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下ネタの会  作者: 寺子屋 佐助
第二章 研修(下ネタインターンシップ)編
26/27

第26話 性的いじめとその対処法について

お久しぶりです!いつ以来ですかね?

今回、ドのつく真面目回。

 世の中には巻き込む者と巻き込まれる者の二種類の人間が存在する。俺の場合は確実に後者のタイプの人間で、ひょんなことから下ネタの会、という不名誉で迷惑極まりない会の会員になってしまった。

 俺は別に将来お笑い芸人になりたい訳でもないし、下世話な話をするのが得意でもない。ただ暇そうだという理由で無理矢理入会させられ、もちろんそんなものに思い入れがある訳でもなく、何度も退会しようとしたのだが、結局、どういう訳か内部から崩壊させるという名目のもと、この会に居続ける羽目になってしまった。

 いや、俺は下ネタに対して恨みがある訳でもないし、こんな会あってもなくても困らない、というかもう非常にどうでもいいのだ。だから勝手にお前も会員だから、と色々な場所に連れ回されたり、よく分からないことを無茶振りされても何も出来ないし、はっきり言って迷惑だ。

 だがもう、これは巻き込まれる者の宿命なのかもしれない。今日も今日とて下ネタの会に呼ばれた俺は本日の議題である、【性的いじめとその対処法について】の会議に参加していた。


「諸君、この度は集まってくれて感謝する。本日のテーマは性的いじめについてなのだが、先日半田の妹のちえみちゃんが属する本間海学校小学部で胸の大きさが原因とされるいじめがあったらしい。幸いにも勇気あるちえみちゃんの行動により無事解決したらしいのだが、今後似たような件が出ないとも限らない。下ネタの会の現会長としては、そのようないじめが多発した場合、今後下ネタで笑えなくなる生徒が増えていくことが予想され、最悪な展開としては下ネタの会の存続にも影響を及ぼすだろう。従って、今回の会議では性的いじめの定義、そして解決策をまとめることを本日のゴールとしたい。反対する者はいるかい?」


 近藤会長がいつになく真面目なトーンで司会を務めている。他の会員達も会長を真剣な眼差しで見つめていることから今回はどうやらマジのようだ。

 いや、それともそういうノリなのか?会員としての期間が短いのもあるが、そもそも人種として違うのか、ただ単に自分の頭が悪いのかわからないが今日は意味が分からないってツッコミを入れずに傍観してみることに決めた。


「まずはそもそも性的ないじめとはなんなのか、についてだが、とりあえず性的な、の部分に関しては我々は同じ見解ということで話を進めてもいいかい?」


 近藤会長の提案に皆、神妙な面持ちで首を縦にふる。藻武一族ら含め全員が唇をムッと突き出し腕組みをしながら首を振っているのは何かのオマージュなのだろうか?

 そんな中、半田先輩がムカつくキメ顔を作りながら確認をとった。


「性に纏わる行動や身体的な特徴についてのいじめと言い換えればいいかな」


 あのいつもふざけている半田先輩が至ってまともに言い換えているのは、おそらく自分の妹が関わっているからだろう。決して後藤先輩が背後で目を光らせながら腕まくりをしていたからではないはずだ。

 半田先輩の発言の後、次に口を開いたのは書記の中田先輩だった。


「僕もそれでいいと思うよ。じゃあ、いじめの部分はどう定義する?いじめっ子といじめられっ子がいたらいじめみたいな?」

「それだとその二人の喧嘩となんら変わりない気がするが?」

「悪いやつがいて、悪いやつが悪いことをしたらいじめだ」

「後藤君、それだと広いところだと犯罪や不慮の事故、狭い範囲だと軽いミスとか不機嫌になって八つ当たりした、なども含まれてしまうよ」

「いじめられた子が不快に思ったのならそれはいじめとして成立すると思います」

「服部君、それだと言いがかりや被害妄想も含まれて埒があかなくなるよ」


 みんながうーん、と頭を抱えている。いじめ問題というのはやはり一般の学生が考えて解決するような問題ではないのかもしれない。しかも当事者でもない自分達が考えるだけ時間の無駄なんじゃないかな、と思っていたらいつもは寝てばかりであまり発言をしない高橋がゆっくりと起き上がった。


「いじめって全部を一括りには出来ないと思うんスけど。なんか、こう、ケースバイケースで一つずつ違うっていうか」

「確かに僕もそう思うよ。全てを一緒くたには出来ない」


 高橋の説明に対し、千代池先輩がほんのり苦く甘いコーヒーフロートのような声で賛同する。

 そこまで意見が出たのを見届けた近藤会長は何かを一瞬考えた後、言葉を選びながら俺達に尋ねた。


「いきなりいじめの定義について決めようとしたのが間違ってたね。すまない。そうだな、いじめとは何かを考える前に先にいじめの構図というか、いじめには誰が関わっているかを明確にしようか?」


