後に目の前にいきなり一冊の本が現れた。
それを見て分かったが、どうやらあの指輪は空間魔法を操るものらしい。異空間の中に手を入れずに自分の思いのままに物を取り出せる所を見る限りかなりの一品だ。
「その指輪……」
「はい、空間魔法が扱える魔道具の一種です。それより、ウィルこの本を是非一緒に読みましょう」
セリスが取り出したのは現在の魔法について書かれた本であった。
俺はすぐに即答し、セリスと一緒に本を読み始めた。
・魔法の種類は七つに分類されており全ての魔法に系統が割り振り当てられいる。系統はそれぞれ火系統、水系統、土系統、風系統、光系統、闇系統、無系統。この中でも火、水、土、風、この四つの系統を四大系統と言い魔法の基礎である。
四大系統が魔法の基礎なと呼ばれる理由は、全ての人間がこの内のどれか一つの系統に必ず適正を持っていると言われているからであると続きに書かれていた。
今日初めて聞いた残りの光、闇、無系統については触りの部分だけしか書いていなかったので良くわかっていない。分かった事と言えば光系統には治癒魔法や解毒魔法、無系統には空間魔法があるって事くらいだろう。そこらへんはおいおい自分で調べていくか。
・魔法には十から一までの等級があり、一等級を最高位とし以下の魔法の位の高さは昇順である。
また三系統以上の魔法を扱え、魔法についての正しき知識を持った者を魔術師と呼ぶ。等級は魔術師の格としても扱われる。
ややこしい書き方をされていたが、つまり数字順で魔法の凄さを決めているみたいだ。例えば一等級が一番凄い魔法で、二等級が二番目に凄い魔法、一番簡単な魔法が十等級って事だ。
セリスの補足によると三等級以上の魔術師は誰もが認める一流の魔術師の代名詞らしいのだが、三等級より上の魔術師を名乗るには特別な資格がいるらしくおいそれと名乗れないらしい。つまり大体の奴等は魔術師では無く魔法使いだという事だ。
因みに俺がセリス達を助ける決めてになった氷の魔法についてなのだがあの氷の魔法は水系統に位置し等級は三等級より上しか存在しないらしい。
セリスはどうやらその特別な資格とやらを持っていない為に、俺にあの氷の魔法を教える事が出来ないらしい。
・魔法の発動方法は詠唱、魔法陣、魔道具この三つが主流である。
これについては知っていたので詳しい説明は特にいらなかった。
この三つにはそれぞれ利点と欠点があるが、今一番普及しているのは詠唱だそうだ。
詠唱はこの中で一番手頃に魔法を発動する事が出来るし、慣れれば詠唱短縮出来たり無詠唱で魔法を行使出来るから今の時代でもやはり主流みたいだ。
・魔石とは…………
----------------
「セリス、ありがとう。為になったよ」
この本のお陰で、今の時代の魔法について色々と知る事が出来た。
五百年前、人間ではあいつしか使えなかったと思われる魔法の数々も、今の時代においてはセリスが氷魔法を使ったように普通に使える物もあるみたいだし、面白い事が書かれた本だったな。
「それは良かったです。あ、あの、それでウィルにお願い事があるんですが……」
「お願い事?」
「は、はい。その出来たら私に空間魔法を教えて頂けないでしょうか?」
期待に満ちた目で此方を見ている。
先程も空間魔法を使った時、目を輝かせていたし魔法が好きなんだろう。
いや、教えてやりたいんだが……
「魔法を教えるのは凄く下手だけどそれで良いんだったら……」
「本当ですか!! ありがとうございます」
手を握られ感謝されてしまった。よっぽど嬉しいんだろうな……
いや、悪いけど多分俺の説明では無理だと思うんだけどな。
「では、まず何からしたら良いでしょうか?」
「今から俺がゆっくり空間魔法を使うから魔力の流れを見てくれ」
そう言って、空間魔法の指導が始まった。
俺の魔法の指導方法は相手に見せて勝手に真似て貰うだけなので、特に指導するという事は無い。
強いて言えば。
