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探索者  作者: 羽帽子
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第76話:「特注品ですの」

 夕食を終えて部屋で寛いでいるとようやくリン達が帰ってきた。

 どうやら夕食は王宮で済ませてきたらしく、すぐにでも話を聞きたがったリンが俺達の部屋に入ってくる。


「お帰り。随分遅かったね」


「お待たせしてしまって申し訳ございません」


 相当気に入られたのか、ボルダス王がなかなか帰してくれなかったみたいだ。

 一緒に部屋で待っていたシルビアを紹介し、彼女も交えてシーナと出会った時の話をリンにしてあげると、少し疲れが見え隠れしていた顔に笑みが戻った。


「お姉様達がお元気そうで安心しました。アイラ様にもいつかお会いしたいです」


 手を合わせて嬉しそうににっこり微笑んで俺と会話をしているリンを見て、傍に控えている護衛メイドの3人が少し戸惑った表情を浮かべている。


「お父様以外の殿方とこんなに沢山のお話をしたのは初めてですわ」


 そう言って透き通った瞳で俺の顔を見つめてくるので、思わず顔が赤くなってしまった。


「シュン様はきっと人を安心させる不思議な力をお持ちなのですね」


 何か見えない力でも感じ取っているのだろうか、なかなか鋭い。

 リンを待っている間にドルチェからある程度の話を聞いていたのだが、リン達のように光魔法を使う事ができる人達の事を世間では『神に祝福された一族』と呼んでいるらしい。

 もしかしたら、この世界の事を憂いていた神様が、本当に『スキル付与』をしたのかもしれない。

 仮にだが、神様の所で攻撃スキルを貰う時に『光魔法』を選んでいたら、俺も同じように呼ばれてVIP待遇になっていたのだろうか?

 逆に素性の知れない俺が持っている事を怪しまれて、とんでもない騒動に発展してしまっていた可能性もあるのでかなりの賭けになるが、光魔法だけは後で取得する事ができないスキルだったみたいなので、かなり惜しい事をしたかもしれない。

 ちなみに、世界的なVIPであるリンに対してどういった対応をすれば良いのかドルチェやシルビアと相談したのだが、結局「特別扱いしない方が良い」という結論になった。

 サーシャが気軽に接していた時に見せたリンの表情を思い出すと、それが彼女にとっては一番良いのだろう。

 現に今俺達がこうして普通に話しているこの状況をリンは本当に楽しんでいるみたいだ。

 異世界から来た事や神様の事を話す訳にもいかないので、話題を逸らそうと光魔法についていろいろ質問してみた。


「それで、光魔法って他にはどんな魔法が使えるの?」


「わたくしはまだまだ光魔法のレベルは2ですので、回復用の『ヒール』と解毒用の『キュア』の2種類だけですわ」


 光魔法は怪我の治療や解毒などができる唯一の魔法だが、その反面攻撃魔法を覚える事はできないので、魔物との戦いは護衛メイドの3人が中心になって行っているそうだ。

 護衛メイドの3人もそれぞれ火、風、土魔法の使い手との話なので、どうやら魔法使い4人のPTらしい。

 正直、前衛タイプが1人もいないのでかなりバランスが悪いように思えるのだが、話を聞くと「風魔法特有の探知系魔法で魔物の位置を探り、土魔法で足止めや視界を塞ぎ、火魔法で一気に止めを刺す」といったコンビネーションだけでほとんどの魔物は倒せてしまうみたいだ。

 問題はMPの枯渇が死に直結するので階層毎に十分な休憩が必要になる事と、『魔炎兎』のように炎を吸収して強化されてしまうタイプの魔物が相手の時はかなりの苦戦になってしまうとの事なので、俺達が魔炎兎と戦った時の話をすると、4人共真剣な表情で耳を傾けていた。


