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探索者  作者: 羽帽子
99/118

第98話:「偶然ですわね!」

「大儀」


 謁見の間へと通された俺達を玉座で待ち構えていた美女がじっと見つめている。

 エルフの女王への謁見という事でかなり緊張していたのだが、全体的にぼ~っとした雰囲気を漂わせているので、俺が勝手に想像していた『女王』とか『元英雄』といった強くて怖そうなイメージからはかけ離れていた。

 しかし、こうして改めて視線を向けられると、透き通るような銀色の瞳に吸い込まれそうになる。


「……えっと?」


 カーラ女王が無言で俺達ひとりひとりの顔をただ眺めているだけなので、困った顔をアイラに向けると、彼女が苦笑しながら「いつもの事」と囁いてきた。


「把握」


 10分近くも俺達の顔を穴が開くほど見つめていたカーラ女王が、やっと言葉を発して玉座から立ち上がった。

 そのままスタスタと出て行ってしまったので、どうしたものかと顔を見合わせていると、ダリアがメイドらしき女性と何やら話している。


「どうやら『風呂に入って食事をしていくように』との事らしいのだが……」


 謁見が終わったらすぐに帰れると思っていたが、どうやらそういうわけにはいかないようだ。

 王宮の風呂に入れると聞いてドルチェとサーシャがそわそわしている。

 今にも駆け出して行きそうになっている2人を宥めていると、アイラが頬を膨らませて不満そうな顔をしていた。


「う~! シュンに手料理をご馳走したかったのにぃ~!」


「あ、明日楽しみにしてるよ」


「王宮の料理を食べた後にアタシの料理なんて……カーラ様のイジワル~!」


「ちょ、アイラ!? 王宮でそんな事言っちゃ……」


 慌てて周囲を見回すが、ダリア達もメイドもクスクス笑っているだけなのでホッと胸を撫で下ろしていると、ドルチェが服を引っ張ってくる。


「シュンにぃ……早くお風呂」


「王宮の風呂かぁ~! 楽しみだぜ!」


 メイドに連れられて風呂場へとやってきたが、当然俺だけは男風呂へと案内された。

 少し残念な気持ちもあったが、ラハティアで入ったクリフトスさんご自慢の風呂よりも更に豪華な風呂を見て、逆に一人で貸し切り状態のこの状況についつい口元が緩んでしまう。

 大急ぎで服を脱ぐと冷えた身体に桶で汲んだ熱いお湯をかける。

 リメイアの王都マーメリアは山脈の中腹にあるので、ダーレンはもちろんラハティアよりもずっと寒い。

 マーメリアに風呂が多いのは、魔法使いが多くて魔石を確保できるからという事もあるが、何よりもこの環境では身体を温めてくれる風呂が必要不可欠だったのだろう。


「あぁ~……ごくらく~」


 湯船に浸かると身体の芯まで温まるようだ。

 ラハティアではクリフトスさんが一緒だったので寛げなかったが、今は俺一人しか入っていないのでやっと念願の風呂を満喫する事ができた。

 やはり風呂があるのと無いのとでは生活に大きな差がある。これは是非ともドルチェには頑張って貰わねば。


「ドルチェ……頼むぞ~」


「……何を?」


「何をって、風呂を……え?」


 慌てて声がした方を向くと、小首を傾げたドルチェが風呂場に立っていた……全裸で。

 そのまま身体を隠しもせずに近付いてくると、躊躇する事無く湯船へ入ってきた。


「お風呂……一緒」 


「ちょ、ちょっとドルチェ! 脱ぐの早すぎだよッ!」


 ドルチェがスリスリと俺に寄り添ってくるが、俺の視線は風呂場に飛び込んできた巨乳に釘付けになってしまった。

 アイラは流石に恥ずかしいのか手ぬぐいでその大きく実った胸を隠そうとしているが、ほとんどその役割を果たしていない。


「あぅ……。し、シュンの背中を流しに……」


「流すのは……ぼく」


 恥ずかしそうに佇むアイラに見惚れていると、ドルチェが正面に回りこんで視界を塞いできた。

 目の前にはドルチェのまっ平らの胸……これはこれで良い眺めだ。

 それにしても、この2人はここが王宮だという事を忘れているのでは? と心配になってしまう。


「シュンはどっちに洗って貰いたい? もちろんアタシだよね?」


「シュンにぃの身体は……隅々まで把握している。ぼくが……適任」


 左右から押し当てられる柔らかい感触に頭の中が沸騰しそうになっていると、2人が俺の顔を覗き込んでくる。


「「どっち?」」


 どちらを選んでも俺の命は風前の灯かもしれない……。






「シュンってやっぱりエッチだよねッ!」


「2人同時……流石シュンにぃ」


 風呂から上がった俺達はカーラ女王と食事を取る事になっている食堂に向かっているのだが、両腕にしがみ付いている2人のテンションが風呂場からずっとおかしくなりっぱなしだ。