「セリス、それはグッと魔力を放出してる感じだから違う。グイッと魔力を放出するんだ」
「は、はい。こうですか?」
「それは、グイーンって感じだから違うな。魔力を一定の量で放出しないとグイッって感じにならないんだ」
こんな感じに指導するだけだ。
それにしてもセリスは凄いな。前世で俺に空間魔法を教えて貰おうとしていた奴等は数十分で匙を投げていたのに、ここまで頑張るとは……
自分で言うのも何だが、こんな感じで魔法の指導をされたら多分投げ出している。
セリスの空間魔法の練習を見守っていたらハインの声が聞こえてきた。
「セリス様、ウィル君、そろそろ昼食を取るから馬車を停めるよ」
セリスの魔力量が半分を切ったのでそろそろ休憩させるつもりだったので良いタイミングだ。
「セリス、それじゃあ休憩にしよう」
「はぁ…… はぁ…… わ、分かりました」
セリスと一緒に外に出て昼食を取った。
昼食を取り終わった後、セリスは少し疲れているので馬車の中で休憩しておくと言って馬車内に入っていった。魔力的には余裕があるが体力的には結構しんどかったみたいだ。明日からはこまめに休憩を取らせる様にするか。
そんな事を考えながら一人でぼんやりとしていたらノイドが俺の傍に寄ってきた。
どうやら、俺に用事があるみたいだ。
「おい、ウィルムス。セリス様の様子がおかしかったが何かあったのか?」
「さっき、俺と一緒に魔法の練習をしていたからそれで体力を消耗して疲れてるだけだから大丈夫」
「何の魔法を練習していたんだ?」
「空間魔法だけど」
「もしかしてウィルムス、お前空間魔法を使えるのか!?」
セリスと同様にノイドもかなり興味を示したな。
論より証拠って事で目の前で空間魔法を使って剣を取り出す。
その一連の動作をノイドは息をのんで見守っていた。
「無詠唱で空間魔法って…… ウィルムス、お前凄いな」
ノイドが感嘆の声を上げる。
そんなに凄い事なのだろうか?
「そうか? それより、それはもしかして『杖』なのか?」
ノイドが手にしている魔石がついた木の棒を目で示す。
「? ああ、そうだが」
「少し使わせて貰ってもいいか?」
「いいぞ」
これが杖か。……思ったより軽いな。
先程、セリスから借りた本で知ったのだが杖と言う武器は魔力の威力を高めたり、消費する魔力を抑える効果があるらしい。
これは緑色の魔石だから、風系統の魔法の威力を高めてくれる筈だ。目の前に手頃な木があるので試してみるか。
魔力を杖に流し木の実を一つ落とそうと思い魔法を放つ。結果、周りについていた木の葉とその周囲についていた木の実を巻き込みながら地面に落ちた。
試してみるまで半信半疑だったが本当に魔法の威力が上がるんだな……
「ノイド、ありがとう」
「ウィルムス、お前もしかして……」
ノイドに礼を言って杖を返したら何かを悟った様な表情をしており、俺の表情を覗き込む様に見つめてきたと思ったら即座に首を横に振った。
「すまない、何でもない。それより、そろそろ馬車に戻ろう」
いや、今の気になる振りは一体何だよ。聞いても答えてくれないと思うから聞かないが。
それより、少し気になっていた事があるので今の内に聞いておくか。
「あ、その前に馬車に戻る前に一つ聞いていい?」
「何だ?」
「セリスって偉い貴族みたいだから、もしかして秘密の護衛とか付いていたりする?」
その言葉を聞いて、少し考え込んだ後ノイドは答えてくれた。
「……いや、そんなのは居ない筈だが、居ないとは言い切れないな。案外俺達に知らされていないだけで護衛はいるかもしれない」
「変な質問に答えてくれてありがとう。それじゃ馬車に行こう」
その言葉で締めくくり、先日の様にノイドと共に馬車に向かって行った。
一ヶ月振りの更新ですね。
自分でもまさかここまで更新が遅くなるとは思ってもいませんでした。
三月中に話を進めておきたかったのですが…… 完結はいつになるのかと少し不安ですね。