第20話 ○っぱい○レー
前回と比較すると、今回は圧倒的に下ネタが少ないです。
また新キャラ登場します。
下ネタ満載のカラオケの後、ワクワクしながら千代池先輩のうしろについて辿り着いたのはなんの変哲もないただの喫茶店だった。
「えっと、洋食店ですよね?」
洋食店と喫茶店の定義出来るほど二つの違いを知っているわけではないが、洋食店にしてはこぢんまりしているというか、強いて言うなら小洒落たカフェというのが俺の印象だ。
「あー、まぁ多田がそう思うのも無理ないな。俺が最初来た時も洋食屋って感じじゃなかったし」
服部が相槌を打ちながら『フロンティニャン』という店名が書かれた看板を見つめる。
何か足りないんだよなー、と腕を組みながら考えていると、サトシ君がゲームから顔を上げてポツリと告げた。
「普通、洋食屋って言ったら食品サンプルが置いてあるイメージだよね~。フォークが浮いたスパゲティとか」
「それだ!!!流石サトシ」
確かにサトシ君の言うとおり、デパートとか、駅前の洋食屋にはガラスごしに食品サンプルがずらりと並んでいるイメージで、今回はそれがないせいか雰囲気自体がすでに違う気がする。
そうやって、いつかのバナナの時のようにどうでもいい思考に浸っていた俺は店の前で随分と立ち止まっていたようだ。
「じゃあ立ち話もなんだし中に入って座ろうか?」
俺の肩を掴んだ千代池先輩にやんわりと入店を促されると、俺はされるがままに店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
カランコロン、と小さなベルの音と共に、こちらに背を向けてテーブルを拭いていたウエイターが作業を終えて近寄ってくる。
うわ、千代池先輩と同じくらいの超イケメン外国人じゃん、とか思いながら来るのを待っていると、ウエイターは俺たちを見た後、急に意外そうに目を丸くして千代池先輩を見つめた。
「何名様ですか、ってテルじゃん!あれっ?今日シフト入ってたっけ?」
どうやら千代池先輩の知り合いらしく、シフトと言っていたからバイト仲間なのかなと予想を立てていると、千代池先輩がママの味がするという牛乳のキャンディくらいの甘い声で返事をしながら微笑した。
「ラリーさん、今日はお客さんとしてよろしくお願いします」
「「お願いしまーす!!」」
千代池先輩だけの知り合いかと思っていたら、俺とサトシ君以外は既に面識があったらしい。
席を案内されながらラリーさん、と呼ばれた人とこの奇妙な会のつながりを考えていると、横から高橋が心底悔しそうな表情を浮かべながら俺に説明した。
「ラリーさんは下ネタの会の元OBでまぁ、名前と見た目から分かるようにハーフでさ、まだ三十前だってのに結婚もしてる勝ち組なんだぜ」
くっ、俺もあんな容姿に生まれてくれば、と泣きながらティッシュで鼻をかむ高橋を他所に、ラリーさんを観察していると、俺の隣に座った服部が情報を補足してくる。
「ラリーさんはレストランサービス検定っていうやつの一級も持っててさ、とにかくすごい人なんだ。国が認めるウエイターとか本当尊敬もんだよ」
「ハハ。そんな大したもんじゃねぇよ、服部。大体、おかず王に拾われなかったら今頃無職だしな」
滑らかな動作で水をサービスしながら爽やかに謙遜しているラリーさん。いや、プロは違うなとか思っていたらラリーさんと千代池先輩が、
「Would you like some lemonade instead of water?」
「Yes, please」
と、英国訛りの英語で、自然になんか会話をしていた。
ファンクラブがいたら発狂して死ぬんじゃないか、と思うくらいのやりとりに、高橋が、
「発音まで完璧なんて」
と、どこかのボクシング漫画の主人公のように真っ白になりながらコメントしている。
やはりイケメンとそれ以外を隔てる壁は大きいことを自覚していると、カウンター席の奥から少し小柄で狐目をしたエプロン姿の男がやってきて、テリーさんを叱責した。
