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探索者  作者: 羽帽子
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第86話:「……全部任せる」

 サーシャにはたかれた頭を撫でていると、扉が開いて中から真っ赤になった顔を隠すように俯いているリンが出てきた。


「……さ、先ほどは恥ずかしい姿をお見せしてしまい、まことに申し訳ございませんでした」


「いや、こっちこそウチのドルチェが変な事を言ったばっかりに……」


 リンが消え入りそうな声で謝ってくるが、元はといえばドルチェが煽った事が原因でもあるので、こちらもドルチェと一緒に頭を下げる。


 サーシャはそんな俺達を呆れた顔で見ていた。


「ったく……、揃いも揃って探索中にイチャイチャと! やるなら宿屋に戻ってからにしろよな!」


「戻ってからなら……良い?」


「ハァ……、さっさと探索をしようよぅ……」


 ニヤリと意地悪そうに茶々を入れるドルチェには何を言っても無駄だと判断したのか、サーシャがガックリと肩を落とすと溜息を吐きながらとぼとぼ歩いて行くので慌てて追い掛ける。

 俺には強気全開のサーシャも相変わらずドルチェには弱いようだ。


「あ、あの、わたくし達はあちらを探索しようと思います……」


 俺に顔を見られるのが相当恥ずかしいのか、顔を伏せたままのリンが俺達が進むのとは逆側の通路を指差している。


「大丈夫? なんならこの階層も『共闘』する?」


 『共闘』は前の階層だけの約束だったのでここで別れても問題ないのだが、今のリンがまともに探索をできるのか心配なので誘ってみると、もの凄い勢いで首を横に振って断られてしまった。

 太ももを肘で突いてくるドルチェも無言で首を振っているので、今は時間を置いた方が良いのかもしれない。


「それじゃ、気を付けてね? 帰ったら今夜は一緒にご飯を食べよう」


「はい、その頃までには気持ちも落ち着くと思いますので……」


 ようやく顔を上げてくれたリンがぎこちないながらも笑顔を向けてお辞儀をすると、護衛メイド達に囲まれながら反対方向へと歩いて行った。

 その後姿を見送っているとドルチェが俺のズボンを引っ張りながら見上げてくる。


「ねぇ、シュンにぃ……。昨日は……大丈夫だった?」


「昨日?」


「昨日の探索での……おしっこ」


「んー、昨日は俺が真っ先に用を足したいって言って時間を作って貰ったから大して問題は無かったよ。でも、今日は俺よりもリンの方が先に限界がきちゃったから言い出せなかったんだろうね」


 今思い返してみると、昨日の探索の時にはリン達は休憩中にもあまり水を飲んでいないようだったが、今日のリンはドルチェに対抗して俺が注いだ水をかなり飲んでいたのであの結果になってしまったみたいだ。

 女性だけならリンもすぐに言い出せたのだろうが、男の俺が一緒に居たのでつい我慢してしまったのだろう。

 今更ながらに女性との探索の難しさを痛感した。


「ぼくはシュンにぃになら……見られても平気」


「あ、あたいの方は絶対に見るなよ!」


 俺達3人での探索の時は俺が部屋から出て用を足そうとすると、ドルチェに「1人になるのは……危険」と言って止められるので壁に向かってしている間にドルチェ達も済ませているのだが、毎回のようにドルチェは自分がするのを俺に見せようとしてくる。

 夜のエッチの時も俺の顔の上に跨るのが好きみたいなので、見られると感じるタイプなのかもしれない。

 エミリーは俺に奉仕するのが好きなだけなのでそれ程問題はないのだが、家を借りたらドルチェが今以上に暴走をするのは目に見えているので、特殊なプレイに引きずり込まれないか今から不安でいっぱいだ。


「見ないから安心して……。それより探索を始めるよ。人数が減ってるから油断しないように」


 別ルートのリン達の事もまだ少し心配だったが、気を取り直して3人での探索を開始した。






「何だか最近、家で『ウォーター』ばかり使ってるような気がするぜ」


 例のサーシャの作戦で魔炎兎を瞬殺すると水浸しの地面を眺めながらサーシャがしんみりと呟く。

 3人分の桶を満たすほどの水を確保する為に一体何回『ウォーター』を唱えたのか、未だに5、6回が限度の俺には想像もつかない。


「まぁ、良い訓練になるから明日も用意してくるぜ!」


 何か目標でもあるのか、瞳に炎が見えそうなくらい気合が入っているようだ。


「少し休憩してMPを回復したら14階層も突破しちゃおう」


 14階層のキラーワスプ、ポイズンワスプはサーシャの魔法が頼りなので、彼女のMPの回復をしっかりしておかないと命取りになる。

 真っ直ぐボス部屋に直行したので、リン達より先に14階層へと進んだのは確かだが彼女達が来るまで待つつもりはない。

 リンのPTには水魔法の使い手は居ないので魔炎兎には手こずりそうだが、事前に注意点は伝えてあるので苦戦する事はあってもハイリザードマンを倒したPTなのできっと大丈夫だろう。


