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探索者  作者: 羽帽子
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第82話:「夢みたいですわ!」

『ドラゴン』


 俺が今まで読んできた小説などではお馴染みの、それこそ物語の『英雄』や『勇者』が相手にするようなバケモノだ。

 まさかそんなのと戦うはめになるとは……。

 想像するだけでも鳥肌が立ってしまう。

 だが、今までに迷宮の攻略に成功したPTが存在する事も確かだ。

 つまり、たった4人でも『ドラゴン』を倒す事は不可能ではない。


「リンは迷宮から溢れ出してきた魔物達の討伐には参加した事はある? ドラゴンの大きさとか知りたいんだけど」


「討伐に参加した事はあるのですが……」


 リンの話によると、確かに期間内に攻略できない場合は迷宮から中に居た魔物達が溢れ出してくるのだが、何故か大ボスのドラゴンだけは出てこないのだそうだ。


「ですので、迷宮とは『ドラゴンの巣なのでは?』といった説もあるみたいですわ」

 

 もしかしたら、ドラゴンが起きている時期が迷宮の活動期で、寝ている時期が休眠期なのかもしれないとの事。


「その事についてはわたくしも半信半疑なのですが、『英雄』の皆様からの情報や昔の文献を調べていくうちに、その迷宮の『ドラゴン』がどの属性なのかは、出てくる魔物達の属性からある程度予測する事が十分可能なのだそうです」


 どうやら、どの迷宮も大ボスが『ドラゴン』なのは確定なのだが、それぞれ属性が違うらしい。


「ん~……、俺が知ってる範囲だと、今のところ『火』と『毒』の魔物が多い印象かな?」


 俺の言葉にリンが真剣な表情で考え込んでいる。


「確かに他の迷宮に比べて毒を持つ魔物が多い気がします。普通は10階層以降に出てくるような魔物なのですが……」


 リンの目から見てもこの迷宮はどこか変わっているらしい。

 去年出現したばかりのこの世界で一番新しい迷宮という事も、もしかしたら関係しているのかもしれない。


「ですが、今まで『毒』属性のドラゴンは一度も目撃されておりませんので、『火』属性の『ファイアドラゴン』の可能性が高いと思いますわ」


 『ファイアドラゴン』と聞いてサーシャが苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 それでも、俺と目が合うと持ち前の負けん気からかニヤリと笑った。


