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下ネタの会  作者: 寺子屋 佐助
第一章 イン・トロ
10/26

第10話 まさかの尻Ass(シリアス)な回

まさかのキャラ崩壊⁈

それともただの裏の顔⁈


今回ちょーシリアス回です。

コメディ要素皆無なので読みたくなければ読み飛ばしてもらっても構いません。


ただ、この回は今後の下ネタに大きく影響する指標みたいなものなので、蔑ろにはせんといてください。

それでは、どうぞ。

 多田が去った開かずの部屋の中央、下ネタの会の開催地である円の中では、会長である近藤睦月が、他の会員と共に頭を捻っていた。


「やはり、まだ靡かなかったか、あの新人君は」


 去り際に見せた彼のあの得意気な表情を思い浮かべながら、訝しげにそう呟く会長をはじめ、全員が気に食わない顔で俯いている。

 それもそのはず。何故ならつい最近目をつけている多田、という男子生徒が一向にこちら側につく面影も見せなければ、下ネタに興味があるような素振りさえも見せないからだ。


「やっぱり俺はあんなやつをいれるのは反対だぜ。下ネタのしの字も理解してない奴と同じ会に所属するなんて冗談じゃない。それに、あいつは中田の誘いを断るどころか、それを利用してこの神聖なる下ネタの会を滅ぼそうとしたじゃないか⁈」


 すると、とある男子生徒が多田に対して否定的なことを述べながら口を開いた。

 同時に、呆れたような労わるような、どこか痛いものをみる目で自分を見てきた多田を思い出しながら、怒りに近い拒絶を示す男子生徒。

 しかも彼はよく知りもしないくせにこの下ネタの会に反抗的である。

 それ故に図書委員であるこの男子生徒は、あまりにも下ネタに対して無知すぎる多田に確実に苛立ちを覚えていた。


「なあ、会長。なんで会長はそこまでしてあんな奴を入れたがるんだ?」


 彼の疑問は最もなことだろう。

 下ネタに興味も持たない、しかもあろうが無くなろうが関係のない態度を取られたのにも関わらず、未だに彼を正式に入会させようとする。

 下ネタをこよなく愛する図書委員の彼にとってそれは苦痛であり、全く理解不能なものであった。


「……」


 暫しの間、部屋の中に沈黙が訪れる。

 やがて、彼の疑問を真っ正面から受け取った会長はどこか諦めを含んだため息を漏らすと、彼の瞳を真っ直ぐに見据えながらポツリと語り出した。


「初めはただ、会員が増えればいいと思っていた」


 あの日、中田に連れられて入ってきた男子生徒の姿を思い浮かべながらそう呟く会長。


「だが、後ほど告げられた彼の指摘によって私の考えは変わったのだ。こいつはこの会に必要なのだと」


 そう言って多田に尋ねられた下ネタの基準についてもう一度ばかり考える会長に図書委員の彼は口を噤む。


「今までただ下に纏わることをネタにすればいいと思っていた、いや、そう信じていた私にとってあれはあまりにも斬新で面白かった」


 ーーー『何が基準なんですか?』


 一瞬とはいえ、下ネタの会の会員が揃ってすぐに答えられなかったことを思い出し、笑う会長。


「それに君も見ただろ。バナナという単語にピクリとも反応を見せなかった彼の表情を」


 普通の健全な男子であれば一度は反応するバナナという単語に純粋無血な眼差しでそれ何?と尋ねた彼に苦笑いを浮かべる会長。


「あれは下ネタのことを全く理解していない、今時珍しい純粋な尋ね方だった。……。そして、あの態度は今後下ネタの水準をより高くあげるには必要なものだ」


 いつの世にも下ネタに対して反抗的な、悪意を持つものは存在する。

 しかし、それは下ネタの意味を知っているから。

 多田のように下ネタについてなんの知識も持たずに常識やなんかくだらない理由をつけて拒否反応を示す輩は珍しいのである。


「今後、彼のような人物が現れた時、君は自信を持って下ネタで笑わせることが出来るか?」

「そ、それは……」


 無理、だろう。そもそも、そんな奴は初めから聞く耳を持たない……


「ってそうか!だからあいつをいれてみたいんだな会長!」


 彼の言葉にしっかりと頷く会長。


「そう。下ネタに否定的であるにも関わらず、なおかつ下ネタをより改善するために当たり前のことに対して斬新な視点から指摘出来るあの頭脳。彼こそが今後の下ネタの発展に必要な人材だ、と私は思うのだ」