「誰がおかず王だ、このやろう。ちくしょう。お前なんか顔とその腕が無けりゃすぐにクビにしてやるのに」
ほうほう。この人がおかず王か、と唸りながら二人のやりとりを観察する。最後の方は嫉妬がだだ漏れなおかず王さんだったが、テリーさんはニヤリと微笑を浮かべると、サササッとフォークやナイフの入った小さなカゴを並べながら口を開いた。
「はいはい、分かってますよ、お義兄様」
更に、各テーブルにナプキンとメニューを並べだしたラリーさんに、おかず王さんはニコリと冷たい笑みを浮かべながら小さく怒鳴った。
「お前におにいさまと呼ばれる筋合いはない!分かったらさっさとあっちのテーブルいってこい!」
「はーい。じゃあ、照、メニューが決まったら呼びな」
少しびっくりしたが、どうやら日常茶飯事らしく、藻武一族、いや、サードチルドレンをはじめとする会員の方達は当然のように配られたメニューを見ている。
確かに険悪なムードというよりは気心の知れた仲のやりとりに見えたからあまり心配しなくてもよさそうだ。
そう思っていると、千代池先輩が眉尻を下げて困り顏を作りながらおかず王さんに声をかけた。
「相変わらずですね、かずおシェフ」
「そうなんだよ。ったく、妹はあんなやつのどこに惚れて結婚したんだ」
片方の手を千代池先輩の肩へ置きながら、とほほ、ともう片方の手で顔を抑えるおかず王。その姿にはなにか悲哀なオーラと哀愁が漂っている。
流石にその姿に対して顔ですよ、とは言いづらい会員の皆さんは静かに吹けもしない口笛を吹いて、一斉に明後日の方向へ顔を向けていた。
「はぁ、それはまぁいいとしてお前ら注文はどうすんだ?」
先ほどラリーさんが取ると言っていたが、今頼んでも変わらないだろう。そう判断した俺たちは各自自由に好きなものを注文する。
初めは遠慮しようかと思っていたが、千代池先輩が先に、
「かずおシェフ。彼らの分は僕の給料から差し引いておいてください。あー、みんなは遠慮なく頼んでくれ。大丈夫だから」
という新婚カップルぐらい甘いイケメン発言で支払いが免除されたから、あまり頼み過ぎない範囲で好意に甘えることにした。本当千代池先輩イケメンっぷりがもう神の領域だ。
ケーキや紅茶など、千代池先輩の財布を痛めつけない常識的な範囲で注文をしていく。やがて、最後に余ったシンジ君、高橋、半田先輩の番になると、三人が順番通りに手をあげながらテンポよく注文していった。
「僕はいちごいっぱい・オレ」
「僕はトマトすっぱい・カレー」
「じゃあ俺は綾瀬おっぱいバレー」
トン、トン、といい流れを作っていたのに、半田先輩がズドドドドン、と太鼓の達人でいったら急に青と赤が半分重なって出てくるあのよく分かんないやつみたいにテンポを崩される。
しかもここは洋食店という公共の場。いくら元OBの前でも限度があるだろう、と思っていると、案の定、おかず王が目をシュッと細めて声のトーンを少し落とした。
「あー、激甘マシュマロパフェか。本当これ好きだな、半田」
「え〜、それで通じるの⁈」
あれ作るの面倒臭いんだよな、と漏らしているおかず王に、問題はそこ?、と心の中でつっこむ。
「注文はこれで全部だな?じゃあ、また後でな」
俺が困惑している間に注文の確認が終わったらしい。やっぱりなんかおかしいな、と思って手を伸ばすも、その場を去ってしまったおかず王には届かない。
「あのー」
と、声をかけようとするも、チンチーン、と水やレモネードで乾杯する会員の皆さんの声やグラスの音にかき消されて届く気配がない。
見てのとおり、千代池先輩主催のモテ講座が開かれる二次会は、こんなよくわからない形ではじまった。
「なんでおかず王ってあだ名なんですか、千代池先輩」
「それはシェフの名前が御手元 和夫だからだよ、多田君。ですよね、ラリーさん?」
「O. Kazuoでおかず王。元々は弁当男子代表だったのさ」
「へぇー。じゃあラリーさんは?」
「ハーフ男子に決まってるじゃないか!!!」
えっ?出オチ?やだなー、映画じゃ何にも出てませんでしたよ?
ゲームまだかなぁー。 by沢尻サトシ