 一瞬、会員達が押し黙る。しばらくした後、藻武一族の方々がホワイトボードの前に集まりながら図を書いて自論を述べ出した。


「いじめは、1)いじめっ子(加害者)、2)いじめられっ子(被害者)、3)周りの人(傍観者)、と4)先生や保護者(関係者)がいて成り立つんじゃないかって思うんだけど、どう?」


 藻武一族の中でもリーダー格の藻武一郎が代表して口を開く。こんな短い時間の間にこんなにまとめられているのがすごいと思いながら、もしかしたら以前から考えていたのかもしれないな、とも思った。

 藻武一族の分かりやすい構図の説明に近藤会長らがいくつか補足を加える。


「多分、いじめっ子といじめられっ子が一対一だった場合、それはいじめではなくていわゆる喧嘩だと思う」

「いじめられっ子多数でいじめっ子一人の場合だと、皆んなにちょっかいをかけるいたずらっ子って感じだからそれもいじめじゃない気がするな」

「って事はいじめっ子複数人に対するいじめられっ子一人の構図がいじめの構図だな」

「じゃあさっきの傍観者とか関係者の部分は要らなくないか?」

「いや、もしいじめられている時に傍観者の何人かが助けに入っていれば複数対複数になって、それはいじめじゃなくてグループの対立になるから、何もしない傍観者というのがいじめが成り立つ条件として不可欠だ」

「それじゃあ関係者は?」

「先生や保護者がきちんと教育出来ていたらそもそもいじめは発生しないし、いじめが本人達が解決出来ないレベルまでエスカレートした場合、最終的に介入しないといけないと思うから、必要だと思う」

「まぁいじめなんて精神的に未成熟だから起きる訳だしなあ」


 お前ら本当に学生か?ってくらいに意見が飛び交う。最後の一言なんて子供じゃなくておっさんの発言だろ、ってくらい大人びているがきっとどこかの受け売りに違いない。そんな事を思っていると隣でピコピコとゲームをしていたサトシ君がボソッと疑問を投げかけた。


「で、いじめって結局誰が悪いの?」


 その発言を皮切りに下ネタの会の会議室で激しい口論が始まった。


「いや、当たり前にいじめっ子だろ?悪いことを始めたやつが悪い」


 後藤先輩がさも当然、という口調で言う。するとそれに対し、半田先輩が若干鼻で笑いながら意見を述べた。


「いやもちろん、悪いことをしたやつも悪いかもしれないけど、いじめられるやつもメンタル弱すぎでしょ。すぐに親とか友達とか先生とかに相談したりすればいいし、大体そんな頭悪いやつの発言なんか間に受けなければいいんじゃねーの」


 半田先輩の最低発言にブーイングの嵐が起こる。しかし、それを無視した半田先輩がバシッと言い放った。


「いやなことを素直にいやって言わずに周りを巻き込んでいじめっ子を悪者にしたてあげてさ。下手くそなりに仲良くなりたかっただけかもしれないのに、なぜ一方的に悪いと決めつけられなきゃいけないのか意味が分からん」


 なぜかプリプリと怒りだした半田先輩に対して今度は違う視点から服部と中田先輩が意見を出した。


「まぁ、そうかもしれないけどやっぱりいじめた方が悪いと思うし、周りも知らんぷりして放っておくから良くないと思うよ。誰かが間に入れば終わる話だし」

「そうですよね。自分に関係ないって見なかったことにしてたら、当人達だって悪いことをしたって気づけないかもしれないし」


 そこに高橋と千代池先輩が加わる。


「親も悪いし、先生も悪いんじゃないかな?」

「いい大人が子供の問題に手出しして悪化するパターンもあるし。どうしても育った環境とかって振る舞いに出るよね」


 高級メロンのような上品な甘さを含んだ声で喋る千代池先輩に一瞬みんなが納得しかけたが、近藤会長がみんなを引き戻す発言をした。


「みんなの意見は良く分かった。確かにいじめっ子は悪い。相手の立場に立てずに一方的に暴力や暴言を振る舞い、弱者であるいじめられっ子をいじめ、いたぶっているのだから当然だ。もちろん、そんな最低な子供を育てた親にも責任はある。彼らが家庭内でしっかりとしつける事が出来ていたらそのような精神的に未熟な子供にはならなかっただろう」


 誰もそこまで言ってないし大半は近藤先輩の個人的な意見だと思うのだが、会員達がロックバンドのように激しく頷きながら身を乗り出すようにして聞き入っているのでこのままつっこまずに放置してみよう。


「そしてそんな状況を見て見ぬふりをして放っておく周りの生徒も同罪だ。保身のあまり声をかけてあげることもせずあたかも無かったことのように無視して登校する周りの生徒。それを正しく指導しない教師陣にも問題ありだ。表面的な解決だけを求めて本質を理解しない教師に担任は務まらん」


