第08話:「一緒に魔法の国に行かない?」
「『アイテムボックス』と念じてみるんじゃ」
いきなり飛び出した神様の言葉に、半ば反射的に『アイテムボックス』と念じてみる。
すると目の前にいきなり箱の様な物が浮かび出してきた。
「わ!? ビックリした~!」
アイラの声にそちらを向いてみるとびっくりした顔のアイラ。
正面の何かを見ているようだが俺の方からは何も見えなかった。
「アイラ、今アイテムボックス出してる? 俺も今出してるんだけど」
「あ、うん、出してるよ? シュンのが見えないって事は出した本人にしか見えないのかな? 便利だね♪」
俺の言葉に嬉しそうにアイテムボックスの中を覗き込んでるアイラ。
俺の方からだと正面を向いてキョロキョロしてるようにしか見えないのでちょっと見ていて面白い。
「うむ、ちゃんとアイテムボックスを出したようじゃな? それじゃ、アイテムボックスの一番左上に所持金を入れる場所があると思うんじゃが確認してみてくれんか?」
「うんと……これかな? 銀貨100って表示されてる」
神様の言う通りに確認してみると、中には銀貨が入ってるみたいだった。
するといきなりアイラの方からチャリンという音が聞こえてきた。
「うわ……。試しに『銀貨10枚』って念じてみたら、本当に銀貨が出てきた!?」
取りこぼしたのかアイラの周辺に数枚の銀貨が転がっている。
一緒に銀貨を拾ってあげながら、俺はちょっと感心してしまった。
「アイラは適応能力が高いね」
俺がそう言って褒めると、ちょっと照れくさそうに頬を赤らめていた。
俺も銀貨を出してみようと思ってアイテムボックスを覗くと他にもアイテムが入ってるみたいだ。
良く見てみると『銅の剣1』と表示されていたので『銅の剣1本!』と念じてみる。
「お、剣が出てきた!」
俺は右手の剣を見てテンションが上がっている。
剣なんて手に持つのは生まれて初めてだ。
アイラの様子を見てアイテムは右手に現れるのでは? と予測していたので、取り落とさずにちゃんと掴めた事に満足。
そんな俺を見ていたアイラが何かを期待する顔付きでアイテムボックスを覗き込み……次の瞬間、アイラは木の杖らしき物を掴んでいた。
「うむうむ、どうやら武器もちゃんと確認できたみたいじゃな?」
「とりあえず、それがアイテムボックスじゃ。アイテムボックスはあの世界に生まれた者なら誰でも持っておる便利スキルで、レベルが上がる毎に入れられる種類が増える優れものじゃ!」
自慢気な神様。
確かに便利そうなのでお礼を言っておく。
お金と武器も大感謝だ。
右手の剣を振り回したかったがそれは神様に止められた。
向こうに行ってからのお楽しみに取っておけとのアドバイス。
仕方ないのでアイテムボックスに戻しておく。
「さて、それじゃそろそろ二人をあっちの世界に送るとするかのぅ」
心なしか寂しそうな声の神様。
短い間だったけど別れるのは俺も寂しいかった。
アイラはすでに涙目だ。
「では、どの街に送るかのぅ。あの世界は三つの国に分かれておるんじゃが、戦士の国、魔法の国。職人の国……どれがお好みじゃ? それぞれの王都の近くに送ってやるぞい?」
そう言いながら泉に近づく神様。杖を一振りすると水面にいろんな街が映りだした。
「戦士の国はたくさんの探索者がいて賑やかな国じゃ、迷宮の数も一番多いのぅ。魔法の国は魔法の研究が盛んで、数が少ない魔法使いはかなり厚遇してもらえるじゃろう。職人の国は探索者として上を目指すなら一度は訪れる国じゃ、あそこでしかお目に掛かれない武具なども豊富なのでな」
神様の説明を聞いて顔を見合わせて考え込む俺とアイラ。
でも、アイラは魔法スキルを取ったんだからもう行き先は決まってるんじゃないのかな?
