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探索者  作者: 羽帽子
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第96話:「ようこそ、マーメリアへ!」

「またいつでも遊びにきてね~!」


 昨日あんなに酒を飲んでいたにも関わらず、玄関先まで俺達を見送りに来てくれたエリーザさんが元気に手を振っている。

 クリフトスさんは二日酔いでダウン中なのでこの場には居ないのだが、帰りにまた必ず泊まりに来る事を約束させられてしまった。

 またリンの事で絡まれてしまうのは確実なのでげんなりしてしまうが、仮にも領主直々の命令なので諦めるしかないだろう。


 馬車を屋敷に預けて街を歩いていると、美女、美少女が揃った団体なので、やたらと目立ってしまっていた。

 アイラが困った顔をしながら俺の腕にしがみ付いてくると、遠巻きに見ていた男達から殺気に満ちた視線が飛んでくる。

 ギルドの前を通り掛ると、腕を組んで壁に寄り掛かっていたソルがこちらに歩いてきた。


「迷宮は必ず僕が攻略する」


 アイラをひと睨みすると、それだけ告げて足早に去っていった。

 そんなソルの後姿を見送っているアイラが何だかニヤニヤ笑っている。


「ちゃんと『カーラ様の為に』って付け加えてあげないとね!」


 思わず心の中でソルに同情してしまった。


 ラハティアの街に別れを告げて、俺達は今回の目的地リメイアの王都マーメリアへ向けて出発した。

 ちゃんとした街道にはなっているが、所々急坂になっているので、これでは馬車が通れないのも当然だ。

 『祝福の森』の近くを通る時は流石に全員警戒態勢を取っていたが、それ以外では割とリラックスした旅になった。

 探索者が7人も居るので気持ち的にもかなり余裕がある。

 だからなのか、腕こそ組んでこないが、それでもずっとドルチェとアイラが俺にくっついて離れない。

 お互いの近況報告をしながら歩いているが、俺には先程からずっと気になっている事があった。


「サーシャ……さっきから何やってんだ?」


「何って、見りゃ分かんだろ? 『ウォーター』に決まってんじゃねぇか」


 そう、街を出てからずっとサーシャが指先から水を出しまくっているのだ。

 ブツブツと「ウォーター」と呟き続けているので気になって仕方がない。


「それってMP増加の為?」


「ん~、それもあるけど……」


「あれ? でも、サーシャって『火魔法』でしょ? 『ファイア』じゃなくて良いの?」


 『鑑定』でステータスを見たのか、アイラが首を傾げている。


「良いんだよ、『ウォーター』で!」


 ニヤリと不敵に笑うサーシャ。

 何かを察したらしいシーナが感心した顔をしているが、俺にはさっぱりだ。


「とても向上心がお強いのですね」


「ふひひ……、待ってろよ~、『火属性』共め~!」


 何の話なのかやっぱり理解できなかったが、サーシャとシーナが和気藹々としているので、これ以上は触れないようにしておこう。


休憩中、俺の隣に腰を下ろしたアイラと会話をしていると、いつの間にか話題が『専属』の話になっていた。


「えー!? シュンってダーレンの専属になりたいの?」


「うん、ダーレンは俺達のホームグランドみたいなもんだし、それに専属になったら契約料代わりにシェリルを貰い受けようかな? って」


「うー……、専属になったらこうやって他の場所に来れなくなるんだよ!?」


 アイラが頬を膨らませて怒り出してしまった。


「アイラは『シュンに会いに行けなくなるから』って言って、カーラ様直々の『専属』への誘いを断ったんだよ」


 そんな俺達の会話にダリアが笑いながら加わってきた。


「だ、ダリアッ!? それは内緒にって言ったのに!」 


「まぁ、そう怒るな。シュン達が来られないのなら、こっちからダーレンに行けば良いだけだ」


「そんな事言って……、本当はダリアが『愛しの御主人様』に会いたいだけなんでしょ?」


「なっ!?」


 アイラの反撃にたじろぐダリア。どうやら図星だったようだ。


「最近はアイラよりもダリアの方がダーレンに行きたがっていましたからね」


 シーナさんまで笑いを堪えながらそんな事を言ってくる。

 ヘルガはそんな仲間達を相変わらず優しげな瞳で見守っていた。


「ほら! もう休憩は終わりだ!」


 顔を真っ赤にしたダリアが立ち上がるとスタスタと大股で歩いていく。

 そんなダリアを追い掛けようと腰を上げたその時、俺の探知スキルが何かの気配を察知した。


「何か居る! 上だッ!」


 俺の叫びに全員が空を見上げると、大きな影が今まさに俺達に襲い掛かろうとしていた。

 護衛対象であるセリーヌさんの元へと走りながら、アイテムボックスから取り出したナイフを迫り来る影に投げつけると、命中こそしなかったが巨大な鷲のような魔物が空中で急停止した。