「しかし、リンだけ攻撃手段が無いのは少々キツイのではないか?」


 シルビアの指摘にリンが「待ってました」と言わんばかりの笑顔を向ける。


「はい、危険な役割を彼女達ばかりに押し付ける事になってしまうのはわたくしも嫌ですので、まだスキルを取得できていない未熟な腕ですが……」


 そう言ってアイテムボックスから何かを取り出した。

 いきなり目の前に現れた、黒くて長い紐状の物体に目が点になってしまう。


「……ムチ」


 ドルチェもちょっと驚いた顔で呟く。


「うむ、ムチは扱いこそ難しいが、応用が利く良い武器だ」


 シルビアも目を見張っているが、どうやら驚いているのではなくリンの武器に感心していたみたいだ。


「特注品ですの」


 うっとりとした顔で愛用のムチを俺達に見せている。

 リンの表情とは正反対に俺の顔はどんどん強張ってしまう。


「リン、……そのトゲトゲは?」


 恐る恐るリンが手に持っているムチを指差すと嬉しそうな笑顔を向けて説明してくれた。


「このムチには所々に小さく加工したワームの牙をあしらっておりますの」


「えぐいけど……有効」


 鍛冶師であるドルチェのお墨付きを貰って頬を染めて喜んでいる。

 清楚なリンには似つかわしくない凶悪な武器に顔が引き攣ってしまうが、ドルチェやシルビアにはかなり好評みたいだ。

 特にドルチェは最初こそ驚いていたが、今は嬉々としてムチを手に取って念入りに調べている。


「疲れました~……。シュンさん、抱きしめてください~……あっ!」


 ドアを開けていつものように俺に甘えてきたエミリーが、一斉に向けられたリン達の視線に気付いて固まってしまった。


「ククク、……どうしたシュン、ご指名だぞ?」


 笑いながらからかってくるシルビアをひと睨みして、エミリーの手を引いて隣に座らせてあげると、相当恥ずかしかったのかベッドの毛布を被って隠れてしまった。

 そんなエミリーを見て、リンもクスクスと笑っている。

 ドルチェが毛布の上からポンポン叩いてエミリーを慰めているがあまり効果はないみたいなので、後で俺もたっぷりと慰めてあげよう。


「そろそろ皆様おやすみのお時間ですね。とても楽しいお時間でしたので、ついつい長居をしてしまいましたわ」


 リンがそういって立ち上がると俺達に向かって頭を下げる。


「シーナお姉様のお話が聞けてとても嬉しかったです。……また、いろいろとお話を窺ってもよろしいですか?」


 少し心細そうに上目遣いで聞いてくるリンに「もちろんだよ」とニコリと笑って返事をすると、「嬉しいです」と頬を染めて喜んでくれた。

 ドルチェとシルビアからの何とも微妙な視線を背中に受けながらドアの外までリン達を見送る。


「では、おやすみなさいませ」


「うん、おやすみ。何かこの街の事とかで分からない事があったら気軽に聞いてね」


「は、はい、よろしくお願い致します」


 リンは一瞬驚いた顔を見せたが、深々とお辞儀をすると恥ずかしそうに隣の部屋へと戻って行った。


「そういえば、隣だったんだっけ……」


 今更ながらに今夜もこれから行われるであろう『お楽しみ』をリンにも聞かれてしまう危険性を思い出した。


「では、ワタシもそろそろ寝るとしよう」


 そう言って立ち上がったシルビアが部屋を出て行こうとするが、すれ違う時に「ほどほどにな?」と悪戯っぽい顔で囁いてきた。

 シルビア自身は夕方に身体を拭き終わった後、ドルチェと一緒に俺をベッドに押し倒して十分楽しんだので、今日はもう満足したみたいだ。

 シルビアが部屋から出て行ってからしばらくすると、ようやくエミリーが毛布から茹で蛸みたいに真っ赤になった顔を出してきた。


「あぅ……。恥ずかしすぎて挨拶ができなかったです~」


 どうやら、リンやシルビア達にちゃんと「おやすみなさい」が言えなかった事を後悔しているようだ。


「朝、元気に挨拶……。それで十分」


 顔だけ出したエミリーの頭を優しく撫でながら慰めていたドルチェが、一転して今度は小悪魔じみた顔を俺に向けてくる。


「朝、リンの顔が……楽しみ」


 今夜もドルチェは自重する気はあまり無いらしい。

 声を聞かれる恥ずかしさよりも、それを聞いたリンの反応を見たいという欲求の方が勝ったようだ。


「シュンにぃ、エミリーを……抱きしめて」


「あぁ、確かそう言ってたっけ」


 エミリーが部屋に入ってきた時の事を思い出したので毛布越しにギュッと抱きしめると、ドルチェも反対側から挟み込むように抱きしめてくる。


「あ、ドルチェちゃん、そこは……! 脱がしちゃダメですよ~……」


 毛布の中からドルチェがエミリーの服を一枚ずつ器用に取り出して床に放り投げる。

 最後の一枚を剥ぎ取られて観念したのか、全裸になったエミリーがベッドに横たわって潤んだ瞳で見つめてくるので、俺の理性も我慢の限界だ。


「頑張ったエミリーにご褒美あげないとね」


 気が付くといつの間に脱いだのか、ドルチェも一糸纏わぬ姿で期待の眼差しを俺に向けていた。


「シュンにぃも……脱ぐ」


 にじり寄ってくる2人にあっという間に服を奪われる。

 一瞬、隣の部屋にいるリンの清楚な顔が頭に浮かぶが、吸い寄せられるように目の前の魅力的な2人に覆い被さった。



読んでくださりありがとうございました。

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