第25話 ニコチン
どうもお久しぶりです!今回は主要キャラ達がほぼお休みの回でギャグとかもありません。それでも楽しんでいただけると幸いです。それではどうぞ!
俺の名前は佐田正。身長185センチ、A型。体重は最後に計った時は80キロぐらいだった。国民的に有名な歌手と名前は似ているが、音楽の才能とかは特にない。ただ顔は結構似ているらしく、学生時代のあだ名は本人をリスペクトしてか、たっさん、とか他にも隠し子、とか言われてた。仕事は、元々は色んなものを転々としていたが今は訳あって母校である私立本間海学校の警備員を務めている。勤務時間は夕方6時から大体朝の4時5時あたりで、勤務内容はこのだだっ広い校舎内のお散歩と戸締りの確認、もし電灯が切れていたら事務員に報告したり、細かいところで言えば校舎の入り口付近に設置してある監視カメラに映った人や生き物を報告書に記録したりしている。
先日もこうないに侵入する学生や、魔界から飛び出してきた何か、こうもんに腰掛けるベートーベンの幽霊なんかを記録した。これらは全て非公式の報告書に記録されるのだが、何がおかしいってこの事態を校長自らが非公式に承認していて許可しているところだ。元々俺と違って校長は過去に下ネタの会に所属していた訳でもないのになぜそうなっているのかは俺にも分からないが、上には上の考えがあるんだろう。
とにかく俺は今日も様々な業務をこなしながらなんの変哲もない監視カメラをボーッと見ていた。
「さて、タバコでも吸うか」
息抜きがてらに一服しようとモニタールームを出て喫煙所に向かう。学生の目につかないように、と喫煙所が教員用の駐車場でも端の方に設置されていて、正直めんどくさいがこのご時世だ。仕方ない。そこまで向かうと俺はタバコに火をつけた。タバコは特に銘柄が決まっている訳でもなくその日の気分で買った安いやつだ。ライターも100均で買った陳腐さを極めているようなデザインのものだ。
深く、味わうように煙を吸っていると、校舎の方からワイワイガヤガヤと部活終わりの学生がやってきた。時間帯的に最後の学生だろう。駐車場を突っ切った方が近道なのは百も承知だが近所に住む人々について多少なりとも考えてほしいし、このゆっくりと羽を伸ばせる至福の時間を邪魔しないでいただきたい。
心の中でそう毒づきながら学生たちが通り過ぎるのを今か今かと待っていると、俺の意思とは裏腹に学生たちは喫煙所のすぐ近くで騒ぎだした。
「おい多田、お前ライター借りてこい」
「いやですよ、先輩が行けばいいじゃないですか」
「一番下っ端の多田が借りるのは当然のことだ」
「いやだからなんで俺なんだよ?!!」
どうやらライターを誰が借りに行くかで揉めているらしい。まあ、もし借りに来たとしても貸す気は微塵もないのだが。そんな事を考えていたらすいません、と呼びかける声が聞こえてきた。はじめは無視しようと思ったが声の主が顔見知りのようだったのでダルさを振り払って対応することにした。
「すいません、ライターをお借りしたいのですが」
目の前にいたのはここ最近見回りをしていた時に保健室で見つけた見た目がパッとしないやつだった。なんでも下ネタの会に入会したとかなんとか。
「あー、お前保健室でうろちょろしてたやつか。なんででもライターなんか。半田にでも頼まれたか?」
半田は俺が唯一プライベートでも繋がりのある在校生だ。普段は眼鏡をしていないのだが、この間は初めて眼鏡をかけている姿を見かけてその違いに驚いたもんだ。
「あーあの時の、えっと見回りのおじさん。そうなんです。先輩に頼まれて」
そんな事を思い出していると多田と呼ばれたやつの後ろから半田がやってきた。
「佐田さん、お願いしますよ。こいつ、研修期間が過ぎて正式に入会する事になったんすよ」
「で、これからコンビニで肉まんとろうそくでも買ってお祝いしようと思ってて」
半田の他に顔だけは見たことある現下ネタの会の会員が俺に状況を説明してくる。いや、祝うならケーキにろうそくだろ、という指摘は何か水を差すような気がしたからやめておいた。
「下校中に買い食いもダメだし、何をしでかすか分からない学生にライターなんて貸して問題でも起こされたらクビになるからヤダ」
だがしかし、立場上そんなことは許せないので大人な対応で追い払おうとすると、半田が駄々っ子のように俺の裾を掴みながら食い下がってきた。
「そんな〜!佐田さんと俺の仲じゃないっすか?!」「やめろ、半田気持ち悪い。分かった、分かった。祝えればいいんだな?ちょっと待ってろ。いや、なんならちょっと来いお前ら」
半田の猫撫で声があまりにも気持ち悪かったのと、こいつのしつこさというか執念深さは知っていたこと、更にこれ以上休憩時間を奪われるのを嫌った俺は残り10分となった休憩時間の中から5分間を諦めることにした。俺の指示に従いモニタールームにやってくる半田達。
「確かこの辺に…あった」
懐中電灯の電池が万が一に切れた際に保管してある超非常用のろうそくを引っ張り出す。その後夜食にと思って買っておいた蒸しパンを自分のリュックから取り出すとそれを半田達に差し出した。
「ほら、これで祝え。ただし俺が見てる前でな」
念のために釘を打っておくが流石にバカじゃない半田達は次々にお礼を口にした。どうせ口先だけだな、とか思いながら見ていると、彼らは俺の前で祝う準備をしだした。当たり前に酒とかはないが、各自水筒やペットボトルを手に持っている。
「それでは、多田が無事入会したことを祝って、チンチン!」
そんな中、半田が乾杯の音頭を取るとよく分からないが何故か全員がペットボトルやら水筒の中身を一気飲みし始めた。子供の手のひらサイズの蒸しパンにろうそくをさして火をつける。多田が終始意味が分からなそうな顔を浮かべながらもどこか嬉しそうに吹き消すと半田が多田に向き直った。
「これでお前も正式な会員だな」
「いやさっき近藤先輩に認められてたでしょう?」
「うっせえな。やっぱり退会させよう」
「はー?」
二人のやり取りを見つめながら俺も学生ん時はこんな感じだったかと思い返す。多分違うだろうな、と思い直して現実に戻ってくる。
「よしお前ら帰れ」
そう言ってさっさと半田達を帰らせた俺は残り3分となった休憩時間でもう一服しようと心に決めて喫煙所に向かった。
「ふー。ニコチン摂取してる時が一番いいな」
そーいえばチンチンニコニコとか言いながらふざけてるやつがいたっけ、と思いながら俺は灰皿に吸い殻を擦り付けた。
なんで蒸しパンだったんだ? by多田英雄




