5話
出来上がるのが二週間近くかかってしまいました。すみません。
最初に乗った時は、全く気に留めていなかったがこの馬車はかなり良い部類の馬車に入ると思う。
大の大人が五~六人乗ってもまだ余裕があるくらいの広さ。馬車が揺れた時にくる振動も微量。防音性も高く外の音は殆ど聞こえてこない。ある種、理想の馬車とも言えるだろう。欠点を上げるとしたら、人によっては馬車に物が殆ど無い為に殺風景だと感じるって事ぐらいだろうか。
こんな事に気がつけたのは目の前に座っている少女、セリス・イスベリアのおかげだ。
馬車が出発してから十五分程経過した現在、状況は先程休憩する前と全く変わらず互いに沈黙状態。
俺は窓辺に寄りかかり外の景色を眺めている。それに対してセリスは目を閉じ膝の上に握りこぶしを作り瞑想っぽい事をしている。一応、馬車に入る前までは無礼を働きすみませんでしたと心にも思っていない事を一応言っておこうと思っていたのだが、先程までとは何か違う只ならぬ雰囲気を感じ言うのを止め無言を貫いている。
その結果、何もする事が無くなり馬車内を観察したり何も考えずに窓の外を眺めたりしてして今に至る。
暇だから寝ようかな。あ、それともルフの村で買った物を取り出して食うかな。
そんな事を思案しながら、もう一度横目でセリスの様子を伺う。
……やはりまだ話しかけない方が良さそうだ。
それにしても、この殺風景な馬車内でセリスがいる所だけ同じ馬車内とは思えないくらい華やかになっている様に見えるな。雰囲気がそうさせるのか、それとも子供離れした美貌がそうさせるのか……
横目で見ながら、そんな事をぼんやりと考えていたら突然セリスに変化が起こった。
閉じていた目をゆっくり見開き、深呼吸を一回した後俺の方に顔を向けてきた。
「あ、あ、あの…… 今から、わ、私とお話ししませんか?」
「……え、ええ良いですよ」
乾坤一擲と言った表情をしていたから、一体何を言われるか思い少し身構えていたのだが『お話ししませんか』って何だよそれ。拍子抜けしてしまったせいで、かなり素っ頓狂な返事となった。それでも、一応丁寧に返事を返せたのは自分でも良くやった方だと思う。
「あ、あの、今日のお昼のお料理、お、美味しかったですね」
「ええ」
「……きょ、今日は天気が快晴なので気持ちがとても穏やかになりますね」
「ええ」
意図が全く読めないのと、先程も感じたセリスの話し方の変な違和感のせいで、偉く御座なりな返事になって会話が止まってしまった。この会話は一体何なのか、セリスの表情から何か伺えないかと思い無言のままじっと見つめる。
……何か目に涙を貯めて何か泣きそうになってないか?
「おい、一体どうしたんだよ!?」
「突然、話しかけてすいませんでした。迷惑でしたよね。これからは、ウィルムス様に、迷惑をかけない様に、致しますので、ご気分を害したことを、お許しください」
「待て、待て!! 意味がわからん。取り敢えず落ち着け」
素の声が出てしまっているが仕方がない。
いや、だって涙声になって途中から声も途切れ途切れだし。セリスはそのまま下に顔を向けて肩を震わせながら泣き始めてしまった。
俺何か泣かせるような事したか? 返事がいい加減すぎたとかか? 自問自答しながら、取り敢えず落ち着くのを待つことにした。
一応、二~三分程経過した頃には落ち着きを取り戻してくれた様で今の事を謝られた。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」
「その、何でさっき泣いたか教えてくれ」
「……ウィルムス様に嫌われたからです」
「え?」
セリスが小さな声でぽつりと呟く様にそう言った。
いや、何で俺が知り合って間もないこいつを嫌いって事になってるんだよ?
セリスに別に嫌って無い事を告げ、何故そんな事を思ったのか聞いてみた所、セリス曰く、自分が話しかけた所だんだんと俺の表情が曇っていき最期には俺が困惑とした表情を浮かべていたからそれを見て嫌われたと思ったらしい。
「いや、確か困惑していたのは認めるがそれはだな…… ああ、もう説明が面倒だから後でいいや。それより、何で俺に嫌われたと思ったくらいで泣いたんだよ?」
「……私と友達になって貰いたかったからです」
ぽつりと呟く様にセリスの口から出たその言葉には、今までの変な違和感は無かった。
何だか初めて会話した様な気さえする。
「私が今まで出会ってきた人達は、私を介して両親と近づこうとする人達や、私の家柄に委縮する人しかいませんでした。ですので、私達を助けてくれたウィルムス様もその一人なんだと思っていました。ですが、実際会ってみると違いました。ウィルムス様は私の家や私の両親を見て話すのでは無く、私を見て話してくれました。それで、私はウィルムス様ともっと会話をしたいと思ったのです。だから……」
そこまで言って、セリスは黙り込んでしまった。
今ので何と無くセリスが何でこんな事をしたのか理解できた。それにセリスが言ってた事には共感出来る部分もあった。
俺も前世で勇者として名を馳せた頃は、貴族達が懇意になろうと魔族共との戦時中でも近寄って来たからな。貴族共が狡猾なのと俺がそういうのに慣れていなかった為に、下手な言質を取られ面倒な事に発展したりする事もあった。俺が勇者などと面倒な立ち位置にいなかったら、その貴族共は半殺し等にしていた筈だ。
確かノイドの話によるとセリスはそんな貴族の頂点の地位の家柄に位置する。
子供ながらにして、こんな馬鹿丁寧な口調になったのも恐らくそういう貴族絡みの面倒な事に発展しない為だと思うと納得がいく。
生まれてからずっと気の抜けない立場か……
「……一つ言っておくが、俺は決してお前に同情したからじゃないぞ。俺は、敵意や殺意を抱いている者や、利用しようと近づいてくる奴等以外だったら誰とでも親しくするつもりだ」
右手をセリスの前に差し出す。何故俺が右手を出したかその意図を理解してくれたらしく、おずおずと手を差し出してきた。差し出された手を握りセリスの目を見て力強く言った。
「俺はウィルムス。宜しくな」
セリスはこの時初めて年相応の表情である笑顔を浮かべてくれた。
「セリス・イスベリアです。私もこれから宜しくお願いします」
その笑顔は雪が解け春になったのを思い浮かばせる様に暖かく自然な笑顔だった。
上手い文章が思いつかず同じような文章の繰り返しになってしまいました。
語彙力が欲しいです。
時系列的には4話がその日の朝から昼食までで5話が昼以降の話です。