第75話:「『専属』の話が来たら……受ける?」
探索者ギルドに行くと先程迷宮の前で別れたばかりの男が俺を見つけて駆け寄ってきた。
「会えて良かった! 今、あの命の恩人の事を説明してたんだ。」
そう言って腕を取られてカウンターに居たシアさんの所まで引きずられてしまった。
「シュンさんもその場にいたんですかー? この方の話だと『女神に会った』みたいですけど……」
「女神かどうかは分かりませんけど、光魔法の使い手には会いましたよ。リンって名前の探索者です」
リンの名前に心当たりがあるのか、シアさんが隣に居た職員にギルド長を呼んできてくれるようにお願いしている。
しばらく待っているとギルド長の部屋に来るように言われたので、ドルチェと男と一緒に部屋に入るとギルド長のレイアスさんが難しい顔をして座っていた。
「わざわざすみません。ちょっと特殊な方の話なので……」
どこか物々しい雰囲気に隣に腰を下ろした男の顔が青くなっている。
ドルチェは肝が据わってるのかいつも通りの彼女だ。
「それで、皆さんが会ったという探索者の事なのですが、確かにリンという名前なのですね?」
「はい、17、8歳くらいの長い栗色の髪の女性です。シーナの妹って言ってましたけど、そんなに特殊なんですか? シーナは普通の探索者って感じでしたけど」
「シーナ様ともお知り合いだったのですか。シーナ様に関してはすでに修行の期間を終えられてますので何の問題もないのですが、リン様の場合は少し事情が複雑でして……」
レイアスさんの話によると、世界的に見ても光魔法の使い手は非常に貴重な存在なので、修行期間中は滞在している街が責任を持って便宜を図らなければいけないらしい。
修行を終えて一人前になったら表向きは他の探索者と同じ扱いになるのだが、それでもかなり神経を使う存在なのだそうだ。
今はボルダス王の所に挨拶に行っていると伝えるとホッした表情になった。
「えっと、俺達が泊まってる宿屋を紹介しちゃいましたけど……拙かったですか?」
「いえ、リン様の意思を最優先しますので、それは問題ありません。『夜の止まり木亭』でしたらギルドのすぐ側ですので、むしろ安心です」
まさか世界規模のVIPとは思わなかったので気軽に接していたが、今後はもう少し気を使った方が良いのだろうか?
ドルチェの意見を聞いてみようと思って横を向いたら「後で……」と一言。
相変わらず完全に頭の中を読まれてしまっていた。
「こちらとしましても過度な干渉は控えるつもりですので、できればあなた方も周りに吹聴したりしないで頂けると助かるのですが」
俺としてもそれは当然の事だと思っているので素直に頷く。
左右に座っているドルチェと男も同意見みたいだ。
話が終わったので部屋を出ようとするとレイアスさんに呼び止められた。
ドルチェに部屋の外で待ってくれるように言って部屋に残る。
「勝手なお願いで申し訳ないのですが……。シュンさんにはしばらくの間リン様のサポートをお願いしたいのです」
「俺が……ですか?」
「はい。もちろんずっとという訳ではなく、リン様がこの街に慣れるまでの間で良いので……」
「それくらいでしたら大丈夫です。でも、もし何かあったらちゃんと助けてくださいよ?」
もしもの場合に俺に責任を押し付けられでもしたら困るので、しっかりと念を押しておく。
「それはもちろんです。もし不安でしたらバードンさんかシルビアさんにでしたらお話ししても良いですよ」
それさえ聞ければもう問題はない。
正直、この事に関してはドルチェに頼るのはちょっと心配だったので、バードンさんとシルビアに話が通せるのは凄く助かる。
ドルチェは面倒見が良いので本来なら適任なのだろうが、シルビアの時のように何か画策しそうでかなり怖い。
レイアスさんに見送られて部屋を出るとドルチェがすぐに傍に寄ってきて話を聞きたがったので、先程のドルチェの真似をして「後で……」と答えたら脛を蹴られた。
「そ、それじゃ、さっさとアイテムを売って宿屋に戻ろうか」
ちょっとだけ拗ねてしまったドルチェの頭をクシャッと撫でると「服も……」と付け足してきた。
今日の探索で上着を一枚燃やされてしまったので補充が必要だ。
時間が少し早いからか待合室には誰も居なかったのですんなりとセリーヌさんに会うことができた。
「これは……『炎魔石』ですね。しかも『中級』……。それに、『魔炎兎の毛皮』があると言う事は、シュンさん達はもう13階層を突破なさったのですか?」
