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探索者  作者: 羽帽子
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第77話:「お久しぶりですわ!」

「昨夜も相変わらずだったな」


 翌朝、いつものように午前1の鐘が鳴るとすぐにエミリーお手製の朝食を取っていると、いつの間にか背後に立っていたシルビアがこっそりと耳打ちしてきた。

 エミリーもドルチェも一応それなりには声を抑えていたのだが、それでもやっぱりアノ声が漏れていたようだ。

 以前の俺だったら昨夜のように隣の部屋にリン達が居る状況だったら流石に自重していたはずなのだが、この世界に来て……、正確にはドルチェと知り合ってからというもの、少しずつ神経が図太くなってしまい、変な方向に暴走しているような気がする。

 ドルチェは平気な顔だが、エミリーはシルビアの視線にかなり恥ずかしがっているので、彼女の為にも頑張ってお金を稼いで早く家を借りよう。

 でも、そうなったらそうなったでエミリー達の歯止めが利かなくなりそうで少し怖くもある。


「シュンは迷宮にはリン達と一緒に行くのか?」


 食事が終わり席を立つとシルビアが話し掛けてきた。

 ギルド長にも頼まれているのでそのつもりではいるのだが、まず間違いなく昨夜の情事を聞かれたはずなので少し躊躇してしまう。

 そんな俺を見てシルビアが苦笑している。


「ワタシ達も今日は迷宮に直行だ。リンが一緒ならメリルとサラを紹介したいのでな」


「嬉しいですわ!」


 不意に食堂の入り口から透き通るようなソプラノボイスが聞こえてきた。

 3人の護衛メイドを引き連れたリンが満面の笑みで歩いてくる。


「皆様、おはようございます。本日も良いお天気ですわね」


 昨夜の事があるので思わず身構えてしまったのだが、俺の顔を見てもにっこり微笑んでいる。

 リンの反応を楽しみにしていたドルチェもこれにはビックリしたのか、目を丸くして彼女の事を不思議そうに見つめていた。


「おはよう、リン。昨夜はぐっすり眠れたか? 夜中に煩かったのではないか?」


「シルビア様、お気遣いありがとうございます。わたくしはいつも『防音の魔具』を使っておりますのでとても静かでしたが、何かおありになったのですか?」


 きょとんとした顔で逆に聞いてくるリンにシルビアが「何でもない」と首を振っている。

 隣ではドルチェが残念そうに「……ずるい」と呟いているが、俺は気まずくならずに済んだので素直に安堵した。

 緊張した顔のメリルとサラに優しく微笑んで自己紹介していたリンが俺に向き直る。


「迷宮までシュン様達とご一緒できるのですね。とても嬉しいですわ」


「露店で果物を買ってからになるけど、それでも良いなら一緒に行こう」


「はい!」


 眩しいくらいに爽やかな笑顔に見惚れていると、不意に両脇に軽い痛みが走った。

 声が漏れるのを堪えて両側に立っている2人に視線を向けると、エミリーは潤んだ瞳で、ドルチェはそっぽを向いたまま俺の脇腹をリン達に気付かれないようにこっそりと抓っている。


「ほ、ほら、エミリー。ミルに仕事を教えてあげないと」


 厨房から不安そうにこちらをみているミルに気付いたエミリーが慌てて駆け寄る。

 犬耳と兎耳の美少女の2ショットに何となく朝から心が癒された。


「それじゃ、午前2の鐘が鳴ったら出発ってことで良いかな?」


 シルビアとリンが頷くのを確認して部屋へと戻ろうとすると、カウンターではターニアがミナに仕事を教えていた。

 ミナとミルが頑張っている姿を見ると、紹介した俺も何だか嬉しくなってしまう。


「今日も探索頑張ろう。目標は14階層突破かな?」


「きっと……サーシャも燃えてる」


 負けん気の強いサーシャの事だから、魔炎兎戦に向けて相当気合が入っていそうだ。






 シルビア、リンPTと一緒に乗合馬車の待合所まで向かうとすでにバードンさん達が馬車に乗り込もうとしていた。


「おう! シュン達も今から迷宮か? それと……」


「まぁ! バードン様、お久しぶりですわ!」


 リンが駆け寄って挨拶をすると、一瞬怪訝そうにしていたバードンさんが相好を崩す。


「お、リンか? 1年会わないうちに、ますますいい女になったじゃねぇか!」


「お元気そうで良かったです。バードン様もダーレンにいらしていたのですね」


 旧知の間柄だったのか和気藹々と話している。


「2人共知り合いだったんですね」


「あぁ、昔こいつらの親父に頼まれてダリアとヘルガをシーナに紹介した事があってな」


 シーナが修行の旅に出る時に彼女達の父親から知り合いだったバードンさんに女性の探索者を紹介して欲しいと頼まれたので、当時孤児奴隷としての期間が切れたばかりのダリアとヘルガを推薦したのだそうだ。

 その関係でリンが修行に出る時もいろいろと便宜を図ったらしい。


「かなりの大人数になったけど、どの組み合わせで馬車に乗ろうか?」


 俺とドルチェの他にシルビア達が3人、リン達が4人、バードンさん達が4人の13人。

 2台では入りきらないので3台に分かれるべきだろうか?