「ちょっとキラーワスプ相手に投げナイフの練習をしてからボスに挑みたいんだけど良いかな?」


 前回毒を喰らって大変な目にあったので今日はそのリベンジだ。


「外してもあたいが仕留めるから安心して投げて良いぜ!」


「あ……忘れてた」


 俺に向かってサムズアップをしているサーシャの隣ではポンと手を叩いたドルチェがアイテムボックスからナイフを2本取り出して俺に渡してきた。


「……昨日作った分」


 ハイリザードマンの皮で作った靴は昨日受け取っていたのだが、どうやらナイフの事は今の今まですっかり忘れていたそうだ。


「ありがと。4本になったからかなり気分的にも余裕ができたよ」


 頭を撫でながらお礼を言うと目を細めて嬉しそうにしている。

 俺に撫でられるのが苦手らしいサーシャが何とも微妙な顔をして見ているが、ドルチェもエミリーも俺がこうして撫でると凄く幸せそうな顔をしてくれるのでついつい手が出てしまう。


 何匹かキラーワスプを倒したところでボス部屋に突入する事にした。

 ナイフもかなり狙った場所に飛ぶようになってきたので前回よりも苦戦する事はないはずだ。

 最初から剣を鞘に戻しナイフを右手に持ってボス部屋に入ると、小走りに数歩進んだところですぐに盾を構えて防御の体勢になり、ポイズンワスプが現れるのを待つ。


「いくぜ! ファイアボールッ!」


 サーシャによる先制の魔法攻撃はギリギリのところでポイズンワスプにかわされたが、それは事前に3人で立てた作戦通りなので問題ない。

 前回戦った時、攻撃をかわした時にほんの一瞬だがこちらの位置を確認する為に止まる事にドルチェが気付いたので、今回はそこを狙う事になっている。

 こちらを攻撃する瞬間と攻撃した直後にも隙ができるのだが、そこを狙うのはかなりのハイリスクを覚悟しなければいけないので、それは最終手段に取っておく事にした。


「ハッ!」


 サーシャの魔法をかわした瞬間を狙い済ました俺のナイフがポイズンワスプに襲い掛かる。

 片方の羽を貫かれ体勢を崩したところに2投目のナイフで追撃。

 今度は羽を掠めただけだったが、この2投目は囮……ただの時間稼ぎだ。


「ファイアアローッ!」


 魔力がしっかりと高められていない魔法なので威力はかなり落ちているが、それでも羽を片方ナイフで貫かれているポイズンワスプに直撃すると、炎に包まれながら落下してきた。


「……粉砕」


 落ちてきたポイズンワスプにドルチェが止めの一撃を叩き込むと、前回の苦戦は何だったのだろうか? と言いたくなるくらいあっさりと難敵を倒す事に成功した。


「シュンにぃ……投擲スキルは?」


 ドルチェが何かを期待する眼差しを向けてくるが、ステータスを確認した俺が「まだみたい」と告げると、自分の事のようにがっかりしている。


「盾スキルも結構時間掛かったからね」


 15階層へと進み、ドロップアイテムの『ワスプの体液』をドルチェから受け取ると、今度はサーシャが期待の眼差しを向けてきた。


「コレは明後日の休日の時に使おうか。サーシャもダーレンに来るだろ?」


「おう! またシェリルに会いたいからな!」


 そう言って嬉しそうに顔を輝かせていたが、不意にドルチェを見て何ともいえない顔をしているので、もしかしたら前回泊まった時の事を思い出しているのかもしれない。

 当のドルチェはニヤリと楽しみで仕方ないといった表情を浮かべていた。


「リメイアへの護衛任務がいつからになるか分からないから、もしかしたら休日が無くなる可能性もあるけどね」


「今日受けるって返事するんだっけか? ちゃんと詳しい事聞いて来いよな?」


「ぼくも……付いて行きたいのに」


 今回の依頼の細かい内容はドルチェにも話す事ができないので、ギルドには1人で行くつもりなのだが、ドルチェの視線が痛い。

 俺が『専属』になるという事はドルチェやサーシャも『専属』になるのと同じなので、正直彼女達には話しても良いのでは? と思うのだが、どうやら『専属』としての資質を確認したいのはPTのリーダーである俺だけらしい。

 おそらくだが『専属』になった後も何か重要な話はリーダーだけにしか伝わらないようにしなければいけない決まりでもあるのかもしれない。


「ごめんね、ドルチェ。でも、この事は俺に任せて欲しいな」


 普段は皆に頼りっぱなしだが、こういう時ぐらいはリーダーとしての責務をしっかりとこなさなければいけない。

 真剣な顔でドルチェを見つめると、俺の顔をじっと見つめ返していたドルチェが、滅多に見せない慈愛に満ちた笑顔を俺に向けてきた。


「シュンにぃに……全部任せる」


「ドルチェ、ありがとう」


 ドルチェの事だから俺が隠し事をしているのは先刻承知なのだろう。

 それなのに俺に全てを任せてどこまでも付いて来てくれる。

 そのドルチェの気持ちに思わず涙ぐんでしまった。


「あ、あたいだって!」


「サーシャもありがとな」


 思わずクシャッと頭を撫でると「やめろ~!」と喚きながらもその瞳は何だか少し嬉しそうだった。



読んでくださりありがとうございました。

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