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プロローグ(上)

 雄大なる大地を震わす一撃。見事としか言い様のない美しい軌跡を魅せる一閃。魔法を用いたと思えば見たことも聞いたことも無い夢想の秘術の数々。

 魔の頂点に君臨する王…… 魔王は俺が今まで出会った中で最強と言わざるを得ない難敵だった。


 魔王と闘い始めどれだけの時間が経過したか分からない。だが互いに満身創痍。向こうも深手だが俺も左腕を魔法によって奪われると言った致命傷を始め、その他にも数々の深手を負っている。

 そんな傷を負っているのにも関わらず互いに、間合いの半歩外で只々倒すべき相手と視線を交えている。


 視線を交えるさなか、俺は次の一撃で全てが決まる事を確信した。多分あちら側も同じ事を感じたのだろう。

 一瞬とも永遠とも感じる時の中、目の前で視線を交わせていた仇敵が最初で最後の問い掛けをしてきた。


「……人間、名は何という」


 厳かで、それでいて引き込まれるような不思議な声音であった。

 思ってもいなかったその問いかけに意表を突かれ極僅かだが隙が生じた。向こうもそれを分かっていた筈だが、あえてそれを見逃し俺の返答を待っている。 


「…………アランだ。アラン・イグノザード。魔王、名は何だ」

 

 互いに構えを取る。魔王が名を告げると同時にこの死闘に決着がつく事を同時に理解したからだ。


「――――――――――――――――」


 互いの剣が交差した。空気が張り裂けこの城全体に轟音と共に衝撃が走る。その衝撃で互いに体制が崩れ後方に飛ばされる。

 そして黄金の輝きを放っていた剣は折れ、刀身が半身となりその輝きを失った。魔王は勝利を確信した表情を一瞬だけ浮かべ、俺の心臓目掛けて刺突を仕掛けてきた。こちらも折れた愛剣で魔王の魔臓目掛けて刺突をしかけた。 

そして……


「…………我の負けだ。アラン・イグノザード」


 勝利を掴んだのは俺だった。魔王の身体を貫通した俺の愛剣を引き抜き距離を取り何時もの様に鞘に収める。

 引き抜いた剣の刀身は黄金の輝きを放っており、魔王は鞘に収めるまでの一連の行動を達観とした様子でまるで他人事かの様に見ていた。


 この剣はとあるドワーフと共に、折れないという無理難題な剣を創ろうと試行錯誤した末に産まれた代物だ。折れない剣は造れなかったが、その代わり剣が折れ様と粉々に砕け様とも輝きと共に再び蘇る奇跡の剣が誕生した。

 

 ……最後は武器の性能により辛うじて勝利を得る事ができたという事か。


 この剣の刀身が魔王の剣よりも長くなかったら、魔王の剣の方が先に俺の心臓を貫いていただろう。

 それが事実に魔王の剣は俺の心臓の一歩手前まで貫いている。

 そして今も尚心臓の付近から灼熱の痛みが走り血と共に力が魔王の剣に奪われていくのが分かる。身体を動かすのが億劫だが、何とか動かし胸に刺さった剣を抜き取り投げ捨てる。そして残った少なすぎる闘気で止血をするが数分後には闘気が尽き自分自身の血の海に沈むのが容易に想像出来た。

 そんな俺の一連の動作を見ていた魔王は突然言葉を放ってきた。


「この城は我の命が尽きる時完全に崩壊する。その前にあの者達と共に往け!!」


 この城全域に響き渡る程の声量だった。それを切っ掛けに魔王をの生命力が急速に減っていくのが手に取るように理解出来た。魔王は致命傷を負って立っていることさえ億劫である筈なのに最期の矜恃なのか地に倒れようとしない。それに対して、俺は片膝を付き残った左手で何とか身体を支えている。傍から見たら俺が勝者とは到底思えない光景だろう。


 そして左方から急いで駆け寄る複数の足跡が聞こえたのでそちらに目を向ける。

 

