第27話 襲撃
男なんて滅びればいいと思う。低俗で下世話でいついかなる時もヤルことしか頭にない猿。
人類を存続するためにある程度の精子は必要かもしれないけれど、そんなもの人工授精やら何やらでいくらでも代えがきく。
純潔を至高とする私たちハレンチ撲滅協会の崇高な理念に真っ向から対立する組織があるというのならば、それはいかなる手段を用いてでも完膚なきまでに叩き潰さなければいけない。
例えそれがこの本間海学校の創設に携わり、その後も様々な形で大きく貢献し続けたあの、下ネタの会であったとしても。
◇◇◇
「半田先輩、それは何をしてるんですか?」
手をピンと伸ばしクルクル回る半田先輩。つま先立ちで回ろうとするも上手くいかずによろめいている。
「見て分からないか?」
おそらくバレリーナの真似だと思うが、半田先輩が着ている歯磨き粉みたいな柄のシャツのせいでサインポールのようにも見える。
「ドリルの真似ですか?」
とりあえずテキトーに答えると、半田先輩は得意げな顔でふっと笑った。
「これは精子の動きだ」
……。平日の昼間から何を言っているのか。大体精子はこう、蛇のようにニョロニョロと……。いけない、このままでは向こうのペースに飲み込まれる。
「最近の研究で精子はオタマジャクシのように進むのではなく、ドリルのように回転しながら前進することが明らかにされたのだ」
すごく胡散臭いがどうやらそんなに間違ってないらしく、後日調べた情報によると、精子は300年以上オマタジャクシのように前進するのが定説だったらしいが、その研究では精子はただ螺旋状に回転して前進するだけでなく、精子のべん毛の動きが左右非対称で、それを複雑にコントロールする事で回転して前進する、というのが証明されたらしい。だから半田先輩の言ってることは厳密には違うと思うのだが、まぁまぁ合っていたのだ。どうでもいいけど。
「いや、全然前に進んでませんけど?!」
情報の正解さはさておき。それよりも同じところでクルクルと回って何がしたいのか分からなかったのでツッコミを入れる。先輩は俺の的確なツッコミに対して聞こえないふりをしながらいつのまにか集まっていた他の人達に声をかけた。
「さあ、みんなも一緒に」
藻武一族を巻き込んで集団でクルクルと回りだす先輩。こんなやつらと同類だと思われたくないのでそっぽを向いて無関係なことを訴えようとしたが、なぜか会員方は俺を中心に周りを囲むように回りだした。
「いや、太陽系か」とツッコんだが、下ネタの会の会員達には伝わらなかったようで何を言ってんだ?って顔をされた。恥ずかしい。クソ、こんなクルクル回る集団と同じ会に所属していると思われるだけでなく、こいつらにバカにされるとは。なんて屈辱。ほんとにやめちゃおうかな、下ネタの会。
そんなこんなわちゃわちゃしながらいつものように、下ネタの会が開かれるいつもの場所に向かうと、先にたどり着いていた中田先輩が普段あまり見せない慌てっぷりで図書室から出てきた。
「嘘だろ……おい多田嘘だと言え!!」
そのまま俺の胸ぐらを掴み叫ぶ中田先輩。目が多少イっちゃってるがなんでこう、善良な一般市民の代表みたいな俺がいつもこんな感じに絡まれなきゃいけないんだろう。
早く中田先輩から解放してください、と周りを見ると藻武一族も、半田先輩も、すでにその場にいたであろう高橋や服部も血相を変えてある一点を集中して見ていた。
視線の先。下ネタの会の部室代わりに使われていた部屋。そこの入り口にあたる扉に何か張り紙がある。慌てふためく周囲を掻き分けて目の前に立った俺はその瞬間、彼らの状況を理解した。
「本日からこの部屋は図書室の書庫になります」
つまり今まで下ネタの会の集合場所や会議室として使われていた部屋を全くもって正当な理由で、というか本来の目的に沿った形で利用するということだ。
実際に扉には鍵がかけられていて、部屋の中には入れないようになっている。
しかしそれの一体何が問題なんだ?確かに今までここで会を開いていたが、別に今後は別のところでやればいいだけだと思うが、何かいけないんだろうか?
「いいか、多田。良く聞け」
すると、比較的早く冷静になった服部が俺の両肩に手を置きながら説明した。
「私立本間海学校のこの部屋は開校以来、震災や校舎の改装、改築工事以外、今まで一度だってこんな理由で閉鎖されたことはないんだ。一度も、だぞ」
「へー。まー別のとこでやれば良くね?」
服部の話を聞き流す。そんなに問題視するようなことじゃない、とこの時の俺は認識していた。
しかし、これはただの始まりにすぎなかった。本気を出したハレンチ撲滅協会が下ネタの会を潰すために行った最初の攻撃だったのだ。
下ネタの会の会員達が二度と集まれなくなる悪夢の始まりだと気づくものはこの時点ではまだいなかった。
劇場版みたい。 by沢尻サトシ