 風呂場でどちらを選ぶか迫られて追い詰められた俺が「両方」と答えると、その瞬間に阿吽の呼吸で襲い掛かってきたドルチェとアイラ……。

 予め相談していたのでは? と言いたくなるくらい見事なコンビネーションだった。

 当然洗うだけでは済まずに、最後は俺の方から2人に襲い掛かったのだが、今となってはそれすらも彼女達に誘導されていた気がする。


 食堂へ入るとすでにカーラ女王以外の全員が席に着いていたので、俺達も急いで空いている席に座った。


「3人共随分ゆっくりだったな」


 ダリアがニヤリと笑いながら声を掛けてくる。おそらく何をしていたかバレバレだ。


「アツアツで最高のお風呂だったよ! ねっ、ドルチェ?」


「お腹の中も……ぽかぽか」


 2人が満面の笑みで答えていると、食堂へ入ってきたカーラ女王が自分の席に着くなり俺の顔を見て一言。


「大物」


 どうやら、メイドから俺がドルチェとアイラと一緒に風呂に入った情報を聞いていたようだ。


「……ちょっと拙かったかな?」


 今更だが王宮であのような行為に及んでしまった事で何かお咎めがあるのではと心配になったので隣のアイラに小声で囁くと、


「大丈夫だからアタシ達もシュンの所に押し掛けたんだよ。これくらいで気を悪くするカーラ様じゃないよ」


 笑いながら答えるが、すぐに真剣な顔になると顔を寄せてくる。


「でも、もしシュンがカーラ様に何か変な事をしたら……たとえカーラ様が許してもアタシとソルが許さないかもね」


 初めて見るアイラの表情に俺はヘビに睨まれたカエルの様に固まってしまった。

 何とか必死にコクコクと頭を縦に振る俺の姿に、いつもの顔に戻ったアイラが笑いながら背中を叩いてくる。


「あはは、アタシがしっかりシュンの事を見張っててあげるから! 覚悟してねッ!」


「最初からその気はないから大丈夫だってば……」


 そんなやり取りをしている俺達をカーラ女王がじっと見つめていた。

 その後も視線を気にしながらの食事だったので、正直味が良く分からなかったのだが、全員が食事を終えたのを確認したカーラ女王が「満足」と呟いているので無事に乗り切ることができたようだ。

 だが、ホッしたのもつかの間、食堂から出て行こうとするカーラ女王を今の今まで不気味なほど大人しく座っていたサーシャが呼び止めた。


「ま、待ってくれ! 聞きたい事があるんだ!」


 ゆっくりと振り返りサーシャの顔をじっと見つめるカーラ女王。

 そしてそれを正面から受け止める真剣な表情のサーシャ。

 突然のできごとに誰も言葉を発する事ができずにいた。

 しばらく無言で見つめ合っていた2人だったが、カーラ女王は一言、


「了承」


 それだけ告げると出て行ってしまった。

 その後をサーシャが慌てて追い掛ける。


「わ、悪りぃ! 先に帰っててくれ!」


 残された俺達は呆然と彼女の後姿を見送っていた。






「本当にどうしたんだろう?」


 王宮からの帰り道、話題はサーシャの事でいっぱいだった。

 顔を見合わせては首を傾げる俺達の姿にシーナがクスクス笑っていた。

 皆からの視線に気付いたシーナが片目を瞑る。


「本当に向上心のお強い方ですね」


 どうやら彼女だけは事情が分かっているようだ。


「心配の必要はありません。それよりも早く家に戻りましょう。身体が冷えたら大変です」


「もう! シーナってば!」


 先を行くシーナにアイラがあれこれ話し掛けているが、のらりくらりとはぐらかされている。


「う~! シーナのイジワル……あれ? 家の前に誰か居る?」


 アイラの声に全員が目を凝らす。確かに家の前に人が……4人程居るようだ。


「すぐに武器を出せるように。警戒を怠るな」


 ダリアの指示に緊張が走る。

 俺とダリアが先頭に立ち慎重に近づいて行くと、後ろを歩いていたシーナが「あっ」と声を上げた。


「シーナ!」


 そのまま駆け出したシーナをダリアが呼び止めるが、こちらの声に気付いた向こうの一人がこちらに向かって同じように走ってくる。

 ダリアと目配せをし、シーナの後を追い掛けるが、俺は近付いてくる人物の姿に唖然としてしまった。


「シーナお姉様!」


「リン!」


 がっちりと抱き合うエルフの姉妹。

 俺に気付いたリンが小悪魔っぽい笑みを向けてきた。


「シュン様! 偶然ですわね!」



読んでくださりありがとうございました。


偶然って怖いですね(棒)

正妻戦争リメイア編が始まりそうな予感。

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