 会長の言葉に大人しく二人の会話を聞いていた周りから拍手と歓声の嵐が巻き起こる。

 会長は会員からの希望の眼差しを受け止めると今度は全員に尋ねた。


「そこで、皆に相談がある。彼を我が会に繋ぎとめるにはどうしたらいいと思う?何かいいアイデアはないか?」


 彼の問いに考えを巡らせる会員達。しかし、あの一筋縄ではいかなそうな多田にどうすればいいのか分からないでいる。

 すると、多田のクラスの学級委員、服部が何かを思い出したように目を見開きながらこう提案した。


「彼の周りから攻めるのはどうでしょうか?外堀を埋めて彼を無理矢理下ネタに巻き込むのです」


 そう力説する服部に何故か渋い表情を浮かべたのは多田のクラスの前の席に座る高橋。


「でもあいつ基本一人だし、登下校も……ってそういえば……」


 どうやら話している間にハッ、とある人物を思い出したらしい。

 高橋は下校時に自分のクラスにやってくるある男の姿を思い浮かべながら服部に告げた。


「隣のクラスのサトシ……あいつなら多田とよくつるんでるぜ」


 高橋の言葉にそういえばそうだ、と相槌を打つ服部。

 その様子を見た会長は二人の肩に手を置くと、そのまま静かに告げた。


「よく分からんが、そのサトシ君を我が下ネタの会に勧誘し、尻に敷くことが出来れば多田も動くかもしれないということだな」


 よしっ。と会長は一人拳を固めながらそう呟くと今度は全員に聞こえる声で伝えた。


「多田の情報と同時に、そのサトシ君という男子生徒の情報も集めて、上手く勧誘すること。いいな?」


 彼の言葉に力強く頷く会員達。

 その様子を満足気に見つめた会長は、一言解散、と告げるとそのまま図書室に続くドアを掻い潜っていった。



 ◇◇◇



 その夜。自宅にて俺は数学の宿題を片付けながら凝り固まった肩をほぐしていた。


「あー、今日も面倒臭かった」


 宿題をカバンの中にしまいながら思わずそう呟く。


「結局、本も読めなかったしな……」


 下ネタの会のせいで…と続けようとしして、ふと、結局返却出来なかったオレンジ色の本が目に入った。

 下ネタ大全。図書委員の先輩に無理矢理借りさせられたくだらない本だ。

 昨日流し読みをした後興味がなくなってカバンの中にいれておいたが、今日の一連の騒動で忘れていたらしい。

 結局またカバンに戻しておこうとしたが、俺は昼間会長に言われたことを思い出し、考えを改めた。


「下ネタの定義……か」


 そんな言葉が頭の中をよぎる。俺は何故か頭から離れることがなかったその言葉に眉を顰めたが、何をやってもその言葉の意味が気になってきて、結局またオレンジ色の本を開くことにした。

 これは俺の悪い癖だ。昔からバナナはおやつかどうか、とか学校の階段の段数とか、とにかく余計なことに気を取られ、その度に悩んでいた俺はいつも答えが出るまで思考に没頭していた。

 まぁ、いつも諦めたり、誰かに答えを聞いたり、自分で確かめたりしていたのだが。

 きっと今回も一過性のただの興味心から出たものだ、とその時はそう思っていた。

 パラパラとページを捲る。

 案の定、程よく分厚い本の中にはくだらない挿絵に、意味が分からないギャグ、そんなものが延々と羅列していた。


「んっ??」


 しかし、最終ページに差し掛かる少し前、正確にはこの本の著者のあとがきの欄に目を止めた俺は、そこに綴られていたメッセージを思わず読み返していた。

 いや、意味が分からないがこれは…。


「『下ネタを語るにあたって』ってこれ最初の方に載っていた定義とまるで違う」


 俺は12ページあたりに書かれていた定義をつぶやきながらもう一度著者のあとがきを見直した。


「下ネタの定義: 下のネタ、大まかに下品なものを題材にしたネタ、またはそれらを連想させる言葉やフレーズである」


 確かに最初の方にはそう書いてあったのに。これは……


『下ネタとは確かに人間の下半身や性、便に纏わる下品なネタだ。しかも世の中の人々はあらゆる常識に囚われ、その考え方に則ってしか下ネタを見ていない。そんな世間一般の人々は下ネタのことを口を揃えて、くだらない、とか汚らしい、とか汚らわしいとか言う。だが、私はそうは思わない。

 下ネタ、とは万国共通で理解することの出来る共通の話題、そしてそれを面白おかしくあくまでも捻くれた滑稽な言い方で人々を笑わせるのが下ネタだ、と私は思う。人間、生きていれば下に関する問題は自然と出てくる。それを楽しくおかしく出来るのが下ネタなら私は大歓迎だ。どうか、この大全を読み終えてくださった方には考えてほしい。下ネタがいかに人々を楽しませることが出来る可能性を秘めているかを。別に性にオープンになれ、といっているわけではなく、ただ単に下ネタ自体を何の偏見もなく見て、聞いて笑ってほしい。私はそう願う』


 ……なんて説得力のあるあとがきなんだ。たかが下ネタにそこまで。

 そして俺はふと思った。

 もしかしたらあの図書委員の先輩が伝えたかったのはこのことではないだろうか。

 いや、そんなはずはない。あのいい加減な先輩に限ってそんな。

 なんか尻の穴が痒くなるような感覚に若干苛立ちを覚える。

 しかし……。

 ふと、目線を窓の外に向けると、そこには光に反射した自分の姿が映っていた。

 相変わらず、なんの特徴もない冴えない顔だ。


「『それ読んでユーモアの一つでも覚えてろ』、か」


 まだ抵抗はある。というかあの会には無理矢理拉致されたことと、俺を脅してきたことに関する貸しがある。

 絶対にあんな会、俺は認めない。

 だけど、下ネタについて熱く語るあの瞬間に入ってツッコミを入れるのは面白かった、と思う俺がいることも否定出来ない。


「明日の晩、か」


 くだらなそうだが行ってみるか、今日の夜空を見てなんとなく俺はそう思った。

 おっと、尻が痒い。長時間同じ体制で座っていたからだろう。

 俺はケツのあたりをボリボリとかきながら立ち上がると、そのまま電気を消してベッドに潜った。

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