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探索者  作者: 羽帽子
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第81話:「……世間は広いですね」

 今日の迷宮探索はリン達と『共闘』をする事になっているので、昨日と同じように同じ乗合馬車に乗り込んで迷宮へと向かうことになった。

 昨日と違ってドルチェが居ないので何だか少し肩身が狭い思いだが、リンが気を使ってくれているのかあれこれと声を掛けてきてくれた。

 夕食時にバードンさんから聞いた『毒耐性』スキルにまだ未練があったので、思い切ってリンに聞いてみることにする。


「リンの『キュア』があれば『毒耐性』ってわりと簡単に取得できるんじゃないかな?」


「いえ、毒は場合によっては即死する事もありえます。故意に毒をお受けになるのは自殺行為ですわ。それに、わたくしの今の能力では軽い毒を消すのが精一杯ですので……」


 『魔力操作』のレベルや『精神力』が上がればそれに合わせて魔法の威力や効果が強くなるのだが、今のリンのレベルでは流石に猛毒を打ち消す事は無理なのだそうだ。

 それでも、つい先日瀕死だった男の命を救ったのだから十分将来有望である事は確かだろう。


「とにかく、シュン様は毒耐性スキルを取得する事よりも、毒を受けなくて済む方法を考えるべきだと思いますわ」


 やんわりとたしなめられてしまった。

 ニッコリと微笑んでいるが目が笑っていないので、ここは素直に従った方が身の為かもしれないのでコクコクと頷いておいた。


 迷宮に到着すると、すでにサーシャが待っていたので今日はリン達との『共闘』になる事を告げると大はしゃぎで喜んでいる。


「シュンと2人きりはちょっと心許なかったからな!」


 それは俺のセリフだと言い返したかったが黙っておく事にした。大人なので。


「サーシャ様も、本日はよろしくお願い致しますわ」


 丁寧に頭を下げてくるリンと護衛メイド達に、慌ててサーシャもペコペコお辞儀を返していた。


「あ、そうだった! シュン、ポイズンワスプのドロップアイテム、ちゃんと拾っといてやったぞ!」


 そう言ってサーシャがアイテムボックスから小瓶を取り出して俺に渡してくる。

 ドルチェも「それどころじゃなかった……」と拾うのを忘れていたので諦めていたのだが、ちゃんとサーシャが確保しておいてくれたようだ。

 『鑑定』をしてみるとどうやら中身は『ワスプの体液』らしい。


「まぁ! 『ワスプの体液』ですか。羨ましいですわ!」


 リンが瞳をキラキラ輝かせて小瓶を見つめている。


「え? これがそうだったのか!?」


 サーシャも何故か驚愕の表情だ。


「えっと?」


 頭に『?』マークを浮かべている俺にサーシャとリンが教えてくれたのだが、どうやらこの『ワスプの体液』は、とても甘くドロッとした液体でパンなどに付けて食べると絶品なのだそうだ。


「それって……」


 話を聞いた限りだとどう考えても『ハチミツ』としか思えないが、これはれっきとした『体液』だ。

 正直、口に入れたいとは思えないのだが、女性陣の様子を見ると相当貴重な食材らしい。

 俺もドルチェも拾うのを忘れていたアイテムなので、結局これはサーシャにあげる事にした。


「うおぉぉぉ! まさかあたいがコレを口にできる日が来るとは!」


 このテンションなら今日も魔法は大丈夫そうだ。

 

 迷宮へと入り1階層の探索を開始する。


「『共闘』っていっても今回俺達はリンに雇われた『護衛』だから、ボス部屋までの魔物は基本的に俺達が倒す事になってる。あと、ボス以外の魔物のドロップアイテムはリンに渡すからね?」


 サーシャに説明をすると、顎に手を当てて何やら考え込んでいる。


「それって、あたい達が『属性トカゲ』を倒したら『魔石』もリンの物って事だよな?」


 『魔石』という単語が飛び出してきたのでリン達がビックリしている。


「属性トカゲですか? 熟練の魔法使いでも倒すのが……、いえ、そもそも見つけるのが非常に困難な魔物ですので、その心配の必要はないと思うのですが、もし倒せた場合『魔石』はシュン様が受け取ってください」


 まさか俺達がすでに2匹も倒しているとは流石に思ってもいないのか、リンがそんな提案をしてくれたのでお言葉に甘える事にした。

 リン達は魔法使いPTなので、今までにかなりの数の属性トカゲを倒していたと思っていたのだが、話を聞くとまだ一度も倒した事がないそうだ。


「本当に良いのか? あたい達は昨日と一昨日に倒してるから今日も倒しちゃうかもしれないぜ?」


 そう言って得意げに胸を張るサーシャ。

 驚いたリンが何か言いかけるが、俺が手で制して視線を通路の先へと向ける。


「この先にゴブリンが2匹いる」


「え? お、お分かりになるのですか?」


「シュンは『探知』スキル持ちだからな」

 

