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探索者  作者: 羽帽子
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第87話:「き~のこ……きのこ~♪」

「……さてと、それじゃ15階層の探索を開始しようか。この後ギルドでの用事があるから今日はこの階層までだね」


 準備万端になったのを確認すると扉を開けて部屋から出る事にした。

 実は14階層の時から少し我慢していた小便も済ませたのだが、その時にドルチェがわざと俺から見える位置に移動して丸く白いお尻をこちらに向けながら用を足していたので、俺のアレが大きくなってしまい、かなり苦労するはめになってしまった。

 そのドルチェは俺のズボンの前が膨らんでいるのを確認してとても満足げだ。

 サーシャはまだ俺が居る場所でするのが恥ずかしかったのか、顔を若干俯かせて俺と視線を合わせないようにしている。

 ドルチェも最初の頃は今のサーシャと同じように少しは恥じらいを持っていたのにと思わず遠い目になっていると、少し離れた場所から魔物の気配を感じ取ったので、すぐに気持ちを引き締めて盾を構えて慎重に先へと進む。

 魔物の姿が見えてきたところで『鑑定』で調べると、どうやら『マジカルマッシュ』と言う名前らしい。


「えっと、火魔法を使ってくる……キノコ? で良いのかな?」


 バスケットボール大のきのこがピョンピョン飛び跳ねながら移動しているのが何とも可愛らしいが、魔法スキルを持っているので油断は禁物だ。

 まだこちらの存在に気付いていない様子なので、背後からこっそり近付いてナイフを投げると、ポテッと地面に倒れるがすぐに立ち上がってこちらに視線を向けてきた。

 可愛らしい動きをしていてもその憎悪に満ち溢れている真っ赤な瞳を見ると、魔物なのだと改めて実感する。


「避けろッ!」


 口をパカッと開けたかと思うとファイアボールが飛び出してきたので紙一重でかわす。

 後ろの2人も俺の声に反応して左右に跳んだので大丈夫だったみたいだ。

 魔法を放った直後の隙だらけのマジカルマッシュを斬りつけると身体が軽いのか壁まで吹っ飛んでいった。

 壁に激突して落ちてきたところをドルチェが止めを刺すと煙となって消えていく。

 どうやらHPはかなり低いようだ。


「……キノコ!」


 ドロップアイテムを拾ったドルチェが満面の笑顔で駆け寄ってくる。


「き~のこ……きのこ~♪」


 歌らしき物を口ずさみながら自分のアイテムボックスに入れているので、売らずにエミリーに引き渡される事に決定なのだろう。


「へぇ~、ドルチェってキノコが好きなのか? あたいは食感がちょっと苦手なんだよなぁ」


 サーシャは苦手みたいなので、ビッグフロッグの時の様な大虐殺にはならずに済みそうだ。

 それでもドルチェの為にかなりの数を倒す事になるのは覚悟しないといけないので周囲の気配を探ると、2匹固まっている魔物の傍にほんの僅かだが『属性トカゲ』の気配を感じた。


「属性トカゲがいる。……流石レベル2だな、これだけ離れてても感じ取れた」


「え? レベル2?」


 サーシャがきょとんとした顔を向けてくる。


「あ、ごめん。ドルチェには言ったんだけど、サーシャにはまだだった。昨日の夜にドルチェと話し合って探知スキルを上げたんだよ」


 来るべきリメイアへの護衛任務をより安全にこなす為に探知スキルを2に上げていたのだが、サーシャに話すのをすっかり忘れていた。

 スキル関連の事はちゃんとPTメンバーに報告する約束だったので完全に俺のミスだ。

 誰がどのスキルを取得していてレベルがどれくらいなのかを把握するのは探索する上では必須事項なので、余程の事情がない限りは『共闘』する場合も正直に申告するのが探索者の間では暗黙の了解になっている。


「まぁ、新スキルとかじゃねぇから許してやるぜ! それよりも属性トカゲがいるのか!?」


「ここからちょっと離れた場所に魔物が2匹いるんだけど、その近くに居るみたい」


 マジカルマッシュを2匹同時に相手にするのは可能だが、問題は戦っている間に属性トカゲが逃げてしまわないかどうかだ。


「ファイアウォールで……足止め」


 ドルチェが言うには属性トカゲが逃げる方向にファイアウォールを出現させて足止めをしている間にマジカルマッシュをさくっと倒し、すぐに属性トカゲの相手をするといった作戦なのだが、正直難易度が高すぎて失敗しそうだ。

 あの見事と言うしかない逃げ足の早さに果たしてサーシャの魔法が間に合うか……。


「気付かれていない状況からの先制攻撃ならなんとかなるけど、流石に逃げているアレを魔法で捕らえるのは無理じゃないかな?」


 ドルチェの無茶振りにサーシャがちょっと涙目になりながらもウンウン唸りながら真剣に考え込んでいる。


「あー……。自信はねぇけど、出入り口をファイアウォールで塞いで奥に逃げられねぇようにするのは可能……かも?」


「属性トカゲも一応魔法スキルを持ってるんだよな……。ヘタをすると3方向から魔法攻撃が飛んでくる可能性があるな」


「わざと逃がして……後で倒す?」


 彼女達の身の安全の為にもその方が良さそうだ。

 ここで無理をして誰かが怪我をしてしまっては後悔してもしきれない。

 ましてやそれで命を落とす事になってしまったら……。

 ドルチェの言葉に頷いて2人に方針を伝える。


「一応気配を逃がさないように注意はしておくけど、まずはマジカルマッシュを確実に倒す事に集中しよう。属性トカゲはまだ気配を感じ取れるようだったら改めてって感じだね」