問題は俺だな。
普通に考えたら戦士の国なんだろうけど、先を見据えたら今の内から職人達との繋がりを持っておくのが得策かもしれない。
うんうん唸りながら悩んでいるとアイラが話しかけてきた。
「ね、ねぇ……、もし行く所が決まってないなら……一緒に魔法の国に行かない?」
上目遣いでそんなことを言ってくる。
突然のアイラのお誘いに胸がドキッとしてしまった。
思わず真剣に彼女の顔を見つめてしまうと、恥ずかしそうに視線を逸らすアイラ。
神様はニヤニヤしながら無言で俺達を見守っている。
確かにいきなりの異世界だ、期待も大きいがやはり不安もある。
慣れるまで一緒に頑張ってみるのも一つの手かもしれない。
「セーブ出来たらこんなに悩まなくて済むのに!」と思わず頭を抱えてしまった。
アイラみたいな飛び切りの美少女と一緒の冒険なんて、この機会を逃したら二度と出来ないかもしれない。
新しい世界での新しい出会いもあるだろうがそれと比べても魅力的だ。
だが、ここでアイラの言葉に甘えてしまったら、恐らく俺はアイラに頼りっきりでろくに成長もできないだろう。
大してあっちの世界の役に立てず神様を失望させてしまうかもしれない。
黙って考え込んでしまった俺を心細そうに見つめているアイラには申し訳ないが、やはり俺は俺だけの道を進むべきだろう。
後ろ髪を引かれる思いだが何とか決心をして彼女の肩に手を置く。
正面からしっかりと見つめると頬が赤くなったが今度は目を逸らさずにしっかりと見つめて返してくる。
「アイラ、俺は職人の街に行くよ。確かに同じ世界出身の俺達が一緒にいれば安心感もあるだろうし、お互いいろんな悩みも相談し合えると思う。でも、俺達に必要なのは向こうの世界での新しい出会いなんだと思うんだ」
アイラはそんな俺の言葉を真剣に聞いてくれていた。
伝えたいことがちゃんと心に届いたのか、アイラがゆっくりと頷く。
「うん、そうだよね。一緒に行っちゃったらなんか一生シュンに頼っちゃいそうだしね……」
頼ってしまうのは俺の方だろうなぁと思ったがアイラもそれだけ不安なのだろう。
でも、その瞳にはしっかりとした強い意志が見受けられたので一安心だ。
「あ、でも……、時々はあっちでも会っていろいろお話がしたいな♪ 近況報告とか愚痴の言い合いとかしたいしね!」
「もちろんだよ。向こうでもよろしく!」
茶目っ気たっぷりに再会を約束してくるアイラに俺もすぐさま応える。
このままアイラの瞳を見ていたら吸い込まれてしまいそうな気がしたので、誤魔化すように神様に視線を移して宣言する。
「神様、俺は職人の街に行くよ。あの世界に送って欲しい」
「アタシは魔法の国に送ってね!」
俺とアイラの決意に目を細めて満足そうな神様。
「うむ、気をつけて頑張るんじゃぞ? くれぐれも無理はせんようにな? シュン、それにアイラ……本当にありがとう。では、シュン、アイラの順番に送るとしようかのぅ。シュンよ、そのまま泉に飛び込めば大丈夫じゃ」
初めて神様に名前を呼ばれたことにびっくりしたけどそれ以上に嬉しかった。
「寂しくなるけど向こうに行ったら頑張るよ。神様、いろんな力を与えてくれて……この世界に呼んでくれてありがとう! アイラ、向こうでまた会おうね!」
神様がうんうんと頷きアイラが手を振ってくれた。
俺も神様とアイラに手を振り、えいっと軽くジャンプして泉に飛び込んだ。
こうして、俺の新しい異世界での人生がスタートした。
読んでくださりありがとうございました。