「少し窮屈になるが、ワタシ達はできればバードン殿と同じ馬車にしてくれないか? 情報の交換がしたいのでな」


「おう、俺の膝の上ならいつでも空いてるぜ!」


 20階層組が同じ馬車に乗り込んだので、必然的に俺達とリン達が同じ馬車で迷宮に向かう事になった。

 俺が乗り込むと、隣にドルチェ、正面にはリンがそれぞれ座る。

 あまり広くない馬車にとびきりの美女、美少女が5人……。

 呼吸するだけでも顔が赤くなってしまうほど馬車内はフェロモンで溢れかえっていた。


「リン達は10階層から?」


 何か話していないと頭の中がピンク色の妄想だらけになってしまいそうだ。

 俺の内心をよそにリンが清楚に微笑んでいる。


「いえ、わたくし達は1階層から始めようと思います。全ての迷宮はそれぞれ違った顔を持っておりますので……」


「それならいろいろとアドバイスができそうだね」


 迷宮に到着するまでの間、1~10階層の魔物の情報をリン達に教えると、4人は真剣な表情で対策を検討していた。


 馬車を降りるとリンが改めてお礼を言ってくる。


「ありがとうございます。シュン様からの情報で今日中に10階層を攻略できる目処が立ちました。

すぐにシュン様に追いついてみせますわ」


 どうやら意外と負けず嫌いみたいだ。

 サーシャを見つけると嬉しそうに清楚な微笑みを浮かべて挨拶をしているが、トゲトゲのムチを武器に選ぶくらいなので、大人しそうな外見に反して内面はかなりアグレッシブなのかもしれない。 


 シルビア達とバードンさん達が20階層への転移魔法陣の中に消えていき、リン達もこちらに手を振って迷宮の入り口へと入っていった。

 俺達も10階層から探索を開始だ。

 

「秘密兵器を用意してきたぜ。待ってろよ、魔炎兎!」


 サーシャが自信満々といった表情で転移魔法陣へと走っていく。

 何やら秘策があるらしいので魔炎兎の事はサーシャに任せる事にしよう。


「お、幸先が良いぜ! レベルアップだ!」


 探索を開始して最初のビッグワームを倒すとサーシャのレベルが上がって30になった。

 スキルポイントも20貯まったので、嬉しそうに『火魔法レベル3』を取得していた。

 レベル3になると『ファイアウォール』という、少し離れた場所に炎の壁を作り出す魔法が使えるようになるらしい。

 足止めにも攻撃にも使えて便利な魔法なので少しでも早く覚えたかったのだが、普通は取得できるレベルになるには毎日迷宮に潜っても10年、ヘタをすれば20年以上は掛かるそうだ。


「40倍の経験値だけでも凄ぇのに、それに加えて貰えるスキルポイントが倍だろ? 凄まじいぜ!」


 単純に計算すると、1年頑張れば普通の探索者40年分の経験値が入ることになる。

 しかも、以前は1レベルUPすると1ポイントしかスキルポイントが入らなかったのに、今はその倍のポイントが入ってくる。

 確かに数値の面だけを見ると反則的なまでのチートだ。


「スキルだけに頼ると……危険」


 オルトスの迷宮で絡んできたバイロン達はレベルやスキルに異様に執着していたが、ここぞという時に自分や仲間の命を守るのは数値に現れない積み重ねた本当の意味での『経験』だろう。

 どんなに剣スキルのレベルが上がっても今の俺ではきっとバードンさんに敵わない。

 サーシャもその事は自覚しているのか、ドルチェの言葉に神妙に頷いていた。


「とりあえず、まずはビッグワーム相手にファイアウォールを使ってみようか」


「おう! 腕が鳴るぜ!」


 サーシャが腕と一緒に杖をブンブン振り回している。

 任意の場所に炎の壁を発生できるのならかなり戦術の幅が広がる。

 属性トカゲが逃げられないように背後に壁を作ったりなど応用性が高そうな魔法だ。


「シュンにぃのナイフと一緒に……ビッグワームで特訓」



読んでくださりありがとうございました。


お嬢様口調が難しい……。

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