 マジカルマッシュを無視して先に属性トカゲを相手にするのは危険があり過ぎるので、最初からその考えは捨てている。

 魔石は魅力だが仲間の方がずっと大切だ。

 考えがまとまったところで慎重に2匹のマジカルマッシュと属性トカゲが居る場所へと向かった。






「ハッ!」


 俺の剣による一閃が『土トカゲ』の身体を両断した。

 あの後、属性トカゲの気配を見失わないようにしながらもマジカルマッシュに集中するという難易度の高い戦いをこなしたのだが、スキルのレベルを上げたのが功を奏したのか辛うじて属性トカゲの気配の尻尾を捕らえ続ける事に成功した。

 「気配の尻尾切りをされなくて良かったよ。トカゲだけに!」と笑いながら冗談を言ったら2人に冷たい視線を向けられて凹んだのは内緒だ。

 その時のマジックマッシュとの戦いで判明したのだが、どうやら出てくるマジカルマッシュにはそれぞれ属性があるらしく、いきなりサンドボールやウォーターボールが飛んできたのには驚いた。

 一度最初に遭遇したマジカルマッシュに『鑑定』をしたのでつい確認を怠ってしまったのだが、これからは毎回ちゃんと『鑑定』する癖を付けようと心に誓った。


「コレはギルドに売っちゃっても大丈夫かな?」


「……売って良い。鍛冶で使うのは……もっと良い素材が手に入ったら」


 手のひらに乗せた『土魔石』をドルチェに見せてどうするか確認を取る。

 属性付きの装備用に取っておくことも考えたが、今現在手に入る素材の装備に組み込むのは勿体無さ過ぎるらしく、もっと深い階層に潜れるようになって鉄などの素材を手に入れてからでも遅くは無いとの事なので、『鉄』が手に入ったらその時はドルチェに火魔石を使用した『火炎剣』を作って貰うとしよう。

 先日手に入れた『土魔石』はトイレの魔具用にドルチェが保管してあるので、2個目は街の人に使って貰う為に売る事にした。

 もしかしたらこの『土魔石』が無くてトイレが使えずに困っている家があるかもしれない。

 連日の魔石ゲットに全員の顔が何だかにやけてしまっていた。

 順調に探索が進み、ボス部屋に到着する頃にはドルチェのレベルが上がったので、ついに俺とレベルが同じになった。

 俺とドルチェが33でサーシャが31。

 レベルとスキルだけ見るとかなりのベテラン探索者なのだが、中身はまだまだなのでもっと数値に現れない部分のレベルを上げていきたいものだ。


「それじゃ、突撃するよ。多分きのこの親玉だと思うけど油断しないように」


「キノコ……じゅるり」


「よし! まずは焼こう!」


 ドルチェは食べる気満々、サーシャは焼く気満々だ。

 部屋に入り扉が閉じると中央に大きなきのこのお化けが現れた。


「『ジャイアントマッシュ』か。……増殖??」


 見慣れないスキルに首を傾げていると、すぐにその答えが分かった。


「ちょ、こいつキノコ産んでるぞ!?」


 サーシャの言葉通り、ジャイアントマッシュの身体から先ほどまで戦っていたマジカルマッシュが産み出されている。


「やばい! 手遅れになる前に本体を叩くぞ!」


 このまま放っておけば部屋中がマジカルマッシュだらけになってしまう。

 そうなれば逃げ場が無い俺達は魔法の集中攻撃を喰らって全員お陀仏だ。


「ファイアボールッ!」


「……粉砕」


 攻撃を喰らってもお構い無しにマジカルマッシュを量産していくジャイアントマッシュに焦りそうになるが、こういう時こそ冷静になるのが肝心だ。


「本体は攻撃してこないみたいだからそっちはサーシャに任せて、俺とドルチェはマジカルマッシュだ!」


「おう! 焼き尽くしてやるぜ!」


 幸いマジカルマッシュのHPは低い為、魔法を連発される前に倒す事は十分可能だ。

 問題は倒すスピードと産み出されるスピードのどちらが早いかだが、体感的には10秒に1匹ずつ産み出されているようなので、魔法にさえ気を付ければ何とかなるかもしれない。

 こういう時に4人目が居てくれたらと思ってしまうが、今そんな事を愚痴っても始まらないので、黙って産まれたばかりのマジカルマッシュに剣を振り下ろしていく。

 もう10分近くひたすらマジカルマッシュを倒していたのだが、ようやくそれも終わりの時がやってきた。


「よっしゃ! キノコの丸焼きのできあがりだぜ!」


 そのサーシャの声に振り返ると、ジャイアントマッシュが地面に倒れて燃え上がっている。

 部屋中にキノコが焼ける良い匂いが充満しているので、さっきから腹の虫が鳴りっぱなしだ。

 キノコ好きのドルチェなどは途中から涎を垂らしながら戦っていた。

 匂いだけ残してジャイアントマッシュが黒い煙になって消えていくと、ドルチェがこの世の終わりのような顔で消えた跡を見つめているので、思わずサーシャと顔を見合わせて爆笑してしまった。


「お……おおおおおおおおおお!」


 ひざまついていきなり大声を上げたドルチェにびっくりして駆け寄ると、プルプル震えているドルチェがジャイアントマッシュのドロップアイテムらしき物を手にしていた。

 その手に中にある物を見て俺は自分の目を疑った。


「マツタケ?」


 『鑑定』してみたが間違いなく『マツタケ』と表示されている。

 まさかこんな異世界でマツタケを目にする事になるとは……。


「……幸せ」


 俺達が倒しまくったマジカルマッシュのドロップアイテム『キノコ』に囲まれたドルチェがうっとりと蕩けきった顔でマツタケに頬ずりしていた。



読んでくださりありがとうございました。

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