 いよいよ誰も言及していなかったことまで口にしているが、会員達はよく言ったとばかりに目を輝かせている。いや、最後の方とか意味分からんて。


「そして最後に、半田を庇うわけではないが、いじめられっ子にも出来ることはある。親や友達に相談して学校以外にもコミュニティを持つ。要はいざいじめられた際に逃れる道を作っておくことだ。ソシャゲ仲間や近所のラーメン屋のおっちゃんでもいい。一人で抱え込まずに気軽に相談出来る誰かを見つけておくのも大事だ。あー私はいじめられているかわいそうだ、と泣いて喚いたところで社会は誰も助けちゃくれない。自分で解決しようと行動した者にのみ助けの手は差し伸べられるのだ」


 すげ〜近藤会長から後光が、と思っていたら半田先輩が筆箱に日光を反射させて色んな人の目を攻撃していた。いつもなら後藤先輩が暴力で解決するのだが、今回はなぜかしない。疑問に思っていると服部が、半田先輩庇われなれてないから照れてる時にやっちゃうんだよね、と言っていた。

 いや、庇われ慣れってなんだし。照れてる時にも人に迷惑をかけるとかある意味すごいな、どんな照れ方だよ、と危うくツッコミを入れるところだったが寸でのところで思いとどまった。


「サトシ君には悪いが、そもそも誰が悪いと決めつけていじめを誰かの責任にすることには何も意味がないと思う。いじめはコミュニティ全体で抱える取り組むべき問題であり、悪いことが全部積み重なって出来た最悪の現象ととらえれば誰かを責めるのが馬鹿らしく感じるだろう。一生の友や仲間を見つけるのが正の奇跡ならばいじめは負の奇跡、負の悲劇みたいなものだと私は思っている」


 近藤会長の熱弁に力が入る。なんなら会員達の会長を見る目がより輝かしくなった気がする。ピカピカだ。

 てか、もはや下ネタ関係なくね?俺がこれ何の会だっけと疑問に思いはじめていると、最後に会長が締めの演説に入った。


「下ネタと性的いじめは紙一重の存在だ。下のネタでお互いに笑えればいいが、もし片方だけしか笑えずもう片方が不快に感じたり、嫌に思ったり、最悪トラウマを植え付けることになればそれは性的ないじめだと言えるだろう。故に我々は普遍的で全員が笑える下ネタを追い求め、話し合い、日々切磋琢磨しながら至高の下ネタを探し続けているのだ。諸君にはぜひこのことを改めて覚えておいてほしい」


 すごいな。一体なぜ下ネタの会なんてものが出来たのか常々疑問に思っていたがまさかこんな真面目な思いが裏にあったなんて知らなかった。俺が胸に込み上げてきた何かに思わず心臓の部分を押さえていると、会員達がブラボーと呟きながら拍手をしだした。

 いや、バカにしてんだろとか思うが中には泣き出したやつもいるからほんとに胸を打たれたやつもいるんだろう。

 確かにそれぐらいには会長の演説には力があった。

 まぁ半分くらい意味が分からなかったし、うまく言いくるめられた気もするがそこが会長のカリスマなのだろう。

 俺はしみじみと会長の言葉に浸っていると、突然会長のスマホの着信音が鳴った。

 なんか雰囲気がぶち壊しだが、まぁいつものことだし仕方ないだろう……とか思っていた俺がバカだった。

 会長が電話に出たと同時に青く顔色が変わった。


「はい、そうですか」


 口調もさっきまでの偉そうな言い回しではなく、丁寧な感じだ。しばらくして会長が電話を切ると、俺ら全員を見渡してそのまま息を整えた。


「諸君。突然だが、我々はしばらくこの会を開くことが出来なくなった」


 ざわざわと辺りが騒ぎ出す。


「まさか…」


 そんな中、何かを察した服部がハッと顔をあげて会長の方を見つめた。


「まさか、ハレンチ撲滅協会の仕業ですか?」

「そのまさかだ」


 ハレンチ撲滅協会?なんかどっかでそんな話を聞いた気がするんだけど、どこだったかな?

 俺が必死に頭を捻っている間、全員が会長の方に視線を向けていた。会長は全員に目配せをするとそのまま重々しく口を開いた。


「おそらく我々はハレンチ撲滅協会と全面戦争をすることになるだろう。多田君、サトシ君。君たちも参加することになるよ」

「俺も?いやでも」

「もう君たちはハレンチ撲滅協会側の人間に下ネタの会側の人間だと認識されている」


 全面戦争なんて大袈裟だな、大体なんで俺がと周りを見るも全員が緊張した面持ちで唇を固く結んでいたり、脂汗を流していた。どうやらマジなようだ。

 世の中には巻き込む者と巻き込まれる者の2種類の人間がいる。

 こうして俺は自分の意思とは関係なくハレンチ撲滅協会との戦いの渦に巻き込まれることになった。

そしてまさかの急展開。

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