 小声で聞いてくるリンに何故かサーシャがドヤ顔で応えたのでその頭に軽くチョップ。

 これくらいのスキンシップを気軽に取れるくらいにはサーシャとは打ち解けてきた。

 慎重に先へと進むと、気配を感じ取った通り開けた場所に2匹のゴブリンがいる。

 サーシャに目配せをすると無言で頷くが、これだけで十分だ。 


「ファイアボールッ!」


 サーシャの放った魔法が1匹のゴブリンに襲い掛かるのと同時に飛び出した俺がもう1匹を一撃で屠る。

 開始から5秒にも満たない決着に、リン達が呆気に取られた顔をしていた。

 ドロップアイテムの『布』を手渡すと、受け取る手が微かに震えている。


「あ、あの、シュン様達は探索者におなりになってまだ日が浅いと窺ったのですが……?」


 恐る恐るといった感じで聞いてくるリンに、指を折って探索者になってからの日数を計算する。


「んと……。うん、まだ2ヶ月は経っていないかな? サーシャはもっと短いね」


「に、2ヶ月……」


 リンが絶句している。

 昨日迷宮に来た時は俺達が10階層に潜っても驚いていないようだったのだが、どうやらその後で誰かからいろいろと俺達の事を聞いたらしい。


「申し訳ありません。正直なところシュン様達のお話をお聞きして……、背伸びをして無理をしていると思っていました。まさかこれ程の実力をお持ちとは露知らず……」


 何だかやたらと恐縮されてしまったので逆にこちらの方がいたたまれない気持ちになってしまった。


「いやいや、本当にまだまだ未熟者だから。昨日だってドジ踏んで毒を喰らっちゃったし」


「そ、そうだぜ! あたい達なんてシルビアの姐さん達に比べたらまだまだだぜ!」


 先程まではやたらと自慢げだったサーシャだったが、まさかこれ程までに恐縮されてしまうとは思ってもみなかったらしく、リンの態度にあたふたと慌てている。


「シュン様もサーシャ様も……とても奥ゆかしいのですね」


 そんな俺達を見て、リンが頬に手を当てて感心したように尊敬の眼差しを向けてきたので、あまり褒められ慣れていない俺は何だか背中がムズ痒くなってしまった。

 サーシャも今にも地面を転がりそうなくらい照れていた。

 これ以上話していると褒め殺しされそうだったので探索を進める。


 順調に7階層まで進んだところで昼休憩を挟む事になった。

 ここまでリン達はボス戦以外では一度も魔法を使っていないので、護衛の役割はちゃんと果たせているようだ。

 何よりもリンがあの凶悪なムチを振るう場面を見なくて済んだのは嬉しかった。

 ボス部屋にはリン達が先に入って次の階層の小部屋で俺達が来るのを待っていて貰うといった感じで探索を進めていたのだが、毎回のように5分も掛からずに追い付いてくる俺達にリンが呆れていた。


「わたくし達もそれなりに自信はあったのですが、……世間は広いですね」


 リンが何だか遠くを見るような目をしている。

 他の迷宮では16、7階層辺りまで潜っていたので、昨日の探索で10階層は軽く突破する予定だったらしいのだが、マップを覚えるまでは探索に時間が掛かってしまうのでそれだけMPの消費が激しく、思った以上に探索を進める事ができなかったらしい。

 少し落ち込んでいた時に俺達の戦いっぷりを見て更に自信が揺らいでしまったみたいだ。

 失礼だと思ったが4人のステータスを『鑑定』で覗かせてもらったのだが、4人共レベルは20前後だったので、そのレベルでそれだけ深い階層に潜れていたのだからかなり凄い事だと思う。

 そもそも、チート持ちの俺と比べる事自体が間違っているのだが、リンは俺が異世界から来て神様からチートを貰っている事を知らないので、自分の事を『実力不足』と感じてしまっているようだ。

 少し空気が重くなってしまったので、旅の話や他の街の迷宮の事などを聞いてみることにした。


「シュン様は迷宮の『大ボス』についてはご存知ですか?」


「『大ボス』どころか『中ボス』の事もほとんど知らない……」


 俺が知らない事を教えられるのが嬉しいのか、ようやく落ち込んでいたリンの顔が綻んできた。 


「『中ボス』はいろんな魔物が出て参りますが、『大ボス』はどの迷宮も同じなのですわ」


「そうなの? 迷宮によって違うのかと思ってたよ」


「もちろん全く同じというわけではございません。それまでの階層に出てきた魔物の属性によって『大ボス』の属性も変わるという事が最近の調査で分かってきました」


 大ボスとして出てくる魔物の種類は固定だが属性はそれぞれ違うという事だろうか?

 ファンタジー好きの人間ならある魔物……、いや、モンスターの姿が頭に浮かんでくる。

 期待と恐怖が入り混じった複雑な感情を抑えてリンに尋ねる。


「その魔物の名は……?」


「全ての迷宮の最深部に君臨する『大ボス』。破滅と破壊を撒き散らす者。その魔物の名は……『ドラゴン』です」



読んでくださりありがとうございました。

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