第5話 π&π(パイ・パイ)(1)
正直サブタイトルが無理矢理な気もしますがこれぐらいが妥当だろうということでこれにしました。
いきなりの数学下ネタですがどうぞゆっくりとお楽しみください。
4時限目の授業ほど集中力が解けて、気が抜ける時間はないだろう。教師のいない自習の時間は特に。
数学の時間、クラスメートほぼ全員があっちで駄弁り、こっちで騒ぎながらそれぞれ思い思いに過ごしていた。
窓際の後ろから二番目、授業を受ける絶好のスポットとして有名なその席の周りでは、学級委員の服部を中心にクラス一賑やかに盛り上がっていた。
いや、注意する側の奴が何してんだ、と言いたくなるが俺には関係ない。
俺は今、後ろのドアに一番近い方の席で一人黙々と数学のプリントをやっている。
別にガリ勉とかではないが、常にぼっちキャラで突き通している俺にとってこうゆう時間は暇で仕方がないのだ。
カリカリカリカリとペンを動かしながらせっせと終わらせていく俺は比較的簡単な内容のまとめプリントを次々と解いていきながらただひたすら手を動かしていった。
「真面目だな、多田」
すると突然、前の席でうつ伏せになって寝ている高橋が声をかけてきた。
いつも授業中は寝ている彼が声をかけてくるのは珍しい。
俺は最後の応用問題に目を向けながらもとりあえず返事をした。
「なんだ?」
少し返事がぶっきらぼうになってしまったが、何かをしている最中だから失礼にはならないだろう。
俺がそんなことを考えながら途中式を書いていると、高橋はいかにも眠そうな目を擦りながら小声で話しかけてきた。
「お前、【下ネタの会】に入ったらしいな」
ボキッと鉛筆の芯を折る俺。
いや、入った訳じゃないし、無理矢理体験入会させられただけだし、と抗議の言葉を発しながら、消しゴムを動かす。
俺が明らかに動揺を隠せていないと自分でも分かるくらいひっくり返った声でそう告げると、高橋は
「お前、そんなんじゃバレバレだぞ。大体誰にも言うつもりはない。第一俺も会員だしな」
と、あくびをしながらそういった。
え~、と驚く俺にうるさい、と一喝しながら椅子から立ち上がった高橋は、一言来い、とだけ告げるとそのまま服部のいる場所に行ってしまった。
無視してしまおうかと思ったが、服部から何かプレッシャーのような変な圧力を感じる。
学級委員として働いている時はダルそうなのに!
俺は仕方なくペンを置いて席を立つと、そのまま服部達のいる窓際まで歩いていった。
一瞬、服部と高橋を除く全員が胡散臭そうな視線を向ける。
そりゃそうだ。あれだけぼっちキャラを貫き通していれば妙な距離感ぐらい開くだろう。
俺は少し居心地が悪かったが、近くの椅子を手繰り寄せるとそのまま彼らの周りに座った。
「そうか、多田も混ざりにきたか。漢の会話に」
ふふん、と鼻息を鳴らしながらそう告げる服部の表情から察するに漢の会話とは下ネタのことだろう。
その途端、いや、別にと俺が言おうとする前に高橋が机におかれたプリントを指差すと俺にこれは何かと聞いてきた。
「π (パイ) だろ?」
直様そう答えた俺の目線の先には大きな円が二つ描かれたプリントがあった。他のやつらもそうそう、と目を瞑りながら頷いている。
「そこから連想されるものは?」
すると服部が眼鏡のレンズを鈍く光らせながらこちらの顔を覗き込んできた。周りの連中も僅かに期待するかのように目をさりげなく輝かせながら様子を窺っている。
よく分からなかったが、俺はさっきのまとめプリントのことを思い返しながら服部を見つめると、そのまま普通に口を開いた。
「えっ、普通に円周率とか…⁈」
その瞬間、俺の解答を聞いた全員が一瞬の内に固まると、そのまま空気がシラけた。これはまずい、と思考を巡らせるが球体とか円錐とかそうゆうのしか思い浮かばない。
そんな俺に、一人の男子生徒が
「お前、本気で言ってるのか?」
と目を見開きながらそう尋ねてきた。
いや、普通はそうだろ?と尋ね返すと更に驚く声の波が。
「これはマジでやばいな……。これだけ言っても分からないとか、こいつ本当の珍種だぞ」
中にはそんなことを言い出すやつまでいて、俺ははぁ、と眉を顰めることしか出来なかった。
いや、珍種とか知らんし。
すると、服部が突然自分の筆箱の中からガサゴソと何かを取り出し、プリントの上、正確には二つの円のそれぞれの中心点、に点を書きいれた。
「これは女性の体の一部だ。それだけ伝えれば珍種の多田でも分かるだろう」
ややからかうようにそう言う服部に微妙にイラっとしたが、ようやくというかさすがの俺にもその正体が分かった。なるほど、そういう意味だったのか。
俺は目線とジェスチャーだけで分かったことを伝えると服部は器用に片眉だけをあげながら確認をとってきた。
すぐに首を振る俺。
「π (パイ) ですでにいい線いってたと思ったらただの偶然だったみたいだな……。よしっ!お前ら、今日は多田に数学の下ネタを伝授するぞ」
しかし、そんな俺は不安だったのか服部がそう告げると、突然目の色を変えながら全員が賛同の意思を示した。
またこの展開か、と思ったが逃げようにも退路は閉ざされて逃げ道はなさそうだ。
俺は半ば無理矢理机にプレッシャーという名の拷問器具で拘束されると、服部はそのままプリントの上に何かを書きながら俺に見せてきた。
「11分の5?」
そこには普通の数字で大きくそう書かれてあった。これのどこが下ネタなんだ、と疑問に思っていた矢先、服部含む全員が口元をニヤリと持ち上げるとそのまま綺麗に揃った声でこう告げた。
「今日伝授するのは数学の下ネタだ!」
男子ってヘンタ〜イ!!と言われながらも堂々と立ち尽くすその様は正しく漢の姿そのものだった。
もちろん、俺にとっては意味不明だったが。
本格的なのは次の回で。申し訳ない。