「まだ修行の段階だけど……、あたいに任せておけ!」






 十分に休憩が取れたので7階層の探索を開始した。

 7階層の魔樹にはサーシャの火魔法がよく効くので戦闘が楽で助かる。


「魔樹って土属性? 火が弱点みたいだから風属性のような気もするけど」


「土属性ですので風魔法が弱点なのですが、火も有効ですわ」


 魔物を探知して場所を教えるとサーシャがファイアボール一撃で倒してしまうので、何だかちょっと物足りない。

 それでも投げナイフの特訓をするのに適している魔物なので積極的に狙ってみる。


「あ、あの……。わたくしも攻撃してもよろしいですか?」


 リンがおずおずと遠慮がちに聞いてきたので「もちろん」と答えると、嬉しそうにニコニコしながら杖をアイテムボックスにしまい、代わりにあの凶悪なムチを取り出した。


「シュン様の前では我慢しようと思っていたのですが……」


 俺の目が無いボス戦では使っていたのかもしれないが、きっとそれだけでは物足りなかったのだろう。

 恥ずかしそうにもじもじしているが、瞳がキラキラ輝いている。

 近くに魔物の気配がするだが、正直教える事に躊躇してしまった。

 精度は『探知』スキルには劣るが、風魔法を使って独自の『探知』ができるらしい護衛メイドのイリスが何やら達観したような瞳で俺の事を見ている。

 彼女達にとっても可愛い「お嬢様」がムチをブンブン振るうのは本当は見たくないのだろう。

 それでも「お嬢様の願いを叶えてください」と、目でしきりに訴えてくる。

 ちなみに護衛メイドの3人だが、それぞれ火魔法の『メイ』、風魔法の『イリス』、土魔法の『ドーラ』という名前だ。


「えっと、あっちに1匹いるけど無理はしないようにね?」


「はい!」


 今までの俺の人生の中で聞いた中でも5本の指に入りそうなくらい良い返事だ。

 俺を追い越そうとするリンを宥めつつ先へと進むと一匹の魔樹がゆっくり歩いていた。


「俺が引き付けるからリンは隙をみて攻撃して」


 それだけ告げると魔樹の前に躍り出て盾を構える。

 俺に気付いた魔樹が腕らしき木の枝で攻撃してくるが、昨日戦ったハイリザードマンやポイズンワスプに比べたら可愛いものだ。

 盾であしらいながらリン達の様子を窺うと、瞳を爛々とさせたリンがムチを大きく振りかぶっていた。


『ズシャッ!』


 ムチが発したとは到底思えない凄まじい音を響かせてリンの攻撃が炸裂する。


「うふふ……。うふふふ……」


 リンがムチを振るう毎に魔樹の表皮が切り裂かれ、剥がれ落ちていく。

 真っ赤な目をリンへと向けた魔樹が彼女の方に向かっていこうとするが、ムチの勢いに押されたのかその歩みが完全に止まっている。

 結局、近付く事すらできずに倒れ、消滅していった。

 少し引き攣った顔でドロップアイテムの『木の板』を渡すと、リンが上気した顔で俺の事を見上げてくる。

 清楚な中にも妖艶な雰囲気を漂わせたリンの姿に思わずゴクリと唾を飲んだ。


「はしたない姿をお見せしてしまって……」


 恥ずかしそうに潤んだ瞳を向けてくるが、まだ興奮が冷めていないのかチロッと桜色の唇を舐めている。

 その姿に理性が吹き飛びそうになるが、不意にある魔物が持つ独特の気配を感じ取った。


「ど、どうかなさいましたか?」


 急に様子が変わった俺にリンが驚いている。

 彼女の唇に指を当てて黙らせると、全員を目で呼ぶ。

 サーシャだけは何かを察したのか杖をギュッと握り締めて臨戦態勢だ。


「俺の背後にある通路のちょっと先の壁から『属性トカゲ』の気配がする」


 小声で囁くとリン達が緊張した顔を向けてきたので、素早く作戦を伝える。

 リン達はまだ一度も倒した経験がないと言っていたので、サーシャと護衛メイド3人による魔法×4攻撃を試してみる事にした。


「ほんの僅かですが、空気の揺らぎを感じました。コレが属性トカゲの気配なのですね」


 俺とイリスとで正確な場所を教えると、全員で目を凝らして通路を覗いているが暗くてよく見えないらしいので狙いを付けるのが大変そうだ。

 場所が分かっている俺が見ても色が壁と殆ど同じなのか見分ける事ができない。

 かろうじて『鑑定』はできたのだが、どうやら『土トカゲ』みたいだ。

 この分だと4人がかりとはいえ命中させるのは至難の業だろう。

 念の為に今回も攻撃と同時に俺も飛び出した方が良さそうだ。

 近くに他の魔物が居ないのを確認して目で合図を出すと、呼吸を揃えた4人が一斉に魔法を放った。


「ファイアアローッ!」


「ファイアボール! です!」


「……サンドボ~ル」


「ウィンドカッター!」


 4種類の魔法が通り過ぎた瞬間に俺も飛び出す。

 ファイアボールとサンドボールは外れたようだが、サーシャのファイアアローとイリスのウィンドカッターは見事に直撃したようだ。

 真っ二つになって燃えている土トカゲがポトリと地面に落ちた。

 他の3人よりも正確な場所を把握していたイリスは別として、サーシャのファイアアローが命中したのには正直驚いた。

 もしかしたら、彼女も『探知』スキルの片鱗を掴みかけているのかもしれない。

 ドロップアイテムの『土魔石』を持って戻ると、リン達が手を取り合って喜んでいる。


「夢みたいですわ!」


 興奮しきったリンが抱き付いてきたので受け止めると、種類は分からないが何だか心地良い花の香りがするので顔がにやけてしまった。






「本当に俺達が貰っても良いの?」


 無事10階層を突破して迷宮の外に出た俺は改めてリンに確認した。

 事前の約束では『魔石』だけは俺達が貰っても良いという話になっていたが、リン達が初めて属性トカゲを倒した記念の品なので何だか気が引けてしまう。


「はい、もちろんです。イリスもシュン様の『探知』を身近で感じる事で何かコツを掴んだ様子ですので、次はわたくし達の力だけで倒してみせますわ」


 夕日に照らされたリンの顔がとても満足そうなので、この魔石はありがたく頂戴することにした。

 それにしても、まさか3日連続で魔石をゲットする事になるとは正直思ってもみなかった。

 探索前にサーシャが言った通りになったのだが、言った本人も驚いている。


「これでまた一歩、家とシェリルが近付いたな!」


 もちろん彼女に渡す分のお金もかなり増える事になるだろう。

 ここにきて一気に収入が増えたので、本当に近いうちに家を借りられそうだ。


「シュン様達は家をお借りになるのですか?」


 リンが少し寂しそうな顔をしている。

 家を借りるという事は今寝泊りしている『夜の止まり木亭』を出るという事なので、そうなるとリンと会う機会も減ってしまうだろう。

 リンだけではなくシルビアとも……。


「うん、ドルチェのお母さんが鍛冶ができる良い物件を紹介してくれたから、なるべく早く借りようと思ってるんだよ」


 寂しくはあるが、それでも自分達の家を借りる事は俺達の当初からの目標だ。

 最低でも4年近くはこの街に留まる事になるので、ゆっくり寛げる拠点の確保は重要だろう。

 他にも気兼ねなくエッチができるというのも大きいが、それに関しては果たしてサーシャが何と言うか……。

 ドルチェは「……大丈夫」と言っていたので彼女に任せる事にしよう。


「あ、あの……。もし家をお借りになったら……遊びに窺ってもよろしいですか?」


 上目遣いに恐る恐るといった感じで聞いてくるリンに笑顔で頷くと、頬を染めて嬉しそうに微笑み返してきた。

 今日一日一緒に探索した事で、彼女ともかなり打ち解けられた気がする。


「……楽しみですわ」


 そう呟く彼女の瞳にはしっかりと俺の顔が映っていた。



読んでくださりありがとうございました。

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