1話
故郷の村を後にして三十分程経過した。
山道をゆっくり歩いていたが、途中違和感を感じ闘気を身体に纏い山道を駆け抜ける事にした。
闘気を使った為すぐに山を下りる事が出来たが面倒な事に気が付いてしまった。
何に気が付いたかと言うと、闘気、魔力の総量が前世の時と比べて半分程度になっていたという事だ。
魔力の方は別に半分程減ってもなんら支障は無いのだが問題は闘気の方だ。
――――闘気とは魔力と同じくこの世界の生物達が産まれた時から持っている力の総称である。身体能力が高い者達は大体一般の人達より闘気の量が多い。その他にも特徴としては、自己治癒力が高い、手先が器用などがある。これは無意識的に闘気を使っているからであり、闘気の量が多いほど無意識的に身体に纏う闘気の量が多くなる為である。そして闘気を意識して扱えるようになれば色々と応用が利く。例えば身体に意識して纏えば身体能力は格段に上昇するし、武器に闘気を付与してやれば切れ味や硬度も増す。他にも自身の治癒能力を活性化させる事だって出来たりと一言で言えば凄く便利という事だ。
で、話を戻すとその闘気の量が減ったと気がついた今、身体が非常に動かしにくい。無意識時において纏う闘気の量が減ったため、前世の時と比べると身体能力が単純計算で半分程度になってしまったからだ。
山を下りて広い平野に出たけど身体がこの調子だとな……
向こう先を見てもそれなりの平野が続いている。一旦、空間袋から地図を取り出す。
地図を見る限りではこの平野を真っ直ぐ進めばいいらしいがその前に。
「ここら辺で身体の調子を確認してみるか」
空間袋に地図をしまい、腰に下げた剣を抜きその場で軽く素振りをしてみる。
だが自分の想像していたイメージとほど遠い酷い素振りになった。
今の素振りで自分の力量を理解したが……
「……四天王が復活していたら良くて相討ちだろうな」
今は前世より遥かに劣るが成長したら前世の時より強くなるかもしれない。と思うことにし取り敢えず先を急ぐ事にした。
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レブーム方面に通ずる森の中を歩いているが森に道が出来ていて時代が変わったことを実感する。
良い時代になったな……
昔は、森に道などなくて森を通るなら自分で草木を切り倒しながら道を作って行かなければならなかった。
そろそろ昼頃だからここら辺で少し休憩を取ることにしよう。
貰った地図を取り出し、レブームまであとどれくらいかかるか調べてみる。
地図を見る限りでは今のペースで歩けば五日程で到着するだろう。
木を背もたれにして干し肉を食べながら休憩していたら森に入った時から尾行していたゴブリン達と、今来た別のゴブリン達が俺の周りを囲もうとしているのが分かった。
ゴブリンは中々に知能があり、罠を張ったり集団で襲ってきたりと色々面倒なのだが、その一番の脅威は繁殖力にある。一匹見たら周りには三十匹はいると考えないといけない。
ざっと気配を探ってみたら百匹くらいかな?
それくらいの数がいることが分かる。中々数を集めたな。
「食事中なんだからもう少し待ってくれよ」
当然、そんな言葉は聞いてくれず棍棒や石を持ったゴブリン達は一斉に襲いかかってきた。
手に持っていた干し肉を口の中に放り込んだ後、その場から立ち上がり剣を抜いて近くにいた十匹くらいのゴブリンを斬る。
近くにいた十匹のゴブリンを斬れるだけ切り刻みバラバラの肉片にした。どの肉片も同じ大きさに統一されていたが、前世の俺ならゴブリン達を更に細かく切り刻めた筈だ。
その光景を見たまだ生きてるゴブリン達に動揺が走るのを手に取るように理解した。
容易く倒せると侮っていた人間の子供が、一瞬で仲間を肉片に変えていたのだからそれは動揺するだろう。
ゴブリン達は、直ぐに勝てない事を理解し四方に逃げ様とする。
「勝てないと判断したら直ぐに逃げる所は好感が持てる。しかも四方に逃げることで生存率を上げるとか思っていた以上にこいつら賢いな」
四方に逃げたゴブリンは、火でその身を焼かれ、水球に閉じ込められ溺れさせられ、真空波に全身を裂かれ、土でできた槍で頭部や腹部を刺されるなどで大半は死滅したがそれでも数匹程生き残りもいた。
「魔法の同時使用は昔と変わらずに出来るみたいだな。それにしても相変わらず魔法の扱い下手だな俺」
ゴブリンに対しては魔法を当てることが出来たが、それなりに強い魔物だったら当たらなかっただろう。残ったゴブリンは剣に闘気を込めて斬撃を放ち始末した。
戦闘も終わり残りの干し肉を食べたがまだ腹が減っている。
そう思っていたら、先程肉片にしたゴブリンに目がいった。
ゴブリンって喰えるのかな……
結論を言うとゴブリンはとても食えたものなじゃなかった。というか食った瞬間、前世の時に不味いから食わないと思ったのを思い出した。
「そろそろ行くか。今日は出来たら宿に泊まりたいからな」
ゴブリンの遺体をこのまま放置して行くと、腐ってとてつもない不快な匂いを放つであろうから土魔法で地面に干渉し大きな穴を作る。そこにゴブリンの遺体全てを転移させて火魔法を使い肉片を残らず焼いた。
ゴブリンを殺した場所から二時間程歩いた辺りで森を抜けれた。気分が悪くなかったらもっと早く森を抜けれただろう。
森を抜けた後も、そのままゆっくり歩き続けたらいつの間にか日が傾きつつあった。景色を眺めながら歩いていたからか全く退屈しなかった。前世では景色とか気にしなかったがこうやって意識しながら歩いてたらこの世界ってこんなに綺麗に感じるんだな……
夕日の美しさに感動し、その場に立ち止まり日が沈むまで夕日を見た。
良いものが見れたし、今日はここら辺で野宿でもするかと思っていたら風に僅かだが血と火の匂いを感じた。風上で戦闘か何かが起きてるのかも知れない。このまま野宿するよりも見に行く方が良いだろう。
そう決めて闘気を身体に纏い急いで様子を見に行く事にした。
空間袋は某未来の猫型ロボのポケットみたいなものです。