 その瞬間、誰かが放ったナイフが魔物の真っ赤な目に見事に突き刺さる。


「ファイアアローッ!」


「ダリア、ナイス! ファイアランス!」


 落下しながらもなおも襲い掛かろうとしてくる魔物に、サーシャの、そしてアイラの魔法が炸裂。

 盛大に燃えながら地面に激突した魔物が、そのまま黒い煙になって消えていった。


「今のは……『人喰い鷲』ですか?」


 流石に顔色は少し青ざめているが、それでも取り乱す事なく魔物が消えた跡を見つめているセリーヌさんの問いにダリアが頷く。


「あぁ、間違いなく『人喰い鷲』だ。『祝福の森』から離れていたので油断してしまった……。すまない」


「いえ、『人喰い鷲』に襲われたのに誰も怪我を負わなかったのですから」


 悔しそうにしているダリアをセリーヌさんが慰めていると、いきなりアイラが俺に抱きついてきた。


「シュンが気付いてくれたお陰だね! 良いなぁ~、アタシも『探知』スキル覚えたい!」


 瞳をキラキラさせながら、しきりに俺からコツを聞き出そうとしている。


「それよりも、あたいはアイラの魔法が気になるぜ! あれって『火魔法』レベル4の魔法だろ!?」


 サーシャまで瞳を輝かせながら興奮しまくっていた。

 そんな中、戦闘に参加できなかったドルチェ、シーナ、ヘルガの3人がドロップアイテムらしき羽をそれぞれ手に持っていた。


「ドルチェ、それって?」


「加工したら……『ペン』になる」


 本来ならギルドに売るところなのだが、ドルチェが加工できるとの事なので結局彼女が預かる事になった。


「あ……、ナイフ拾ってこないと!」


 きょろきょろ辺りを見回しながら投げたナイフを探していると、ダリアが離れた場所にある岩を指差す。


「あの岩場の所に落ちたみたいだ。それにしても、シュンが『投擲』スキルまで持っているとは驚きだな」


「シュンにぃは……まだ持ってない」


 ドルチェの指摘にダリアの瞳が一瞬キラリと光った気がしたのだが、今の俺にはそれよりも貴重なナイフを探す方が重要だったので急いで彼女が教えてくれた場所へと走っていった。

 無事にナイフを見つけてホッとしていると、いつの間にか俺以外の全員が集まって意味ありげに俺の事を見つめている。

 その皆の視線に何故かゾクリと震えが走った。






「到着~! ようこそ、マーメリアへ! ここがリメイアの王都だよッ!」


 門でのチェックを済ませて街の中へ足を踏み入れると、アイラが両手を広げて嬉しそうにくるくる回っている。

 そんなアイラに街の人達が次から次へと声を掛けていた。

 だが、声を掛けてくるのは全員女性で、男性は遠巻きに羨ましそうに眺めているだけだ。


「アイラは人気者だからな。それに男が苦手な事も知れ渡っているから、最初の頃とは違って無理やり近付いてくる男もかなり減ったよ」


「それでも、初めてアイラに会った時は大変でした。彼女を巡って本当に決闘が行われそうになっていましたから……」


 当時を思い出したのか、ダリアとシーナが何だか遠い目をしている。

 それにしてもアイラの人気っぷりは凄まじいものがある。

 もしかしたら、こんな所にも神様のアイラに対する『おまけ』が作用しているのでは? と疑ってしまう。


「シュン! 早くカーラ様の所に行こうよ!」


 そういってアイラが俺の腕に抱きつくと、それまでアイラの周りに居た女性陣から黄色い悲鳴が上がった。

 男性陣は雷にでも打たれたかのように目を見開いて固まっている。

 そんな街の住人に見せ付けるようにアイラが俺の頬にキスすると、門の周辺がちょっとしたパニックになってしまった。


「これで、この街でシュンに近付く女の子の心配はいらなくなったよね!」


「……とどめ」


 満面の笑みを浮かべているアイラに対抗したのか、ドルチェが俺をしゃがませると濃厚なキスをしてきた。


「シュン、お前……刺されるぞ?」


 溜息交じりのサーシャの意見に俺も同感だった。



読んでくださりありがとうございました。


クリスマスにこんな話を書いててちょっと泣きたくなった……。

シュン、爆ぜろ!


次話の投稿は1月4日(土)午前6時になります。

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