俺の期待通り目を見張って驚くセリーヌさん。
いつもクールな彼女の驚く顔が見れただけでもう俺は満足だ。
『ハイリザードマンの毛皮』が無いのでちょっと不審そうな顔になったが、すぐに俺の隣に居るドルチェを見て納得した顔になった。
「かなりの数の探索者達が12階層のリザードマンで足止めされているそうですよ」
言われてみると、11、12階層ではかなりの数の探索者と鉢合わしていたが、13階層の探索では誰にも会わなかった。
何でも探索者の間では『魔の12階層』と呼ばれていて、突破できたのはまだ数PTだけらしい。
「そうなんですか? バードンさんもシルビアもそんな事は言っていなかったような……」
俺が不思議そうに首を傾げていると、セリーヌさんが苦笑している。
「あの方達は、今ダーレンの迷宮を攻略している探索者の中でもすでに『別格』扱いですので……。12階層を突破したシュンさん達もその仲間入りを果たしそうですね」
素早く全てのアイテムを調べお金を出してくるセリーヌさん。
計算機も使わずに瞬時に合計金額を割り出してくるので、もはや神業と言っても過言ではないかもしれない。
今日の探索だけでも銀貨60枚以上の収入になった。
中級の『炎魔石』が銀貨50枚、『魔炎兎の毛皮』も結構な値段で引き取ってくれた。
火属性の魔石は『火トカゲ』が比較的見つけ易いからか他の属性の魔石に比べたら少し安値になっているが、それでも十分高額だ。
思わず顔がニヤけてしまう。
借りようと思っている家が1年間で金貨1枚と銀貨20枚。
シェリルを買う分のお金もあるのでまだまだ目標金額には遠いが、このペースなら十分間に合いそうだ。
「魔石の事も含めて、ギルド長に報告させて頂きます」
最後に少し探るような目を俺に向けてセリーヌさんがそう付け足してきた。
その視線が気になったが、ドルチェが服を引っ張ってくるので部屋を出る事にした。
そのままクゥちゃんの服屋で新しい服を買って外に出ると、やっとドルチェが口を開いた。
「『専属』の話が来たら……受ける?」
いきなりのドルチェの質問に戸惑ってしまう。
気が早すぎると思うが、セリーヌさんのあの驚きようと帰り際のあの視線を思い出すと、その可能性も何だかありえそうな気がしてくる。
立ち止まって少し考えるが、俺の答えはもう半ば決まっている。
「その時はバードンさんみたいに契約金代わりにシェリルを要求しよう。……そうなったら、『魔石』を素材に回せるしね」
片目を瞑ってドルチェに言うとパァッと笑顔になった。
エミリー達が暮らすこの街を守る為にも、最後の最後までダーレンの迷宮の攻略を諦めるつもりはない。
それに、シルビアの期待にも応えなければ……。
宿に戻ると食堂からエミリーが尻尾をブンブン振って飛んできた。
その後ろをエプロンを着けたミルが恥ずかしそうに付いてくる。
「シュンさん、お帰りなさ~い! それと、ごめんなさい……」
今日はターニアがミナを、エミリーがミルのお世話係なので大忙しみたいだ。
「いつもの日課ができそうにないです~」
耳元に口を寄せて残念そうに囁いてきた。
流石に俺の身体を拭いているところをミルに見せるわけには行かないので、今日はエミリーの日課……俺の身体拭きはお休みになった。
代わりにドルチェと念入りに身体の拭きっこをしていると、休日だったシルビアが部屋に遊びに来たので、今日迷宮の外に出てから起こった出来事をシルビアに説明した。
「リンが戻ってきたらシルビアにも紹介するね」
「光魔法の使い手か。楽しみだな」
口調はいつも通りだが、目が少し泳いでいる。
部屋に来たのがシルビアだけではなかったら身体拭きを中断したのだが、ドルチェがシルビアが1人だと分かったとたんに彼女を部屋に引っ張り込んでしまった。
全裸になっている俺達に出迎えられて石の様に固まっていたシルビアだったが、全く気にしないで俺の身体を拭き始めたドルチェに感化されたのか、最後は彼女まで俺の身体を恥ずかしそうに拭いていた。
美女と美少女による前後からの刺激に反応してしまったアレを後ろから手を回したドルチェが握る。
「シルビア……口でする?」
ドルチェの妖しい誘いに、顔を真っ赤にして正面からチラチラ見ていたシルビアがコクリと頷いた。
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