第14話 穴を埋める問題 (ひらがな編2)
ちょーお久しぶりです。
遅れましたがあけましておめでとうございます。
おとしタマはございませんけれど、今回は主人公の覚醒イベントを設けてみました。
どうぞお楽しみに。
注・朝っぱら読まない方がいい小説です。
十五歳未満の方は速やかに立ち去りましょう。それでは、今年もよろしくお願いします。
「くそ、いい曲だ~」
「オリコンチャート一位間違いないな」
「こんなところに名曲が埋れていたなんてな……」
内容がくそ危ない大合唱が終わり、辺りを見渡すとサトシ君と千代池先輩、そして近藤会長以外全員が涙を流しながら左胸に手を当てていた。
その様子を見ながら上から服部、近藤会長、千代池先輩の順で感想が述べられる。
いや、いい曲っていうかふざけすぎた校歌にしか聞こえないし、オリコンチャート一位とかあり得ない。
第一、世の子連れのお母様方がこんな曲をみすみすと見逃したりしないだろう。
けれど、ペコちゃんのぺろぺろキャンディー以上に甘いボイスで名曲だと太鼓判を押した千代池先輩がいうと、なんだか名曲に聞こえなくもない。
さすが、イケメン。ズルい。
「まぁ、確かにクオリティは高かったような……」
いや、待て。
てか、俺なんでこの人達にこんなに振り回されてるんだ?
あれっ、改めて考え直したら目にゴミが……。
俺はこの会のハチャメチャぶりに今更ながら涙を流して嘆いていると、半田先輩が俗に言う漢の涙を拭いながら俺に意見を求めてきた。
「どうだ、多田。我が【下ネタの会】の【下ネタの会のテーマ】の感想は?」
「いや、なんすかこの曲。変に本格的だし……。てか、何時だと思ってるんですか?普通に考えて近所迷惑ですよこの大合唱」
言ってる内に涙が溢れ出てきた俺を見て、先輩は何を勘違いしたのか、
「そうか、多田も感動したか」
と、同志を眺める目で俺を見つめてきた。
待て、勝手に巻き込まないでくれ。
と言おうとしたが、突然どこからかサトシ君がやってきてこう告げた。
「なんか面白いねこの曲、思わず録音しちゃったよ」
彼らに感化されたのか、普段無口なサトシ君が興奮気味に語りだして、俺はその瞬間急に何もかもがどうでもよくなった。
人生諦めが肝心とはよくいったものだ。
俺の中で新しい境地が開花する。
こうして、夜の下ネタの会は幕を開いたのであった。
◇◇◇
「あのー」
場の興奮が徐々に治まっていく姿を感じ取る傍ら、俺はピアノの椅子に鎮座する有名人に声をかけていた。
「はい、なんでしょう?」
譜面台に置かれた楽譜を整理しながらその眼鏡の奥の茶色の瞳で俺を見つめるその人物。
「えっと、本当に本物のシューベルトですよね?」
歌曲の王と謳われたフランツ・シューベルトはキョトンとしたように眉を顰めながら姿勢を正した。
「いかにも、私がフランツ・ペーター・シューベルトです。新人の多田君ですよね。つっきーが教えてくれました」
自己紹介ついでにチラリと近藤会長を見て俺の名前を言い当てるシューベルト。
つっきー、ってどこかの池に住む怪獣みたいなあだ名だなと思っていると、近藤会長が苦虫を噛み潰したような表情でシューベルトに物申していた。
「つっきーはやめてくださいよ、フランツ先生」
どうやら自分のあだ名がご不満なようだ。近藤睦月だからつっきー。まぁ、安直すぎるというか近藤会長のイメージにあってないというか。
俺はそんなことを頭の隅で考えながら一旦思考をリセットすると、本当に一番聞きたいことを頭に浮かべてそのままシューベルトにぶつけた。
「えっと、シューベルトさんって亡くなられてますよね?一体全体どうなって……」
「あぁ、それですか。私は幽霊なんですよ」
「じゃあ、何でピアノの伴奏が出来てるんですか?」
「幽霊には手が付き物ですよ⁈」
「ペダル踏んでましたよね⁈」
「そこはご愛嬌で」
幽霊ってそんなのありかー、と叫ぼうとしたが、サトシ君がモーツァルトらしき人物とゾンビ系のシューティングゲームに熱中している姿を見て俺は悟りを開いたかの如くに言葉を呑み込んだ。
まだ夜の下ネタの会ははじまったばかりである。
本当はどういった経緯でシューベルトやモーツァルトが幽霊になったのか問いただしたかったが、このままでは気力を消耗するばかりでこの後の展開に耐えられない可能性があったので、思考回路をスリープモードにして佇むことにした。
あっ、モーツァルトのライフゲージがゼロに……い、いかん。
平常心、平常心……。
◇◇◇
「なるほど、事情はよく分かりました」
今度こそ静まり返った周囲の中で、近藤会長がシューベルトの側に寄って耳打ちをすると、シューベルトは訳知り顔で一つ頷きながら何かの紙をめくった。
