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下ネタの会  作者: 寺子屋 佐助
第一章 イン・トロ
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第2話 カイにイレちゃえ⁈

どうも作者です。

基本的に下ネタのレベルは低いですが、楽しんで書かせていただきます。


ようこそ下ネタの会へ

 キーンコーンカーンコーン……。

 学校のチャイムが鳴り響く。

 それと同時にガラガラとドアが開いたかと思うと生徒達が教室をドタバタと飛び出していく音が聞こえてきた。


「なぁ~一緒に帰ろうぜ、ヒデ~」


 いかにも怠そうに声をかけてくるのは隣のクラスのサトシ君。いつも帰り支度が遅い俺はこうやって毎日彼に呼ばれて帰っているのだ。


「あー、ちょっと待って~」


 最近は彼の話し方に影響されてか語尾が伸びる伸びる。俺は一通り荷物をカバンに詰め終えると、サトシ君と一緒に教室を出た。

 そのまま無言で帰路を辿る俺たち。普段から静かで無口な俺たちは基本的にほとんど何も喋らずに歩くのだ。

 まぁ、俺としては楽だ。静寂に包まれている間は自分の考えに集中出来る。ゲームのこととか、マンガのこととか。

 だがもちろんたまにどちらかが沈黙を破る時がある。そういう時は決まって俺だが。


「なぁ、サトシ…。バナナっておやつだよな?どう思う?」


 一瞬考える素振りを見せたサトシ君はまた呑気な顔に戻るとすぐに答えてくる。


「どっちでもいいんじゃない?」


 ……。確かにどっちでもいいな。糖分で考えればバナナはおやつにもなるし果物だって言い張ればそこまでにもなるしな。


「だよな。どっちでもいいよな」


 俺はそう言葉を返すとまたしばらく沈黙が続く。サトシ君との会話は実にシンプルだ。まぁ、そこがいいというか、そのおかげで馬が合うんだけど。

 俺たちはその後一言も話さず歩いていると、とうとう別れ道にまで辿り着いた。ここで俺は左側にサトシ君は右側に曲がる。


「じゃあ、また明日な」

「おう、また明日」


 そう言って俺たちは別々の方向に歩き出すと俺は突然あることを思い出した。


「やべぇ、今日図書室に本返すの忘れてた」


 そう。今日は借りていた本の締め切りの日なのである。俺の学校の図書室は返却日にうるさいので有名で返さないと一ヶ月間図書室に出入り禁止になる。

 はっきり言って面倒臭いがいつもクラス内ではぼっちキャラを突き通している俺にとって本の無い休み時間は辛い。どこかの会話にさりげなく入るのもいいがやはり暇で暇で大変になるのだ。仕方が無いので俺は踵を返して元来た道を逆走していった。

 今思えばこれが全ての元凶の始まりだったのかもしれない。俺のキャラや普段の性格を変えることになった出来事の…。



 ◇◇◇



 走って約五分。俺は短くなった息を吸いながら校門をくぐっていた。

 図書室は基本、下校時間から三十分近くの間は返却用と貸し出し用にあいている。校舎にかかっている時計はすでにタイムリミットの五分をきっている。俺は校則なんかお構いなしに廊下を走りながら図書室まで辿り着くと、そのままスーッと静かにドアを開けた。

 図書室の壁の時計は閉まる一分前を指し示している。俺はホッと胸を撫で下ろしながら受付までいくと、そのまま片手に本を持ちながら何かゴソゴソと作業をしている図書委員の背中に声をかけた。


「すみません、本の返却をしたいんですが…」


 一旦作業を止めてこちらを向く図書委員の先輩。もう何度もこの図書室に足を運んでいる俺はこの人とは既に顔見知りだ。先輩は軽くニッと歯を見せて笑うとそのまま俺の手から本を取って返却用の棚にしまった。

 そして、古い木製の箱の中から俺のカードを取るとからかうように俺に渡してきた。


「ギリギリセーフだな、多田。一分でも遅れてれば一ヶ月禁読生活を満喫出来たのに」


 いかにも残念そうに嫌味を言う先輩からカードを受け取ると、俺は先輩にサッサと背を向けて帰ることにした。去っていく俺を見て何かを思い出したのか、先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべると、俺の背中に向かってボソリと言葉を吐き出した。


「そういやぁ、新書コーナーに新しい本が置いてあったなぁ。確かどっかのラノベだったような……」


 先輩の言葉に釣られてピタリと動きを止めた俺は進行方向を百八十度変えて歩みを進めると、一直線に新書コーナーへと向かっていった。

 ここ私立本間海学校の図書室の本の返却は下校時間から三十分までだが、貸し出しは一時間までだ。だからそれまではじっくり借りたい本を選ぶことが出来る。

 俺はそのコーナーの中から幾つか目当ての本を見つけるとすぐに受付まで持っていった。先輩は俺の選んだ本を怪しげに見つめながら口を開く。


「一つは普通の純文学にもう一冊はハーレム系か。全く多田の好みというか選ぶジャンルは分からん」


 そりゃどうも、と適当に返事を返しながら受け答えしていると、先輩は俺の態度に少しだけイラっとしながら俺に読みかけの本を投げつけてきた。

 顔面に直撃しながらも慌てて落とさないように手でキャッチする俺。

 オレンジ色の本のカバーは比較的まだ新しく、新しいラベルがつけられていることから新書だと推測する。俺はとりあえず本を裏返すと、まずその題名に目がいった。


「下ネタ大全⁈」


 あまりにも滑稽で奇妙な本のタイトルに目を見開きながら呆然としていると、先輩は口元で人差し指を立てながら静かにするようジェスチャーしてきた。それを見て慌てて口を塞ぐ俺。図書室内にはまだ利用者が何人かいたし、第一図書室で騒ぐなどもってのほか。俺はすぐさま図書委員である先輩に謝ると、先輩は意に介した様子も見せずに俺に話しだした。周りを意識しながら声を落としている先輩はどうやらとても真剣な様子だ。


