第3話 バナナはやっぱりおやつでしょ⁈(1)
「いや、マジ、下ネタの会って何ですか?」
訳も分からず連れて来られた俺の口から出てきたのは下ネタの会に関することだった。いや、確かにここがどことかお前らなにしてんだとか問いただしたいことは沢山あったが、聞きなれないキーワードに反応した俺はそれについて質問することにしたのだ。
「もちろん、下ネタについて熱く語り合う漢の会のことだが⁈」
そんな俺の問いかけにキョトンとした様子で答えたのは他でもない近藤会長だった。
「いや、それが意味わからないんですけど。第一学校で勝手にそんな集会開いていいと思ってるんですか?しかもこんな明らかに変な部屋まで用意して。先生に言いつけますよ⁈」
……。一瞬の沈黙の後、俺を除く全員がはぁーっと溜息を吐き出すとそのまま近藤会長が服部に告げた。
「おい、服部。君のクラスには面白いやつがいるんだな。今回は目を瞑るが、次回からはこの彼の反抗的な態度を変えておいてくれたまえ」
「はい、分かりました、会長‼」
服部が気持ちのいい返事とともに敬礼する。いや、仮にも学級委員がこんな会を黙認していてもいいのか?
俺が疑問に首を傾げている間、部屋の角の方からどこか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「でも、会長‼こいつ下ネタをくだらないと思っているバカですよ。現にさっき大事な下ネタ大全の角っこで頭殴られたし。俺は反対です‼」
なに⁈、それはっ⁈、と辺りがざわつく。そこにはドヤ顏で自分の頭を見せる先ほどの図書委員の先輩がいた。
てかなんでここにいるんだ、図書委員の先輩。しかも頭叩かれた、とか理由になってねぇし。
素晴らしい俺のツッコミにギクっとうずくまった図書委員の先輩はガクガクと口を動かしながら何か反論しようと試みるも何故か口から出るのは乾いた空気ばかり。
はて、俺はそんなに痛いところをついたのだろうか?
それよりさっきまでの勢いはどこにいった?
先輩の急な変わり様に若干呆れながらそんなことを考えていると、近藤会長が何か名案を思いついたらしく、手をポン、と叩いた。
「じゃあ、今日のところは体験入会ってことにして早速話し合いに参加させてみようかな」
会長の提案に、おーなるほど〜、流石会長‼、と感嘆する会員の方達。
いやいや、まだ入るとは一言も言っていないんだが……。
しかし、そんな俺の嘆きもどこかに虚しく散っていき、結局俺は体験入会という名の強引な勧誘に引っかかることになってしまった。
◇◇◇
「えー、それでは気を取り直して早速第何回目の会議を開きます。議題はズバリ、バナナの代わりになる下ネタ!あっ、ソーセージとかありきたりなのも記録に残しておくから新米君も遠慮なくアイデアを出していいよ。ちなみに書記は僕、中田が務めるからよろしく」
先ほど俺を強引に連れてきた中田先輩の号令と共になんか意味が分からないが第何回目の下ネタ会議が始まった。近藤会長を中心に大きな円状に椅子を並べて無理矢理椅子の一つに座らされた俺は何故か書記の中田先輩の隣に居たためかそんな説明を受けた。
いや、いきなりバナナとか言われても知らんし。第一バナナってなんの下ネタだ?
俺がそんな類の事を聞くと辺りが一気に静まりかえった。そして皆唖然として俺を見ている。
そんな中、先ほどの図書委員の先輩が盛大に溜息を吐きながら痛いものを見たかのように俺を見つめこう言った。
「バナナは男のこれだ」
そう言って自分のズボンのチャックの辺りを指差す先輩。しかもなんかその勢いでズボンを降ろそうとしている。
しかし、それを見た他の会員達が唐突にやめろ〜、という奇声をあげた後、あるものは拳で、またあるものは肘や足を使って先輩を沈めていた。
しばらく無言のままそんな仕打ちを受けた先輩を部屋の角の方に追いやった他の会員達は用がすんだのか、壁に寄りかかってピクピクと震えている先輩を放っておいて円に戻ると、その内の一人、服部がいつもの真面目な顏で俺に尋ねてきた。
「お前マジで知らなかったのか?バナナが男のアレの隠語だってこと」
俺はとっさに頭を振ると、服部は信じられないものを見たかのように目を点にした。それを見た俺は即座に、いや一応聞いただけ、と訂正を入れると服部は僅かにホッとしたような表情を浮かべた。
「まぁ、普通は知ってておかしくないもんな、うん」
服部は一人納得したように頷くと、話を同時に聞いていた近藤会長が頃合いを見計らって全員に呼びかけた。
「じゃあみんな、今度こそはじめよっか」
会長の明るい声に全員改めて椅子に腰掛けると、そのタイミングを待っていたかのように司会兼書記の中田先輩が彼の横にあったホワイトボードに大きく黒ペンで【バナナの代わりの下ネタ】、と書き込んだ。
そして中田先輩が振り返った瞬間、容姿がとても整った俗にいうイケメンが滑らかに手をあげた。
流石イケメン、全ての動作が輝いて見える。
その様子を見た中田先輩はペンの色を青に変えるとそのイケメンの名前を呼んだ。
「じゃあ、一番手はイケメン代表、千代池君からどうぞ」
一瞬の静寂、高まる緊張感。そして彼の口から出てきたのは予想外というかなんというか良く分からないものだった。
「…………リコーダー」
チョコレートにも勝る甘いボイスで紡がれた言葉に会員全員がうんうんと頷く。
どうやら良く分からなかったのは俺だけだったらしい。
こうして俺にとって初の下ネタの会は幕を開いたのであった。