「これがその問題ですか……」
会長から渡されたそれはどうやら、昨日解いていた穴埋め問題のようで、シューベルトはしばらく瞑目すると何かを思いついたように言葉を発した。
「分かりました。では、さっそくですがこの問題を私なりに解いてみましょう」
シューベルトは次の瞬間、問題を片手にチョークをもう片方の手で握りしめると、そのまま黒板の上に殴るように問題を書いていった。
とめや、はねが苦手なことからあまり書く方の日本語は得意ではないのだろう。
そんな拙い、小学生のような書き方で問題を写したシューベルトは今度は自分なりの回答を書き込むと、俺たちの方を振り返った。
「これが私の解答です」
そのまま黒板の前から立ち去ったシューベルトはまたピアノの椅子に腰掛けながら黒板を指差した。
1)【て】んぽ
2)【む】ち
3)【かたい】いし
4)【かま】くび
5)【本】だし
んっ?と各地で疑問符が浮上する。
シューベルトはその様子にわざわざ椅子から立ち上がると、実演つきの解説をはじめた。
「まだ若々しい皆さんにはピンとこないかもしれませんが、将来皆さんが子供を授かる時、初めてお相手の愛妻と共同作業をする時、皆さんにはテクニックや元の質だけではなくテンポも重要になってきます。このようにイチニーサンシと普通に腰を動かすのも大事ですが、たまにはテンポをずらすと違った声が響き渡るものです。更には……」
手を腰の辺りで固定して、イチニーサンシと腰を前後するシューベルト。
「嘘だろ……」
その姿を目の当たりにした途端、俺の中の硬派なシューベルト像は粉々に砕け散った。
歌曲の王と謳われ、数々の名曲を送り出したシューベルト。
そんな彼が今はたかが下ネタなんかに熱くなって腰を振っている。
俺は目前の光景が信じられなくて周囲を見渡すと、下ネタの会の会員達は全員テンポを合わせながら腰を動かしていた。
「なるほど、これが歌手も女も天使のような神曲で歌わせてきたフランツ先生の動きなんですね!恐縮です」
中田先輩や半田先輩が束になって感動しているその有様に俺は絶望という名の崖っぷちへと追い込まれると、無理だろうと半分諦めながらもうやめてくれと目線でシューベルト先生に訴えた。
しかし、シューベルトはその目線を別のように受け取ったのか、また口を開いて熱弁をはじめた。
「むちは無知にも鞭にも変換出来ますが、今回はSMの方向で解答を定めましょう。俗に言うスパンキングですが、鞭を使ったスパンキングは格別で私も何度も相手を頂きまで追い詰めたことがあります。それから……」
絶望の崖っぷちで俺は足を踏み外す。
しかし、なんとか両手で持ちこたえる。
「言うなればかたいいしとは貴方達の未来が詰まった石ころ二つのことです。少子化が進む今日では竿の硬度ではなくタマの濃度が注視されるでしょう……」
崖っぷちを両手で掴んだはいいものの、片手部分の岩が崩れ落ちる。
ちくしょう、かたいいしとか言っておきながら全然固くねぇじゃねえか!
自分で墓穴を掘ったおかげで指が一本離れる。
「かまくびはヘビの首として表現されますが、皆さんのヘビはこんなものではないでしょう。かたいいしとセットで取り扱うべきです。ちなみにかまくびのかまには特に深い意味はありませんよ、どうぞオカマいなく」
追加の指がはずれて身体が支えられない。誰か俺の人差し指を助けてくれ〜。
「まぁ、最後の本だしは完全なるニュアンスの問題ですが、やはりフィナーレは盛大に終わらせるべきでしょう。愛する人に本だしをぶちまけて」
ぎゃ〜…………。
もう何も聞きたくなくて耳をふさぐ。同時に感じる浮遊感に俺は身を任せて絶望の谷底へと落下していった。
さらば、純粋な俺の心。
グッバイ、マイ純潔。
シューベルトのイメージとともに崩壊した俺の心は深い深い谷底で木っ端微塵に潰れた。
「それ、本当に下ネタなの?」
突然、純粋無垢なサトシ君の声が辺りに木霊すると、俺はまた崖の上に引き戻された。
救世主はこんな時に現れるものだ。
あぁ良かったサトシ君がいて(棒読み)
まぁ、もちろん意味が分からないことなど百も承知だった。
けれど、段々と理解力の追いついていた俺はシューベルトの説明の分かり易さも合わさって破壊力抜群の下ネタに圧倒されていたのだ。
「ちょっと待ったー!!!」
しかし、サトシ君の呟きとともに完全回復を果たした俺は反撃という名の猛ツッコミをはじめた。
多田君のキャラ崩壊していてすみませんね。
世のシューベルトファンの皆様、本来のシューベルトは決してこのような人物ではなくあくまでもネタとして扱っています。
不快に思わせてしまった方には重ねて頭を下げさせて頂きます。
誠に申し訳ありません。