 剣を腰を吊し革の鎧といった軽装をしているのがカイン・ノルイーク。

 カインは剣の腕前も体術もいまいちな戦士だが、料理、金銭管理、交渉術など闘う事に関して以外は凄い男だ。特にこいつの料理の腕前はそこらの料理店が出す品より美味い。この旅で一番世話になった。 

 

 胸にロザリオをつけ修道服を着ているのはベル・ファインクラム。

 ベルは神官見習いであり治癒魔法や解毒魔法をある程度は扱えるが一人前の神官と比べると見劣りする。だがベルは野草について深い知識を有しており、この旅の間立ち寄った村々で薬草を煎じって作った薬を渡したり、野草と薬草の見分け方などを教えたりして村人達から大変感謝されていた。

 その二人が俺の方へ駆け寄って来た。


 この二人を見ていると一年前の事を思い出す。本来なら魔王の元へ向かうのは俺一人の筈だったのだが、世間で聖女などと呼ばれるている『あいつ』の予言に従いこの二人を旅に同行させる事になった。多分あいつは魔王を倒すが一歩も動けなくなった今の俺を予知して、戦士と教会の者を連れて行けと言ったのだろう。


「ベル、俺がアランを背負う。だからお前は走りながらアランに治癒魔法をかけろ。さっさとこの場所からずらかるぞ」


「わ、わかりました。ですが、私の治癒魔法では魔王によって付けられた傷は……」


「喋っている暇があったら、アランに魔法を使いやがれ‼」


 そう言ってカインは俺を担ぎ、ベルは治癒魔法を使用してくれた。ベルの魔法は俺の傷は治せなかったが痛みが少しだけ和らいだ。この部屋唯一の出入口に向かって走ろうとする。だが出入口の付近で不穏な魔力が集まっているのを感じた。


「 ……っ、カイン、ベル、止まれ」


 咄嗟に言葉が出て、カインとベルは俺の言葉を聞いてその場に立ち止まる。

 その直後出入口の天井で爆発が起きそれによって出入口が瓦礫によって埋めつくされた。

 そして、この崩れさる城の中で狂気の笑みを浮かべた金髪の美男子がパチパチと拍手をしながらこちらに近づいてきた。


「素晴らしい!! 素晴らしいよ、アラン。まさかこんな幸運に恵まれるなんて」


 俺は、こいつ、いやブルース・ウィンラルト・レブームから最大級の危機を感じ取った。

 カインとベルと旅を続けていた時に魔界に突入する際にどうしても必要な物がレブームという国にあるためそこへ立ち寄る事になった。そして、俺達が必要としていた道具がレブームの国宝であった為にレブームの王へ謁見をしたのがこいつと出会ったきっかけだ。


 レブームの国王は俺達旅の一行に考えられる最大限の支援をしてくれて、国宝と呼ばれていたそれを快く譲ってくれた。その時こいつが国王に向かって勇者様方の力になりたい等の発言を重臣達の前で国王に言い、その言葉を聞いた国王は大層喜び是非連れて行ってやって欲しいと言ってきた。本来なら断るつもりだったが、その国王には借りが出来てしまっていた為に仕方なく連れてきた。


 実際、国王が勧めただけの事はありそれなりに実力もあった。剣も魔法も一流と言っていい腕前なので頼りにしていい筈なのだが、俺は初めて会った時からこいつには得体の知れない物を感じて警戒していた。


 カインが出入口が塞がれたのを見て、ブルースに向かって叫ぶ。


「ブルース頼む、あの瓦礫をお前の魔法で何とかしてくれ」


 そんなカインにブルースは笑みを浮かべて言葉を返す。


「いや、あれはあのままでいいんだ」


 カインとベルも異変を察知して、ブルースから距離を取る。ブルースはその場から動かず終始笑みを絶やさない。警戒した様子でカインがブルースにその意図を聞き出そうとする。