「これはうちの委員長がこっそり買ってきた本に新書のラベルを貼ったいわゆるカモフラージュだ」


 へぇー、ととりあえず相槌を打っておく。興味はないがそこまでして読んでいる新書だ。何か面白いことでも書いてあるんだろう。俺はそうですか、と言葉を続けながら本を返して去っていこうとすると、ちょっと待て、と先輩に呼び止められた。

 今度は何ですか、と俺が半ばイライラとしながら聞き返すと、先輩はおもむろに俺のカードを取り出して何かを書きはじめた。気になって受付まで戻る俺。見ると、カードの上には汚い字で下ネタ大全、と書かれてある。

 急いで取り返そうにも時既に遅く、先輩は俺のカードを手に取るとすぐに古い木製の箱の中へカードをしまった。

 一瞬の出来事に唖然とするしかない俺に対して先輩はドヤ顔を向けながらこう言い放った。


「ふっふっふ。これで多田はこの本を今日返却する術は無くなったな」


 得意げにそう告げる先輩に少しだけ胸の辺りがムカムカすると、先輩はさっきの下ネタ大全を俺に渡して図書室に響き渡る声でこう言った。


「多田く〜ん。返却は明日にしてくださ〜い。ルールが守れない人には本は貸し出しませんよ」


 非常にウザかっったので本の尖った部分で頭を殴ってやるとコーン、という小気味いい音が聞こえてきた。そのまま受付のカウンターに俯せになる先輩を他所に俺はいやいやと下ネタ大全を取るとスタスタと図書室を出ていった。あー、胸の辺りがスカッとした。

 図書室の方から


「それ読んでユーモアの一つでも覚えてろ」


 と、どこかの捨て台詞のような声が聞こえてきたが


「図書委員マジ黙ってろ‼」


 と誰かが一喝したおかげで辺りは今度こそ静かになった。

 騒ぎが収まったことでゆっくりと本に目を通す。

 俺はオレンジ色に染まった本に目を向けると小さく溜息を吐いた。

 基本的に借りた本は読む俺である。わざわざ借りたのに読まないのは勿体無い、と心の中で思っているからだ。

 正直こんなくだらなそうな本は読む気にならなかったが仕方なく今日読み終えようと考え直してページを開くと、前方から物凄い勢いで誰かが走ってきた。


「こんなところに下ネタが好きそうで暇そうな冴えない男子生徒を発見‼‼‼」


 えっ?と疑問に思ったのも束の間。気がつくと俺は腕を引っ張られてどこかに連れていかれるところだった。


「ちょっと待った。俺はただこの本を読んでいただけだ〜」


 俺の必死の弁解にも聞く耳を持たず、気付くと俺はさっき出てきたはずの図書室まで連れ戻されていた。

 バン、と勢いよくドアを開ける男子生徒。そのまま彼はドアの鍵を閉めながら俺を引きずってとある本棚の前に立つと勢いよく棚をズラしはじめた。

 いや、棚をズラしても何も無いよ……ってぇえ⁈⁈棚の裏にドアがある!これってまさかの七不思議⁈

 と、一人意味が分からずただただされるがままに引っ張られると男子生徒はドアを開けて俺を中に放り投げた。


「へっ?多田⁇」


 声のした方に視線を上げると、そこには俺のクラスの学級委員の服部が驚いたように眼鏡をズラしていた。


「なんで服部がここにって、ここどこだよ?」


 一旦冷静になろうと辺りを見渡すも学校の中で一度も見たことがない部屋に戸惑う俺。そんな俺を無視してさっきの男子生徒が俺を指差すと、そのまま回転椅子に座っていた誰かに声をかけた。


「近藤会長、こいつをカイにイレちゃいたいんですけど……」


 すると、近藤会長、と呼ばれた人が金属の鈍い音をあげながら回転椅子を回して俺を凝視した。何が何だか分からず立ち往生ならぬ引きずられ往生する俺に近藤会長は意を決したように首を縦に振ると、そのまま高らかに声をあげて即答した。


「いいよ」


 近藤会長の言葉に途端に抗議や非難の声が入る。しかし、近藤会長は全く聞く耳を持たずに俺を指差すと、そのまま声を張り上げて全員に告げた。


「今日からお前はこの下ネタの会の会員だ。よろしくな」


 あちゃー、と誰かがおでこをぺちんと叩く音が聞こえてきた。他の人は呆れたように溜息を漏らしている。

 俺はもう訳が分からず目をパチクリさせながら場の雰囲気に呑まれていた。

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