「……ブルースどういう事だ?」


「簡単な事だよ。さっきの爆発は僕が引き起こしたからだよ。万が一にでもその死に損ない(・・・・・・・)に逃げられたら困るからね」


「てめぇ、今自分が何言ってるから分かってるのか‼」


「勿論だよ。ところでカイン、その背中に背負った死に損ないから(・・・・・・・)剣を奪って持ってきてくれないかな? そしたら、君達は助けてあげるよ?」


「……ベル、魔王の所まで戻るぞ。他に出口が無いか聞き出す」


 ベルも無言で頷き、崩れさる城の中魔王の元へ引き返していく。

全力で魔王の元へ引き返す二人だが、闘気を纏ったブルースに距離を詰められていく。ブルースがその気だったら既にもう追いつかれている。ブルースは明らかにこの状況を楽しんでいる。


「……カイン、ベル、俺の剣を」


「馬鹿な事言ってんじゃねぇぞ‼︎ 次ふざけた事言ったらぶん殴るぞ」


 ベルも同意と言いたいのか俺を睨みつけてくる。その直後、一際大きな揺れが来て俺を背負っていたカインが体制を崩し前方に大きく転倒し俺も地面に叩きつけられる。


「もう遊んでる暇は無いみたいだね」


 背後まで近づいていたブルースがそう呟いた直後、ブルースから奇妙な魔力を感じ顔をそちらに向ける。

 俺の目に写ったのは、見たことも無い奇妙な剣でベルとカインを刺しているブルースの姿だった。


「…カ…ンッ!! ……ル!! ッ……」


 二人の名を叫んだ筈だが意味を成さず、代わりに口から発せられたのは自分の血だけだった。

 俺のそんな姿を見てブルースは憐みと嘲笑の混じった表情で見下している。


「アラン、無様だねぇ…… そんなに睨まないでよ。大丈夫、二人は殺してないから。だって、大事な仲間・・・・・だからね。そうだよね、カイン、ベル」


「「はい」」


 先程、刺されていた筈なのに傷痕一つ無い二人が虚ろな表情のままブルースに答える。

 

「ベル、カインお願いがあるんだけど。アランの剣と懐にある筈の空間袋を取って来てくれないかな?」


「「はい」」


 倒れ伏して一歩も動けない俺からベルは剣を奪い、カインは俺を仰向けにして懐から血に塗れた空間袋を取ってそれをブルースに差し出した。ブルースは受け取った空間袋を開け、中から龍族の秘宝である焔王竜の宝玉を取り出し自身の空間袋の中に入れる。その後、ベルから受け取った俺の剣を鞘から抜きその黄金の刀身をうっとりとした表情で眺める。数秒程眺めた後、空間袋から転移道具を取り出した。


「ブ……ル……ス……ゆ……るさ…ん」 


「そんな姿になっても気迫は些かも衰えないなんて怖い怖い。もう時間も無いし僕達はそろそろ行くよ。アランも早く逃げ無いとこの城の崩壊に巻き込まれるよ」


「最後だから言っておくよ、今までありがとうアラン」


 その言葉を最後に、ブルースはカインとベルと共に転移道具を使いここから姿を消した。

 おそらくだがカインとベルは当分の間無事だろう。殺すのだったら今ここで殺していた筈だ。だが、ブルースは殺さずにそのままあの二人を連れて帰った。二人に何が起こったか分からないがあいつならそれに気づき二人を助けれる筈だ。都合の良い解釈が混じっているが今はもうそう信じるしかない。


 最早どうすることもできない俺は死を待つだけになった。残された時間は余りにも少ない。せめて出来る事と言ったら後は過去を振り返る事くらいだろう。

 思い返せば俺の人生は闘いに明け暮れた物であった。両親を魔族に殺され孤児となって以来、数多の戦場を駆け抜けて来た。凌ぎを削らなかった日など無かったと思える。世界を救ったと言ったら見栄えは言いが実際は言い様に利用され……


 ああ……俺は一体……


「アラ…よ………禁…………私を倒……貴…褒…だ」


 最期に聞こえて来たのはこの城の崩壊する音では無く、先程から何かを唱えていた魔王の声だった。だが、魔王が何かを言ってる事は分かったのだが何を言っていたのかまでは理解できなかった。


 それを最期に俺は意識を完全に手放し深い奈落の底へと堕ちて行った。

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